*本稿は、『週刊東洋経済』 2025年11月08日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
紆余曲折はあったが、高市早苗政権が誕生した。本稿では、10月24日の所信表明に示された給付付き税額控除に注目する。
給付付き税額控除とは、税額控除に社会保障給付を組み合わせて、ワーキングプア層などを支援する仕組みである。通常の税額控除では、算出された所得税額から税額控除額を差し引いた額を納税するので、控除分の手取りが増える。しかし所得が課税最低限以下の世帯は、納税していないので税額控除の恩恵にあずかれない。
これに対し給付付き税額控除では、納税額ゼロの非課税世帯には税額控除額を給付金として支給する。また納税者でも、低所得ゆえに納税額よりも控除額が多い場合はその差額を給付する。
同制度はすでに多くの欧米諸国で導入されている。イギリスでは、1999年から、低所得世帯の就労促進や子育て支援を目的に導入された。そして13年には各種給付制度をユニバーサルクレジットに統合した。特筆すべきは、行政が個人の所得・資産情報を把握し、リアルタイムで給付に結び付けられるようにデジタル化とセットで進められてきた点である。
日本の制度設計は未定だが、筆者は次の点から同制度の導入は検討に値すると考える。
第1に、デジタル化された所得・資産情報に基づいて行政が給付をするため、「真の困窮者」に手厚い支援が届く点である。
日本ではデジタル化が遅れ、前年の所得情報に基づく住民税非課税世帯という粗い区分しかない。このため国民全体を対象にした総花的な支援になりがちで、膨大な費用を要する。例えば物価高対策として消費減税が検討されているが、減税の恩恵は高所得者にも及ぶ。巨額な税収減を埋める財源の確保は困難なうえ、困窮度に応じた給付に比べて低所得者の生活改善の効果は薄い。
第2に、生活保護給付などに伴うスティグマ(恥辱)が軽減される点である。税額控除は広く国民が活用しているので、その一環としての給付金であれば特定層への支援という印象が薄れる。
第3に、低所得者の就労意欲を損なうことなく、給付できる点である。生活保護制度は、最低生活費に足りない部分を補う仕組みのため、就労して所得を得てもその分給付額が減らされる。これでは働く意欲が失われてしまう。
一方、給付付き税額控除では、働けば最低生活基準に賃金分を上乗せする設計が考えられるので、就労が促進されていく。
同制度をめぐっては、00年代後半から議論されてきたが、多くのハードルがあり実現には至っていない。
例えば、給付金の財源をどうするのか、個人の所得・資産情報をマイナンバーにひも付けることへの合意形成はできるのか、行政のデジタル化は整備できるのか、デジタル化から排除される人が出ないか、などの課題が考えられる。
一方、デジタル化とセットにした給付付き税額控除は、今後の社会保障給付の公平性・迅速性・効率性を画期的に高めていく可能性がある。未来の社会保障のあり方を見据えながら、制度設計と課題対応の議論を深める必要がある。
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