ELV 規則暫定合意における使用制限から循環設計への転換 自動車の炭素繊維は規制されるのか?(続報)

2026年5月29日

サステナビリティコンサルティング部

後藤 嘉孝

2025年4月17日付のナレッジ・オピニオン*1では、欧州議会(EP)が2025年1月のELV規則案に炭素繊維を「有害物質」として追加した衝撃と、その法令上の扱いを整理した。その後、関連する業界団体・企業が相次いでポジションペーパーを公表した。こうした動きを経て、2025年10月~12月にかけて欧州委員会、欧州理事会、欧州議会の三者交渉(トリローグ)が行われ、欧州理事会と欧州議会の間での暫定合意*2に至った。暫定合意文書では、炭素繊維は第5条の使用制限物質の枠組みには位置付けられず、自動車向けの炭素繊維について、これまで一部で懸念されていたような「有害物質としての使用規制」に直ちに進む状況ではなくなった。一方で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の部品は、解体・分別・回収の対象となる部品として位置付けられ、自動車の循環設計と廃車処理の中でどのように管理するかが重要となった。本稿では、暫定合意の内容をもとに、炭素繊維をめぐる規制の現在地と、企業・業界に求められる今後の方向性を整理する。

なお最終的な規制内容は、必ずEU官報掲載の条文を確認いただきたい。

1. 使用制限から循環設計への転換

2025年1月における欧州議会案と暫定合意文書の比較結果を表1に示す。暫定合意文書では、炭素繊維は第5条において鉛・水銀等のように自動車への使用が制限される物質には記載されていない。他方で、リサイクラー・修理業者への情報提供、解体時の分別・回収等の対象となる部品・パーツを定めるAnnex VII Part CにはCFRPが記載され、CFRP製部品は解体・分別の対象として位置付けられた。炭素繊維の扱いは、「使用制限」ではなく、「循環設計」、つまり解体・分別・回収を前提とした管理に軸足を置くものと言える。

表1 炭素繊維に関する欧州議会案と暫定合意の比較

表1

(出所)ELV規則(暫定合意文書)をもとに、みずほ総合研究所が作成
(みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です)

気になる点として、解体時の分別・回収等の対象となるCFRP部品について、少なくとも条文上では重量や大きさの基準が示されていない。サイズ要件がなく、対象範囲が広く読めるため、小型部品を含めてどこまで対象となるのかは明確ではない。解体対象の具体化や優先順位付けがどのように整理されるかは、今後の実施法令やガイダンスを待つ必要がある。

2. 業界の働きかけ

炭素繊維規制の見直しにおいては、業界団体や企業からの炭素繊維の有効性や健康影響に関する意見表明や情報発信が重要な役割を果たしたと考えられる。その一端を以下に整理した。

欧州複合材産業協会(EuCIA)は2025年5月12日付のポジションペーパーで、炭素繊維は車両軽量化によってライフサイクルCO₂を大幅に削減でき、既に産業規模の回収・再生インフラが稼働していると指摘し、ELV規則案では循環設計と分別要件に重点を置くべきだと主張した*3

在欧日本企業連合(JBCE)は2025年5月13日付文書で、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の繊維径(≥5 µm)がWHOの呼吸性ファイバー基準(<3µm)に該当しないことを示し、欧州議会案における炭素繊維の記載の撤回を要請した*4。日本炭素繊維協会(JCMA)も「炭素繊維は水素社会やEVの軽量化に不可欠であり、リサイクル事例も拡大している」とする意見書を公表*5した。これを受け、東レ*6、帝人*7、三菱ケミカルグループ*8など主要メーカーは相次いで賛同リリースを発表している。

健康影響についてはJCMAの文献レビュー*5が詳しく、PAN系炭素繊維は吸引性ファイバーに該当せず、複数の動物試験・細胞試験でも有意な毒性が確認されていないことが示されている。同様にEuCIA*3はドイツ連邦労働安全衛生研究所(BAuA)の試験結果を引用し、「炭素繊維粉じんはガラス繊維よりも肺残留性が低い」として現行の作業環境管理で十分対応可能と主張している。

今回の炭素繊維に関する使用規制の取り下げにあたっては、業界の意見及び情報提供が功を奏したと言えよう。

3. 今後の動向

暫定合意により、ただちに炭素繊維が使用制限の対象として規制される状況ではなくなった。もっとも、暫定合意文書の第5条1項(a)に「懸念物質」に関するレビューが盛り込まれており、将来的に炭素繊維が検討対象となる可能性が完全に排除されたわけではない。

このため業界は炭素繊維の安全性に関する科学的エビデンスの継続的な整備とリサイクルスキームの実装を加速させる必要があるだろう。

リサイクル事例として、アメリカ複合材製造業協会(ACMA)がApply Carbon社による年間4,000 t規模の再生炭素繊維量産プラント稼働を取り上げ、炭素繊維が「実質リサイクル可能素材」へ移行しつつあると報告している*9。さらにオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究チームは熱分解プロセスによって繊維強度の劣化を従来法に比べて50%改善した再生炭素繊維を実証し、構造材用途への再利用可能性を示唆している*10

国内においても、名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)は、NEDO先導研究プログラムの一環として、航空機由来CFRP廃材のリサイクルと再利用を目指す研究を進めており、回収炭素繊維を用いた中間基材化や、熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂含浸、さらに繊維強化熱可塑性樹脂を用いた直接成形プロセス(Long Fiber Thermoplastic Direct:LFTD)を含む多様な成形プロセスの活用が示されている*11。加えて、栗本鐵工所においても、熱可塑性炭素繊維材料を対象としたLFTD自動化プロセスの開発が公表*12されており、国内でも熱可塑性炭素繊維材料の量産加工やリサイクル材活用を見据えた技術開発が進められている。

一方BMW Groupは2025年6月、Bcomp社と共同開発した天然繊維(フラックス)コンポジットを次世代の量産車に採用すると発表*13し、植物由来ハイブリッド素材で構造部以外の炭素繊維を代替する方針を示した。炭素繊維の規制リスクに対する技術的なリスクヘッジとしても注目される。

炭素繊維は、リサイクルを前提とした循環設計の中で、いかにリサイクルの社会実装を進めていくかが問われる段階に入ったといえる。炭素繊維のリサイクルに関する動向については、また別の記事で取り上げることとしたい。

参考文献

  1. *1
    後藤嘉孝 (2025)「自動車の炭素繊維は規制されるのか?-ELV規則案の改訂内容を読み解く-」
    https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/mhri/consulting/articles-2025-k0024/index.html
  2. *2
    Council of the EU (2025) “Circular economy: Council and Parliament strike deal on rules for vehicle circularity and management of end-of-life vehicles”
    (Provisional agreement, press release, 12 December 2025; updated 25 February 2026).
    https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/12/12/circular-economy-council-and-parliament-strike-deal-on-rules-for-vehicle-circularity-and-management-of-end-of-life-vehicles/
  3. *3
    EuCIA (2025) “The strategic value of carbon fibre composites in a circular, low‑emission Europe”(2026年4月20日アクセス)
    https://eucia.eu/wp-content/uploads/2025/05/The-strategic-value-of-carbon-fibre-composites-in-a-circular-low-emission-Europe-May.pdf(PDF/1,203KB)
  4. *4
    Japan Business Council in Europe (2025) “Points of Concern regarding the EP Draft Report on ELV”(2026年4月20日アクセス)
    https://www.jbce.org/images/positions/Environment_and_Energy/JBCE_Position_Paper_ELV-carbon_fiber_130525.pdf(PDF/174KB)
  5. *5
    Japan Carbon Fiber Manufacturers Association (2025) “Carbon Fiber in the Proposed ELV Directive”(2026年4月20日アクセス)
    https://www.carbonfiber.gr.jp/english/tech/pdf/JCMA_CF_Position_ELV_directive_amendment_EN.pdf(PDF/348KB)
  6. *6
    東レ株式会社「ELV指令修正案に対するJCMAポジションペーパーへの賛同について」(2026年4月20日アクセス)
    https://www.toray.co.jp/news/article.html?contentId=0gbo1nue
  7. *7
    帝人株式会社「日本化学繊維協会炭素繊維協会委員会のポジションペーパーへの賛同について」(2026年4月20日アクセス)
    https://www.teijin.co.jp/news/2025/05/09/20250509_01.pdf(PDF/117KB)
  8. *8
    三菱ケミカルグループ「ELV指令修正案に対するJCMAポジションペーパーへの賛同について」(2026年4月20日アクセス)
    https://www.mcgc.com/information/02286.html
  9. *9
    ACMA (2023) “Apply Carbon Commissioned the World’s First Fully Automated Mass Production Plant for Recycled Carbon Fiber”(2026年4月20日アクセス)
    https://acmanet.org/apply-carbon-commissioned-the-worlds-first-fully-automated-mass-production-plant-for-recycled-carbon-fiber/
  10. *10
    ACMA (2023) “New Method of Recycling Carbon Fiber Strengthens the Material”(2026年4月20日アクセス)
    https://acmanet.org/new-method-of-recycling-carbon-fiber-strengthens-the-material/
  11. *11
    名古屋大学ナショナルコンポジットセンター ウェブサイト(2026年4月20日アクセス)
    https://ncc.engg.nagoya-u.ac.jp/project/
  12. *12
    栗本鐵工所 ウェブサイト(2026年4月20日アクセス)
    https://www.kurimoto.co.jp/composite/solution/clftd.html
  13. *13
    BMW Group (2025) “BMW Group partners with Bcomp to bring natural‑fibre composites to series production”(2026年4月20日アクセス)
    https://www.bmwgroup.com/en/news/general/2025/natural-fibre-composites.html

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