制度の全体像と今後の見通しを解説 2026年から本格稼働する排出量取引制度(GX-ETS)とは?

2026年5月11日

みずほ総合研究所 サステナビリティコンサルティング部

滝見 真穂

※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。

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*本稿は、『plaplat®』2026年1年30日(発行:長瀬産業㈱)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

*みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社は、2026年4月1日付で株式会社みずほ銀行と統合しました。本稿の社名は掲載当時のものです。

2026年4月から、我が国のGX(グリーン・トランスフォーメーション)に向けた重要施策である排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働します。2023年度からの3年間は、エネルギー、発電、産業、運輸などの事業者による自主参加型の制度として運用されていましたが、2026年度からは、CO2の年間直接排出量(Scope1)が10万トン以上の事業者に参加が義務付けられます。対象企業数は300~400社、国内排出量の約6割をカバーすると言われています。

本稿では、GX-ETSの制度内容を解説するとともに、今後の見通しについて考察します。

排出量取引制度とは

排出量取引制度(ETS:Emissions Trading System)は、CO2の排出に対して価格を付けるカーボンプライシング(炭素価格付け)のひとつです。温室効果ガス(GHG)排出削減手段として注目されており、世界では、2005年開始のEU ETSを皮切りに導入が進み、2025年時点で37の制度*1が稼働しています 。アジア地域においても、韓国で2015年、中国で2021年から実施されています。

基本的な仕組みとしては、政府から対象企業に対し、有償または無償で排出枠が割り当てられます。対象企業は毎年、排出量と同量分の排出枠を保有しなければならず、不足する場合は他社や市場から排出枠を購入する必要があります。逆に、排出枠が余剰となった場合は、売却が可能です。排出量取引制度を導入することで、排出削減に経済的なインセンティブが生まれ、企業の脱炭素に向けた取組が後押しされます。また、削減が比較的容易な企業とそうでない企業とで排出枠の取引ができ、制度全体として費用効率的に排出削減を進めることができるのが特長とされています。

日本では、2022年に設置された「GX実行会議」において、経済成長・エネルギー安定供給・カーボンニュートラルの同時達成に向けた政策検討が進められ、2023年の「GXに向けた基本方針」の中で、「成長志向型カーボンプライシング」の柱として、2026年から全国的な排出量取引制度を本格稼働させることが決まりました。その後、2025年5月成立の改正GX推進法において制度の大枠が規定され、2025年7月からの経済産業省排出量取引制度小委員会において、制度の詳細が検討されました。次項では、同小委員会の中間整理(2025年12月)をもとに、2026年度以降の制度内容を解説します。

2026年度以降のGX-ETSの概要:【1】割当方法

GX-ETSにおける排出枠の割当は、「ベンチマーク方式」による無償割当が基本となります。ベンチマーク方式とは、業種毎に基準、つまりベンチマークとなる排出原単位(活動量当たりの排出量)を定め、排出原単位に各社の基準活動量(2023~2025年度の各社の毎年の生産量等の平均)*2を乗じて、割当量を算定する方式です。GX-ETSでは、図1の21業種についてベンチマークが設定されます。

図1 ベンチマーク方式による割当の対象業種

1. 紙パルプ製造業(紙) 8. ゴム製品製造業 15. 電炉による特殊鋼製造業
2. 紙パルプ製造業(板紙) 9. 板ガラス製造業 16. アルミニウム製造業
3. ソーダ製造業 10. ガラスびん製造業 17. 自動車製造業
4. カーボンブラック製造業 11. セメント製造業 18. 発電事業
5. 石油化学系基礎製品製造業 12. 石灰製造業 19. 貨物自動車運送事業
6. 有機化学工業製品製造業 13. 高炉による製鉄業 20. 内航運送をする事業
7. 石油精製業 14. 電炉による普通鋼製造業 21. 航空輸送事業

出所:「各業種のベンチマーク指標(案)」(産業構造審議会排出量取引制度小委員会第6回資料4)よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成

ベンチマークとなる排出原単位の水準は、各業種共通で、基準年度(2023~2025年度)平均の上位50%から徐々に引き下げ、2030年度は同上位32.5%の水準、または上位50%の水準×0.915の大きい方となります。前者の場合、2026年度(46.5%)から2030年度(32.5%)まで毎年3.5%ずつ引き下げられていきます。32.5%という水準は、省エネ法のトップランナー制度における過去のエネルギー効率改善のスピードを踏まえて設定されたもので、0.915という係数は、ベンチマークの上位50%と32.5%の水準が乖離する業種への配慮措置として導入されます*3

排出量小委員会での説明によれば、9割以上がベンチマーク方式による無償割当となる見込みですが、データ制約などからベンチマークの設定が難しい業種については、過去の排出実績から毎年一定比率で削減していく「グランドファザリング方式」で無償割当が行われます。削減率は、エネルギー起源CO2が年率1.7%、プロセス由来のCO2が年率0.3%です。エネルギー起源CO2の年間削減率は、グランドファザリング対象業種において、今後10年間で天然ガスへの燃料転換が完了するとした場合の排出削減を踏まえた数値、プロセス由来排出量の年間削減率は、ベンチマーク対象業種におけるプロセス由来排出量の削減率(上位50%と上位32.5%の差)に基づき設定された値です。

上記の基本方針に加え、図2のように、事業者への負担を軽減するための措置として、カーボンリーケージ業種(国際貿易に晒されている業種)への配慮、研究開発投資へのインセンティブ付与、2026年以前の早期削減努力の反映が行われます。

図2 割当における勘案措置

項目 内容
カーボンリーケージ業種への配慮 貿易シェア(生産額に占める輸出額と輸入額の割合)が0.1以上かつ、営業利益に対する排出枠調達コストの比率が4%を超える場合に、4%の閾値を超える排出枠不足分のうち50%を追加割当
研究開発投資へのインセンティブ付与 不足分の10%を上限とし、業種毎(製造業、エネルギー転換、運輸、その他の4分類)に、平均的な水準を超えてGX分野の研究開発を行う事業者に割当量を追加
2026年以前の削減努力の反映 グランドファザリング方式よる割当の場合、2013年度から基準年度までに、グランドファザリングの削減率(1.7%/年)以上に削減した量の一部について、2026年以降の5年間の割当量に反映

出所:「産業構造審議会排出量取引制度小委員会中間整理」よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成

2026年度以降のGX-ETSの概要:【2】排出枠の価格と制度の今後の見通し

GX-ETSにおいては、取引価格の予見性を高めるため、毎年の上限価格と下限価格が設定・公表されます。2026年度の下限価格は、最低限の脱炭素投資へのインセンティブを与える目的から、省エネ対策の費用として、2024年時点の省エネJ—クレジットの価格*4を踏まえ1,700円/トンと設定されました。上限価格は、石炭火力とLNG火力との燃料転換に要する炭素価格から、4,300円/トンと設定されました。

2027年度以降は、2026年度の炭素価格に実質価格上昇率(3%で固定)に物価上昇率(前年度の見通しを踏まえて毎年度変動)を加味し算定されます。物価上昇率をゼロと仮定すると、2030年度の下限価格は、1トン当たり約1,913円、上限価格は約4,840円となります。

図3 2026年度以降のGX-ETS制度概要

項目 内容
対象
  • CO2の直接排出量が、直近3年度平均で10万トン以上の事業者
割当方法
  • 全量が無償割当、割当方法はベンチマーク方式とグランドファザリング方式の2通りで、ベンチマーク方式が優先
  • カーボンリーケージ業種への配慮、研究開発投資へのインセンティブ、グランドファザリング業種における2026年以前の削減努力を勘案し、割当量を調整
クレジットの利用
  • J—クレジット、JCMクレジットを排出量の10%を上限に利用可
排出枠の上下限価格
  • 2026年度の上限価格は4,300円/トン、下限価格は1,700円、2027年度以降は物価上昇率等を反映
排出枠の保有義務
  • 毎年度の排出実績と同量の排出枠を翌年度の1月31日に保有。不履行時は、不履行分×上限価格の1.1倍を支払い
  • 価格高騰等で義務履行に支障が生じる状況と経済産業省大臣が告示した場合、上限価格を支払うことで義務履行とみなす
排出量の第三者検証
  • 当初3年間は事業者全体への限定的保証のみ。2029年度以降、大規模事業所を対象に、段階的に合理的保証を求める
移行計画
  • 対象事業者は排出削減目標と実績、設備投資計画と実績等を記載した移行計画を策定・提出

出所:同上

GX-ETSでは、基準年度が2023~2025年度であることから、2026年度分の排出枠の割当時期は、2025年度の排出量の算定・検証を経て、2027年度後半となる見込みです。2026年度と2027年度分のみ変則的に2年分同時の割当となり、その後は、年度ごとに割当が行われます。

排出枠の取引市場開設も2027年秋頃が予定されており、実質的な取引の開始までは1年半近く時間があります。このような背景を踏まえ、取引市場の具体的な設計は2026年度に行われます。具体的には、市場取引の手続きや公正な取引のための措置に加え、取引の流動性を確保するため、バンキング(余剰となった排出枠を翌年度以降に持ち越すこと)抑制策の検討が予定されています。これは、各社の保有クレジットの量を左右し、市場における排出枠の供給量、そして取引価格に影響を与えるため、特に関係者の関心を集めると予想されます。

なお、2026年度の義務履行期限は2028年1月末です。2027年秋にGX-ETS排出枠の取引市場開設というスケジュールを踏まえると、初年度に排出枠が不足する企業が市場から排出枠を調達しようとすると、ややタイトなスケジュールとなります。市場開設直後は各社様子見となり、取引が低調となる可能性も懸念されることから、現時点でも入手可能なJ—クレジットを、早めに確保するという対象事業者の動きが、2026年度に一定程度見られると考えられます。

2033年度からは第3フェーズとなり、発電事業者に対して、一部オークション(入札)による有償割当が開始されます。このオークション収入が、前述の「成長志向型カーボンプライシング」の一環として導入されたGX経済移行債(脱炭素投資支援のための合計20兆円の国債)の償還財源となるため、中長期的にはオークション価格、そして同様に排出枠の取引価格が上昇する可能性があります*5

終わりに

GX-ETS本格化は、NDCの達成および2050年のカーボンニュートラル達成に向けた重要な一歩です。一方で、排出削減の実効性確保に向けては、今後の制度発展が不可欠と考えられます。まず、2030年度のベンチマーク水準は、過去のエネルギー効率改善速度や天然ガスへの燃料転換を踏まえて設定されたものであり、この延長では2050年カーボンニュートラルの達成は困難です。環境政策で世界を牽引するEUでは、ベンチマークは上位10%の水準に設定されており、企業の脱炭素をしっかりと促す仕組みとなっています。

排出枠の上下限価格についても、IPCCなどの国際機関が唱える、1.5℃目標や2.0℃目標に必要とする価格水準を大きく下回っています。GXが目的とする、経済成長・エネルギー安定供給・カーボンニュートラルの同時達成に向け、本格稼働後も継続的に制度の影響や効果を把握し、制度を発展させていくことが重要です。

また、民間企業にとっては、カーボンプライシングの本格導入により、投資家やサプライチェーンから排出削減への要請がさらに高まることが予想されます。中長期的な炭素価格上昇のリスク回避、そして積極的なビジネス機会の獲得に向けて、早期に脱炭素に向けた取組みを進めることが有効です。

注釈:本資料は、みずほリサーチ&テクノロジーズ㈱が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。

参考文献

  1. 世界銀行(2025)「State and Trends of Carbon Pricing 2025」
  2. 経済産業省(2025)「各業種のベンチマーク指標(案)」(産業構造審議会排出量取引制度小委員会第6回資料4)
  3. 経済産業省(2025)「産業構造審議会 排出量取引制度小委員会 中間整理~排出枠の割当の実施指針等に関する事項~」(産業構造審議会排出量取引制度小委員会とりまとめ)
  4. 経済産業省(2025)「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」(産業構造審議会排出量取引制度小委員会第7回資料3)
  1. *1
    世界銀行(2025)「State and Trends of Carbon Pricing 2025」
  2. *2
    活動量は基準年度の水準で固定されますが、設備稼働率や燃料使用量が過去2年度平均で、基準年度から7.5%以上変化した場合、翌年度の基準活動量を直近2年度平均に更新します。
  3. *3
    グランドファザリング方式によるエネルギー起源CO2の削減率が年率1.7%であることから(後述参照)、5年分の削減率をもとに、1-0.017×5=0.915として算出
  4. *4
    2024年後半以降の、省エネJ—クレジットの価格上昇は、GX-ETSの本格導入を見据えた、早期のクレジット確保の動きによるものと考えられる。このため、省エネ対策の費用としては、値上がり前の水準を参照することが望ましいとの考えに基づく。
  5. *5
    改正GX推進法において、GX-ETSの発電事業者へのオークション収入(特定事業者負担金)と、別途2028年度導入の化石燃料賦課金の収入の合計で、2050年度までにGX経済移行債を償還すると定められている。

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