[連載]先進CVC10社との対話から読み解く マイノリティ出資後のスケール化・事業統合の壁を乗り越える処方箋(第4回) 組織を動かす打ち手と、企業成長の起点としてのCVCの新たな役割

2026年9月30日

みずほ総合研究所 ストラテジーコンサルティング部

野口 博貴
稲場 未南

※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。

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要旨

第3回ではCVCによるマイノリティ出資後の事業連携を推進するうえでのフェーズ別の打ち手について事例をもとに整理した。第4回では組織面の打ち手を整理し、まとめとして今後のCVCおよび外部支援者の役割について述べる。

1. 組織面の打ち手

第3回ではCVCによるスタートアップとの事業連携上の打ち手をフェーズ別に整理した。第4回では組織面での打ち手を3つの階層別に述べる。

図1 組織面と打ち手

図1

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

(1)経営層の課題(コミットメントの首尾一貫性の不足)に対する打ち手

~経営層と戦略リターンの時間軸・成果を握り、経営層の交代時には柔軟に対応する~

①現経営層との事業連携の時間軸・成果目標の握り

CVCを起点としたスタートアップとの事業連携で成果を創出するには、中長期の時間軸で取組む必要があり、その点について経営層の理解と合意を事前に得ておくことが不可欠である。また、経営層が交代する際には、その合意が後任へ確実に引き継がれる仕組みを整えておくべきである。

今回のヒアリング先では、戦略リターンの定量的な成果目標として、スケール化した事業連携件数、マジョリティ出資件数、新会社(JV)設立数、中期経営計画へのテーマアップ数等が設定されていた。一方、定性的な成果目標としては、スタートアップに関する文化・価値観の醸成、人脈形成、人材育成等、組織面を評価する指標が用いられている。特に「中期経営計画へのテーマアップ」は、CVCを単なる投資活動にとどめず、全社的な経営課題の解決や意思決定の選択肢拡大に寄与する取り組みとして重要である。こうした活動は、経営層のCVCに対するコミットメントを高め、経営方針との一貫性を保つうえでも有効である。CVC活動を持続的に推進するためには、定量・定性いずれの戦略リターンについても成果を測定・可視化し、経営層へ継続的に訴求していくことが求められる(図2)。

図2 戦略リターンに係る成果目標の例

図2

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

②経営層交代時の柔軟な対応

もっとも、経営層の交代に伴い方針転換が生じる場合もある。その際には、経営層が重視する成果の指標を踏まえてCVCの目標を微修正したり、出資枠の中でポートフォリオ全体として成果管理を行ったりする等、柔軟な対応を取れるよう備えておくことも重要がある。

(2)事業部のミドルマネジメント層の課題(連携意義の理解不足)に対する打ち手

~事業部のミドル層とスタートアップとの直接商談を行い、事業連携を拡大する~

①事業連携の意義付け

事業部の事業部長や部長などミドルマネジメント層の腹落ちを促すため、ヒアリング先の企業では、スタートアップ連携の目的を事業部のミッションと重ね合わせて説明したり、顧客や市場動向や協業により期待される売上等を含む協業計画を丁寧に共有したりしていた。事業のKPIにスタートアップとの連携度合いを評価項目として組み込むことでミドルマネジメント層の納得感やコミットメントをさらに高めることができるだろう。

②事業連携の現場に事業部長を巻き込む

また、事業連携をスケールさせる観点では、CVC担当部署が事業部長とスタートアップのCEOとの面談を設定し、大型案件につながる可能性のある商談の端緒をつくり、その後の実務を事業部長以下の管理職へ引き継いでいく取り組みもみられた。このように事業部長を事業連携の現場に巻き込むことで、意思決定権限が働きやすくなり、その後の事業連携のスケール化に弾みがつく好例といえる。

(3)事業部の実務者層の課題(人手と時間の不足)に対する打ち手

~事業部の短期的な課題解決やインセンティブの設計を行い、協力へ動機づける~

①足元の人手不足への対応や業務効率化に資する協業着手

事業部が人的リソースを事業連携に十分投じられない場合には、まず事業部自身が抱える人手不足や業務効率化等の足元の課題を解決する協業から着手し、連携の効果を実感してもらうことが有効である。実際に、このアプローチを通じて事業連携が加速した事例が確認された。こうした小さな成功事例を積み重ねた後は、CVC担当部署と経営層が社内SNS等を活用して事例とその意義を事業部内に共有し、直接関与していない社員にも連携マインドを醸成していくことが重要である。

②実務者向けの事業連携のスケール化・事業統合に向けたインセンティブ設計

事業部の実務者層向けのインセンティブ設計も有効である。あるCVCでは、営業部門にスタートアップのプロダクト販売を支援してもらう際、営業部門の本業製品をクロスセルできる仕組みを整え、本業の受注につながるよう工夫していた。この受注を「関連受注」と位置付け、営業部門がスタートアップ連携に関与する際のインセンティブとして機能させている。また、投資先スタートアップがIPOもしくは自社・他社によるM&A等のEXITを達成しキャピタルゲインが発生した場合、その一部を「EXIT報奨金」として事業連携の貢献者に還元する取り組みもみられた。これらは、事業部が事業連携にリソースを投入する動機付けとして有効である。

③実務者の人材ローテーション・兼務制度の設計

組織設計の観点では、事業部内にスタートアップ連携に精通した人材を継続的に増やし、中長期で事業連携を推進できる体制を整備する必要がある。具体的には、事業部とCVC担当部署の間で人材ローテーションを実施し、両者をつなぐ橋渡し役を育成する方法がある。また、事業部の実務者層にCVCの業務を兼務させる制度を設けることで、スタートアップ連携が本業軽視と捉えられないよう公式な位置付けを与え、安心してCVCとの協業を推進できるようにしている事例も確認された。

2. まとめ

(1)今後のCVCの役割

~出資を通じた新規事業の探索から、事業連携の牽引を通じた企業成長の起点へ~

従来、事業会社におけるCVCの役割は、第1回で述べたとおり、スタートアップへの資金供給や、マイノリティ出資後にスタートアップのプロダクトを社内で活用する段階までは、新規事業の可能性を探索するうえで重要な役割を果たしてきた。

しかし、技術進化の加速、産業構造の変化、既存事業の成長鈍化といった事業環境の変化を踏まえると、今後CVCに求められる役割はさらに大きくなっていくと考えられる。

今後は、これまでに構築した探索機能を基盤としつつ、共創による事業連携を牽引し、スケール化や事業統合へと繋いでいく役割が求められる。また、これらの事業連携を推進するためには、経営層・事業部のミドル層・現場社員それぞれのマインドセットを高める組織開発の観点も極めて重要である。こうした役割を通じて、CVCは企業成長や企業価値向上の起点となることを目指すべきである(図3)。

図3 今後のCVCの役割

図3

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

(2)今後の外部支援者の役割

マイノリティ出資後の事業連携では、複数の打ち手を同時進行で進める必要がある。中長期視点での計画策定、産業界や行政等外部プレイヤーの追加的な巻き込み、統合プロセスの実行、社内のマインドセット醸成等、その内容は多岐にわたる。これらは事業会社単独では、経験・ネットワーク・推進体制のいずれも不足しがちであるため、外部支援者の役割が極めて重要になる。

(3)〈みずほ〉としての支援の方向性

〈みずほ〉としては、①協業計画の策定から④組織開発支援まで、マイノリティ出資後のフェーズごとに事業会社が直面する課題に対し、伴走型の支援を強化していく考えである(図4)。

これまでみずほ総合研究所では一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会と連携し、2004年以降22年以上にわたってVC・CVC人材向けの実践的な育成プログラムを継続的に提供し、累計約3,000名のキャピタリスト輩出に貢献してきた*1。また、オープンイノベーションに先進的に取り組む大企業に対してもCVCの支援を講じてきている*2。こうした取り組みを通じて蓄積してきたスタートアップ投資・オープンイノベーションの先端的な実務知見と、〈みずほ〉の大企業・スタートアップとの広範なネットワークを組み合わせることで、スケール化・事業統合まで寄り添い、社会に対して大きなインパクトをともに起こしていきたい。

図4 今後の〈みずほ〉の支援の方向性

図4

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

謝辞

本稿の作成にあたり、ヒアリング調査の企画・実施・分析に関して、Tokyo Venture Capital Hubより多大なるご協力を賜りました。ここに記して深く感謝申し上げます。

(参考資料)

本参考資料は、ヒアリングで得られた事例を分類・列挙したものである。

参考資料 組織面の打ち手に関する事例

参考資料

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

  1. *1
    みずほ銀行 お知らせ「日本のスタートアップ・エコシステム基盤構築への貢献が評価され、「JVCA賞」を受賞」(2026年7月10日)
  2. *2
    みずほ情報総研(現みずほ銀行)「明日への挑戦」(広報誌『Navis』(2019年8月号))

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