[連載]先進CVC10社との対話から読み解く マイノリティ出資後のスケール化・事業統合の壁を乗り越える処方箋(第3回) PoC止まりを乗り越え、出資後の事業連携をスケール化させる打ち手
2026年9月24日
みずほ総合研究所 ストラテジーコンサルティング部
野口 博貴
稲場 未南
※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。
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[連載]先進CVC10社との対話から読み解く マイノリティ出資後のスケール化・事業統合の壁を乗り越える処方箋(第4回)組織を動かす打ち手と、企業成長の起点としてのCVCの新たな役割

[連載]先進CVC10社との対話から読み解く マイノリティ出資後のスケール化・事業統合の壁を乗り越える処方箋(第2回)スタートアップとの事業連携を阻む壁

[連載]先進CVC10社との対話から読み解く マイノリティ出資後のスケール化・事業統合の壁を乗り越える処方箋(第1回)CVCによる出資の先に何が起きているのか、スタートアップとの事業連携の実態
日本のスタートアップ・エコシステム基盤構築への貢献が評価され、「JVCA賞」を受賞
要旨
第2回ではCVCによるマイノリティ出資後の事業連携を推進するうえでの課題をフェーズ別および組織面の観点からを整理した。第3回ではフェーズ別の課題に対する具体的な打ち手について明らかにする。
本稿ではCVCによるスタートアップとの事業連携上の打ち手を、第2回で示した3つのフェーズ別にみていく。
図1. フェーズ別の打ち手

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成
1. 協業計画の策定フェーズの課題(短期視点)に対する打ち手
~相互理解のうえで、スタートアップの成長課題起点、中長期目線で協業を計画~
①相互理解ステップの導入
スタートアップとの協業計画の策定のフェーズにおいては、いきなり協業計画を立案するのではなく、まずは相互理解のステップを置くことが有効である。今回行ったヒアリングで事業連携が円滑に進んでいる企業では、協業やその計画の前に、両社の事業への想い・モチベーションを共有したり、スタートアップのプロダクトの販売代理に試験的に取り組んでターゲットになる顧客、ソリューション、販売方法についての理解を深めていたりしていた。このような事前の相互理解は、中長期的な観点での協業計画を策定するうえでのベースとなる。
②スタートアップの成長課題起点・中長期視点の協業計画の立案
協業計画の策定のステップにおいては二つのポイントがある。第一に、事業会社が自社の課題ではなく、「スタートアップの成長課題」を起点に検討することが有効である。協業はスタートアップと事業会社のどちらかの課題を解決することを目的として行うことが多いが、今回のヒアリング対象企業では、スタートアップの成長段階やその課題を深く理解した結果、あえて自社の課題を解決する性急な協業を避け、スタートアップのコア事業を成長させるために事業会社側がハンズオン支援に専念するという選択肢を取るケースもみられた。
第二に、当面のPoC計画の策定・実行だけでなく、市場や業界のメガトレンドを踏まえた中長期視点での計画立案も不可欠である。ヒアリング先の中には、オープンイノベーション部門が中長期ビジョンを社内外に発信し、それが事業連携のスケール化や理想的なEXITに向けた推進力の強化につながっている事例も確認された。
上記で述べた相互理解やスタートアップ起点・中長期視点の計画立案が、スタートアップと事業会社との相互の信頼感を高め、協業計画の実行の加速化につながっていくと思われる(図2)。
図2. 協業計画の策定の進め方

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成
2. スケール化フェーズの課題(技術・リソースの壁)に対する打ち手
~段階的な技術水準の明示と社内と社外のリソースのフル活用~
スケール化フェーズでは、本格的な事業連携を推進するにあたって事業会社の求める技術水準に達しない課題やリソース面の課題があるため、段階的な技術水準の明示や社内外の意の追加リソースを活用することが重要となる。
①スケール化までの段階的な技術水準の明示
事業連携が本格化する段階では事業会社が求める技術水準をスタートアップにいきなり要求すると壁が生じる。このため、今回ヒアリングしたCVCの中には、社内活用、PoC、限定導入、本格導入、量産化といったスケール化に至る各フェーズを細かく定義して、フェーズごとにスタートアップに求める技術水準を多段階で明示している事例があった。これによりスタートアップも計画が立てやすくなり、事業連携がPoCで終わらずに、スケール化へと進める確率を高めることができる。
②社内リソースの活用
社内リソースの活用については、CVC担当部署が中心となり、事業部の若手技術者をCVCに兼任させたり、スタートアップのプロダクトを試したい技術者を選抜して事業連携に巻き込むことで、社内の技術開発力を補完している事例が確認された。これにより、スタートアップの製品化・量産化に向けた技術開発を支援できる。
③社外リソースの活用
一方、社外リソースについては、自社単独では解決が難しい業界共通の課題に取組む際、同業他社のCVCに自社の投資先を紹介し、追加出資の可能性を模索する取り組みがみられた。これにより、量産化に必要な発注量の拡大が期待できるだけでなく、事業連携に参加する企業を増やすことで、課題解決の実現可能性を高める効果も見込まれる。
3. 事業統合フェーズの課題(M&A方針とのずれ)に対する打ち手
~CVCとM&Aの投資戦略のすり合わせと統合戦略の多様化~
①CVCとM&Aの投資戦略のすり合わせ
スタートアップへのマジョリティ出資の判断が、オープンイノベーション部門やCVC担当部署ではなく、M&A専門組織や経営企画部門に委ねられる場合、社内では次の点について事前にすりあわせておく必要がある。それは「投資目的」、「投資領域」、「投資基準」、「評価方法」、「PMIの進め方」である。これらをM&A担当部署の投資戦略や全社戦略と整合させておくことで、マジョリティ出資への接続性を高めることができる。次項では特に重要性が高い投資目的について詳述する。
②投資目的に応じた事業統合の選択肢の多様化
CVCの投資目的は大きく二つに分類される。第一に「自社の製品・サービスのパイプラインを獲得するための投資」(パイプライン投資)であり、この場合はマジョリティ出資やJVによる統合の必要性が比較的高い。したがって、パイプライン投資を行う際には、事業連携の出口としてマジョリティ出資を選択肢として明確に位置付けておく必要がある。第二に「自社製品・サービスを補完するエコシステムを構築することを目的とした投資」(エコシステム投資)がある。このような場合は、マジョリティ出資ではなく、JV化や事業・知財・人材等の必要なアセットのみを獲得することや、無理に事業統合をしないことの方が望ましいケースも多い。したがって、スタートアップとの統合戦略はマジョリティ出資に限定するのではなく、複数の選択肢を持って多様化させておくことが重要である。
4. 小括
CVCによるマイノリティ出資後の事業連携を進めるためには、初期の協業計画の策定段階で相互理解を深め、スタートアップの成長課題を起点に中長期視点での計画策定が重要になる。それに加えて、スケール化に向けた段階的な技術水準の明示と社内外リソースの活用や、事業統合を見据えたCVCとM&Aの投資戦略のすり合わせも不可欠である。第4回ではこれらの取り組みを下支えする組織面の打ち手、CVC・外部支援者の今後の役割について整理する。
(参考資料)
本参考資料は、ヒアリングで得られた事例を分類・列挙したものである。
参考資料 フェーズ別の打ち手に関する事例

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成
(第4回へ続く)
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