[連載]先進CVC10社との対話から読み解く マイノリティ出資後のスケール化・事業統合の壁を乗り越える処方箋(第2回) スタートアップとの事業連携を阻む壁

2026年9月16日

みずほ総合研究所 ストラテジーコンサルティング部

野口 博貴
稲場 未南

※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。

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要旨

第1回ではCVCによるスタートアップへのマイノリティ出資活動後の事業連携の実態を概観した。第2回では事業連携の課題をフェーズ別に生じる課題と、組織面に起因する課題の2つの観点から明らかにする。

本稿ではヒアリングから浮かび上がった、CVCによるマイノリティ出資後の事業連携の課題を、①フェーズ別に生じる課題、②組織面に起因する課題の2つの観点から整理する。

1. CVCによる出資先スタートアップとの事業連携上の課題

(1)フェーズ別に生じる課題

マイノリティ出資後の事業連携を評価するにあたり、①協業計画の策定、②スケール化、③事業統合の3つのフェーズに分けてヒアリングを実施し、それぞれの進捗状況と課題の把握を試みた。

図1 フェーズ別の課題

図表1

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

①協業計画の策定フェーズ:短期視点

~短期目線の協業設計がもたらす同床異夢~

このフェーズは、マイノリティ出資後にスタートアップとの協業計画を具体化していく段階である。しかしこの過程で、事業会社が協業・シナジー創出を急ぐあまり、スタートアップの意向を十分に汲み取らず、自社の事業課題を起点に検討を進めてしまうケースが見られる。また、取り組みが短期的な課題解決に偏ってしまうことも多い。その結果、スタートアップに十分なメリットが生まれない協業となりがちであり、スタートアップ側がこれらの取り組みにリソースを割くことで本来のコア事業の成長を阻害してしまう。結果として、短期的な課題解決はできても、長期的な事業拡大につながらないといった状況が生じている。

②スケール化フェーズ:技術・リソースの壁

~社内活用はできても、事業会社が求める高い技術水準によりスケール化しない~

スタートアップの既存プロダクトを社内で活用したり、小規模なPoCを実施したりする段階までは進めやすい。しかし、その先の事業連携、例えば事業会社の営業リソースを活用して自社顧客へ販売する、共同開発した製品を量産・提供するといった本格的な事業連携へと進むには大きな壁がある。その背景には、プロダクトの技術水準が事業会社の求める水準に達していないといった技術的な課題に加え、PoC後に量産へと移行するための追加の研究開発や資金が必要となるなど、リソース面での制約が生じていることが挙げられる。

③事業統合フェーズ:M&A方針とのずれ

~マジョリティ出資への進展を阻む組織設計のねじれ~

多くの事業会社では、CVC担当部署とは別に、既存事業やその近接領域におけるM&Aやジョイントベンチャー設立を専門に担当する部署(経営企画部を含む)が設置されている。このため、スタートアップとの協業がスケールした場合でも、マジョリティ出資に関する最終的な意思決定は、CVC担当部署ではなくM&A担当部署に移ることが多い。特に、CVCが描く協業計画が新規事業領域に及ぶ場合、M&A担当部署の投資基準との間にギャップが生まれやすい。その結果、スタートアップ側が両社の関係性を次の統合段階へ進める意向を持っていたとしてもマジョリティ出資に至るまでのハードルが高くなる。

2. 組織面に起因する課題

本項では、組織面に起因する課題を、①経営層、②事業部のミドルマネジメント層、③事業部の実務者層、の3つの階層に分けて整理する。

図2 組織面の課題

図表2

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

①経営層:コミットメントの首尾一貫性の不足

~経営層の交代による方針転換のリスク~

CVC設立当初は、経営層の合意のもと、「戦略リターンの創出」を目的として活動がはじまり、社内外への発信を通じて取り組みの認知度も高まっていく。しかし、経営層の任期は数年単位であり、交代のタイミングで出資先スタートアップとの事業連携の進捗状況や投資対効果の検証が行われる。事業連携が計画通り進捗していれば方針は継続され問題はないが、期待された成果が出ていない場合には課題が生じる。経営層によっては、協業やシナジー創出を重視する姿勢から純投資中心への方針転換を指示したり、場合によっては活動の縮小・撤退を求めたりするケースも見受けられる。こうした状況では、CVC活動に対する経営層のコミットメントが継続的に維持されず、一貫性が損なわれることが大きな問題となる。

②事業部のミドルマネジメント層:連携意義の理解不足

~突然巻き込まれる事業部ミドルマネジメント層の腹落ち感の不足~

CVCへの投資実行に向けたデューデリジェンスの過程では、事業連携の責任を負う担当役員が選任され、当該役員は案件に対してコミットメントを示す。他方、その配下に位置する事業部長や部長クラスのミドルマネジメント層は、本業における短期的な収益目標の達成を最優先とする立場にあり、突然降ってきたようにみえるスタートアップとの事業連携に十分腹落ちしていないケースは少なくない。こうしたミドルマネジメント層の理解不足は、スタートアップとの事業連携に向けた戦略立案や実行が進まなくなる大きな要因となる。

③事業部の実務者層:人手と時間の不足

~事業部は年度目標に全力投球し、スタートアップとの事業連携は余力で対応~

事業部との連携が不可欠な協業であっても、短期的な業績目標を追う事業部にとって、短期間では売上につながりにくいスタートアップとの協業に人的リソースを割くことは容易ではない。たとえCVC担当部署がPoC実施のための予算を確保していても、事業連携の負荷は大きく、実行に必要な時間が確保されにくいのが実情である。特に本業が好調な企業ほど、新規事業創出やオープンイノベーションの必要性に対する危機意識が高まりにくく、自前主義から脱却する動機付けが弱くなりやすい。その結果、スタートアップとの協業に人的リソースを十分に投入しにくくなる。

3. 小括

事業連携を推進するうえでの課題として、短期的な協業計画、スケール化のための技術・リソースの壁、M&A方針とのずれに加えて、経営層・ミドルマネジメント層・実務者層それぞれに起因する複合的な組織課題が存在することが明らかとなった。第3回以降では、これらの課題を踏まえて事業連携を推進するための具体的な打ち手、今後のCVCおよび外部外部支援者の役割について整理する。

(参考資料)

本参考資料は、ヒアリングで得られた事例を分類・列挙したものである。

参考資料1 フェーズ別の課題に関する事例

参考資料1

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

参考資料2 組織の課題に関する事例

参考資料2

(出所)各種ヒアリング調査より、みずほ総合研究所作成

(第3回へ続く)

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