精密発酵によって得られた成分の評価方法~食品安全委員会の評価の枠組みを整理する~(第3回) 精密発酵と食品安全

2026年6月19日

みずほ総合研究所 サステナビリティコンサルティング部

中元 昌広

※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。

第2回では精密発酵に関して、食品衛生法上の位置づけを概説した。特に、組換えDNA技術を用いる場合は安全性審査の手続きを経る必要があり、食品安全委員会でのリスク評価が必要となる。第3回ではリスク評価方法の整備状況について確認していきたい。

1. 食品安全委員会での調査審議と評価指針等

食品安全委員会は7名の委員から構成され、その下に16の専門調査会が設置されている*1。専門調査会に遺伝子組換え等食品専門調査会があり、「遺伝子組換え食品等の食品健康影響評価に関する事項について調査審議すること」が所掌事務として定められている*2。精密発酵では、基本的には組換えDNA技術によって得られた微生物を利用することが想定されることから、精密発酵によって得られた食品成分のリスク評価は本専門調査会が担当すると想定される。

食品安全委員会は、調査審議の透明性の確保及び円滑化に資すること等を目的に、評価の考え方や評価方法を定めた評価指針等を公表している*3。遺伝子組換え等食品専門調査会での調査審議において、精密発酵に関連するものは主に以下の2文書であると想定される。

① 遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物に関する食品健康影響評価指針(以下「遺伝子組換え添加物評価指針」という。)*4

② 遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準(以下「遺伝子組換え食品(微生物)評価基準」という。)*5

なお、前者は平成16年3月策定後、令和6年6月に改正されたものであるが、後者は平成20年6月に策定以降、改正されていない。

2. 遺伝子組換え添加物評価指針

本評価指針が対象とする遺伝子組換え添加物は、食品衛生法で認められている添加物の範囲内であるものとしている。また、遺伝子組換え添加物のうち、アミノ酸等の最終産物が高度に精製された非タンパク質性添加物を対象とする場合には、本評価指針別添「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物のうち、アミノ酸等の最終産物が高度に精製された非タンパク質性添加物の安全性確認の考え方」が適用される。

精密発酵は高度な精製を特徴の一つとしている。よって、基本的には非タンパク質性添加物を製造する場合は「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物のうち、アミノ酸等の最終産物が高度に精製された非タンパク質性添加物の安全性確認の考え方」が適用され、それ以外(タンパク質性添加物)は評価指針本体が適用されると想定される。

3. 遺伝子組換え食品(微生物)評価基準

本評価基準の対象は「遺伝子組換え食品(微生物)」としており、これは「遺伝子組み換えDNA技術を応用して得られた微生物を利用して製造された食品」であるとされる。「遺伝子組換え食品(微生物)は、その性質、用途、製法等の点において、極めて多岐に亘っているものである。生存している、または不活化された組換え体を食する場合がある一方、組換え体が食品の製造過程で最終的に除去されることも多い」とされる。このため本評価基準では、生きた組換え体を含まない場合と含む場合とで評価方法を分けて記載している。

精密発酵は高度な精製を特徴の一つとしている。よって、基本的には本評価基準の「生きた組換え体を含まない遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価(第3章のⅠ)」が適用されると想定される。しかしその内容に照らすと、評価対象として想定されているのは「食品」であって「食品成分」ではないことが読み取れる。例えば、図表1に示した例は、必ずしも精密発酵においては妥当しないと考えられる。

図表1 精密発酵には必ずしも妥当しないと想定される点の例

  精密発酵における妥当性
比較対象となる従来食品に関する事項では「1 比較対象となる従来食品の利用の歴史(食文化)又は産業上の製造経験等が明らかであること、2 従来食品の製造方法(原材料及び製造工程等)が明らかであること」等とされている。 精密発酵は、従来は動物や植物から得ていた成分を微生物に生産させることを特徴の一つとしていることから、従来の製造方法とは全く異なるものである。従来の製造方法との比較が可能であるとは言い難く、また、比較をしても安全性評価を行う上で有用な示唆が得られるとは考えにくい*
主要栄養素に関する事項では「遺伝子組換え食品(微生物)が食品として供給されることによって栄養摂取量の変化がもたらされる可能性があるか否かを評価するため、主要栄養素(タンパク質、脂質等)の組成の変化が明らかにされていること。」とされている。 精密発酵で想定される製造単位は「食品成分」であり、高度な精製を特徴の一つとしていることから、組成変化の項目は妥当しないと考えられる。

* ヨーグルト等の食品を評価対象として想定する場合であれば、発酵過程で使用する微生物が異なるが製造工程は伝統製法と同様であるという情報は、安全性評価を行う上で有用な示唆を与える。

特に、図表内の例①に関連することとして、そもそも本評価基準の評価の原則は「遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価が可能とされる範囲は、原則として、食経験のある宿主(従来菌株)並びに食品(従来食品)との比較が可能である場合とする」とされる。例①のとおり、精密発酵の場合、従来食品との比較が可能と言えるのか不透明な点があることから、本評価基準の安全性評価が可能とされる範囲として理解してよいか不明確な点もあると言える。

このように、精密発酵で得た食品成分については、基本的には本評価基準を適用又は応用することになると想定されるが、その取扱いは必ずしも明確ではない。

4. 最近の評価の動向

最近の評価の動向として「DN-E4株を利用して生産されたL-エルゴチオネイン」のリスク評価結果が公表されている(評価結果通知日2026年3月5日)*6。本評価では「本食品は、その製造工程で最終的に遺伝子組換え微生物(遺伝子組換え体)が除去され、高度に精製された非タンパク質性の食品(希少アミノ酸)である。」とされている。事実上、精密発酵による食品成分の評価事例の一つであると考えられる。

本評価は、「遺伝子組換え食品(微生物)評価基準の基本的な考え方に従い、最終産物について、従来食品との比較により安全性評価を行うことが適切であると考えた。」としている。その上で、「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物のうち、アミノ酸等の最終産物が高度に精製された非タンパク質性添加物の安全性確認の考え方(遺伝子組換え添加物評価指針別添)」を「準用」して評価している。(厳密には添加物ではないので「準用」である点に注意が必要。)

このように、精密発酵により得られた「高度に精製された非タンパク質性の食品成分」については、今後、非タンパク質性添加物の安全性確認の考え方を準用する事例が集積していくと想定される。その一方、「高度に精製されたタンパク質性の食品成分」については、その評価方法には不明確な点があるのは上述のとおりである。乳タンパク質、卵白タンパク質等は、精密発酵により得られる特徴的なタンパク質性の食品成分である。精密発酵の社会実装の一層の推進のためには、食品成分を対象とした際の評価の考え方や評価方法の一層の明確化が期待される。

5. まとめ

「精密発酵」という領域に特化した規制体系・評価方法は整備されていないが、精密発酵の技術的な主要な特徴(「遺伝子工学ツールの活用」「微生物の使用」「食品成分の生産工程」「高度な精製」)に鑑みると、既存のもので一定程度カバーされていると考えられる。精密発酵の技術的特徴に高度な精製があることを考慮すると、評価方法等の整理は基本的には図表2のとおりであると想定される。その一方で、繰り返しになるが、精密発酵で食品成分を得る場合には現行の遺伝子組換え食品(微生物)評価基準では不明確な点があり、精密発酵の社会実装の一層の推進のためには、食品成分(特にタンパク質性の食品成分)を対象とした際の評価の考え方や評価方法の一層の明確化が期待される。

図表2 精密発酵に係る評価方法等の整理

図表2

  1. *1
    食品安全委員会. 食品安全委員会とは.
    https://www.fsc.go.jp/iinkai/
  2. *2
    食品安全委員会専門調査会等運営規程(平成15年7月9日食品安全委員会決定:最終改正令和5年4月25日).
    https://www.fsc.go.jp/iinkai/index2.data/senmontyousakaiunneikitei.pdf(PDF/89KB)
  3. *3
    遺伝子組換え食品等専門調査会. 評価指針等.
    https://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/
  4. *4
    遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物に関する食品健康影響評価指針(平成16年3月食品安全委員会決定:令和6年6月改正).
    https://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/index.data/gm_foodadditive_shishin.pdf(PDF/408KB)
  5. *5
    遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評価基準(2008年6月食品安全委員会決定).
    https://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/index.data/gm_biseibutu_kijun.pdf(PDF/307KB)
  6. *6
    食品安全委員会. DN-E4株を利用して生産されたL-エルゴチオネイン.
    https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20251210220

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