人生100年時代の高齢期の就業

2026年10月20日

みずほ総合研究所 ソーシャルイノベーションコンサルティング部 特任研究員

藤森克彦

※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。

*本稿は、『週刊東洋経済』2026年9月19・26日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

イギリスの経営学者リンダ・グラットン氏は、共著『ライフ・シフト』で人生100年時代の生き方や働き方を提唱した。これまでの人生設計は、「教育→仕事→引退」という3段階モデルを前提としてきた。しかし寿命が大きく延びる中で、若い頃に学び、60代半ばで仕事を終える生き方は、経済的にも社会的にも維持が難しくなりつつある。

そこでグラットン氏は、学び直しや転職、副業、地域活動などの複数のステージを行き来する「マルチステージ型」を提唱する。生涯で複数キャリアを持つ生き方だ。

こうした変化の一部は、日本でも現実になりつつある。65~69歳の就業率は、2015年の42%から25年に55%へ拡大し、70~74歳でも25%から36%へ10ポイント以上増えた。事情はさまざまだろうが、多くの高齢者が「働き続ける人生」を選び始めている。

内閣府の調査によれば、高齢就業者の8割以上が「70~80歳くらいまで」あるいは「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えている。また、高齢就業者の仕事満足度は、「給与」と並んで「やりがいや社会貢献」との関連性が強いのが特徴だ。さらに、高齢就業者の約半数が非正規雇用者である。

これらを勘案すると、高齢期は公的年金を受給できるため現役期ほど収入にとらわれず、仕事の意義を重視しながら、無理なく働ける仕事を選ぶ人が多いと思われる。

では、高齢就業者はどのような分野で働いているのか。産業別に見ると、「卸売業・小売業」が131万人(高齢就業者数の14%)で最も多く、「医療・福祉」が122万人(同13%)で次ぐ。ただ、この10年間で最も高齢就業者が増えたのは、医療・福祉分野のほうだ。15年から25年にかけて、約64万人増加して2倍以上になった。

グラットン氏は、マルチステージ型人生を支えるものとして、貯蓄などの「有形資産」だけでなく、学び続ける力、人とのつながり、自らを変化させる力といった「無形資産」の重要性を指摘している。

筆者は、こうした無形資産を育む場として、福祉分野が適していると考える。

第1に、福祉分野は今後も需要の拡大が見込まれ、セカンドキャリアの有力な選択肢となりうる。福祉を学ぶ過程で知識や技能を得られ、人生経験も生かしやすい。

第2に、高齢者支援や障害者支援、地域づくりなどを通じて、地域の人々とのつながりを深めることができる。

第3に、福祉は価値観を変える契機となりうる。多様な人生を送ってきた人々と出会い、社会課題に向き合う中で、自らの価値観を見つめ直す機会が少なくない。

近年は、高齢男性の孤立が懸念されている。この背景には、現役期に会社の人間関係にとどまりがちだったことがある。従業員は遅かれ早かれ次のステージに移るのだから、企業も従業員のライフ・シフトを視野に入れるべきだろう。

具体的には、50代から次のステージを考えていけるように、企業が新たな展開を後押しすることは重要である。その際、福祉分野も次のステージの魅力ある選択肢になるのではないか。

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