物価高に対して公的年金ができること

2026年5月18日

ソーシャルイノベーションコンサルティング部 特任研究員

藤森克彦

*本稿は、『週刊東洋経済』2026年4月11日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

物価高が人々の生活を直撃している。こうした状況の中、「低年金者の受給額を増やせないか」という声を聞く。

公的年金には、物価変動に応じてある程度年金額を改定する仕組みが入っている。しかし賃金が物価ほど伸びない場合、現役世代の保険料負担を考えて、物価上昇率よりも低い水準で改定される。低年金であるほど、改定による年金額の増加幅は小さい。

また、公的年金を受給している低年金者の受給額を引き上げるのは難しい。公的年金の受給額は、支払ってきた保険料とその拠出期間に応じて決まるためだ。もし保険料の拠出実績を無視して給付を増やせば、相応の保険料を拠出してきた人との間で不公平が生じる。

公的年金は社会「保険」である。現役期から保険料を納めることで高齢期の貧困を防ぐ「防貧機能」を果たす。貧困からの救済を直接的な目的にした制度ではない。

では、すでに貧困に陥っている低年金者を救済する仕組みはないか。社会保障制度には「救貧機能」の仕組みがあり、その代表が生活保護制度である。すべての国民は、最低限度の生活を保障されており、その基準に満たない部分について給付を受けることができる。

加えて、生活保護の一歩手前の人を対象に、生活困窮者自立支援制度もある。相談支援や家計改善支援などが提供されている。

ただしこれら制度の利用にはスティグマ(恥辱)を伴うこともあり、申請をためらう人もいる。そのため、所得情報などのデジタル化を進めて、行政が真の困窮者を把握して本人に連絡をする「プッシュ型支援」の検討が必要だ。

一方で、将来の受給者の防貧機能強化は、年金改正などによって実現できる。具体的には、短時間労働者への厚生年金の適用拡大である。短時間労働者は被用者であり、自営業者と異なって高齢期に生産手段を持たない。本来厚生年金に加入できるはずなのに、制度上、基礎年金のみを受給する自営業者グループに分類されている。

厚生年金に加入できれば、保険料拠出は労使折半となる。給付は、基礎年金に報酬比例部分が上乗せされて手厚くなり、将来の低年金者の減少効果が大きい。適用拡大はすでに進められているが、その進展は遅く、前倒しすべきである。

将来の年金額を改善するうえでもう1つ重要な点は、ライフスタイルの再設計によって給付額を増やすことだ。長く働けば、生涯賃金が増えるだけでなく、長期に厚生年金に加入できるので、年金額も増える。そのためには子育てや親の介護があっても、働き続けられる環境整備が欠かせない。

高齢期には、公的年金の受給開始を65歳より遅らせることで、年金を増額できる「繰り下げ受給」もある。例えば、68歳から受給を開始すれば、65歳開始に比べて受給額は25%増になる。寿命が延び、高齢者の若返りは医学的に証明されているので、長く働いてその後、増額した年金で暮らすことは合理的な選択といえる。

現下の物価高への対応は救貧機能で行いつつ、公的年金では中長期的な視点から将来の防貧機能を強化することが重要である。

*当記事の内容は執筆時点の情報に基づくものであり、その正確性・完全性・最新性を当社が保証するものではありません。閲覧者の判断と責任にてご利用ください。

(CONTACT)

お問い合わせ

お問い合わせは個人情報のお取扱いについてをご参照いただき、同意のうえ、以下のメールアドレスまでご連絡ください。

サービスに関するお問い合わせはこちら

メール内にご希望のサービス名の記載をお願いします。
mhricon-service-info@mizuho-rt.co.jp

その他のお問い合わせはこちら

mhricon-info@mizuho-rt.co.jp

採用情報について

採用情報はこちらから

MORE INFORMATION