世帯年収900万円の住宅ローンの借入可能額と適正額の目安は?
掲載日:2023年8月3日
目次
住宅ローンの借入では、「無理のない返済計画かどうか」が重要なチェックポイントになります。長年思い描いてきた理想の住まいを手に入れても、月々の返済が家計の負担になっては本末転倒です。そこで大切なのが、「世帯に合った住宅ローン借入額」の見極めです。ここでは、「世帯年収900万円」の家庭に絞り、借入可能額と適正額をガイドします。目いっぱい借りられる限度額と、安心して返済できる額を突き合わせて考えると、バランスの取れた「適正額」が見えてきます。
1. 年収900万円の世帯はいくらまで住宅ローンが組める?
以前から「買える住宅は年収の5倍まで」と語られてきました。年収900万円=4,500万円の住宅購入がセオリーなのでしょうか。定説を掘り下げて考えます。
年収900万円の世帯の住宅ローン借入上限額は5,400万円程度
「住宅購入は年収の5倍が限度額」という言説は、「年収倍率」を基に考えたものです。これは住宅の購入価格と購入者の世帯年収の比率を表した指標です。「年収の5倍」という基準にあてはめれば、年収900万円であれば4,500万円が組める計算ですね。あくまで参考値ですが、多くの住宅購入者は年収の5~6倍を目安に考えています。ざっくりとではありますが、年収900万円の世帯は4,500万円~5,400万円の住宅ローンが組めると想定し、計画を絞り込んでいくのが良いでしょう。
住宅ローンの限度額はいくら?大きな金額を借り入れする際の注意点
年収900万円世帯の適切な借入額とは
年収倍率を基にした額は参考値であって、住宅ローンを取り扱う金融機関はその他の指標も用いて住宅ローン審査を実施し、融資額を決定します。その一つが「返済負担率(返済比率)」です。これは、年収に対して住宅ローンの借入額が占める割合のこと。つまり、年間の返済可能な額から逆算し、借入の総額を算出する方法です。住宅ローンの支払額は、返済負担率20~25%が基本です。返済比率が30%を超えると住居費が家計を圧迫し、生活が厳しくなると言われます。この指標で「借入できる目いっぱいの金額」ではなく、「家庭の収支を考えて無理のない返済か」という観点が加わるのです。
余裕を持った借入額では、手取り年収について「返済負担率が25%に収まるかどうか」を考えます。手取り年収は額面年収が1,000万円以下の場合は額面の70~80%程度が目安です。ここでは年収900万円世帯の手取を額面年収の約75%の672万円として試算してみましょう。手取り年収が672万円ですから、月々の手取り収入は56万円。月56万円を返済比率25%で計算すると14万円ですから、これが適正な返済額になります。
みずほ銀行のシミュレーションを活用すると、月額14万円の支払いで借入可能額は5,280万円と算出できました。年収倍率で計算した5,400万円よりも現実的な数字に近づいたのが分かります。
条件:返済期間35年、ボーナス払いなし、金利年0.625%
2. 世帯年収900万円で住宅購入をする際の頭金の目安は?
住宅ローンの借入額は頭金をセットにしてプランニングするのが基本です。近年は「頭金なしで組むフルローンでもOK!」と考える人もいますが、頭金を入れることで総返済額を抑えられるのは大きなメリットです。頭金の意義と、理想的な頭金の詳細を考えてみましょう。
住宅購入における頭金とは
頭金とは、住宅購入時に自己資金、つまり預貯金などから支払う現金のことです。例えば、5,400万円の住宅を購入する際に400万円の頭金を用意すると、それを差し引いた5,000万円が住宅ローンの借入額になります。頭金なしのフルローンも組めますが、そこにはデメリットもあります。頭金なしで借入額が膨らむと利息が増え、毎月の返済額もアップするのは避けられません。頭金の存在は、住宅ローンを支払い続ける家計の負担を減らすことにつながるのです。そのため、多くの人は家づくりの予算で頭金を前提に住宅の購入を検討しています。
頭金の目安はいくら?
では、住宅購入者は頭金をどれだけ用意しているのでしょうか。一般的には「物件価格の2割程度」と言われますが、その目安を調べてみました。国土交通省が発表した「令和4年度 住宅市場動向調査」によると、購入資金のうち自己資金(頭金)が占める割合は、以下の通りです。
- 注文住宅(土地代を含む):自己資金1,665万円、自己資金比率30.6%
- 分譲戸建住宅:自己資金1,160万円、自己資金比率27.5%
- 分譲マンション:自己資金2,259万円、自己資金比率42.8%
- 中古戸建住宅:自己資金1,432万円、自己資金比率42.9%
- 中古マンション:自己資金1,450万円、自己資金比率49.3%
- 分譲集合住宅42.8%、中古戸建住宅42.9%、中古集合住宅49.3%
この数字はあくまで統計値で、頭金をどれだけ入れるかは家計の状況や家族構成によってケースバイケース。教育費や介護費など家族のライフイベントが発生するかどうかで用意できる頭金は異なります。手元資金と将来の家計を考慮し、無理のない範囲で頭金の額を考えていきましょう。
まとまった頭金を用意すると低い金利が適用されることも
まとまった頭金を用意すると、金利面で有利になることもあります。住宅金融支援機構の「フラット35」を利用した場合、物件価格に対する借入額が90%以下、つまり1割以上の頭金を用意するという条件で、より低い金利が適用されます。利息の負担を減らし、結果として毎月の返済額を減らせるのは大きなメリットです。
3. 年収900万円世帯が無理のない住宅ローン返済のために注意したいこと
適正な借入額を算出し、頭金について検討してきました。ここでは、月々の返済を無理なく、確実に続けていくための注意点を挙げていきます。
税金やメンテナンス費用も考慮し、月々の返済額を決めていく
住宅ローンではまとまったお金を借り、10年~30年という長い借入期間の中で返済していくことになります。マイホームの夢を実現しても、月々の返済に追われて家計が苦しくなっては元も子もありません。資金計画では、給与や副業などの収入と保険料などを含めた毎月の支出を突き合わせ、生活費や貯蓄などを確保した残りの金額から支払金額を考えていきましょう。
固定資産税や都市計画税といった毎年かかるお金を具体的に計算するのも大切ですし、出産や育児、教育や介護など家族のライフイベントを見据えた長期のプランニングも必須です。マンションであれば大規模修繕のための修繕積立金、戸建てであってもメンテナンスの諸費用を見込んでおかなければなりません。
定年までに完済できる金額にする
返済計画は子どもの進学や結婚など、家族それぞれのライフプランを織り込んで精度を高めていくものです。そこで重要なマイルストーンになるのが世帯主、主な働き手の定年退職年齢です。定年後は嘱託として元の勤務先に再雇用されたり、再就職したりするセカンドライフが一般的ですが、いずれは年金収入のみで生活する日がやってきます。退職金で一括返済や繰上返済を考える方も多いと思いますが、先行き不透明な時代だけに、定年前に完済できる借入額に抑えておくのがベターでしょう。
片働きでも返済できる金額にする
共働きで年収900万円を達成している家庭は、どちらか一方の収入で無理なく返済できる借入額を考えるようにしましょう。長期に渡って返済していく中では、昇給して高収入に向かうといったポジティブなことばかりではありません。転職で給料がダウンしたり、主な働き手が病気やケガなどで働けなくなったり、出産や育児で休業し、世帯の総収入が下がったりすることも想定されます。いわゆる「2馬力」のフルパワーではなく、どちらかの「1馬力」をベースに借入額を計算してみましょう。
4. 年収900万円世帯にとって現実的な住宅ローン借入額を考える
世帯年収の最新統計は、厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査」ですが、これによるとわが国の平均世帯年収は552万円、データを上から並べたときのちょうど真ん中にあたる中央値は437万円です。年収900万円世帯は手取り額が約670万円ですから、一般的な世帯よりも多く収入を得ており、年収1,000万円をうかがうポジションにあります。
記事内で解説したように、年収900万円世帯になると5,000万円を上限額のメドとする借入が視野に入ってきますが、限度額いっぱいを借りると家計にも負担がかかり、当初の見立てを後悔することがあるかもしれません。適正な借入額を試算するためには、住宅ローンアドバイザーなどプロフェッショナルに頼る方法もあります。自分たちのライフスタイルとリスクを照らし合わせながら、理想的な住まいを手に入れるためのステップを踏んでいきましょう。
佐々木 正孝
(ささき まさたか)
編集/ライター。キッズファクトリー代表。教育・ビジネス系の記事を執筆しつつ、児童書の編集やマンガ原作も手がける。
編集/ライター。キッズファクトリー代表。教育・ビジネス系の記事を執筆しつつ、児童書の編集やマンガ原作も手がける。