住宅ローンを組むときに保険は必要?加入・見直し時の注意点
掲載日:2023年3月31日
目次
住宅ローンを借りる際は、団体信用生命保険(以下 団信)に加入するのが一般的です。しかし、なぜ住宅ローンと団信がセットになるのか、考えてみたことはあるでしょうか。ここでは、団信の仕組みや、チェックしておきたいポイント、さらに一般的な生命保険との違いを解説します。加入のメリットや具体的な内容まで掘り下げますので、住宅ローンを安心して組むための理解を深めていきましょう。
1. 住宅ローンを組むときに保険への加入は必要?
住宅ローンを契約する際、多くの民間の金融機関は団信への加入を必須にしています。ローンの返済は長期に渡るため、契約者のリスクを考え、加入が望ましいとされているのです。団信のポイントを解説する前に、「保険とリスク」の関係性を考えてみましょう。
住宅ローンの返済中に生命保険に入らないリスクは?
住宅ローンを着実に返済する中で、「死亡」「病気や怪我」「老後」という3つのリスクを考えて置かなければなりません。住宅ローンの契約者が死亡した場合、連帯保証人や残された家族に金銭的な負担がかかり、ローンを返済していくのが困難になるケースがあります。これは病気やケガも同様で、長期療養が必要になった場合は契約者の収入が途絶えたり、減少してしまったりすることも。また、返済期間が長期にわたり、契約者の定年退職後まで続く場合、収入の減少によって毎月の返済が困難になるリスクもあります。
住宅ローンを組むときに加入を検討したい主な保険
3つのリスクに備えるため、「保険」というリスクヘッジがあります。住宅ローンを組む際、リスクを考えて検討してみたい保険を紹介します。
・死亡保険
死亡保険は、主に契約者が死亡した場合に支払われる保険です。保険加入者が亡くなった場合、その後の遺族の生活費を保障するために保険金が支払われます。葬儀費用など、死亡時に関連する出費も保険金でカバーできます。
ここで大切なのは、死亡保険は、「必要保障額」と団信の関わりも視野に入れ、考えていかなければならない、ということです。必要保障額は、残された家族の生活に必要なお金と、残された家族の収入の差額で決まります。この不足分の相当額を保険金でまかなうのが、死亡保険の基本的な考え方です。保険金額は、この必要保障額から決まるのです。団信については後述しますが、加入者が亡くなった場合、死亡保険金で住宅ローンの残債が返済されるため、残された家族は返済のお金を考えることなく、それまでの家に住み続けられます。
・医療保険
医療保険は病気やケガに備えて加入する保険です。住宅ローンの月々の返済に加え、病気やケガで入院や通院が必要になった場合の治療費の支払は負担が大きいもの。また、長期入院になり働けなくなった場合の収入減少分をカバーする必要もあります。そこで、必要な保障に合わせて医療費の選択が視野に入ります。預貯金が十分で治療費や、休業時の収入減が補填できる場合、医療保険は最低限、または不要な場合もあります。
・就業不能保障保険
就業不能保障保険も、病気やケガで長期に渡って働けなくなった場合に備える保険です。就業不能状態で所定の条件に当てはまった場合、契約時に決めた金額を給与のように毎月受け取ることができます。医療保険の保障と似ていますが、入院が長期に渡る場合は違いが出ることもあります。医療保険の入院給付金は限度日数がありますが、就業不能保険は長期の入院に備えることも可能です。
・個人年金保険
老後のリスクに備えるのが個人年金保険です。医療保険や就業不能保障保険は掛け捨てタイプが多くなりますが、個人年金保険は積み立てた掛け金を、定年退職後などに年金形式で、または一時金として一括で受け取ることができる保険です。商品によっては終身の受け取りを選択できるものもあります。住宅ローン完済後の貯蓄をフォローする目的もあり、老後の安心につながります。
2. 住宅ローンを組むときに生命保険の見直しが必要な理由
住宅ローン返済中のリスクに備える保険について紹介しました。団信への加入時には、前項で解説した各種保険、特に生命保険の見直しが必要になることもあります。それは一体どのようなケースなのでしょうか。
冒頭で言及したように、住宅ローンを組む際は基本的に団信の加入が必須です。団信は住宅ローン専用の保険ですが、通常の生命保険がカバーする保障と内容が似ている部分もあり、リスクへの備えが重複することもあるのです。このため、住宅ローンの契約にあたって、加入している生命保険を見直すことがおすすめです。必要のない保障が見つかれば、保険料の支払い負担を軽減できる可能性もあります。保険会社に問い合わせ、案内を受けてみましょう。
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3. 団信の概要と通常の生命保険との違い
住宅ローンの契約によって、保険で備えるべきお金が変わってくることが分かりました。では、一体どのような観点で見直したらよいのでしょうか。ここであらためて団信の詳細を解説し、通常の生命保険との違いにもフォーカスしてみましょう。
団信とは?
団信は、住宅ローンの返済途中で債務者が死亡したり、身体障害状態もしくは高度障害状態になった場合に、生命保険会社が住宅ローン残高に相当する保険金を借入先に支払うことで、債務の返済を肩代わりしてくれる保険です。フラット35を利用する場合を除くと、多くの場合は住宅ローン借入の要件となっています。住宅ローンについて調べたり、相談に行かれたりした方はきっと聞いたことがあるでしょう。住宅ローン返済中の「万が一」があっても、残された家族が負債を負わずに、マイホームにそのまま住むことができます。もしものときに備えられるセーフティネットの一つといえるでしょう。
住宅ローンの団信って何のこと?種類や選び方、よくある質問への回答
住宅ローンの団信と一般的な生命保険の違い
前項でピックアップした「死亡」「病気・ケガ」のように、いざ起こると損失が大きいリスクに備える手段として適しているのが「保険」です。それは、住宅ローン返済中のリスクにも備えられるものです。一般的な生命保険と比較し、団信のポイントを明らかにしていきましょう。
団信 | 一般的な生命保険 | |
---|---|---|
被保険者 | 債務者 ※一部保障対象を広げられるものもあります。 |
任意で指定 |
契約者 | 融資した金融機関 保険料負担は実質債務者 |
保険料負担者 |
保険料の支払 | 金利に上乗せが一般的 | 個別で支払 |
保険金の受取人 | 融資した金融機関 | 任意で指定した受取人 |
保障額 | 住宅ローンの債務残高 | 任意で設定 |
保険期間 | 住宅ローンの返済期間 | 任意で設定 |
保険料の算定方法 | 借入額と借入期間に基づく | 年齢や性別等に基づく |
告知 | 必要 一部不要なものもあります。 |
必要 一部不要なものもあります。 |
中途解約 | 中途解約できないのが一般的です。 | 可能 |
生命保険料控除の適用 | 不可 | 可能 |
一般的な生命保険は、誰の死亡に備える保険かによって、被保険者を任意に指定します。被保険者とは保険の対象になる人です。一方、団信の被保険者は任意ではなく、基本的に住宅ローンの契約者、つまり債務者になります。団信の保障を引き受けるのは生命保険会社で、引受保険会社と呼びます。
契約者も団信と一般の生命保険は異なります。生命保険の場合、契約者は保険料の支払者と同じですが、団信では住宅ローンを融資した金融機関で、保険証券も債務者の手元には届きません。保険料は住宅ローン金利に含まれるか、もしくは「特約料」などとして上乗せする形で債務者が負うことになります。この場合、上乗せ金利は商品ごとに異なります。
一般的な生命保険は年末調整や確定申告の際の「生命保険料控除」の対象にはなりますが、団信は違います。保険金受取人は債務者ではなく、契約者である金融機関になるためです。保険期間も異なります。一般の生命保険の場合、保障額と同様に保障を受ける「保険期間」も任意で設定できます。一方、団信は住宅ローンの返済期間=保険期間になります。
保険料の算定方法も異なります。生命保険は年齢や性別などで異なり、一般的には年齢が上がるほど保険料も高くなります。このため、40代や50代で住宅購入を検討する場合、「保険料が割高になるのでは……」と、不安に思うことがあるかもしれません。しかし、団信の保険料には年齢や性別による差はありません。あくまで、住宅ローンの借入額に基づいて保障額が決まるのです。借入額が多ければ保険料も上がことになるので、年をとってから住宅を購入する場合でも、たとえば頭金を用意して借入額を必要最低限に抑えることができていれば、支払う保険料の額も抑えられます。一般的な生命保険と比べても、過度な負担にならないでしょう。
ここまで相違点を挙げてきましたが、共通しているのは告知義務です。これは、自分の健康状態や既往歴などを保険会社に告知するというもの。団信に加入する際は、一般の生命保険と同様に告知が必要で、債務者は持病や不妊治療なども告知する義務があります。
4. 住宅ローンを組むときの保険に関する注意点
団信は特約付きと保障内容の違いを比較して選択する
団信には「特約」がついた、様々なバリエーションも登場しています。住宅ローンの返済が困難になるのは死亡や身体障害・高度障害時だけとは限りません。幅広い保障があれば、35年など長期に及ぶ住宅ローン返済中の安心材料になるでしょう。ただ、特約付きの場合は保険料もプラスになります。ここで、どのような点に留意すべきでしょうか。基本の団信と特約付き団信を比較しつつ、ポイントと注意点を解説します。
・基本の団信
銀行の団信を含むベーシックな団信では、加入者が死亡、身体障害状態もしくは高度障害状態になった場合に保険金が支払われます。フラット35の機構団信の場合、死亡あるいは所定の身体障害状態で保険金が支払われます。
ここで分かりにくいのが、「高度障害状態」と「身体障害状態」の違いです。高度障害状態は終身常に介護を必要とする状態で、身体障害状態は1級または2級の身体障害者手帳が交付される状態のことです。一般的に、身体障害状態は、高度障害状態よりも保険料の支払要件が緩やかとされています。
フラット35の団信は「特約料」として金利に保険料が含まれているため、基本的に追加の保険料は発生しません。銀行などの住宅ローンでも団信の保険料は金利に含まれるのが一般的ですが、保険料が金利に含まれない場合もあります。申込の前に金融機関に確認しておきましょう。
・ペアローン団信
ペアローン利用者限定の団信です。ペアローン利用者のいずれか一方に万が一のことがあった場合、お二人とも住宅ローン残高が0円になります。保障内容や加入年齢条件は、一般の団信と同様です。
ただしお二人ともに「一般団信」または「がん団信」いずれか同一商品に加入する必要があります。
・特約付き団信
フラット35を含め多くの団信では、基本の保障に特約を加えられるようになっています。例えばがん(悪性新生物)や、がんに加えて急性心筋梗塞と脳卒中に罹患し、所定の状態になった場合に保険金が支払われる「3大疾病保障」の特約が一般的です。ちなみに、フラット35の新機構団信は、3大疾病保障特約に介護保障が付加されています。これは、公的介護保険制度で「要介護状態」の認定を受けた場合に保障される特約です。
ただ、団信によっては支払要件が異なるため、注意が必要です。例えば、フラット35の新3大疾病付機構団信の場合、急性心筋梗塞による保険金の支払には「初診から60日以上、労働の制限を必要とする状態が継続した」と医師に診断されるか、所定の手術を受けたとき、という厳しい要件が設けられています。保険期間中の制限条件が緩やかな団信もあるので、民間の保険と合わせてリサーチし、検討してみましょう。いずれにしても、一般の生命保険の3大疾病保障と比較すると、団信の保険料は割安です。家計の負担も減らせるので、必要な保障と考えたら有効な選択肢になるでしょう。
生活習慣病の発病が不安なら、疾病保障付住宅ローンで一般的な3大疾病だけではなく、高血圧性疾患や糖尿病、肝硬変や慢性腎不全などを加えた7・8大疾病や、11疾病、全疾病保障まで含む特約、公的医療保険の対象にならない治療をカバーする先進医療特約もあります。医師によってがんの診断確定がされた場合、診断給付金が払われるがん診断給付金特約も注目が高まっています。
ただ、保障範囲を広げるにつれて保険金の支払要件は厳しくなり、保険料も割高になるのが一般的です。保険契約者の年齢や健康状態と照らし合わせながら、申込を慎重に検討しましょう。その他、保障の範囲を連帯債務者にも拡大できる夫婦連生団信や、ペアローン利用者向けの連生団信として今後利用の拡大が期待されるペアローン団信、加入条件が緩和されたワイド団信もあります。
生命保険以外の保険も検討する
いざという時の損害に備える保険は、生命保険だけではありません。住宅ローンを契約し、大切な住まいを守るための損害保険も候補に入れて検討してみましょう。住宅ローンでは、ほとんどの金融機関が契約の条件として火災保険の加入を必須にしています。ただ、火災保険では地震による損害は補償の対象外になります。地震や噴火、津波などの自然災害を原因とする火災や損壊に備えるのであれば、地震保険も検討しましょう。
団信はローンの完済とともに保険期間が終了する
団信に加入することで、死亡や病気・ケガなどによって返済できなくなったり、滞ったりするリスクをへらすことができます。ただ、団信がカバーするのは住宅ローンの残債のみです。そのため、団信がすべてのリスクをカバーするわけではありません。ローン完済と共に保険期間が終了することを前提に、老後の備えや子どもの教育費などを別枠で考えることが大切です。家族のライフイベントをシミュレーションして、しっかりと備えていきましょう。
5. 団信と各種保険をセットで考え、住宅ローン返済中も安心・安全に
様々なラインナップを持つ団信の特徴、頼れるポイントを紹介してきました。保障の範囲を広げることで、多様なリスクに備えられることが分かります。ただ、どこまで保障の範囲を広げるかは、加入している生命保険などと合わせて考えていかなければなりません。たとえば、4,000万円の生命保険に加入していて、3,000万円の住宅ローンを組んで団信に加入した場合、死亡保障は合計で7,000万円という計算なります。死亡保障はどれだけ必要なのか、ライフプランに応じて見直しが大切なことが分かりますね。
家族のステージに応じて、保険でしっかり備えていく。それが安心のマイホームライフにつながります。住宅ローンを無理なく返済しつつ、自分たちらしい暮らしを楽しんでいくためにも、団信+保険の最適なかたちを考えていきましょう。
内田 英子
(うちだ えいこ)
2級FP技能士、CFP®
独立系FP事務所「生活設計塾FPオフィス幸せ家族ラボ」の代表を務め、ママが笑顔で暮らせる生活設計士として、住宅ローン・投資・保険選びのパートナーとして活動中。NPO法人日本ファイナンシャルプランナー協会愛媛支部の幹事等も担い、大学や資格取得講座の講師も務めている。
2級FP技能士、CFP®
独立系FP事務所「生活設計塾FPオフィス幸せ家族ラボ」の代表を務め、ママが笑顔で暮らせる生活設計士として、住宅ローン・投資・保険選びのパートナーとして活動中。NPO法人日本ファイナンシャルプランナー協会愛媛支部の幹事等も担い、大学や資格取得講座の講師も務めている。