一人で会社を作る手順は?必要書類や費用、個人事業主との違いも解説
掲載日:2025年6月9日起業準備

会社設立は自分一人でも行うことができ、社員が経営者一人でも問題ありません。
会社を作るためには、定款を作成したり法務局へ登記したりする必要があります。どのような手続きで会社設立を進めれば良いのか、一人で会社を経営するときの注意点は何があるのか知っておきましょう。
本記事では、一人で会社を作る場合の手順や必要書類等を解説します。
目次
一人で作れる会社の形態は「株式会社」「合同会社」「合名会社」の3つ
現行法において、新しく設立できる会社形態は「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4種類です。合資会社は有限責任社員と無限責任社員が必要であり、最低でも2人いなければ設立できません。
そのため、一人で作れる会社の形態は「株式会社」「合同会社」「合名会社」の3つです。それぞれ、以下のように経営の自由度の高さや設立費用等、詳細な点に違いがあります。
特徴 | メリット | デメリット | |
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株式会社 |
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合同会社 |
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合名会社 |
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株式会社 | |
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特徴 |
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メリット |
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デメリット |
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合同会社 | |
特徴 |
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メリット |
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デメリット |
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合名会社 | |
特徴 |
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メリット |
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デメリット |
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一人で会社を経営する場合、実質的な働き方は個人事業主に近いものの、将来的な事業拡大や雇用計画等を加味して適した会社形態を選びましょう。
会社を自分一人だけで作る方法と専門家に依頼する方法を比較

社員が一人だけであっても、会社設立の手続きを専門家(司法書士など)に依頼する方もいます。
以下に、自分で会社を作る場合と専門家に依頼する場合のメリット、デメリットをまとめました。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自分で会社を作る |
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専門家に依頼する |
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会社を作るために準備するべき書類は多いものの、自分一人だけで手続きを進めることは可能です。会社設立に対応している会計ソフトもあるため、利用を検討すると良いでしょう。
一方、専門家に依頼すれば会社設立に関わる手間と労力を省くことができます。「自分の事業を発展させるためにリソースを割きたい」という方は、専門家への依頼を検討すると良いでしょう。
一人で会社を作るときの手順
ここからは、一人で会社を作るときの手順について、準備段階から会社登記をするまでの流れを解説します。設立を検討している会社形態に応じて、必要な準備を進めましょう。
発起人と基本事項の決定
株式会社を設立する際には、会社設立手続きを行う「発起人」が必要です。持分会社の場合、発起人は不要です。
会社を設立する過程において、定款に署名と押印をすると正式に発起人となります。
発起人と併せて、会社の基本事項も決めましょう。基本事項とは、株式会社の場合は以下のように会社に関する基本情報を指します。
- 会社の目的
- 社名(商号)
- 事業内容
- 本店所在地
- 資本金の額
- 持株比率
- 役員構成
- 決算期
一部を除き、基本事項は登記完了後に登記簿にも記載される項目で、設立後の変更も可能です。
定款の作成
株式会社でも持分会社でも、会社を設立するには定款(法人の組織・活動の根本規則)の作成が必要です。以下の「絶対的記載事項」に不備があると定款が無効と判断され、作り直す手間が発生するため、注意しましょう。
株式会社 |
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持分会社(合同会社) |
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なお、定款は会社の登記申請だけでなく、金融機関で法人口座を開設するときや営業に関する許認可申請等で使うことがあります。
関連記事:「定款とは?作り方・記載内容から認証の方法まで分かりやすく解説」
定款の認証を受ける
株式会社を設立する場合、作成した定款の認証を受けなければなりません。持分会社の場合は、定款の認証が不要です。
定款の認証とは、定款が適法に定められているかどうかをチェックし、間違いのないことを証明してもらう手続きです。会社の本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局所属の公証人より、認証を受ける必要があります。
なお、認証を受ける際には、発起人の印鑑証明書と資本金に応じた認証手数料(3万~5万円)、収入印紙代(電子定款の場合は不要)などが必要です。
会社印を作成する
会社登記には印鑑届出書が必要となるため、会社印の作成も進めておきましょう(オンライン申請の場合、印鑑届出書の提出は任意)。近年では、オンラインショップでも会社印の注文が可能です。
会社印には、法務局に登録する会社の正式な印鑑である「代表者印(実印)」、金融機関での取引に使用する「銀行印」、事務所や店舗のテナント契約、取引契約を締結するときにも使用する「角印(社印)」の3つがあります。
登記申請で法務局に提出する印鑑届出書には、「辺の長さが1㎝を超え、3㎝以内の正方形の中に収まるもの」という大きさの指定があります。発注する際には、指定の大きさを超えないように注意しましょう。
出資金を払い込む
会社の設立には、1円以上の資本金が必要です。発起人は、株式会社の設立に際して設立時発行株式を1株以上引き受けるため、その株数に応じた金額を出資金として払い込みます。
株式会社を設立する場合、出資金の払い込み先は発起人個人の銀行口座です。持分会社の場合は発起人がいないため、代表社員の銀行口座に払い込みます。
発起人が自分の銀行口座へ振り込む場合、必要な出資金を一度引き出してから再度入金します。また、登記申請に必要なため、入金後の通帳のコピーを取っておきましょう。
登記申請をする
登記申請をする期限は、設立時取締役等の調査が終了した日または発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内です。以下の必要書類をそろえて、所在地を管轄する法務局へ申請しましょう。
株式会社の場合 |
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持分会社(合同会社)の場合 |
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登記申請を行った日が会社の設立日となりますが、不備があると再申請をしなければなりません。希望している設立日に登記ができない可能性があるため、不備や誤りがないか慎重に確認しましょう。
関連記事:「会社設立にかかる最短日数は?最短で設立する3つのポイントも解説」
法務局へ登記申請する方法は3種類
法務局へ会社の登記申請をする際には、窓口への持参・郵送・オンライン申請の3種類の方法があります。
それぞれのメリットやデメリットを確認して、適した方法を選択しましょう。
メリット | デメリット | |
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持参 |
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郵送 |
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オンライン |
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持参 | |
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メリット |
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デメリット |
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郵送 | |
メリット |
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デメリット |
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オンライン | |
メリット |
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デメリット |
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会社と個人事業主の違い
会社を設立すると、「法人」という別人格を取得します。一方で、個人事業主の場合は「個人」の人格で事業を行います。
会社と個人事業主では、社会的信用度や社会保険等の手続きに違いがあるため、確認しておきましょう。
社会的信用度
一般的に、個人事業主よりも会社(法人)の方が、社会的な信用度が高い特徴があります。個人事業主は開業届を出せば誰でもなれる一方で、会社は「会社法」に基づいて設立と運営をしなければなりません。
会社は、個人事業主より厳格な運営が求められるため、社会的信用度が高い傾向があります。個人事業主とは取引をしない会社もあるため、会社を設立することで取引の選択肢が増え、新規開拓につながるメリットが期待できるでしょう。
課税される税金の種類
会社に課されるのは法人税・法人住民税・法人事業税などで、個人事業主に課されるのは所得税・住民税・個人事業税などです。課される税金の種類によって税率が異なるため、納税額にも影響が出ます。
個人事業主の所得税は累進課税で、5%~45%の間で7段階に区分されています。一方で、会社は資本金や年間の課税所得に応じて決まり、高くても23.2%です。詳細な税率の違いは、後述します。
責任の範囲
個人事業主は無限責任であり、事業上の責任はすべて事業主が負います。事業を通じて債務を負った場合は、事業用の資金だけでなく個人の資産を使って弁済しなければなりません。
会社(株式会社・合同会社)の代表者は、事業上の責任は有限責任です。代表者個人がすべての責任を負う必要はなく、事業を通じて債務を負った場合でも、出資額以上の支払い義務は発生しません。
つまり、出資額を限度に責任を負えば良く、個人の資産を投じて債務を弁済する必要はありません。
なお、合名会社、合資会社は無限責任です。
関連記事:「個人事業主とは?必要な手続きやメリット・デメリットを解説」
個人事業主から法人化するときに必要な手続き

個人事業主としての事業が軌道に乗ると、法人化を検討する場面が出てくるでしょう。
個人事業主が法人化すると異なる人格になるため、様々な手続きが発生します。単に「新しく会社を作れば良い」わけではない点に留意しましょう。
個人事業を廃業する
会社を設立した後は、事業を個人から会社へ引き継ぎます。個人事業を廃業する手続きが必要となるため、廃業した日から1ヵ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署へ提出しましょう。
青色申告をしていた場合は、併せて「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も提出します。
資産と負債を会社へ引き継ぐ
会社を設立した後は、事業に関わる資産や負債を、個人から会社に引き継ぎます。例えば、事業に必要な備品に関しては、売買契約を通じて「個人の持ち物」から「会社の持ち物」に変えます。
「賃貸契約」を通じて個人の持ち物を会社に貸す、といった形でも問題ありません。また、個人事業で負債がある場合も、会社へ引き継ぎましょう。
許認可手続きの名義変更をする
飲食業や美容業のように、営業にあたって許認可が必要な事業をしている場合は、名義変更をする必要があります。「個人」と「法人」は別人格であり、経営主体の継続性がないため、改めて許認可を取り直す必要があります。
許認可以外にも、オフィスや店舗の賃貸契約を結んでいるときも名義変更が必要です。事業そのものをリスタートするようなイメージを持つと良いでしょう。
また、会社の設立に伴って、法人口座を開設すると対外的な事業理解が深まります。その結果、事業展開に良い影響が期待できるため、法人口座の開設を検討すると良いでしょう。
関連記事:「法人化するメリットと注意点・手続きの手順を解説」
一人で会社を作るメリット
会社を設立した後、社員(役員)が自分一人だけの状況でも何ら問題はありません。自分一人だけで会社を作り、運営するメリットを紹介します。
税負担を軽減できる可能性がある
2025年4月現在、所得税と法人税の税率を比較すると以下の通りです。
個人事業主(所得税) | 法人(法人税) | |
---|---|---|
最高税率 |
45% |
23.2% |
所得800万円以下の部分 |
5%~23% |
15%(適用除外事業者は19%) |
所得800万円超の部分 |
23~45% |
23.2% |
最高税率 | |
---|---|
個人事業主(所得税) |
45% |
法人(法人税) |
23.2% |
所得800万円以下の部分 | |
個人事業主(所得税) |
5%~23% |
法人(法人税) |
15%(適用除外事業者は19%) |
所得800万円超の部分 | |
個人事業主(所得税) |
23~45% |
法人(法人税) |
23.2% |
それぞれの税率を比較すると、課税所得が800万円を超えると、所得税よりも法人税の方が税負担は軽くなります。課税所得が800万円を超えたら、法人化を検討すると良いでしょう。
また、青色申告をしている個人事業主は、損失を繰り越せる「繰越控除」の期間が3年間です。一方で、会社は10年間にわたって繰越控除が可能です。
ただし、個人事業主は赤字で課税所得がない場合、所得税や住民税がかかりません。会社の場合は、赤字でも7万円程度の法人住民税均等割を納付しなければならないため、税率だけでなく納付する税金の種類も加味する必要があります。
意思決定がスムーズ
一人だけの会社だと、自分だけで事業の意思決定を行えます。他の役員や社員との話し合いや交渉をする必要がないため、何事もスムーズに進められるでしょう。
話し合いに参加する人数が多いほど、意思決定が進みづらくなります。「自分がイメージしている事業運営をしたい」と考えている方にとって、自分一人で意思決定できれば、ストレスを感じにくいでしょう。
事業方針だけでなく働く場所や時間もすべて自分の裁量で決められるため、実態としては個人事業主と同じような働き方が可能です。
経費計上できる範囲が広がる
法人化すると、以下のように個人事業主よりも経費として認められる範囲が広がります。
- 自らへの報酬を役員報酬という形で経費計上できる
- 法人名義で物件を契約することで社宅扱いにすれば、住居費の5割~8割を経費計上できる
- 健康診断費用や社員旅行等の福利厚生費を経費計上できる
- 出張旅費規程を作成すれば、出張した場合に日当を支払って経費計上できる
経費計上できる範囲が広がるということは、節税しやすいことを意味します。個人事業が順調で納税額を負担に感じている場合、法人化を検討すると良いでしょう。
一人で会社を作るデメリット
自分一人の会社でも、会社として行わなければならない手続きがあります。手続きの負担が発生する以外にも、会社を作る上で知っておくべきデメリットを紹介します。
社会保険の加入義務が発生する
一人だけの会社であっても、社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられています。年金事務所で手続きを行い、自分自身を社会保険に加入させましょう。
会社を設立した後は、5日以内に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を年金事務所へ提出します。併せて、自分自身が被保険者となるための「被保険者資格取得届」と、被扶養者がいる場合は「被扶養者(異動)届」も提出しましょう。
ただし、役員報酬が0円の場合は社会保険への加入義務がなく、国民健康保険と国民年金に加入すれば問題ありません。
関連記事:「会社設立時に必要な社会保険・労働保険の手続きは?基礎から解説」
役員報酬の金額次第で税額が決まる
役員報酬とは、代表取締役などの役員へ支払う報酬です。従業員の給与とは異なり、会社の利益調整を防ぐために、株主総会や取締役会の決議を経て決定し、一定の要件を満たさないと税務上の経費(損金)になりません。
ただし、一人で会社を運営する場合は、株主総会と取締役会の決議を経ない「みなし決議」をするのが一般的です。
自分一人で会社を設立・運営する場合、自分自身への役員報酬を決定し、税務署への届出に合わせて支払う必要があります。もし事前の申請とは異なる金額で支払うと、損金不算入となり納税額が増えるため、注意しましょう。
また、役員報酬を高く設定すると個人としての所得税が高額になってしまい、低く設定すると法人税が高額になってしまいます。個人と法人で、それぞれ納税額のバランスを探る必要があります。
事務手続きの負担が重くなる
個人事業主と比較して、会社経営者になると帳簿の記帳や税務申告、給与計算や年末調整等の事務負担が増えます。法人税の申告も個人の確定申告より複雑で手間がかかるため、税理士に依頼するケースが出てくるでしょう。
また、役員報酬を自分に支払ったときは、所得税や健康保険、厚生年金保険料を給与天引きして納付しなければなりません。事業主負担分と個人負担分の納付も必要で、個人事業主のときよりも手続きの負担が増える点に注意しましょう。
また、株式会社を設立した場合は、株主総会の終結後に遅滞なく「貸借対照表」を公告する義務があります。様々な場面で事務的負担が増える点は、会社経営のデメリットといえるでしょう。
まとめ
会社を作るための手続きは、専門家に頼ることなく自分一人だけで進められます。会社の経営も自分一人だけで行えるため、節税の手段を広げつつ、スムーズな意思決定をしたいときは自分だけの会社を設立すると良いでしょう。
会社は会社法に基づいて設立、運営されるため、個人事業主よりも社会的信用度が高いメリットがあります。対外的に事業実態を伝えやすくなり、自社の事業理解を深めてもらえる効果も期待できるでしょう。
会社を設立したら、会社と個人のお金を明確に分けるためにも、法人口座の開設をおすすめします。みずほ銀行では、休日夜間いつでもお申し込みが可能で、原則として登記事項証明書・印鑑証明書の原本提出が不要です。
また、みずほ銀行は創業期をサポートする便利で役立つサービスや特典を提供していますので、ぜひ口座開設をご検討ください。
監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。