個人事業主とは?必要な手続きやメリット・デメリットを解説
掲載日:2025年4月10日起業準備

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営む人です。複雑な手続きは不要で、税務署へ開業届を提出すれば、個人事業主になれます。
個人事業主は特定の組織に縛られることなく、自由な働き方を実現できたり、仕事の裁量をすべて自分で決められたりできるメリットがあります。
一方で、収入が不安定になりやすく、社会保障が薄くなるデメリットがある点に注意が必要です。今回は、個人事業主になる方法やメリット、デメリット等を解説します。
個人事業主とは
個人事業主とは、法人を設立せずに、個人で事業を営む事業主です。継続的・反復的に事業を行う個人は、個人事業主に該当します。
「事業」とは対価を得て行われる資産の譲渡や役務の提供を、反復・継続かつ独立して行うことをいいます。モノやサービスを提供し対価を受け取る場合は、基本的に事業に該当すると考えて差し支えないでしょう。
個人事業主になるために、必要な資格や経験はありません。「開業届」を税務署に提出し、受理されれば誰でも個人事業主になれます。なお、提出先となるのは原則として納税地の税務署です。
個人事業主になるために必要な手続き
個人事業主になるために必要な手続きの流れは、以下の通りです。
- 1.事業の開始等の事実があった日から1ヵ月以内(提出期限が土曜日・日曜日・祝日の場合は、これらの日の翌日)に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する
- 2.青色申告特別控除を受けたい場合、所得税の青色申告承認申請書も提出する
- 3.必要に応じて屋号を決める
青色申告承認申請書の提出期限は、青色申告書による申告をしようとする年の3月15日(その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合は、事業開始の日から2ヵ月以内)までです。
「個人事業の開業・廃業等届出書」と「青色申告承認申請書」は、同じタイミングで提出すると良いでしょう。
なお、屋号に関しては必ずしも決める必要はありません。屋号が決まっていれば開業届に記載し、開業届を出したあとに屋号をつけるケースもあります。
仕事内容が伝わる屋号や覚えてもらいやすい屋号をつけると、事業実態が相手に伝わりやすくなり、事業理解につながります。
関連記事:「開業届の書き方は?記入方法と提出方法を法人・個人事業主に分けて解説」
個人事業主のメリット

昨今は副業を容認する企業が増え、さらに働き方が多様化している関係もあり、「個人事業主として働きたい」という考えを持っている方もいるのではないでしょうか。
個人事業主は自由な働き方を実現しつつ、収入を伸ばせるメリットがあります。以下で、メリットを詳しく解説します。
自由な働き方を実現できる
個人事業主は自分が事業主となるため、働き方に関する自由度が高いというメリットがあります。勤務する曜日や時間に関する決まりはなく、働くタイミングを自由に決められます。
土日祝日にとらわれず、自分のスケジュールで休日を設定できる柔軟性の高さは、個人事業主のメリットです。
時間だけでなく、働く場所も自由です。自宅で働く・オフィスを構える・コワーキングスペースやカフェで作業する等、その日の気分や都合に合わせて、仕事場所を自由に選択できます。
さらに、人脈が広がり実績を積むと、仕事相手を選べるようになる可能性もあります。「一緒に仕事をしたい人とだけ仕事をする」という環境を実現できるため、人間関係のストレスが少ないでしょう。
このように、仕事の裁量はすべて自分次第となるため、自分にとって最適な就労環境を自分で用意できます。また、定年という概念がないため、心身ともに健康であれば、好きな仕事で生涯現役を実現できるでしょう。
収入が伸びやすい
個人事業主は、事業が成功すれば会社員よりも収入が伸びやすいというメリットがあります。スキルや実力、生み出した付加価値に応じた報酬を得られるためです。
こなした仕事量や提供した付加価値次第では、会社員時代よりも高収入を得られる可能性があり得るでしょう。
一般的に、会社員や公務員は年に1回~2回の昇給や昇任しか、収入アップの機会がありません。一方で、個人事業主は自分の努力や工夫次第で収入を伸ばせるため、「収入が増える→さらにモチベーションがアップする」という好循環を生み出せます。
税務申告が比較的簡単
個人事業主には年末調整という概念がないため、自分で確定申告を行わなければなりません(税理士に依頼することも可能)。しかし、個人事業主の税務申告は法人よりも手続きの負担が軽く、過重なリソースを割かずに済みます。
個人事業主が青色申告特別控除で55万円または65万円の控除を受けるためには、やや複雑な「複式簿記」で記帳する必要があります。しかし、会計ソフトを活用すればそこまで手間がかからないため、簿記の知識がない方でも税務申告を行えるでしょう。
経理の事務負担が軽い
個人事業主は日ごろから事業の帳簿を付ける必要がありますが、経理の事務負担は法人よりも軽いというメリットがあります。また、給与・税金・社会保険関係の処理も比較的簡単です。
個人事業主と法人の代表取締役の給与・税金・社会保険関係における違いをまとめると、以下の通りです。
個人事業主 | 法人の代表取締役 | |
---|---|---|
給与・報酬 |
取引先や顧客から報酬・代金を受け取る |
役員報酬として会社から自分に給与が支払われる |
健康保険 |
国民健康保険に加入し、保険料を自分で支払う |
健康保険に加入し、自分が負担する分と会社が負担する分を分ける必要がある |
年金 |
国民年金に加入し、保険料を自分で支払う |
厚生年金に加入し、自分が負担する分と会社が負担する分を分ける必要がある |
給与・報酬 | |
---|---|
個人事業主 |
取引先や顧客から報酬・代金を受け取る |
法人の代表取締役 |
役員報酬として会社から自分に給与が支払われる |
健康保険 | |
個人事業主 |
国民健康保険に加入し、保険料を自分で支払う |
法人の代表取締役 |
健康保険に加入し、自分が負担する分と会社が負担する分を分ける必要がある |
年金 | |
個人事業主 |
国民年金に加入し、保険料を自分で支払う |
法人の代表取締役 |
厚生年金に加入し、自分が負担する分と会社が負担する分を分ける必要がある |
法人として給与を自分や従業員に支払うときは、税金の源泉徴収を行う必要があります。法人は源泉徴収義務者に該当し、給与を支払ったときは翌月 10 日までに源泉徴収した分を納付しなければなりません。
また、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料)は労使折半です。個人が納付する分と会社が納付する分を、それぞれ納付しなければなりません。
個人事業主は、報酬の受け取りや社会保険の手続き、保険料の納付が比較的シンプルです。事務負担が軽ければ、自分の事業に多くのリソースを割けるメリットが期待できるでしょう。
個人事業主のデメリット
個人事業主には様々なメリットがある一方で、デメリットや注意すべき点もあります。
自身が個人事業主に向いているかどうかを確認するためにも、デメリットも確認しておきましょう。
社会的な信用度が低い
法人を設立するよりも個人事業主として開業する方が簡単なため、個人事業主は社会的な信用が低くなりがちです。
会社の中には、個人との契約を避けて法人との取引を希望するところもあります。個人事業主だとビジネスチャンスを逃してしまう可能性があるため、機会損失につながる恐れがあります。
収入が不安定になりやすい
個人事業主の収入は、自分の売上によって決まります。会社員や公務員のように、毎月決まった日に、安定的に給与を受け取れるわけではありません。
つまり、個人事業主は収入が伸びやすい反面、不安定にもなりやすいです。今月の売上が好調でも、来月以降も好調が持続するとは限りません。事業運営では様々な経費が発生するため、収入が不安定である点を織り込んだうえで、資金繰りを考えましょう。
事業で収入を得られないと、生活にも支障が出てしまう可能性が考えられます。個人事業主として独立する場合は、十分に貯蓄をしてからでないと、精神的にストレスを抱えるかもしれません。
融資を受けにくい
個人事業主は、法人に比べて金融機関からの融資を受けにくいというデメリットがあります。融資の過程では信用度が評価項目の一つとなり、信用を得づらい個人事業主は「貸し倒れのリスクが高い」と評価されやすいのです。
また、個人事業主は事業資金と個人の生活費が混在しがちで、金融機関からすると正確に財務状況を把握できません。審査に通過できたとしても、融資額が少額になるケースも考えられるでしょう。
利益が多いと税負担が重くなる
個人事業主に適用される所得税と、法人に対して適用される法人税では税率が異なります。
個人事業主(所得税) | 法人(法人税) | |
---|---|---|
最大税率 |
45% |
23.2% |
所得800万円以下の部分 |
5%~23% |
15%(適用除外事業者は19%) |
所得800万円超の部分 |
23~45% |
23.2% |
最大税率 | |
---|---|
個人事業主(所得税) |
45% |
法人(法人税) |
23.2% |
所得800万円以下の部分 | |
個人事業主(所得税) |
5%~23% |
法人(法人税) |
15%(適用除外事業者は19%) |
所得800万円超の部分 | |
個人事業主(所得税) |
23~45% |
法人(法人税) |
23.2% |
所得税の最大税率は45%で、課税所得が増えてくると税負担が法人よりも重くなる可能性があります。個人事業が軌道に乗ったら、法人化を検討すると良いかもしれません。
一般的に、課税所得が800万円~900万円程度になると、法人化をしたほうが税負担を抑えられるといわれています。
社会保障が薄くなる
個人事業主は、労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しないため、社会保障が薄くなります。具体的には、以下のようなデメリットがあるため注意が必要です。
- 業務中に負傷しても労災給付を受けられない
- 実質的に失業状態になっても基本手当(失業給付)を受けられない
- 傷病手当金を受けられない
- 出産手当金を受けられない
- 障害厚生年金を受けられない
- 遺族が遺族厚生年金を受けられない
- 将来受け取れる老齢年金が少額になりやすい
個人事業主は、会社員や公務員よりもリスクへの備えが薄くなる点は押さえておきましょう。必要に応じて、民間保険への加入を検討してみてください。
個人事業主が法人化するメリット
個人事業主として事業を開始したあとで、事業拡大等により法人化を検討することもあるでしょう。
法人は会社法をはじめとした法律に基づいて運営するため、法人化すれば個人事業主よりも社会的な信用を得やすくなります。他にも、以下のように様々なメリットが期待できます。
事業面 |
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税金面 |
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社会保険面 |
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事業責任面 |
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事業面 | |
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税金面 | |
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社会保険面 | |
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事業責任面 | |
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事業者としての信頼が高まるだけでなく、税金面で有利になることがあります。また、社会保険に加入でき、リスクへの備えが手厚くなる点もメリットです。
法人を設立した後は、法人口座の開設がおすすめです。個人の口座でも事業運営はできますが、法人口座の開設により事業の実体を示せるため、より信頼を得やすくなります。
法人口座があれば、会社のお金の流れを一元管理でき、財務状況を把握しやすくなります。経費処理が効率化され、資金繰りや支出の見直しが容易になるメリットが期待できるでしょう。
金融機関によっては法人の専用窓口を利用でき、事業における資金繰りの相談を受けられます。また、経営課題を解決するサービスを提供しているところもあるため、サービスが充実している金融機関で法人口座を開設しましょう。
法人口座を開設するメリットや解説方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:「法人口座とは?個人口座との違いや3つのメリットを分かりやすく解説」
まとめ
個人事業主になるために経験や資格は不要で、開業手続きは法人よりも簡単です。自由な働き方を実現でき、事業が成功すれば会社員や公務員よりも収入が伸びやすいメリットがあります。
事業が軌道に乗り、さらに信用を高めたい場合は、法人化と法人口座の開設を検討しましょう。法人口座を開設すると、事業実態を対外的にアピールでき、信用を得やすくなります。
その結果、新規取引先や顧客の獲得、販路の開拓等ビジネス上のメリットを得られるでしょう。
法人口座を開設する際には、来店不要で口座開設手続きが完結し、ビジネスに関するサービスが手厚いみずほ銀行の利用をご検討ください。
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監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。