損金算入・不算入の考え方とは?損金・費用の違いも分かりやすく解説
掲載日:2025年5月14日起業準備

損金とは税法上の用語で、法人の資産を減少させる費用や損失のことです。損金に算入される金額は、課税所得を減らし、法人税額を抑えることにつながります。
企業が適切に資金管理を行い、安定的な経営を維持していくためには、損金算入の基準を正しく理解することが重要です。
本記事では、「損金」の意味や「費用」との違い、損金算入・不算入となる項目を分かりやすく解説します。
損金とは
法人が事業活動を行うにあたり、人件費や広告費、光熱費等の様々な費用が発生します。損金とは、法人が事業活動を行っていくうえで支出した費用や損失のうち、税法上経費として認められるものです。
法人税の課税所得に直接影響するため、損金を正しく理解することは、法人が税金の負担額を抑えるうえで不可欠です。
法人の所得は「益金」から「損金」を差し引いて計算する
法人税は、法人の儲け(所得)に対して課されます。
所得 = 益金 – 損金
益金とは、商品やサービス等の売上や土地・建物の売却等による収入のことです。
納めるべき法人税額は、益金から損金を差し引いて求めた所得に、一定の税率をかけて求めます。つまり、損金は法人税を計算する際の課税所得を減少させ、法人税額を減らすことができる金額です。
税務上の「損金」と会計上の「費用」は異なる
損金と費用は、事業活動に伴う支出である点で共通していますが、税務上の用語である「損金」に対し、「費用」は会計上の用語です。
税務上の所得 = 益金 – 損金
会計上の利益 = 収益 – 費用
会計上の「利益」が財務状況の把握等のためのものであるのに対し、税務上の「所得」は公平な課税等のためのものであり、目的が異なります。そのため、税務上の益金・損金と会計上の収益・費用は、必ずしも一致しません。
会計上の費用に計上されるが税務上の損金に計上されないもの、あるいは会計上の費用ではないが税務上の損金に計上されるものがあります。
損金算入・損金不算入とは
前述した通り、税務上の損金と会計上の費用には差異があります。法人税を計算する際、会計上の費用との差異を調整するために重要となるのが「損金算入」や「損金不算入」です。
区分 | 概要 |
---|---|
損金算入 |
会計上は費用でないが、税務上損金の額に算入するもの。また、会計上費用で計上したものがそのまま損金となる場合にも使われる用語 |
損金不算入 |
会計上は費用だが、税務上損金の額に算入しないもの |
損金算入が認められる費用を適切に計上することで、法人の課税所得を減少させ、法人税の負担額を軽減できます。反対に、損金不算入に該当する支出が多いと、法人税額が増える要因となります。
損金算入となる勘定科目
原則として損金算入が認められる主な項目は、以下の通りです。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
給与手当 |
従業員に支払った給与 |
租税公課 |
事業税、不動産取得税、固定資産税・都市計画税、自動車税、印紙税、登録免許税等 |
減価償却費 |
償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額 |
法定福利費 |
法人負担分の健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・労働保険料等 |
福利厚生費 |
従業員の慰安旅行や結婚・出産祝、香典、見舞い金、健康診断等のために通常要する費用 |
保険料 |
生命保険料や損害保険料 |
修繕費 |
固定資産の修理や改良等の支出額のうち、維持管理や原状回復として認められる部分の金額 |
水道光熱費 |
電気代、ガス代、水道代等 |
消耗品費 |
事務用品等の消耗品の購入費 |
支払利息 |
金融機関からの借入金の利息等 |
地代家賃 |
地代、建物・事務所の家賃等 |
広告宣伝費 |
不特定多数の人を対象に行う広告宣伝のための費用等 |
役員報酬 |
役員に対する報酬のうち、一定の条件を満たす金額 |
ただし、損金に算入するためには、それぞれ一定の条件を満たす必要があります。
例えば、減価償却費は損金経理をした金額のうち、償却限度額(法律に基づいて計算した減価償却費の上限金額)に達するまでの金額のみ損金算入が可能です。
損金不算入となる勘定科目
一方、損金不算入となる主な項目は以下の通りです。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
租税公課 |
法人税、地方法人税、法人住民税、延滞税、延滞金、過怠税、加算税、加算金、罰金、科料、過料、法人税額から控除する所得税等 |
交際費 |
一定の限度額を超える接待飲食費や贈答品費等 |
寄付金 |
一定の限度額を超える寄付金 |
減価償却費 |
税務上の償却限度額を超えた部分の金額 |
役員報酬 |
役員に対する報酬(一定の条件を満たすものは除く) |
例えば、勤務中に従業員が社用車で交通違反を犯した場合の交通反則金等、罰金としての性質を有するものは、税法上の損金として認められません。
一定の限度額を超えると損金に算入できないものもあるため、損金算入・不算入の基準を正しく理解し、適切に処理することが求められます。
そのため、適切な税務処理を行うためにも、法人設立後は法人口座を開設するのがおすすめです。
関連記事:「新設法人が法人口座を開設するメリットは?口座開設の流れやポイントも紹介」
損金算入・損金不算入に関して押さえておきたいポイント

法人税法では、費用と損金の差異を「別段の定め」として規定しており、全額を損金に算入できない項目や、一定の要件を満たす場合に限り損金算入が認められる項目があります。
損金算入・損金不算入に関して、以下のポイントを押さえましょう。
- 「租税公課」には損金算入・不算入のものがある
- 「役員報酬」の損金算入には一定の要件がある
- 「交際費」の損金算入には特例がある
- 「損金経理」をしなければ損金に算入できない費用がある
「租税公課」には損金算入・不算入のものがある
法人が企業活動を行うことによって得られる利益には、様々な税金が課されます。また、印鑑証明書を発行する際等、公的機関に手数料や罰金等を支払うことがあります。「租税公課」は、これらの費用に用いる勘定科目です。
租税公課には、損金算入・損金不算入のものがあり、法人税の負担額や財務状況に大きく影響します。損金算入・不算入の主な租税公課は、以下の通りです。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
損金算入 |
|
損金不算入 |
|
例えば、法人税等(法人税・法人住民税・事業税)のうち、事業税は損金算入が認められますが、法人税・法人住民税は損金不算入となります。
また、加算税や延滞税、罰金等は法令違反に対するペナルティとして課されるものであるため、損金算入は認められません。
関連記事:「法人税の実効税率とは?計算方法・シミュレーションや表面税率との違いも解説」
「役員報酬」の損金算入には一定の要件がある
「役員報酬」の損金算入には、一定の要件があります。役員報酬とは、役員に職務執行の対価として支払う報酬です。
従業員の給与・賞与は、労働の対価として支払うものであるため、全額が損金算入となります。しかし、役員報酬額は役員自らが自由に決定できることから、不当に税金の負担額を抑える行為を防ぐため、原則として損金算入が認められません。
ただし、以下のいずれかの要件を満たす場合のみ、損金算入が認められます。
区分 | 概要 |
---|---|
定期同額給与 |
定期同額給与 事業年度を通じて一定期間ごと(1ヵ月以下)に同じ金額が支払われる給与 |
事前確定届出給与 |
事前に税務署へ届出を行ったうえで指定日に一定額が支払われる報酬(役員賞与) |
業績連動給与 |
業績に応じて支給額が決定する給与のうち、一定の要件を満たすもの |
なお、上記のいずれかを満たす場合でも、不相当に高額な部分の金額は損金に算入できません。
関連記事:「役員報酬の決め方は?給与との違いや相場、変更のルールも解説」
「交際費」の損金算入には特例がある
法人が支出した交際費等は、原則として税法上、損金に算入できません。
交際費等とは、法人が得意先や仕入先等に対する接待・供応・慰安・贈答等のために支出する費用のことです。
ただし、法人の規模によっては、一定額まで損金算入が認められる場合があります(2025年3月時点)。
区分 | 概要 |
---|---|
期末の資本金または出資金が1億円以下の法人 |
交際費等のうち、「接待飲食費50%相当額以下」と「年800万円(定額控除限度額)以下」のいずれかの金額 |
期末の資本金または出資金が1億円超の法人 |
交際費等のうち、接待飲食費50%相当額以下の金額 |
期末の資本金または出資金が100億円超の法人 |
なし |
出典:国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」
また、接待飲食費であっても、一人あたりの金額が一定額以下、かつ一定の書類を保存している場合は交際費等として扱われず、損金算入が認められます。
「損金経理」をしなければ損金に算入できない費用がある
減価償却費等の一部の損金は、損金算入するための要件として「損金経理」が求められます。
損金経理とは、損金に算入するために、決算書に費用または損失として計上することです。損金経理が要件となるのは、主に以下の項目です。
- 減価償却費
- 資産の評価損
- 貸倒損失(いわゆる法律上の貸倒れを除く)
- 貸倒引当金
これらの費用は、決算の段階で所定の経理を行っていなければ、後から損金とすることができません。
適切な税務処理のために法人口座の開設を
損金算入を正しく行い、資金管理の効率化・健全化を図るためには、法人と個人の資金を明確に分けて管理する必要があります。法人を設立したら、なるべく早い段階で法人口座を開設するのがおすすめです。
法人口座を開設すれば、法人・個人の資金が明確に区別され、資金管理がスムーズになるほか、財務状況を把握しやすくなります。その結果、迅速な経営判断を行いやすくなる、適切なタイミングで資金調達をしやすくなる等のメリットが期待できます。
資金管理の透明性を高め、税務リスクを抑えるためにも、法人口座を活用しましょう。
法人口座の開設はみずほ銀行がおすすめ
みずほ銀行の法人口座開設は、休日・夜間でもお申し込みでき、ウェブ面談のため来店不要で手続きを完結できます。インターネットでお申し込みいただくと、通帳・キャッシュカードの初回発行手数料が無料になるため、店舗でのお手続きよりもお得です。
また、みずほ銀行で法人口座を開設すると、年会費永年無料の法人向けデビットカード「みずほビジネスデビット」の発行が可能です。世界中のVisa加盟店で24時間利用でき、法人口座からリアルタイムで決済できるため、経理処理の効率化を図れます。
そのほか、みずほ銀行では、法人口座を開設された方に向けてビジネスで役立つ様々なサービスをご用意しています。適切かつ効率的な税務処理に、ぜひみずほ銀行の法人口座をご活用ください。
まとめ
損金とは、税法上認められた、法人の資産を減少させる費用や損失のことです。
損金不算入のものが多いと、支払うべき税額を増やす要因となります。また、誤った処理をすると、税務署から指摘を受けるリスクも生じます。
税金の負担額を抑えて安定した経営を維持するために、損金算入・不算入の基準を正しく理解し、適切な税務処理を行いましょう。
監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。