法人税等調整額とは?対象となる項目や計算方法・仕訳例を解説
掲載日:2025年6月9日起業準備

法人税等調整額とは、税効果会計を適用する企業で、会計上の利益と税法上の所得のズレを調整するために用いる勘定科目です。法人が会計基準に基づいた適正な決算を行うためには、法人税等調整額に関する正しい知識を身に付ける必要があります。
本記事では、法人税等調整額の概要や対象となる項目、計算方法・仕訳例を紹介します。法人税等調整額を計上する際の注意点も解説するので、ぜひご覧ください。
目次
法人税等調整額とは税効果会計で用いる勘定科目
法人税等調整額とは、税効果会計の適用に伴って発生する差異を調整するための勘定科目です。
法人の事業活動から生じた儲け(所得)には、法人税等の税金が課されます。「所得」は会計上の「利益」と同じようなものですが、会計上の利益と法人税法上の所得は必ずしも一致しません。
- 企業会計上の利益=収益–費用
- 法人税法上の所得=益金–損金
会計上は「費用」や「収益」でも、税法上は当期の「損金」や「益金」と認められないものがあるためです。この差異は、会計上の利益と法人税法上の所得の計算目的が異なることから生じます。
会計上の利益 |
財政状態等を把握するためのもの |
---|---|
税法上の所得 |
公平に課税するためのもの |
そこで、「税効果会計」という会計手法を用いて会計上の利益と税法上の所得のズレを調整し、会計上の利益に対応する適正な税額を算出します。税効果会計において、税額を調整する際に用いる勘定科目が「法人税等調整額」です。
なお、税効果会計を適用するのは主に上場企業や会計監査人の監査を受ける会社法上の大会社等であり、中小企業等では義務付けられていません。
法人税等調整額の対象となるのは「一時差異」
会計上の利益と税法上の所得の差異には、以下の2つがあり、このうち法人税等調整額の対象となるのは「一時差異」です。
一時差異 |
一時的な差異で、翌期以降に解消されるもの |
---|---|
永久差異 |
将来にわたって差異が解消されないもの |
計上のタイミングのズレによって生じる一時差異に対し、永久差異は企業会計と税務会計の考え方の違いによるものであり、永久に解消されません。
一時差異は、将来的に課税所得を減少させるか、増加させるかによって、さらに以下の2つに分けられます。
- 将来減算一時差異
- 将来加算一時差異
将来減算一時差異
将来減算一時差異とは、差異が解消するときに課税所得を減少させる一時差異です。
ズレが発生した期の税引前当期純利益に加算され、ズレが解消する期に税引前当期純利益から減算されます。つまり、将来減算一時差異は将来的に税額を減少させるものです。
具体的には、減価償却資産の償却限度超過額や引当金の繰入限度超過額等が挙げられます。
将来加算一時差異
将来加算一時差異とは、差異が解消するときに課税所得を増加させる一時差異です。
ズレが発生した期の税引前当期純利益から減算され、ズレが解消する期に税引前当期純利益に加算されます。つまり、将来加算一時差異は将来的に税額を増加させるものです。
将来加算一時差異の具体例として、固定資産圧縮積立金等が挙げられます。
法人税等調整額の計算方法・流れ

税効果会計において法人税等調整額を計算するためには、法定実効税率が必要です。一時差異の金額に法定実効税率をかけることによって、法人税等調整額を算出します。
法人税等調整額を計算する流れは、以下の通りです。
- ①一時差異を計算する
- ②法定実効税率を計算する
- ③繰延税金資産・繰延税金負債を計算する
- ④法人税等調整額を計上する
①一時差異を計算する
税効果会計の対象となる一時差異(将来減算一時差異、将来加算一時差異)を計算します。
一時差異の例
- 減価償却費
- 貸倒引当金
- 賞与引当金
- 退職給付引当金
- 繰越欠損金
例えば、税法上、貸倒引当金の繰入金には限度額があり、限度額を超過した部分の金額は、会計上「費用」であっても税法上は当期の「損金」に算入できません。このような会計上の費用と税法上の損金のズレが一時差異です。
②法定実効税率を計算する
法定実効税率とは、法人が負担する実質的な税率のことです。
事業税の損金算入を考慮したうえで、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税を合算して求めます。計算式は以下の通りです。
計算式
実効税率=(法人税率×(1+地方法人税率+法人住民税率)+法人事業税率*)÷(1+法人事業税率)
- *特別法人事業税率を含む
法定実効税率についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
関連記事:「法人税の実効税率とは?計算方法・シミュレーションや表面税率との違いも解説」
③繰延税金資産・繰延税金負債を計算する
一時差異に法定実効税率をかけて、「繰延税金資産」「繰延税金負債」を求めます。
繰延税金資産 |
将来の法人税等の額を減額させるもの |
---|---|
繰延税金負債 |
将来の法人税等の額を増額させるもの |
繰延税金資産は、税金の前払額にあたるため、いずれ戻ってくるものとして貸借対照表上の資産の部に計上します。一方、繰延税金負債は税金の未払額に相当し、いずれ支払わなければならないものとして貸借対照表上の負債の部に計上します。
繰延税金資産・繰延税金負債に計上する金額は、それぞれ以下の通りです。
- 繰延税金資産=将来減算一時差異×法定実効税率
- 繰延税金負債=将来加算一時差異×法定実効税率
④法人税等調整額を計上する
繰延税金資産と繰延税金負債の差額を期首と期末で比較し、その増減額を法人税等調整額として損益計算書に計上します。
なお、「法人税等」と「法人税等調整額」は、税引前当期純利益から控除する形式で区別して表示します。
法人税等調整額の仕訳方法
税効果会計では、一時差異の発生時・解消時に、「法人税等調整額」「繰延税金資産」「繰延税金負債」の勘定科目を用いて仕訳を行います。
具体例を用いて、仕訳方法を紹介します。
繰延税金資産の仕訳例
繰延税金資産の発生時・解消時の仕訳例は、以下の通りです。
発生時(例:貸倒引当金の繰入超過額100万円が損金不算入となった)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法人税等調整額 |
40万円 |
繰延税金負債 |
40万円 |
解消時(例:貸倒れが発生して貸倒処理を行ったため、損金算入が認められた)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
繰延税金負債 |
40万円 |
法人税等調整額 |
40万円 |
なお、法定実効税率は40%で試算しています。また、繰延税金資産の回収可能性は考慮しておりません。
計算例
100万円×40%=40万円
繰延税金負債の仕訳例
繰延税金負債の発生時・解消時は、次のように仕訳します。
発生時(例:設備を取得して圧縮記帳を行い、圧縮積立金100万円を計上した)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法人税等調整額 |
40万円 |
繰延税金負債 |
40万円 |
解消時(例:圧縮積立金を取り崩した)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
繰延税金負債 |
40万円 |
法人税等調整額 |
40万円 |
法人税等調整額に関するポイント・注意点

法人税等調整額は、税効果会計を適用する企業において、適正な決算や財務状況に大きく影響する重要な項目です。法人税等調整額に関して、以下のポイント・注意点を押さえましょう。
- 永久差異は税効果会計の対象でない
- 法定実効税率は企業の規模や所在地によって異なる
- 回収の見込みがない金額は繰延税金資産に計上できない
- 損益計算書上の法人税等調整額はマイナスになる場合もある
永久差異は税効果会計の対象でない
将来にわたって差異が解消されない永久差異は、将来の法人税額に影響を与えないため、税効果会計の対象にはなりません。
永久差異の例
- 交際費や寄附金等の損金算入限度超過額
- 損金不算入の役員賞与
- 受取配当金の益金不算入額
- 損金不算入の罰金
法定実効税率は企業の規模や所在地によって異なる
法人税等調整額を求める際に必要な法定実効税率は、企業の規模によって異なります。
特に、資本金1億円以下の外形標準課税不適用法人と、資本金1億円超の外形標準課税適用法人では事業税率が大きく異なります。
また、法人地方税・法人事業税は地方税であり、自治体によっては標準税率と異なる税率が定められている場合があります。したがって、企業の所在地によっても法定実効税率が変わります。
回収の見込みがない金額は繰延税金資産に計上できない
回収の見込みがない一時差異は、繰延税金資産に計上してはいけません。
繰延税金資産は、将来の税額を減額させる効果がある場合に計上されるものです。したがって、業績不振によって赤字が見込まれる場合等は、回収の可能性が低いため、繰延税金資産を計上することはできません。
なお、将来の回収見込みは、毎期見直しが必要です。
損益計算書上の法人税等調整額はマイナスになる場合もある
税効果会計を適用した場合、繰延税金資産および繰延税金負債の差額を期首と期末で比較し、増減額を損益計算書に計上した結果、法人税等調整額がマイナスになる場合もあります。
マイナスになった場合、損益計算書上の「法人税等」が減少し、当期純利益が増加します。反対に、プラスになる場合は損益計算書上の「法人税等」が増加し、当期純利益が減少する仕組みです。
法人の適正な税務処理には法人口座の活用を
法人が資金管理や税務処理の透明性を確保するためには、法人口座を活用するのがおすすめです。法人口座を開設すると、会社と個人の資金が明確に区別され、税務リスクを低減できます。また、以下のメリットもあります。
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- 適切なタイミングで資金調達しやすくなる
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関連記事:「新設法人が法人口座を開設するメリットは?口座開設の流れやポイントも紹介」
まとめ
法人税等調整額とは、税効果会計に伴って発生する差異を調整するための勘定科目です。
法人税等調整額は、企業が財務状況を正確に把握するためにも重要な項目であり、適切に計上する必要があります。
法人税等調整額に関する正しい知識を身に付け、適切な税務処理を行いましょう。
法人を設立した際は法人口座を開設するのがおすすめです。資金管理や税務処理の透明性を確保でき、税務リスクを低減できます。
法人口座の開設は、ウェブ面談のため来店なしで手続きが可能なみずほ銀行をご検討ください。
監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。