事前確定届出給与の届出期限は?手順や記載方法も解説
掲載日:2025年6月9日起業準備

役員に対する賞与は、一定の要件を満たせば「事前確定届出給与」として損金に算入できます。
事前確定届出給与を支給するためには、株主総会等で決議のうえ、事前に税務署への届出が必要です。提出期限内に届出を行わなければ、事前確定届出給与に該当せず、損金算入が認められません。
本記事では、事前確定届出給与の届出期限・方法や、定期同額給与・業績連動給与との違いを解説します。
事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは、役員に対して所定の時期に一定額を支給する旨を定めて届出を行い、その定めに基づいて支給する給与です。
役員報酬は、従業員の給与・賞与とは異なり、一定の要件を満たさなければ損金に算入できません。事前確定届出給与は、損金算入が認められる役員報酬の一つで、賞与にあたります。
なお、損金算入が認められる役員報酬は、以下の三つです。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
定期同額給与との違い
定期同額給与とは、1ヵ月以下の一定期間ごとに支給される給与で、各支給時期の支給額が同額である給与を指します。つまり、賞与にあたる事前確定届出給与に対し、定期同額給与は毎月同額で支払われる給与です。
定期同額給与は、事前確定届出給与のような事前の届出が不要で、要件を満たしていれば損金算入が認められます。
ただし、毎月の支給額が同額でなければなりません。また、支給額を変更できるのは原則として年に1回で、事業年度開始から3ヵ月以内に決定しなければならないため、事業の見通しに応じて計画的に設定する必要があります。
業績連動給与との違い
業績連動給与とは、業績に応じて支給額が決定する給与を指します。金銭だけでなく、株式の支給も対象です。
事前確定届出給与や定期同額給与との違いは、あらかじめ支給額が確定していないことです。
業績連動給与を支給するためには、「算定方法が一定の適正な手続きを経て決定されており、有価証券報告書等で開示されている」等の要件を満たす必要があります。
事前確定届出給与の提出期限
役員に対する賞与を「事前確定届出給与」として損金に算入するためには、事前に税務署への届出が必要です。提出期限は、原則として①と②のいずれか早い日です。
- ①株主総会等によって事前確定届出給与の決議をした日(決議をした日が職務執行開始日後である場合はその開始日)から1ヵ月を経過する日
- ②会計期間開始の日から4ヵ月を経過する日
ただし、新設法人の場合や、臨時改定事由の発生により事前確定届出給与に関する定めをした場合は、提出期限が異なります。
区分 | 提出期限 |
---|---|
新設法人 |
設立日から2ヵ月を経過する日まで |
臨時改定事由が生じたことにより事前確定届出給与に関する定めをした場合 |
以下③と④のいずれか遅い日
|
なお、臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更等のやむを得ない事情を指します。
事前確定届出給与の期限が土日(休日)の場合は?
事前確定届出給与の提出期限が土曜日・日曜日・祝日の場合、これらの翌日(休日明け)が提出期限となります。
(例)
- 事業年度:4月1日~3月31日
- 株主総会等で決議をした日:5月1日
上記の場合、提出期限は6月1日ですが、6月1日が日曜日の場合、翌日の6月2日(月曜日)が期限となります。
事前確定届出給与の金額を変更する際の提出期限は?
事前確定届出給与の支給額は、「臨時改定事由」や「業績悪化改定事由」が生じた場合に限り、例外的に変更することができます。支給額変更の提出期限は、それぞれ以下の通りです。
項目 | 概要 | 提出期限 |
---|---|---|
臨時改定事由 |
役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更等のやむを得ない事情 |
臨時改定事由が生じた日から1ヵ月を経過する日 |
業績悪化改定事由 |
経営状況が著しく悪化した、あるいはこれに類する理由 |
変更に関する株主総会等の決議をした日から1ヵ月を経過する日 |
臨時改定事由 | |
---|---|
概要 |
役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更等のやむを得ない事情 |
提出期限 |
臨時改定事由が生じた日から1ヵ月を経過する日 |
業績悪化改定事由 | |
概要 |
経営状況が著しく悪化した、あるいはこれに類する理由 |
提出期限 |
変更に関する株主総会等の決議をした日から1ヵ月を経過する日 |
事前確定届出給与の届出の方法・流れ

事前確定届出給与を税務署に届け出る手順は、以下の通りです。
- ①株主総会等で役員報酬の支給日・支給額を決議する
- ②「事前確定届出給与に関する届出」を記載する
- ③税務署に「事前確定届出給与に関する届出」を提出する
①株主総会等で役員報酬の支給日・支給額を決議する
役員報酬は、会社法に基づき、定款または株主総会の決議によって定めなければなりません。
実務上は、株主総会の決議によって定めることが一般的です。
届出の通りに支給しなければ事前確定届出給与として損金に算入できないため、業績や資金繰りなどを踏まえて慎重に支給額を決定しましょう。
また、株主総会は会社法によって議事録を残すことも義務付けられています。税務調査等で第三者への説明が必要な場合があるためです。
役員報酬の決め方や相場についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
関連記事:「役員報酬の決め方は?給与との違いや相場、変更のルールも解説」
②「事前確定届出給与に関する届出」を記載する
税務署に届け出るための「事前確定届出給与に関する届出」を入手し、必要事項を記載します。届出書の書式は、国税庁ウェブサイトからダウンロードできます。
主な記載項目・方法は以下の通りです。
記載欄 | 記載内容 |
---|---|
①事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等 |
株主総会等によって事前確定届出給与の決議をした日、決議をした機関の名称 |
②事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日 |
定められた時期に確定した金額を支給するための職務を開始する日(定時株主総会の開催日等) |
③臨時改定事由の概要及びその臨時改定事由が生じた日 |
臨時改定事由の内容と生じた日 |
④事前確定届出給与等の状況 |
付表に付した一連番号の最初と末尾の番号 |
⑤事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由及び事前確定届出給与の支給時期を付表の支給時期とした理由 |
定期同額給与として支給しない理由、支給時期の理由 |
⑥その他参考となるべき事項 |
新設法人が届出を行う場合の設立年月日等 |
届出期限 |
区分に応じた届出期限 |
また、「事前確定届出給与に関する届出」と合わせて、「付表(事前確定届出給与等の状況)」に事前確定届出給与の支給時期・支給額等を記載します。
③税務署に「事前確定届出給与に関する届出」を提出する
届出書類をそろえ、納税地を所轄する税務署に提出します。提出する書類は以下の二つです。
- 事前確定届出給与に関する届出
- 付表(事前確定届出給与等の状況)
提出方法は、税務署の窓口に持参または郵送するか、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用してインターネット上で提出する方法があります。
事前確定届出給与のメリット・注意点
事前確定届出給与には、以下のメリット・注意点があります。
メリット |
|
---|---|
注意点 |
|
役員に対する賞与は、従業員の賞与とは異なり、原則として損金に算入できません。
しかし、事前に事前確定届出給与として届け出を行えば、損金算入が認められます。損金に算入すると、その分課税所得が少なくなるため、税金の負担額を抑えることが可能です。
一方で、損金算入するための制約が多い点には注意が必要です。届け出た金額よりも実際の支給額が多い場合、超過した金額だけでなく、支給額全額が損金不算入となります。また、届け出た金額より実際の支給額が少ない場合も、損金に算入できません。
法人の資金管理には法人口座の活用を
事前確定届出給与の届出後は、届出通りに役員報酬を支給する必要があります。法人を設立した際は、役員報酬等の支払いを適切に管理するためにも法人口座を開設しておきましょう。
法人口座を開設すると、主に以下のメリットが得られます。
- 会社と個人の資金を明確に区別できる
- 経営判断を行いやすくなる
- 取引先や金融機関からの信用が向上する
- 経理業務が効率化する
会社と個人の資金を明確に区別することで、資金管理が透明化され、税務リスクも低減できます。
関連記事:「新設法人が法人口座を開設するメリットは?口座開設の流れやポイントも紹介」
まとめ
役員の賞与を事前確定届出給与として損金算入するためには、原則として株主総会等の決議をした日から1ヵ月以内、または事業年度開始日から4ヵ月以内のいずれか早い日までに届出が必要です。
また、届出の通りに支給しなければ、損金算入が認められません。法人の資金繰りや経営に影響する重要な事項であるため、慎重に支給額を決定し、確実に手続きを行いましょう。
役員報酬には、様々なルールが設けられています。会社と個人の資金を明確に区別し、適切な管理を行うためにも、法人を設立した際は法人口座の開設をおすすめします。
みずほ銀行の法人口座は、休日・夜間でもお申し込みでき、ウェブ面談のため来店不要で口座開設できます。また、登記事項証明書・印鑑証明書の原本提出が原則不要なため、手間や負担を軽減します。
また、法人形態関係なく会社設立3年以内のお客さまは、インターネットバンキング(みずほビジネスWEB)の月額利用料が最大5年間無料になります。
法人口座を開設する際は、ぜひみずほ銀行をご検討ください。
監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。