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2021年4月からの適用に備える! 中小企業の「同一労働同一賃金」

掲載日:2021年3月15日事業戦略

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2019年4月に施行された働き方改革関連法によって、2021年4月1日からは、いよいよ中小企業にも「同一労働同一賃金」のルールが適用されます。
人事担当者は準備に追われているかもしれませんが、まだ本格的に取り組めていない中小企業も多いのではないでしょうか。適用開始が迫る中、本稿では「同一労働同一賃金」のポイントを再点検したうえで、そのリスクと対応策のヒントを、判例を交えながらご紹介します。

めざすのは、正社員と非正社員の待遇格差排除!

2021年4月1日からは、同一労働同一賃金のルールが、中小企業にも適用されるようになります。

これまでも、正社員と非正社員の待遇差を排除する一定のルールはありましたが、そのルールを明確化して、法改正されたのが、働き方改革関連法の一つとして成立した「パートタイム・有期雇用労働法」です。

  • *パートタイム・有期雇用労働法の概要については、以下、みずほスマートポータルの過去記事「2021年4月に中小企業も適用!「パートタイム・有期雇用労働法」とは?」を参照してください。

https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/mizuhosmartportal/jigyosenryaku/topic_71.html

同法に基づく「同一労働同一賃金」のルールは、大企業には既に2020年4月から適用されており、中小企業には1年遅れのこの4月から適用されるのです。
経営者ならば、既に、「同一労働同一賃金」の概要を理解しているかもしれませんが、これは、同じ職場で同じ仕事をする、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間で、待遇や賃金格差をなくすという考え方です。

この法改正は、正社員・非正社員にかかわらず、どのような雇用形態を選択しても納得して働ける、多様な働き方を自由に選択できるようにすることを目的としています。
従業員側からすると、権利が主張でき、働きやすい環境が整うことが期待できますが、会社側にとってみれば、雇用条件など様々な側面での見直しが迫られます。

この「同一労働同一賃金」のルールに法的拘束力はないとはいえ、具体的に何をどうすればよいのかをきちんと理解していないと、トラブルどころか、従業員から民事訴訟をされ、損害賠償請求の根拠となる場合もあります。
つまり、企業側が違法とされることも考えられるのです。そうなれば、会社の信用問題にも発展する可能性さえあるかもしれません。
そうならないように、適用が始まる直前の今こそ、準備していたことに見落としがないか、忘れていたことはないか、など再点検が必要といえるでしょう。

チェックすべきは、「不合理な待遇差の禁止」と「明確な説明義務」の2つ

今回の法改正で求められているのは、大きくは次の2つのことになります。
一つは、同一企業内において、正社員と非正社員との間で、基本給や賞与、教育訓練や福利厚生といったあらゆる待遇について、「不合理な待遇差」を設けることが禁止されるということです。

「不合理な待遇差」については、厚生労働省のガイドラインに、その考え方が書かれていますが、待遇差が「不合理かどうか」を判断するにあたっては、以下の3つが考慮要素となります。

  1. 「職務の内容(業務内容と責任の程度)」
  2. 「職務の内容・配置の変更の範囲(人事異動や転勤の有無や範囲)」
  3. 「その他の事情(成果、能力、経験など)」

つまり、正社員と非正社員との間で、この3つの要素が全く同じである場合、両者に待遇差があると「不合理な待遇差」とされてしまうということです。
したがって、再度、パート・アルバイトの業務内容をチェックして、これに反することがないかどうかをすぐに確認すると良いでしょう。

求められるもう一つが、待遇差がある場合には明確な理由を提示する義務があるということです。非正社員にこれらを説明するときには口頭でも文書でもかまわないとされていますが、なるべく文書を交付しながら、それをベースに口頭でも説明していくことが望ましいといえます。

既に、非正社員に待遇差の説明をして内容を納得してもらっているようなら安心ですが、まだ実施していないようなら、早めに実施することが望ましいでしょう。
ここで、非正社員への待遇差の説明については、大企業ならば人事担当者が実施するケースが通常でしょうが、中小企業の場合、人事担当者とともに経営陣も説明の場に同席して、より丁寧に話をしていくことを考えると良いでしょう。

いますぐやるべきは、非正社員の処遇の見直し!

前述したように、「不合理な待遇差」には①~③の3要素がありました。ただし、「同一労働同一賃金」のルールを考えてみると、正社員と非正社員との間で、この3要素についての明確な“違い”を設定すれば良いことにもなります。
それによって、「不合理な待遇差」を解消できれば、労働者から説明を求められたときでも、しっかりと回答できるようになるでしょう。
そのためには、現状を把握(賃金・各種手当て/就業規則/福利厚生/教育訓練など)し、正社員と比較して非正社員の処遇を見直すこと、が必要となってきます。

その際、ポイントとなるのは、次の2つのことだといえます。

1. 正社員と非正社員の定義を明確にする

正社員と非正社員の「就業規則」を分けて作成しておくと良いでしょう。就業規則が曖昧だと、待遇に違いがあることが説明できない可能性が高いので要注意です。

2. 正社員と非正社員とで前述の「3要素」に違いを設ける

先に述べたように、正社員と非正社員との間で、3要素に明らかな違いを設定することで、待遇差があっても不合理と判断されないようにすることができるといえます。
例えば「職務の内容」については、「職種は同じでも、非正社員には中核的業務を行わせない、あるいは簡単な業務だけに従事させる」、もしくは「職種は同じでも、責任の程度(決裁権限の範囲やノルマの有無など)に違いを設ける」といったことでしょう。

特に、「職務の内容・配置の変更の範囲」については、転勤の有無や昇進・昇格の有無、キャリア形成の有無などが考えられます。
中小企業や小規模事業所の場合、拠点が1ヵ所しかなく、そもそも正社員も転勤がないケースもありますから、なるべく「職務の内容」で違いを明確にしておくと良いでしょう。また、正社員・非正社員問わず転勤があるなら、「正社員は全国」「非正社員はエリア限定」などと明確に区分けしておきます。
この2点を抑えておくと、待遇差があってもその理由が明確になるといえるかもしれません。

判例からの学びを経営に活かす

「同一労働同一賃金」については、既に裁判沙汰になったケースもあり、そこでの判例は、企業が「同一労働同一賃金」に取り組むための指針ともなります。
以下に、その事例の内容と最高裁の判決を紹介しながら、そこから得られるポイントを解説していきます。

一つ目の事例は、ある医科大学で正職員には支給される賞与が、アルバイト職員には支給されないとして、アルバイト職員が訴えたケースです。
最高裁は正職員とアルバイト職員の間の賞与に関する待遇差等は、「不合理と認められるものにあたらない(労働契約法20条に違反しない)」と判断しました。とはいえ、この判決は、賞与の相違も不合理となる可能性があることを初めて述べたものとして注目されました。
この判例からは、もし正職員が、人事異動がなかったり職能資格制度がなかったりすれば、非正職員への賞与不支給が不合理とされる可能性がありますので、あらためて自社の正社員の処遇を検証する必要があるといえるでしょう。

二つ目は、ある企業で、契約社員に扶養手当などがないのは「不合理な格差」に当たると訴えた事例です。
最高裁は、契約社員にも「扶養親族があり、相応に継続的な勤務が見込まれれば、手当の趣旨は妥当」と指摘。「相応に継続的な勤務」が見込まれる以上、相違(不支給)は不合理であると結論づけました。
この判例を自社に活かすヒントですが、扶養手当の相違についてポイントとなるのは、非正社員の「勤続期間」です。契約更新を繰り返して「相応に継続的な勤務」が見込まれるなら、非正社員との理由での「手当の不支給」は不合理となりますので、自社の非正社員の契約内容などを見直しましょう。

待ったなしの「同一労働同一賃金」ルールへの対策をここでしっかり取り組んでおくことが、のちのリスクを減らすことにつながるといえます。
また、「同一労働同一賃金」のルール順守は、非正社員のモチベーションアップとなる可能性もあります。
自社の現状を整理したうえ、今後の経営ビジョンと照らし合わせながら、より良い取り組みを考え、早急に手を打つことを考えていきましょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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