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掲載日:2021年1月12日

事業戦略

2021年4月に中小企業も適用!「パートタイム・有期雇用労働法」とは?

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人手不足が続き、パートタイム等非正規社員を雇用している企業は少なくないでしょう。そうした中、2021年度から、ついに中小企業でも「パートタイム・有期雇用労働法」が適用され、「同一労働同一賃金」への対応が求められるようになります。
では、「パートタイム・有期雇用労働法」とは具体的にどのような法律で、企業はどのような対応を迫られるのでしょうか。
本稿では、「知らなかった」では済まされない、その対応について事例を紹介しながら、分かりやすく解説していきます。

待遇格差に取り組むことが“企業の義務”に!

「パートタイム・有期雇用労働法」は、働き方改革関連法案の改正の一環として、2020年4月より施行されている法律ですが、2021年4月からは中小企業にも適用となります。
これは、同一企業内における正社員と非正規社員の間の賞与や手当等あらゆる待遇について、不合理な待遇格差を禁止する法律です。
「パートタイム労働者」とは、同じ事業主に雇用される正社員に比べ、1週間の所定労働時間が短い労働者のことで、「パートタイマー」「アルバイト」「臨時社員」「準社員」とも呼ばれています。
一方、「有期雇用労働者」とは、事業主と、3ヵ月や1年等、ある一定期間の労働契約を結んでいる労働者のことで、「契約社員」「嘱託社員」とも称されます。

「パートタイム・有期雇用労働法」の対象となるのは、名称にあるように「パートタイム労働者」と「有期雇用労働者」です(本稿では、「パートタイム労働者」と「有期雇用労働者」を合わせて「非正規社員」と表記して話を進めます)。
つまり、「パートだから交通費は支給しない」「嘱託社員だから、会社の保養所は使えない」というような待遇差をしてはならないということになります。

これまで、「あの人はパートだから、いつやめるか分からない……」「契約社員だから長期プロジェクトは任せにくいなあ」といった主観的・抽象的な理由で、給料等の待遇に差を付けていた企業もあるかもしれません。しかし、今後は曖昧な理由で待遇に違いがあることは認められなくなるのです。

「パートタイム・有期雇用労働法」の3つのポイント

では、この法律により、具体的に何がどう変わるのでしょうか。ポイントは以下の3つです。順を追ってご説明していきます。

①不合理な待遇差が禁止される

同じ企業において、「正社員」と「非正規社員」間のあらゆる待遇について、不合理な差を付けることが禁止されます。
「あらゆる待遇」とは、基本給、賞与(ボーナス)、各種手当(役職手当、皆勤手当、食事手当等)はもちろん、交通費、福利厚生(給食施設、休憩室、更衣室、慶弔休暇等)、教育訓練……といったものも含まれます。

②待遇に関する説明義務が強化される

非正規社員は「正社員との待遇の違いやその理由」等について、会社(事業主)に説明を求めることができるようになります。そして、会社は非正規社員から説明を求められたら説明しなければなりません。
さらに、説明を求めた非正規社員に、不利益となる対応(解雇や減給等)を行うことは禁止されています。

③行政による対応が変わる

労働者と会社(事業主)の間でトラブルが生じたら、当事者の一方、または双方の申し出があれば、都道府県労働局において、無料・非公開の紛争手続きを行うことが可能になります。都道府県労働局が、トラブルの早期解決のための援助をしてくれるということです。
このような裁判以外の方法で解決する手続きを、「裁判外紛争解決手続き(行政ADR)」といいます。

待遇差を見直せば、人も会社も変わる!

ここからは、より分かりやすくするために、具体例を基に解説していきたいと思います。

A社で営業として働く契約社員(有期雇用労働者)の佐藤さん(仮名)は、正社員には支給される「皆勤手当」が、自分に支給されないことを「賃金未払い」として裁判所に訴えました。すると、「正社員と契約社員の職務の内容が同じであることから、出勤する者を確保する必要性は同じであり、将来の転勤や出向の可能性等の相違により異なるものではない」との判決を受けました。
つまり、「契約社員だから皆勤手当は支給しない」という理由は「不合理」だと判断されたのです。
会社は佐藤さんに、所定の未払い金を支払うことになりましたが、以後、佐藤さんの労働意欲は高まり、営業成績は右肩上がりになったそうです。

もう一つ、例をご説明します。
B社には社員食堂があるのですが、「狭いから」という理由で、パートやアルバイトの利用は控えるよう、人事担当者がパートやアルバイトに伝えていました。

しかし、パートやアルバイトの人たちが「それはおかしい」と会社の幹部に働きかけたところ、「パートタイム・有期雇用労働法」を調べた経営者が、「食堂が狭いことは理由にはならない。時間をずらして正社員も非正規社員も全員が平等に利用すべきだ」と考え方を改めました。
すると、社内の雰囲気も良くなり、パート・アルバイトも働くモチベーションが上がり、結果として業績向上につながりました。

いずれも、不合理な待遇差が是正され、会社、そして社員ともに“win–win”となった好例といえるでしょう。

本当に合理的? 「待遇の違い」の理由を整理しよう

ここからは、会社として具体的にどのように準備を進めておけば良いのか、そのステップを紹介していきます。

ステップ1:労働者の雇用形態、待遇の状況を確認する

まずは社内で、パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇用しているかチェックします。
その後、「パートタイム労働者」「有期雇用労働者」それぞれで、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生等のあらゆる待遇について、正社員と違いがあるかどうかを確認します。待遇の項目ごとに、内容を書き出すと整理しやすいでしょう。

ステップ2:待遇に違いがある場合、差がある理由を確認する

待遇に違いがあれば、なぜ差があるのか、それぞれの待遇ごとに、改めてその理由を整理してみましょう。
「パートタイム・有期雇用労働者」と「正社員」とでは、働き方や役割等が異なる場合、それに応じて賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生等の待遇が異なることはあり得ます。
「待遇の違い」は、働き方や役割等の違いに見合った「不合理ではない」ものといえるかどうかを確認します。

ステップ3:待遇差がある場合、「不合理ではない」ことを説明できるように整理する

労働者から説明を求められたときに、「待遇の違い」は「働き方や役割の違いに応じたものであり、不合理ではない」と説明できるよう、整理しておきましょう。

ステップ4:「不合理」な待遇差があれば改善する

不合理な「待遇の違い」があった場合は、改善に努めます。
また「不合理ではない」と言える場合であっても、より良い雇用関係のためには、常に雇用形態に関わらず、それぞれの「待遇」と「働き方」「役割」に関して確認、および検討をしましょう。

「同一労働同一賃金」への対応は、組織として成長する“チャンス”である

正社員と非正規社員の「待遇差」は、経営者が考えているよりも、現場ではセンシティブな問題として扱われている場合があります。つまり、同じ会社で働く仲間でありながら、待遇が違うとなれば、お互い打ち解けにくく、仕事に影響する可能性もあるのです。
今回、法律が適用されることを機に、正社員、非正規社員に関わらず、「現場の気持ち」をしっかり聞く場を設定してみてはいかがでしょうか?

たしかに、法改正をきっかけとした人事・労務の見直しは、短期的には人件費が上昇し、コスト面では苦しいことが予想されます。
しかし、長期的な視野に立って考えてみてください。現場で働く全ての人びとがマイナスの感情を抱くことなく、気持ち良く働くことができれば、先の事例のように、会社、そして職員にとってもプラスになることでしょう。

正社員と非正規社員との格差を是正することで、企業の古い体質を一新し、組織として成長する“チャンス”と捉えて、ぜひポジティブに労働環境の見直しにチャレンジしてみることをおすすめします。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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