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名経営者の知恵に学ぶ~稲盛和夫編~

掲載日:2022年11月1日事業戦略

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いわずと知れた経営哲学のカリスマで、あまたの経営者が心の拠りどころとしてきた稲盛和夫。
2022年8月に届いた訃報に、衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。
本稿では、たった8人で創業した京セラを世界に誇る企業へと発展させ、さらにはその経営手腕によって、赤字続きだった日本航空を3年足らずで再上場させた、稲盛流・経営ビジョンの描き方と、ビジョンの下に従業員のやる気を引き出す術を紐解きます。

崇高な大義名分を説き、求心力をあげる

会社を一つの船だと考えたとき、ビジョンとは船がめざすべき場所であるといえます。
しかしながら、船員たちに「あの場所をめざせ」と命じるだけでは、彼らのやる気を十分に引き出せないでしょう。

ビジョンを掲げる前にまずやっておきたいのが、大義名分を説くことなのです。

稲盛は「従業員に懸命に働いてもらおうとするなら、そこには『大義名分』がなくてはなりません。自分はこの崇高な目的のために働くのだという『大義名分』がなければ、人間というものは心から一生懸命にはなれないのです」と語っています。

従業員のモチベーションをあげ、仕事に対して前向きに取り組んでもらうためには、「何のためにこの仕事をしているのか」「この仕事がどんな未来を作り出すのか」「誰にとってこの仕事が役立っているのか」等の視点から、彼らが取り組む業務や事業の意義を明確にすることが必要だということです。

現在では、ファインセラミックス業界のトップとして君臨している京セラですが、創業期は古い木造社屋の中で、1,700度を超す高温の焼きあげ工程を経て製品を成形していた等、非常に過酷な現場だったといいます。
しかも作業は単調。汗まみれ、粉まみれでひたすら同じことを繰り返す労働環境には、従業員の意欲を欠いても仕方のない条件が揃っていたといえるでしょう。

そこで稲盛が取り組んだのは、従業員に仕事の意義や、業務を通して成し遂げられる大義名分を説くことでした。
「今、皆さんにやってもらっている研究は、学術的に意義のあるものです。世界でも1~2社しか取り組んでいない、まさに最先端の研究開発なのです。これが成功すれば、人々の暮らしに大いに貢献することになる。そんな意義のある研究が成功するかしないかが、皆さんの日頃の働きによって決まるのです」

今でこそ、企業の存在意義を第一に考えた「パーパス経営」という言葉がもてはやされていますが、稲盛は60年以上も前から、それに近い考え方をベースに従業員を導いていたのでした。

今、世界で注目されている「パーパス経営」に迫る
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/mizuhosmartportal/jigyosenryaku/topic_100.html

明確なビジョンを掲げ、具体的な目標に落とし込む

崇高な大義名分によって従業員のやる気を引き出したら、次に行うのはビジョンを掲げることです。

前述のように、ビジョンとはめざす場所、なりたい姿を意味します。
京セラがまだ中小零細企業の一つであったときから、稲盛は「この会社を日本一、世界一の会社にしよう」というビジョンを持っていました。
当時の従業員たちは稲盛のその言葉に半信半疑だったといいますが、それでも、稲盛は弛まずに同じことを語り続けたのです。

そしてビジョンを達成するために、「まず町内で一番の会社に、そして区で一番の会社に、さらに京都府で一番の会社に……」と、実現可能な段階を設定して従業員を鼓舞しました。

稲盛は「ビジョンは夢溢れるものでなければなりません。と同時に、それを実現していくための計画を具体的に立てていかなければなりません」と語っています。

来年は年間の売上を何パーセントアップさせよう、月々ではこの金額を達成しよう、そのためにはチームでこういう施策に取り組もうと明確な目標を示すことで、従業員は、組織の一員である自分の役割を自ずと考えるようになるのです。
そして従業員一人ひとりが、自らを目標達成のために欠かせない存在であると感じることができれば、そこから工夫や努力が起こります。

「企業に集う人々が、共通の夢、願望を持っているかどうかで、その企業の成長力が違ってきます。素晴らしいビジョンを共有し、『こうありたい』と会社に集う従業員が強く思えば、そこに強い意志力が働き、夢の実現に向かって、どんな障害をも乗り越えようという、強大なパワーが生まれてくるのです」

京都の原町という小さな町で、汗まみれ、粉まみれになりながらも従業員たちがコツコツと目標達成に励んだ結果、京セラはファインセラミックスの分野で世界一といわれる企業にまで成長しました。
明確なビジョンと、それを達成するための具体的かつ細分化された目標設定の両方が、従業員を力強くけん引したのです。

従業員の幸福の追求を、経営理念に表す

従業員に向けて、仕事の大義名分、そして会社がめざすビジョンと目標を示しても、それで終わりではありません。
もう一つの重要な要素は、会社が従業員のことを何よりも最優先に考えていると分かってもらうことであると、稲盛は説きます。

「従業員を、自分と同じ気持ちになって仕事にあたり、事業を支えてくれる、自分と一体になって仕事をしてくれるパートナーとすることがどうしても必要です」と、稲盛は従業員ファーストの姿勢を強調してきました。

その背景には、創業期に10人の従業員が書状を持って経営者である稲盛に直談判をしに来た出来事があります。
彼らの要求は、昇給やボーナス等待遇の保証でした。保証してもらえなければ、会社を辞めるとまで言い出しましたが、結局、稲盛の真摯な説得によって、彼らは会社を去らずに済みました。
しかしこのとき、稲盛は「企業を経営する真の目的は(中略)、経営者自身が私腹を肥やし、豊かになることではない。現在はもちろん、将来に渡って従業員とその家族の生活を守っていくことにある」と気付いたといいます。

その気付きから、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という一文を筆頭に掲げた、経営理念を示すことを決めました。
経営者が従業員の幸福における責任を果たす。そのような価値観を持っていると明文化することで、従業員は安心し、そして、経営者を信頼して業務にあたることができるのです。

また、「一切やましいことがないため、経営者である私自身も、この目的追求のため、一切の躊躇なく、全力で経営に打ち込むことができました」と稲盛自身が語るように、健全な意思に裏打ちされた経営理念は、揺るぎない軸として経営者を支えるものにもなり得るのです。
当時掲げた経営理念は、今でも変わらず京セラの柱として存在しています。

おわりに

大義名分を説き、ビジョンを掲げ、具体的な目標を据える。そして従業員ファーストの価値観を経営理念に落とし込む。
そんな稲盛の経営手法は、経営者と従業員双方にとってプラスの価値を生む、経営における最適解の一つだといえます。

トップダウンでも一方通行でもなく、従業員とともに。
そんな持続可能な企業をめざして、今こそ、経営の在り方を再定義してみてはいかがでしょうか。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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