事業主貸とは?事業主借との違いや仕訳例、確定申告での取り扱いについて解説
掲載日:2026年9月2日会計
個人事業主が記帳を行う際、必ず理解しておきたいのが「事業主貸」という勘定科目です。
事業主貸とは、事業用の資金を生活費や個人的な支出に充てた際に計上するものです。正しく処理しないと、確定申告の際に経費との混同が生じ、税務上のトラブルにつながる可能性があります。
本記事では、事業主貸の意味や事業主借との違い、仕訳例、確定申告での取り扱いまで、個人事業主が押さえておくべきポイントを分かりやすく解説します。
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目次
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事業主貸とは
事業主貸とは、個人事業主が事業用の資金を私的な支出に充てた際に計上する勘定科目です。具体的には、事業用口座から生活費を引き出したり、私的な買い物を事業用資金で支払ったりした場合に用いられる勘定科目です。
「事業が事業主にお金を貸した」という考え方で記帳するため、貸借対照表では資産の部に記載されます。なお、事業主貸として処理した金額は経費にはならず、所得金額の計算にも影響しません。
個人事業主には給与という概念がないため、事業用資金から生活費等を引き出す際は、事業主貸で処理する必要があります。
事業主貸と事業主借の違い
「事業主貸」と「事業主借」は名前が似ていますが、お金の流れが正反対です。
事業主貸は「事業用の資金を自身の生活費等、経費にできない支出に充てた場合」に用いる勘定科目で、「事業用資金から個人資金への移動」という流れです。一方、事業主借は「個人の資金を事業に充てた場合」に用いる勘定科目で、「個人資金から事業用資金への移動」という流れになります。
確定申告の際は、事業主貸と事業主借を相殺した残額を元入金に反映して処理します。両者の違いを正確に把握して、適切な帳簿管理を行いましょう。
事業主貸と事業主借の仕訳例|生活費や税金の支払いは?
事業主貸と事業主借の具体的な仕訳方法を理解することで、日々の記帳をスムーズに進められます。以下では、それぞれの仕訳例を詳しく解説します。
事業主貸の仕訳例
事業主貸を使う場面は、生活費の引き出しや税金の支払い等、多岐にわたります。代表的な4つのケースで仕訳の考え方を確認します。
ケース1:生活費として事業用口座から10万円を引き出した場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
事業主貸 |
100,000円 |
普通預金 |
100,000円 |
ケース2:所得税5万円を事業用口座から支払った場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
事業主貸 |
50,000円 |
普通預金 |
50,000円 |
所得税は個人の税金であり、事業の経費にはならないため、事業主貸として処理します。
ケース3:国民年金保険料3万円を事業用口座から支払った場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
事業主貸 |
30,000円 |
普通預金 |
30,000円 |
国民年金保険料は事業の経費にはなりませんが、確定申告時に社会保険料控除として所得から控除できます。
ケース4:自宅兼事務所の家賃10万円を支払った場合(事業使用割合30%)
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
地代家賃 |
30,000円 |
普通預金 |
100,000円 |
|
事業主貸 |
70,000円 |
|
|
家賃の30%は事業用として経費に計上でき、残りの70%は生活のための支出として事業主貸で処理します。
事業主借の仕訳例
事業主借は、個人の資金を事業に充てた際に用いる勘定科目です。以下の4つのケースで仕訳の流れを確認します。
ケース1:個人の口座から事業用口座に20万円を入金した場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
普通預金 |
200,000円 |
事業主借 |
200,000円 |
ケース2:個人のクレジットカードで事業用の文房具5,000円を購入した場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
消耗品費 |
5,000円 |
事業主借 |
5,000円 |
事業用の文房具であるため経費として計上できますが、支払いは個人のクレジットカードで行っているため、事業主借としても記録します。
ケース3:事業用口座に預金利息500円が入金された場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
普通預金 |
500円 |
事業主借 |
500円 |
預金利息は事業所得ではなく、利子所得として扱われるため、事業主借として処理します。
ケース4:個人のクレジットカードで交通費3万円を支払った場合
| 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
|
旅費交通費 |
30,000円 |
事業主借 |
30,000円 |
個人のクレジットカードで支払った場合、後日の引き落とし日に改めて仕訳を行う必要はありません。
確定申告での事業主貸の処理と注意点
確定申告では、事業主貸を適切に処理しないと税務上の問題が生じる可能性があるため、正確な記帳と理解が重要です。
以下では、確定申告での事業主貸の処理と注意点を解説します。
貸借対照表に残高を記載する
- *出典:国税庁「貸借対照表」
青色申告の場合は、青色申告決算書の貸借対照表に事業主貸の期末残高を資産の部に記載する必要があります。事業主貸は借方(左側)に、事業主借は貸方(右側)に計上し、両者を相殺した差額を記載するのが一般的です。
年度末には事業主貸と事業主借の残高を元入金へ振り替える処理を行い、翌期首はゼロから開始するのが一般的です。
なお、事業主貸の計上内容については、私的支出と事業支出を明確に区分し、記録の根拠を残して適切に管理することが重要です。
損益計算書には影響しない
事業主貸および事業主借は貸借対照表のみに記載される勘定科目であり、損益計算書上の収益や費用には一切計上されません。つまり、損益計算書に影響しないことから、事業所得の金額は変動せず、事業主貸をいくら計上しても課税所得は増減しません。
ただし、所得税や住民税といった個人の税金を事業用口座から支払った場合は、必ず事業主貸として処理し、租税公課等の経費科目と混同しないよう注意が必要です。
生活費や個人的な支出を経費に含めてしまうと所得の過少申告となり、税務調査で追徴課税のリスクが生じるため、明確に区別しましょう。
事業主貸と経費を混同しない
事業主貸は個人的な支出を記録する勘定科目であり、事業の必要経費として計上できる費用とは性質が異なります。そのため、生活費・所得税・住民税・国民年金保険料・国民健康保険料等は経費として認められず、すべて事業主貸で処理する必要があります。
家賃や光熱費を按分する際は、事業使用割合を合理的に算定し、個人での使用分を事業主貸に計上することで経費との混同を防ぐことができます。
経費と事業主貸を誤って仕訳すると、確定申告書の課税所得が本来よりも少なくなり、税務署から指摘を受ける可能性が高まるため、仕訳の際は十分な注意が必要です。
事業主貸が多いとどうなる?適切に管理するための対策
事業主貸や事業主借が適切に処理されていないと、税務調査の際に資金の流れについて確認を求められる可能性があります。日頃から使途や資金移動の記録を残し、事業資金と私的資金を明確に区分しておくことが重要です。
以下では、事業主貸・事業主借を適切に管理するための対策を2つ解説します。
事業用口座を分ける
事業用と個人用の銀行口座を完全に分けることで、資金の流れが明確になり、帳簿の整合性を保ちやすくなります。クレジットカードも事業用と個人用で使い分けることにより、経費と私的支出の混同を防ぎ、記帳作業の効率化にもつながります。
近年は銀行口座等を外部の会計ソフトと連携して利用するケースも多くありますが、口座を分けずに管理すると、連携時に個人支出まで取り込まれてしまい、かえって仕訳作業が煩雑化するリスクがある点に注意が必要です。
事業用口座を独立させることで、事業主貸や事業主借の発生頻度を抑え、税務調査等の際にも事業と個人の資金が明確に区分されていることを客観的に示しやすくなります。
関連記事:「個人事業主に事業用口座は必要?開設のメリットや口座開設の手順も解説」
支出の管理を徹底する
事業主貸が発生するたびに、その使途を帳簿に記録し、レシートや領収書を保管することで、税務調査の際にも適切な説明が可能となります。
資金の出入りについて記録や証憑書類を残すことで、帳簿と実際の資金移動の整合性を証明できます。また、高額な出金については帳簿の摘要欄に理由を明記し、後から確認した際にも内容を把握できる状態にしておくことが重要です。
事業主貸と事業主借を正確に記録することで、事業資金と個人資金の区別が明確になり、税務リスクの軽減にもつながります。
法人化をしたら、みずほ銀行の法人口座開設も検討を
個人事業主として事業規模が拡大した場合、法人化により税制面での優遇や社会的信用の向上といったメリットを得られる場合があります。
法人化すれば、事業主貸や事業主借といった個人事業特有の勘定科目が不要となり、事業資金と個人資金を明確に区分できます。
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創業期をサポートする体制を整えているため、法人化をされた際には、ぜひみずほ銀行の法人口座開設もご検討ください。
まとめ
事業主貸は、個人事業主が事業資金を個人用途に使用した際に計上する勘定科目であり、生活費や税金の支払い等、幅広い場面で用いられます。
日頃から事業用と私的資金を明確に区分し、帳簿に正確に記録する習慣をつけることで、確定申告や税務調査にも適切に対応できます。
事業主貸の管理に不安がある場合は、税理士等の専門家に相談しながら、健全な資金管理体制を構築することが重要です。
事業規模の拡大に伴い法人化をされた際は、事業資金と個人資金を完全に区分できる法人口座の開設も併せてご検討ください。
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監修者
安田 亮(やすだ りょう)
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。