会社設立で税金負担は変わる?税務メリットや法人化のタイミング、注意点等を解説
掲載日:2025年9月29日起業準備

ビジネスパーソンや個人事業主として事業を行っていると、会社設立を検討する機会があるでしょう。会社設立を税金対策として考える方もいるかもしれません。
しかし、どんな条件でどのような義務や優遇があるのか等、正しい知識がなければ、思い通りの効果を得られない可能性があります。
本記事では、会社設立によって期待される主な税務メリットや法人化に適したタイミング、サラリーマンや個人事業主が会社を設立する際の注意点等を紹介します。
来店不要でいつでも開設可能(メンテナンス時間:日曜日 0時00分~9時30分を除く)
目次
会社設立が税金対策になる理由は?
個人事業にかかる税金は、大きく4つです。
- ①所得税(国税)
- ②住民税(地方税)
- ③個人事業税(地方税)
- ④消費税(国税+地方税)
このうち、個人事業税は事業所を開設していない場合や、所得が一定額以下の場合には納税義務が免除されます。
また、消費税は基準期間の課税売上高が1,000万円に満たない場合に納税義務がありません(ただし、インボイス登録している場合は納税義務が生じます)。
そのため、事業を始めた当初は、所得税や住民税の税額が増える程度で、納税額は事業を始める前と比べても大きく変化しないでしょう。
しかし、売上が増えて事業所得が増えると、法人の所得にかかる法人税の税率が、個人の所得税の税率を下回る可能性が出てきます。他にも、法人になると、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広くなるため、課税所得を抑える効果も期待されます。
所得にかかる税率と経費の範囲の違いが、会社設立が税金対策として期待される理由の一つです。
会社設立で恩恵を受けられる税金対策7つ
会社設立後に課される税金や税率、適用される控除等を押さえておくと、法人化でどれくらいの節負担軽減を見込めるか、具体的に想定できます。
そこで、会社員や個人事業主が会社設立する際、法人化によって期待できる税金対策の知識を解説します*1。
- *記載の金額は2025年8月現在の情報です。
①自分への役員報酬を経費計上する
会社設立までは個人の収入として得ていた売上が、法人化によって、会社から代表取締役に支払われる役員報酬へと変わります。役員報酬とは、代表取締役等、会社の経営陣に支払われる報酬のことです。
個人事業主の収入は、税務上は総収入(売上)から必要経費を差し引いた事業所得となり、所得税が課税されます。しかし、会社設立後に受け取る役員報酬は税法では給与所得として扱われるため、給与所得控除が適用されます。
個人事業主の場合、事業所得に適用される控除は青色申告特別控除で最大65万円です。一方、給与所得控除は最低65万円(年収190万円以下の場合)から最大195万円(年収850万円超の場合)と控除額が大きいため、節税効果が期待できます。
②家族と所得を分散する
会社を設立すると、生計をともにする家族を役員や従業員として雇い、役員報酬や給与を支払うことができます。さらに、家族への役員報酬や給与にも給与所得控除が適用されるため、世帯全体での納税の負担を抑えられます。
また、個人の所得にかかる所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率も上がる仕組みです。会社設立によって、これまでの個人事業主の収入を家族に分散すれば、一人ひとりの所得税率を抑えることができます。
個人事業主でも、「事業専従者に関する手続き」を行った青色申告事業者は、家族を雇って給与を支払えます。この給与は事業の必要経費に計上できます。しかし、対象者の要件や、配偶者控除(年間最大48万円)や扶養控除(年間38万円~63万円)の適用等に制限があるため、法人に比べると節税効果は限定的といえるでしょう。
③最長10年間にわたる欠損金の繰越控除を利用する
青色申告事業者は、申告する事業年度の欠損金(赤字)を翌年以降に繰り越すことができます。欠損金を繰り越せば、翌年以降に黒字が出た場合でも欠損金との相殺により課税所得を抑えられます。
欠損金の繰越控除の期間は、個人事業主は最長3年間ですが、会社設立後は最長10年間となります。法人化した方が繰越控除を利用できる機会が増えるため、節税効果も高まると可能性があります。
④自宅の家賃や維持管理費を経費計上する
会社設立によって、役員や従業員の住まいに関する費用(会社が支払う家賃、固定資産税や不動産取得税等)を経費計上できるようになります。経費計上を活用して、会社名義で住宅を購入または借り上げるケースもあります。そのうえで、相場より手頃な家賃で従業員に貸し出し、福利厚生の一環とすることができます。
役員社宅として、代表取締役自身に住宅を貸与し、住居費を会社の経費とすることも可能です。ただし、社宅として適正な価格に基づいた家賃を毎月支払う必要があります。
自宅を仕事場とする個人事業主も、家賃等の経費計上は可能です。しかし、仕事場として使う面積や時間から使用割合を決め、家事に使う割合と按分し、その割合に応じて必要経費を計上する必要があります。
⑤出張手当を経費計上する
出張を必要とする業務を行っている場合、会社で出張旅費規程を定めておくと、出張手当として経費計上できます。例えば、1日当たり5,000円の概算払いと定めている場合、実費が3,000円でも5,000円として計上することが認められます。
個人事業主も交通費や宿泊費を旅費交通費として経費にできますが、事業に使ったタイミングでの実費の計上に限られます。
⑥消費税の納税義務の免除の適用を受ける
一定期間中に課税売上高(税法上、消費税が課税される売上高)が1,000万円を超えると、個人事業主・法人に関わらず、消費税を納める課税事業者となります。基準期間と特定期間の課税売上高を基に、納税義務が判断されます。また、特定期間では給与等支払額で判定することも可能です。なお、インボイス登録している場合は、課税売上高に関わらず納税義務が生じます。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
基準期間 |
前々年 |
原則として前々事業年度 |
特定期間 |
前年の1~6月まで |
原則として前年度の期首から6ヵ月の期間 |
基準期間 | |
---|---|
個人事業主 |
前々年 |
法人 |
原則として前々事業年度 |
特定期間 | |
個人事業主 |
前年の1~6月まで |
法人 |
原則として前年度の期首から6ヵ月の期間 |
例えば、個人事業主の場合、ある年度の課税売上高が1,000万円を超えると、翌々年、つまり2年後から課税事業者になります。この課税事業者となるタイミングの前年に会社設立し、個人事業を法人へ引き継ぐ形を取ることで、新設法人としての期間(原則として設立から2事業年度)は消費税の納税義務が免除される場合があります。これは、新たに設立された法人には基準期間が存在しないためです。
⑦保険料を経費計上する
会社設立に際して、設備投資や退職金、事業継承への備えとして、保険を活用しながら節税できるケースもあります。法人名義で加入する保険は法人を対象とするため、会社の経費として計上できるためです。
また、個人が支払った保険料に適用される生命保険料控除は年間12万円が上限ですが、法人が支払った保険料は一定額を損金に算入できます。保険の種類や契約内容によって損金算入できる割合は異なりますが、保険料の全額を損金算入できる商品も存在します。
加入した保険に解約返戻金等の受け取りがあると、益金に算入されるため、法人税の負担が増えます。しかし、受け取ったお金を役員の退職金に支給すれば、退職所得控除が適用され、他の所得よりも税負担が軽減される退職所得控除の恩恵を受けられます。
会社設立で期待できる税務上のメリット
サラリーマンや個人事業主として働いている方が会社設立を検討する場合、節税効果を期待できるタイミングを見極めることが大切です。法人化のタイミングによっては、想定していた効果を得られない可能性もあります。
そこで、税金対策を目的として会社設立を検討する方が押さえておきたい、法人化のタイミングや判断基準を紹介します。
法人税の税率が所得税より下がるとき
節税効果を得ることを目的に会社を設立する場合は、法人税の税率が所得税の税率を下回るタイミングが一つの目安になります。
個人の所得に課される所得税は所得に応じた超過累進課税で、5~45%の7段階に分かれています*1。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000~1,949,000円 |
5% |
0円 |
1,950,000~3,299,000円 |
10% |
97,500円 |
3,300,000~6,949,000円 |
20% |
427,500円 |
6,950,000~8,999,000円 |
23% |
636,000円 |
9,000,000~17,999,000円 |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000~39,999,000円 |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円~ |
45% |
4,796,000円 |
一方、法人の所得に課される法人税は、法人の種類や規模ごとに一定の税率が定められた比例課税方式です。例えば、普通法人の法人税は次のようになっています*2。
区分 | 税率 | ||
---|---|---|---|
資本金1億円以下の中小法人 |
年間所得800万円以下の部分 |
下記以外の法人 |
15% |
適用除外事業者 |
19% |
||
年間所得800万円超の部分 |
適用除外事業者 |
23.2% |
|
上記以外の法人 |
23.2% |
課税所得が330万円までは、税率5~10%の所得税の方が法人税よりも税率は低くなっています。しかし、800万円台になると、所得税の税率は23%、法人税率は23.2%となり、ほとんど変わらなくなります。国税である法人税は上限23.2%なのに対し、所得税の税率は900万円台で33%に上昇し、その後45%まで上がります。
そのため、課税所得が900万円に到達することが見込まれる場合は、法人化を検討するのも良いでしょう。
ただし、実際の税務では、所得税や法人税などの国税のほか、住民税や事業税などの地方税、各種控除の適用条件が異なるため、節税効果がどの程度見込めるかについては十分に考慮する必要があります。
- *1出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」
- *2出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」
- *3適用除外事業者は、前3事業年度の平均所得金額が15億円を超える法人を指します
関連記事:「法人税の実効税率とは?計算方法・シミュレーションや表面税率との違いも解説」
消費税の課税事業者になるとき
先述の通り、消費税の課税事業者になるタイミングに合わせた会社設立も、税金対策として有効な場合があります。
課税売上高1,000万円を超えると、翌々年から消費税の納税義務が生じます。しかし、課税事業者となるタイミングの前年に会社を設立し、個人事業を法人へ引き継ぐ形を取ることで、新設法人としての期間(原則として設立から2事業年度)は消費税の納税義務が免除されます。
ただし、資本金1,000万円以上で会社設立する等、状況によっては、会社を設立した初年度から課税事業者と判断される場合もあります。
インボイス制度への対応が必要になったとき
インボイス制度とは、2023年10月に始まった「適格請求書等保存方式」のことで、消費税の税率のうち8%と10%のどちらを適用しているのか、適格請求書(インボイス)で取引先に伝える制度です。
買い手が仕入税額控除を受ける要件として、売り手からの適格請求書の発行と保存が定められています。ただし、適格請求書を発行できるのは、消費税の課税事業者である「適格請求書発行事業者」に限られます。
そのため、課税売上高1,000万円以下で消費税を免除されてきた個人事業主も、取引先の都合で課税事業者になる決断を迫られるケースが見られます。同じ課税事業者になるのであれば、経費の範囲や控除等の違いから節税効果が期待される会社設立を検討する価値があります。
会社設立における税務上のデメリットや注意点
会社設立によって税務が変わると、節税効果が期待される一方で、状況によってはデメリットとなる恐れもあります。そこで、法人化の前に把握しておきたいデメリットや注意点を紹介します。
期待したほどの節税効果を得られない場合がある
会社を設立するには、設立時や運営に個人事業主の時と比べて設立時や運営に多くのコストがかかるため、節税効果よりも支出の増加が気になる場合もあります。
個人事業主は開業の届出だけで起業できますが、株式会社の設立には、定款の認証手数料3~5万円、登録免許税15万円~等がかかります。
また、運営時にかかるコストにも注意が必要です。例えば、法人が納める地方税の一つである法人住民税は、事業が赤字でも均等割として7万円以上を納めなければなりません。
また、会社を設立すると、代表者(役員)のみの場合でも、原則として社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が義務付けられ、保険料の半分を会社として負担することになります。
会計処理や税務申告の負担が増す
会社設立後は、個人事業主に比べて会計処理や税務申告が複雑化します。
- 法人税の申告:原則として所得税と同じ年1回の申告だが、数十種類の提出書類がある
- 法人税の会計処理:毎月の帳簿の締めや年度末の決算書類の作成等が必要
- 消費税の申告:課税事業者になれば年1回の申告を求められますが、前期の消費税額によっては中間申告も必要
他にも、毎月の源泉所得税や社会保険料の納付、算定基礎届等の書類提出等、日常的な手続きも増えます。
会計処理や税務申告は個人で処理するには複雑で負担が大きいため、税理士等の専門家に委託する法人も多くあります。委託する場合は、顧問料や報酬の支払いで支出が増えることになります。
会社員が副業で会社設立するなら会社へ事前に確認する
国の後押しもあり、副業を解禁する会社が増えるとともに、副業を始める会社員も増加しています。会社が副業を認めていれば、法律上、会社員が自分の会社を設立すること自体に問題はありません。しかし、会社の定める就業規則によっては、会社設立が就業規則違反になる場合もあります。
会社員の副業の認め方として、一定の制限のもと、副業を申告制や許可制、認可制としている会社が一般的です。
厚生労働省が作成している「モデル就業規則」でも、副業は届出制とされており、禁止事項や制限事項が設けられています。特に競業避止義務や秘密保持義務の観点から、会社設立が就業規則違反となるケースが考えられます。
もし会社設立が就業規則違反に該当すれば、勤め先で何らかの処分を受ける可能性があります。会社を設立する際は、勤め先の就業規則を守って必要な手続きを経ること、さらにこまめな相談や報告を忘れないことも重要です。
登記が完了したら速やかに銀行の法人口座を開設する
会社設立を決意して、法人としての登記が完了したら、銀行の法人口座の開設手続きを進めましょう。
銀行で法人口座を開設すると、様々な恩恵を受けられます。
- 会社と個人のお金を明確に分けられるため、財務健全性の高い会計処理を実現できる
- 社会的信用度が高まり、取引先からの信頼を得やすくなる
- 銀行や日本政策金融公庫等の法人向け融資を申し込みやすくなる
- 原材料や商品の仕入れ、備品の購入等に、法人カードを使える
法人口座を開設できる金融機関には様々な種類があるため、ご自身の事業に利用しやすく、適切なサービスが提供されているところを選びましょう。
会社設立時の法人口座開設ならみずほ銀行がおすすめ
銀行の法人口座開設なら、設立直後の会社にも手厚い支援やサービスを提供しているみずほ銀行がおすすめです。
全国47都道府県に支店を持つみずほ銀行なら、会社を設立した場所に関わらず申し込みやすく、口座開設後も事業のサポートを期待できます。
また、みずほ銀行はインターネットからの申し込みやウェブ面談等にも柔軟に対応しており、多忙な方でも空き時間を活用して申込手続きを進められます。一次審査の結果は目安として最長1週間ほどで通知されるため、スムーズな開設が期待できます。
法人口座には、インターネットバンキング(みずほビジネスWEB)、電子帳票に対応したみずほWEB帳票サービス、リアルタイム決済が可能なみずほビジネスデビットの無料付帯など、充実したサービスが付随しています。
会社設立により複雑になりやすい会計管理をスマートに進めるのに役立ち、正確な会計処理を通じて、適切な節税対策を検討するうえでの基盤となるでしょう。
まとめ
会社設立が税金対策とされる理由の一つは、所得にかかる税金が所得税から法人税に変わるためです。
所得税と法人税の税率を比べると、課税所得900万円あたりから、法人税の方が節税につながると見込まれます。
他にも、所得の分散、各種控除の利用、経費の範囲の拡大等により、法人化が節税になる可能性が挙げられます。
ただし、会社の設立時や運営にかかるコストで支出が増すと、考えていたような節税効果を得られない場合もあります。法人の会計処理や税務申告は、個人事業主よりも複雑で負担が大きいことも考慮しなければなりません。また、会社員の副業から会社設立をめざす場合、就業規則違反とならないように注意しましょう。
来店不要でいつでも開設可能(メンテナンス時間:日曜日 0時00分~9時30分を除く)
監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。