急増する外国人観光客の受け皿として、期待が集まる民宿の開業ポイント

東京オリンピックを控え、日本が観光地としての注目を浴びている中、訪日外国人観光客数は増加を続けています。これに伴い、外国人の延べ宿泊者数も大きく伸びてきています。しかし、人気の高い都市部のホテルでは、宿泊率が通年で80%を超えており、繁忙期における宿泊施設の供給は追い付いていないのが実情です。そのため、急増する外国人旅行者や多様化するレジャー需要の受け皿として、簡易宿所（民宿等、旅館業法により定められた小規模な宿泊所）などの役割が期待されています。
本稿では、そんな民宿を開業する際の方法について見ていきましょう。

人気の「農林漁業体験民宿」

グリーンツーリズムの人気の高まりを受けた農山漁村余暇法の改正により「農林漁業体験民宿」が法制度化され、注目されています。これは、旅行者が農山漁村に滞在し、農山漁村体験や地元の人たちとの交流などを楽しむタイプの民宿であり、地方の農林漁業者を中心に、登録開業する人が増えています。

民宿の特徴

民宿は、民家などを宿泊所として旅行者などに提供する施設です。一般的に、旅館業法によって規定されている「簡易宿所」に分類されるタイプのものが多くあります。また、前述の農山漁村余暇法の改正に伴い登場した農林漁業体験民宿も、新たな民宿として注目を浴びています。

民宿の強みとしては、大型旅館やホテルが参入しにくいような立地においても営業可能な点にあります。この利点を活かして、地方の名所旧跡周辺、山間部、海岸線などにおいて、観光客やハイキング・登山客、スキー客、釣り・海水浴客などをターゲットとした民宿が数多く開業されています。
また、少人数でも貸し切りに近い形で利用できる点が好まれ、大学のゼミやサークルなどの合宿先としても人気があるようです。
民宿事業で、安定した需要を確保するためには、宿泊客の固定客化が重要となります。地元の新鮮な食材を使った料理の提供や、体験型サービスの導入など、地域色豊かなおもてなしで差別化に取り組んでいるところもあるようです。
また、外国人旅行者を呼び込むために、古い日本家屋や蔵を改修した施設、日本酒を揃えたバーとの兼業、ハラルフードに対応した食事提供、着物着付け体験サービスといった様々な工夫を凝らしている例もあります。

民宿業態 開業タイプ

開業タイプとしては、ターゲットや目的により2パターンあると考えられます。

旅館業法によるタイプ

簡易宿所として登録し、主に観光や登山、釣り客など、幅広い利用目的の人達を宿泊者として受け入れるタイプです。

農山漁村余暇法によるタイプ

農林漁業の体験などを目的とする人たちにターゲットを絞って宿泊者を受け入れるタイプです。農林漁業者が兼業として開業するケースが多くあるようです。このように経営者が農林漁業者である場合は「農家民宿」とも呼ばれています。

開業ステップと手続き

開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれます。自宅を民宿として用いる場合は、物件取得のステップは含まれません。

必要な手続き

開業タイプによっては、簡易宿泊所の営業許可申請、または農林漁業体験民宿の登録を行う必要があります。また、料理を作って提供する場合には、飲食店の営業許可が必要になり、施設に1人、食品衛生責任者を置くことも義務付けられています。

メニュー・サービスの工夫

観光シーズンなど繁忙期のみに営業を行うところも多いですが、テニスコートなどの娯楽・スポーツ施設を有する民宿は、通年営業を行っているところもあります。そこで、周辺の観光資源、レジャー活動施設などを把握し、集客を図れるシーズンが年間でどれくらいあるのか調べておくことが重要です。
宿泊客の固定客化のためには、前述の通りサービスで差別化を行うという努力が必要となります。すると、一度利用してくれた人にファンになってもらえ、リピーター化が期待できるでしょう。
さらには、おもてなしに満足した外国人旅行者が、彼らの帰国後、口コミや旅行者向けサイト、母国のSNS等で、宿を評価・紹介することによる波及効果も期待できるでしょう。
また、利用者には次回以降に使える割引チケットを渡し（Eメール等で送り）、定期的にリマインドメールを出したり、友達紹介キャンペーンを実施したりするなどの取り組みも大切です。

農林漁業体験民宿の場合は、以下のサービスを提供することになります。農林漁業者が兼業で行う場合は、自事業場を提供すれば良いですが、農林漁業者ではない事業者が運営する場合は、地元の農林漁業者に協力を仰ぐことになります。

<提供するサービス（農山漁村余暇法 施行規則より）>

• 作業の体験指導（農作業、森林施業、林産物生産、山菜採取、漁労、水産動植物の養殖など）
• 農水産物の加工や調理等の体験指導
• 地域の生活および文化に関する知識の提供
• 農用地、森林、漁場の案内
• 余暇活動のための施設の提供

なお、上記サービスを提供する場合は、以下の点に留意が必要です。

<留意点（農山漁村余暇法 施行規則より）>

• 使用する施設の適切な管理、事故防止のために必要な措置が講じられていること。特に、漁労作業などの体験指導などを水上で行うときは、注意事項について利用者に事前に十分な説明が行われていること
• 利用者の生命または身体について損害が生じた場合の損害をてん補する保険契約または共済契約を締結していること

必要なスキル

民宿の案内は、ウェブサイトやSNSサイトのほか、出版社や自治体が発行している地域のガイドブック、観光案内、旅行専門誌、新聞・雑誌広告などで行うと旅行者の目にも留まりやすく、効果的です。
そこで、外国人観光客の誘致に際しては、訪日前に自国で宿を選んでもらえるように、海外の旅行者向けサイトなどに広告を出すとよいでしょう。例えば、有名な旅行者向けサイト『Trip Advisor』や、中国人向けの日本紹介サイト『日本漫遊』などに広告を出すことは大変効果的なようです。それと同時に、自社のウェブサイトは、宿の説明から申込予約まで、多言語での対応が可能な仕様にしてあることも求められます。
おもてなしのマナーや料理は、民宿の重要要素です。このほか、接客対応スタッフには、地域の名所旧跡や祭事、伝統産業、名産品などについても説明できる知識を持っておくことが要求されます。また、外国人とのスムーズな意思疎通ができるよう、最低限の英会話能力や、外国語による読みやすいパンフレットをつくる工夫も必要となります。同時に、各国の文化や宗教なども理解し、適切に応対することも重要です。
さらに地域社会との良好な関係構築も必要です。地元の人たちの口コミや紹介で宿泊者を獲得することにもつながることもあります。とくに、農林漁業体験民宿は、地元の人達の協力なくしては成り立たちません。そのため、自治会活動や地元の祭事等にはなるべく参加し、地域社会での信頼づくりと人脈づくりも重要といえるでしょう。
民宿の運営事業者は、多くが零細規模です。繁忙期に1～3人のパートやアルバイトを雇う以外は、家族が従業者の主体となるため、家族の理解や協力も必要となるようです。

本コンテンツは独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営するサイト「J–Net21」（http://j-net21.smrj.go.jp/）内の記事「民宿」（https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/service/h014.html）を一部加筆・変更したものです。

上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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