リーダーの悩みを晴らす、「中国古典」の知恵~「菜根譚」の教え~
掲載日:2021年12月1日人材戦略
飲食業や旅行業を始め、新型コロナウイルスによって大きな影響を受けている企業が少なくありません。一刻も早く“いつもの日常”が戻り、外食や旅行を楽しめるようになってもらいたいものです。
ただ、生きるための智慧が数多く盛り込まれている「中国古典」では、“非常事態だからこそ見えてくるものがある”と教えます。本稿では、そんな「中国古典」から、経営者に役立つ言葉をご紹介します。
緊急事態だからこそ見えてくる、人の本質
「中国古典」の一つに、『資治通鑑』があります。これは、紀元前400年頃から959年までの間の史実の中から、司馬光が治世に役立つものを選び出して作成した歴史書で、『貞観政要』等とともに帝王学の書として古くから親しまれてきました。
その中の一節をご紹介しましょう。
「疾風に勁草を知り、板蕩に誠臣を識る」
これは、強い風が吹いて初めて茎の強い草が分かるように、天下が乱れて、初めて忠誠を尽くす臣下が分かるという意味です。
コミュニティの中にいるとき、人は多かれ少なかれ仮面をかぶっているものです。少しでも自分を良く見せたい、本当の自分を知られるのが怖い。むしろ、常にすべてをさらけ出して生活している人はほとんどいないのかもしれません。したがって人の本質は、なかなか見えてこないものだといえます。
しかし、コロナ禍のような緊急事態に直面すると、自らを演出するような余裕はなくなり、その人が持つ気持ちの強さや対応力といった、秘められた力が表に出やすくなります。
例えば、ディナーのコースメニューしかなかった高級レストランがランチ弁当を提供し始めたり、旅行会社がネットワークを介してバーチャル旅行の提供を開始したりするケースがあります。
ここでは、現在置かれている状況下で何ができるのかを模索して決断、そして、活動を推進している中心人物がいるはずです。さらに、その周りには、自分にできることを探して、中心人物と一緒に危機を乗り越えようと力を合わせる人材もいるのではないでしょうか。
その逆で、現状のネガティブなところにばかり目を向けて嘆くだけの人もいます。
このように、緊急事態下では、普段分からなかった人の本質を見分けやすくなります。そして、ここで見極めた人材の資質は、コロナ禍後の経営でプラスになるかもしれません。
人材の能力を見極める難しさは、中国でも古くから認識されていました。
代表的なものは、韓愈の『雑説』にある「世に伯楽あり、然る後に千里の馬あり。千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」という一節はないでしょうか。
言葉の中にある伯楽とは、馬の良し悪しを見分ける名人のことです。したがって、この一節は、日に千里も走る名馬は、数は少なくともいつの時代もいるものですが、その名馬を見出してくれる伯楽がいなければ、馬も力を発揮することができないという意味です。
これを組織に置き換えれば、「能力のある人材がいても、上に立つ人に見る目がなければその能力が発揮されることはない」ということになります。
韓愈は中国唐代を代表する文人ですので、その頃から能力を見極める難しさが認識されていたということになるでしょう。
コロナ禍は、企業経営に暗い影を落としていますが、この危機によって人材の能力を見極め、組織作りに活かすことができれば、コロナ禍前よりも強靭な経営基盤を築くことができるかもしれません。
自分の“印象”を上手に活用するのが、育成のコツ
企業が長く存続するためには、人材が欠かせません。中国戦国期から漢代にかけて完成したとされている『管子』においても、その重要性が語られています。
「一年の計は穀を樹うるに如くはなく、十年の計は木を樹うるに如くはなく、終身の計は人を樹うるに如くはなし。一樹一穫なる者は穀なり、一樹十穫なる者は木なり、一樹百穫なる者は人なり」
これは、次のような意味になります。
一年の計を立てるなら穀物を植えるのが良い。十年の計を立てるなら樹木を植えるが良い。終身の計を立てるなら人物を育てるのが最も良い。一を植えて一の収穫があるのは穀物であり、一を植えて十の収穫があるのは木である、一を植えて百の収穫があるのは人である。
つまり、人を育てるのは時間のかかるものですが、百年の計を立てるには有能な人材が欠かせないということになります。
ただ、人を育てるのは難しいものです。叱り方一つとっても、方法を間違えると人は離れていってしまうものでしょう。そんな人間関係のコツについて触れているのが、中国古典の『菜根譚』です。
この中国古典は、リーダーシップや成功の秘訣が学べると、松下幸之助や田中角栄など多くの著名人が愛読していました。この『菜根譚』の全集にあるのが、次の一節です。
「威はよろしく厳よりして寛なるべし。寛を先にして厳を後にすれば、人はその酷を怨む」
これは、威厳を示すときには、初め厳しくして、後になるほど寛大な態度を示すのが良いという意味です。
人は最初の印象によって相手がどのような人物であるかの基準を作るものです。例えば、第一印象のときに不愛想で攻撃的な印象を持った人が、小動物を見て相好を崩して可愛がる姿を見せると、良い人に見えたりします。
しかし、温和で優しい印象を持っている人が同じように小動物を可愛がっていても、「思ったとおりだ」という感想しか抱かないものです。
つまり、人の評価や印象というものには、どうしても主観が混じってしまうということになります。そのため、最初厳しく接しておき、徐々に緩めていくと好印象を与えることができますが、その逆ですと、「私のことが嫌いになったのか」などと、部下の気持ちが離れていく危険性が高くなってしまいます。
最近は、厳しく叱ると部下が委縮してしまったり、パワハラを疑われたりして、チーム指導が難しくなっている時代です。それでも、注意すべきことをきちんと指摘した後で、褒めるべきところを褒めることで、相手に前向きな印象を与えるなど、『菜根譚』の教えを応用すれば、相手の気持ちを遠ざけることなく育てていくことができるのではないでしょうか。
強いチームを作るために、評価の影響も考える
最後にもう一つ、兵法書『三略』にある評価のコツも紹介します。
「一善を廃すれば、則ち衆善衰う。一悪を賞すれば、則ち衆悪帰す」
この意味は、善人を一人退けただけで大勢の善人がやる気をなくしてしまい、悪人を一人賞すると大勢の悪人が集まってくるというものです。
リーダーとして強い組織を作っていくためには、一人ひとりをしっかりと見極めて評価することが重要ですが、同時に一人を評価することによって、組織全体にどのような影響がおよぶのかというところまで考えを巡らせるべきだということを教えてくれています。
自社の状況を見つめ直して、チーム指導を考えていきたいものです。
(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)