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どうする?「最低賃金引き上げ」への対応

掲載日:2021年8月25日人材戦略

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厚生労働省「中央最低賃金審議会・小委員会」において、2021年度の「最低賃金」の目安額が決まりました。全国平均で28円の引き上げとなり、目安通りに実施されれば、時給930円となります。これは、昭和53年度に目安制度が始まって以降での最高額となり、コロナ禍で体力を奪われた企業にとっては、大きな重石になる可能性があるともいわれています。
本稿では、この動きへの対応策について考えていきましょう。

雇用形態に関係なくすべての労働者に適用。支払わないと罰則も……

「最低賃金」が時給930円へ……。こんなニュースが、7月に駆け巡りました。現在、賃金の全国平均は時給902円ですが、今回の引上げ率は、3.1%。この重さを痛感している経営者が多いかもしれません。

では、最低賃金とは何なのでしょうか。まずは、この意味を押さえておきましょう。
そもそも、日本には最低賃金制度というものがあり、国が賃金の最低額を定め、使用者は、その金額以上を労働者に支払わなければならないとされています。これが、最低賃金となります。

ここには、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
そして、「特定(産業別)最低賃金」の対象である場合は、「地域別最低賃金」と比較して、どちらか高額のほうが適用されるようになっているのです。

また、最低賃金については、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態に関係なく、すべての労働者に適用され、この対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金となり、通勤手当や残業手当、賞与などは含まれません。

もし企業が、従業員に最低賃金未満しか支払っていない場合には、企業はその差額を支払わなくてはならず、それが行われない場合は罰則もあります。
最低賃金法では、「地域別最低賃金」以上の金額を支払わない場合には、50万円以下の罰金が定められ、「特定(産業別)最低賃金」以上の金額を支払わない場合には、罰則(30万円以下の罰金)が定められています。

したがって経営者としては、今回の最低賃金アップが確定したときには、順守することはもちろん、それを実践するために、企業運営の見直しをする必要が出てくるかもしれません。

時給があがれば、働く時間・人数を減らさざるを得ない?

最低賃金を地域別に見てみると、最も低いのは秋田や高知など7県で792円、最も高いのは東京都で1,013円となっています(2021年7月時点)。
これまで、先進諸国の中で、日本の最低賃金は低水準とされてきましたので、この観点から考えると、今回の引き上げは評価されるべきことかもしれません。

しかしコロナ禍の現状、人の移動制限に関わるホテル・旅館業や観光業、酒類の提供制限や営業時間短縮などを強いられる飲食業界等は、大きな打撃を受けているといえます。
そして、こうした業界には、中小企業が多く、パートタイマーやアルバイト、契約社員など、非正規社員によって成り立っている場合もあるでしょう。

もし、目安通りに最低賃金が引き上げられ時給が上がることになったら、働く側にとっては朗報ですが、経営状態が厳しい企業にとっては、さらに打撃を被ることになるでしょう。
そして、それを回避するために、一人あたりの労働時間を減らすなど、雇用調整をせざるをえない企業が出てくるかもしれません。

そうなれば、結果として、働く側は時給アップの恩恵は受けらませんし、企業サイドも少人数で事業を動かしていかねばならず、人手不足に拍車がかかるようになるかもしれません。これでは、双方にとって、メリットは小さいといえるでしょう。

賃金引き上げ+設備投資などで「業務改善助成金」の利用を

では、人を雇う側である企業はどうしたら良いのでしょうか。
その対応策としては、突き詰めていけば、事業の生産性をとことんアップさせ、収益をあげていくことになります。そうすれば、企業にとっても、働く側にとってもメリットが生れてくるものです。それを実現するためには様々な方法がありますが、一つには助成金を活用することが考えられるでしょう。

例えば、厚生労働省による「業務改善助成金」というものがありますが、これは、最低賃金の引き上げにより、影響を受ける中小企業に対する支援です。生産性向上を目的とした設備投資などを行い、それによって最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その設備投資などにかかった費用の一部を助成するというものになります。

助成金額は、賃金引き上げ額と、その対象となる労働者の人数などによって異なっています。
「20円コース」「30円コース」「60円コース」「90円コース」の4つのコースがあり、例えば、「20円コース(20円以上の増額)」では、引き上げる労働者が1人の場合、助成上限額は20万円となります。
助成金の最高金額コースは、「90円コース」(90円以上の増額)です。また、引き上げる労働者が7人以上の場合で、助成上限額は450万円となります。

助成を受けるための要件は、以下の4点です。

  1. 賃金引上計画を策定し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げること
  2. 引き上げ後の賃金を支払うこと
  3. 生産性向上に役立つ機器・設備などを導入して業務改善を行い、その費用を支払うこと
  4. 解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと

ちなみに、上記③の「生産性向上に役立つ機器・設備などの導入」ですが、具体的にどのようなケースが該当するのか、以下に事例を紹介します。

  • 仕込みや調理の時間短縮によって「生産性向上」を実現したケース
    例1:食材スライサーの導入(飲食業)
    例2:業務用製氷機の導入(飲食業)
  • 精算業務を自動化して「顧客回転率」を向上させたケース
    例3:POSレジシステムの導入(小売り業、飲食業)
    例4:自動釣り銭券売機の導入(小売り業、飲食業)

このほか、

  • 専門家による人材育成・教育訓練によって効率が向上
  • コンサルタントによる業務フロー見直しによる顧客回転率の向上
  • リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮

といったケースがあります。

申請方法は、新型コロナの感染防止のため、厚生労働省は、なるべく郵送または電子申請で行うよう呼びかけています。また、過去に業務改善助成金を活用した事業場も助成対象となります。
本事業の期限は2022年3月31日ですが、予算を超える申請があると募集を終了する場合がありますので、申請する場合は早めにすることをおすすめします。

なお、「業務改善助成金」の詳細や最新情報については、厚生労働省のウェブサイトを参照してください。

おわりに

最低賃金の引き上げは、非正規社員を多く抱える中小企業には、特に頭の痛い問題でしょう。しかし、助成金等を活用し、しっかりと対応を考えることが重要です。
本稿で紹介した助成金のほかにも、厚生労働省では、中小企業・小規模事業者向けに「働き方改革推進支援センター」を開設しています。

ここでは、社会保険労務士などの専門家が、無料で経営者の労務管理上の悩みを聞き、賃金規定の見直しや労働関係助成金の活用などを含めたアドバイスをしてくれるのです。
47都道府県に設置されていますので、こうしたセンターも活用しながら、専門家と相談することによって、より良い解決策を見つけることができるかもしれません。

最低賃金のアップは、経営者にとっては負担が大きく感じられますが、それを成し遂げるためにも、事業の生産性と収益性を向上させていくチャンスにしていきたいものです。
“成長”のために、自社に合った対応策を練り、しっかりと準備を進めましょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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