中小企業における副業解禁のポイント
掲載日:2021年7月12日人材戦略
働き方改革の一貫で注目を集めた、副業の解禁。「副業元年」とも呼ばれた2018年当時、実際に解禁しているのは一部の大手企業でしたが、コロナ禍によるテレワークの広がりとともに、副業を認める企業が増えてきています。
中小企業においても副業の解禁は増えていますが、どのように対応すれば良いか悩む経営者も多いようです。
本稿では、事例を交えながら、副業のメリットとデメリット、解禁する際のポイントなどを解説します。
セミナー講師、ウェブ制作など副業の種類は様々
副業の広がりとともに使われる言葉として、「パラレルワーク」があります。
パラレルワークとは、パラレル(並行)とワーク(仕事)を組み合わせた言葉で、収入を得られる複数の仕事を持つことを意味しています。つまり、企業経営者から見れば、社員に対して、副業を持つ働き方を承認するといった考え方です。
まずは、どのような企業がどのような狙いでどのような副業を認めているのか、またどのような成果につながったのか、事例を見てみましょう。
<事例1:全国に営業拠点がある通信企業A社の場合>
副業の狙いは、「メリハリのある働き方」と「新しい取組や自己成長への投資」です。A社では、働き方改革の一環として、「時間・場所の有効活用」と「自己成長の促進」を掲げており、その具体的な方法として副業を認めています。
すなわち、副業によって、メリハリのついた働き方を意識するようになり、時間を有効に活用でき、また本業とは別の新たな仕事に取り組むことで、個人の成長につながるというわけです。
ただし、A社の場合は1年更新の許可制で、副業・兼業の内容は、ウェブサイト制作、メディアへの記事執筆、セミナー講師などのほか、スポーツクラブのコーチや知人の起業支援などと制約があります。
さらに、本業の業務時間内の活動は禁止とし、「本業に影響を与えず、本人のスキルアップにつながる」ことを条件にしています。
同社で副業をもつ社員にアンケートをとったところ、「自己成長につながっている」との回答が8割、「副業経験が本業にいかされている」と答えた人も半数にのぼったといい、狙いは達成できているといえそうです。
<事例2:従業員約100人のIT企業B社の場合>
ここではA社とは異なり、就業時間内にも副業を許可しています。正確にいえば、勤務時間のうち月間で最大20時間を、副業だけでなく、業務以外の勉強や趣味に活用して良い、という制度です。
本制度の狙いは個人のスキルアップです。担当者は、「積極的に制度を利用して、様々な経験を積んで欲しい」といいます。
B社ではもともと、社員には様々な経験やスキルを積ませるべきという思いがあり、副業も個別に承認していました。
個別承認されたある社員から、「副業での体験は本業でも役に立つので、もっと社内で奨励を」と経営者に訴えて、制度化につながったそうです。
制度利用には、活動内容や活動頻度、収入の有無などを記入した申請書を毎年提出してもらうようにしています。B社の場合、オンラインショップの運営など収入を得る活動の他、語学教室や大学通学、地域活動など「収入ゼロ」のスキルアップ活動も多く申請されています。
この制度を利用中の社員は、「時間管理ができるようになった」「本業では関わらないような人と接することが増え、対人スキルが磨かれた」とメリットをあげています。
中小企業でも多くのメリットあり
2社の事例から分かるように、企業が副業を解禁するメリットには
- 従業員のスキルアップにつながる(組織としての人材強化)
- 副業での学びを本業にいかしてもらう(組織としての新たな知見の獲得)
ということがあげられるでしょう。
さらに、副業を認めてもらうことで働く側のモチベーションアップにつながり、人材の獲得・流出防止にも効果を発揮するケースがあるそうです。
特に、「人材の獲得」に関しては、悩みを抱える企業が多いものですが、B社を見てみると、知名度が低い地方の中小企業であるにもかかわらず、人材募集要項に「副業OK」ということを記したことで、働き方への意識が高い若者から注目されるようになりました。さらに、新卒者も多くエントリーするようになり、優秀な人材獲得につながったといいます。
人材の「流出防止」については、現在の本業にとどまりながらも、別途、関心ある活動ができる環境を整えることで、本人が「必ずしも転職する必要はないのでは……」と感じるようになるということになります。
一方、副業のデメリットとして気をつけなければならないことは、
- 超過勤務の危険
- 企業秘密の漏洩
ということになるでしょう。
これらはしっかりとルール化し、場合によっては誓約書を交わすことも必要です。
特にA社のように、「本業の時間外」で副業を認めている場合、本人に時間的・体力的・精神的に余裕がないと、副業との両立は難しいでしょう。本業に支障が出てきてしまう懸念もあります。
その点を管理者は、十分注意を払う必要があります。
解禁する際のポイント
中小企業の経営者にとっては、「本業が多忙なのに副業なんて」と顔をしかめる方もいるかもしれません。しかし今後も副業解禁の風潮は高まると予測され、副業を希望する従業員も現れる可能性もあります。
そもそも副業するには、それなりの知力・体力・精神力が必要なため、「副業ができるくらいの人材が社内にいる」ことを、誇りに思ったほうが良いのかもしれません。
心得ておきたいのは、「そもそも、副業するかしないかは、労働者の自由である」というのが基本だということです。「副業禁止」は法律によるものではなく、企業風土や働き方の慣例からくるものです。裁判例などを見ても、基本的には副業・兼業を認める方向とすることが適当だとされています。
それを理解したうえで、後手後手にならぬよう、今から副業に対する方針を決めておくと良いでしょう。
副業を解禁する際に心がけておきたいことを以下に記します。
1. 就業規則の変更
就業規則などに「副業禁止」と明文化されていた場合は、「原則認める」などに変更して、副業容認を明記します。
2. 「義務違反」の場合は認めない仕組みを作る
副業には、前述の通り、情報漏洩の懸念が起こります。従業員には、秘密保持義務、競業避止義務がありますので、「義務違反を引き起こす副業を認めない」ということを明確に規定しておきます。具体的には、副業の申請があったら事前に審査してから許可をする、誓約書を取得する、などがあるでしょう。
3. 労働時間管理の考え方
2つ以上の事業所で働く場合、労働時間は通算されるので、その結果、時間外労働(残業)に該当すれば、割増賃金を支払う必要があります。ただ、現実的には、労使双方で負担があるとされ、「本業の使用者は、副業先の労働時間を把握しなくても法違反にはならない」と解釈されています。つまり事業者が把握していなければ、当然、残業代は支払う義務はありません。
とはいえ、労働者が長時間労働となって健康を害してしまわないよう、会社側は労働時間や健康状態を管理することはとても重要です。
おわりに
副業や兼業については、まだまだ、疑問を持つ経営者がいるかもしれません。
ただ、多様性の時代となった今、副業や兼業は、社員一人ひとりが柔軟にキャリアアップやスキルアップをすることができ、結果的には、企業にも還元されることになると捉えていく必要があるのかもしれません。
また、中小企業にとっては、限られた人材を活かせるチャンスだと考えて、副業解禁の制度設計を整えて、前向きに取り組んでみてはいかがでしょうか。
なお、厚生労働省では「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年改訂版)を公表しています。
本ガイドラインでは時間管理など労務関係についてまとめてありますので、参考にしてみてください。
(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)