働き方改革を実践するための「メンタリングプログラム」とは
掲載日:2018年12月03日人材戦略
一億総活躍社会に向けた「働き方改革」は、長時間労働の是正や労働生産性の改善に加えて、女性やシニアなども含めたすべての働き手が輝く職場環境の構築を目指した制度改革でもあります。旧態依然とした職場は、働く人の立場や視点を考慮した環境とは程遠いため、これからは多様な人材が活躍できる環境づくりの整備が必要だと言われています。
また、企業が持続的な成長を達成するためには、若手社員の人材育成も重要と考えられ、大手企業から中小企業まで、働き方改革の推進によって労働環境を整えるとともに、いかに人材を育てていくかが課題となっています。解決のための一つの方策として、「メンタリングプログラム」を導入している企業がふえてきています。本稿では、働き方改革を実践するための、人材育成としての「メンタリングプログラム」について紹介します。
人材育成に効果的な「メンタリングプログラム」とは
メンタリングプログラムは元来、1980年代以降の米国企業、とりわけ経営コンサルティング会社などで活用されていました。メンタリングプログラムを一言でいえば「企業内において、役職の上下関係とは切り離した形で、先輩が後輩に指導するしくみの見える化」です。
一方、日本におけるメンタリングプログラムは、女性の活躍を推進することを目的に、厚生労働省が支援している事業です。このため日本のメンタリングプログラムは、①女性管理職を増やしたい、②女性の活躍する業務領域を広げたい、と企業が望む際に効率的な成果を得られることが特徴です。
女性のリーダーシップを目的にメンタリングプログラム(メンター制度)を活用している国内企業は大企業から、社員数十人規模の中小企業まで数多く存在しています。その中には、新入社員の定着率向上を目指してメンタリングプログラムを取り入れている企業もあり、女性人材の育成はもとより、若年層の育成・定着を図る施策としても効果的と言われています。
メンター制度とロールモデル
メンタリングプログラムのしくみは「メンター制度」と「ロールモデル」の2つに分けられます。近年は、若手社員が入社後に組織にうまく適応できず早期退職してしまうケースも多く見られます。そうした問題を解決するために、メンタリングプログラムを導入し、先輩社員が若手社員にとっての「相談役」や「指南役」になれるようなしくみづくりを目指します。
メンター制度
メンターには能力・人間性ともに信用できる先輩社員が選ばれます。メンターはメンティと呼ばれる後任の相談を受け、効率的な業務の遂行方法を実践してみせたり、ときに個人的な悩み事を聞き受けたりするなど、メンティの内面にまで踏み込んだ「良き先輩役」となるのが目的です。これは上司から部下へという上意下達とは異なり、ときにブラザーやシスターとも言われるような斜め上の立ち位置からの助言役となります。多くの場合、メンターとメンティは1対1で向き合うことになるため、メンティの細かな点にまで気づき、教えてあげられることが特徴です。
ロールモデル
ロールモデルとは後任のメンティである社員が「私はこういう活躍をしている人になりたい」と思い描けるような人物像のことを指します。ロールモデルとなる姿は、必ずしもひとりが対象である必要はありません。たとえば、効率的に業務を進めている人だったり、産後に復帰して再度活躍している人だったりと多面的なものとなります。このため、メンターとメンティの関係は、プレゼンテーションのメンターや営業のメンターなど、それぞれのテーマの中で1対1でありながら複数人との関係となる形式も存在します。
いずれにしても、メンター候補の選定やロールモデルの策定、面談の実施から実践および効果測定などは企業側で導入し、制度化する必要があります。
「メンタリングプログラム」のメリット
メンター制度には、企業はもちろん、メンター・メンティ双方にとっても複数のメリットがあると考えられています。メンターはメンティである新入社員に生じがちな悩みや解決しにくい課題を汲み上げてあげることにより、効率的な業務の推進が可能になります。またこれは相互に連帯感を持たせると同時に、新入社員の離職率の低下へとつながることも意味します。
メンターとなる先輩社員も、後輩・後任のメンティに絶えず見られているという緊張感から、より一層責任感を持って業務を行うようになったとの声もあります。
「メンタリングプログラム」の課題
メンタリングプログラムにも課題はあります。メンタリングプログラムはあくまでも企業が導入する制度であり、しくみに欠陥があるとメンター・メンティの双方に悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、多忙な業務を遂行している先輩社員をメンターに任命した場合、わずかな時間を割いてメンティを指導したり、相談に乗ってあげたりしなければならなくなり、メンターに大きな負荷がかかってしまうことになりかねません。
また、しくみの欠陥はメンターへの負荷だけでなくメンティや企業側にも悪影響を与えることもあります。たとえばメンターが高圧的な性格だったり、人間性や業務能力に問題があったりすると、メンティが萎縮して大きなミスを犯したり、離職につながったりして深甚な被害が生じかねません。このため、メンタリングプログラムを導入するには、募集要項や面談から、人選、人材育成、風土環境の改善にいたるまで幅広い分野での制度改革を行うことが必要とされています。
若手の育成や多様な人材の活躍を後押し
一億総活躍社会を実現する「働き方改革」によって、女性やシニア、外国人など多様な人材が活躍できる環境づくりが進んでいます。その取り組みは、政府の施策にとどまらず、企業レベルでも進みつつあります。その中にあってメンタリングプログラムは、これから社会を担う若手社員の成長や定着を助ける効果的な施策と言えるでしょう。
上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。
(記事提供元:株式会社ZUU)