ページの先頭です
メニュー

メニュー

閉じる
本文の先頭です

従業員承継の方法と注意点

掲載日:2020年7月13日事業承継

キービジュアル

近年、中小企業における事業承継が増えてきていますが、経営者の子が事業を継ぎたがらず、親族内から後継者が見つからないことが増えているようです。こうした場合に、役員や従業員に会社を任せる方法が従業員承継です。「中小企業白書2019」によると、従業員承継を選択した会社は19.1%となっています。本稿では、親族内承継とは何が違うのか、従業員承継の方法と注意点を解説します。

従業員承継を成功させるポイント

従業員承継において重要なポイントは以下の通りです。

  1. 1.会社に詳しい人材に任せる
  2. 2.事業承継の計画を立てる
  3. 3.後継者の資金を確保する

1. 会社に詳しい人材に任せる

従業員承継の最大のメリットは、経営者が後継者を長らく一緒に仕事をしてきたメンバーから選べるという点です。「リーダーシップに長けていて、人望が厚い」「業務に詳しく、課題解決力が高い」「若いけれども勉強熱心で、成長余地が大きい」など、これからの会社に必要と思われる人材をピックアップしてみると良いでしょう。仕事においてある程度の実績を残している従業員であるため、育成の手間もかけずに済むことが期待できます。

また、長く働いている従業員であれば、会社の事業や業界の商慣習といった実務に加えて、企業理念や社風といった企業文化も理解しているでしょう。このため、ほかの従業員や取引先、金融機関からも後継者として受け入れられやすいと考えられます。

デメリットとしては、先代経営者の手法を踏襲する後継者が多いことだといわれています。経営環境の変化に合わせて新たな取り組みが求められる場合に、先代の手法を踏襲することで後手に回ってしまう恐れがあります。

また、経営者としての適性を見極めようと複数の候補者に競わせると、派閥争いにもなりかねません。後継者候補者の心情に配慮しながら選定作業を進めていくことが必要となります。

2. 事業承継の計画を立てる

どんな優秀な人材であっても、いきなり経営に携わって成功できる能力を持っていることは少ないでしょう。ですので、経営者として育成する期間が必要になります。

まずは、後継者として周知する期間を設けましょう。1年目は取締役として社内の役員や従業員と交流する、2年目は常務の立場で取引先を回る、3年目は副社長に昇格させて金融機関と交渉するといった具合です。この過程で、経営者としてどのように考えて判断しているのかを、後継者に伝授することが大切です。

同時に、人事評価制度など会社の体制を見直してみましょう。先代経営者が創業者で自らのカリスマ性で人心掌握をしているような場合、トップの判断に従業員が黙って従っていることがあります。ここで蓄積した不満が、事業承継とともに噴出する可能性も考えられますので、透明性、公平性のある社内制度を整備しておく必要があるでしょう。

最後に、経営全般に関する学習支援をしましょう。実践は欠かせませんが、後継者にセミナーや勉強会などに出席してもらい、経営戦略、マーケティングや人事、財務、組織運営、心理学といった知識や技能を磨いてもらうのです。また、こうした場で出会った新たな人脈が後継者にとって大きな価値となるでしょう。

3. 後継者の資金を確保する

従業員承継で最も大きなハードルは、後継者の株式取得といわれています。従業員に自社株式を渡すには、経営者は不慮の事態に備えるために必ず遺言書で明言しておく必要があります。この際、相続人の遺留分も考慮しておきましょう。親族外に自社株式を相続や贈与で譲ることについては、経営者が親族の合意を得ておかなければ、内紛につながる恐れもあるからです。

後継者と経営者の親族との関係を調整するために、無議決権株式や配当優先株式などを活用して自社株式を相続人などに分配する手法もあります。経営承継円滑化法に基づく金融支援、事業承継に伴う相続税・贈与税への対策については、従業員承継でも利用できるので積極的に検討したいところです。

相続や贈与ではなく、経営者が後継者の従業員へ有償で自社株式を譲渡するケースも多いようです。後継者にとっては、その取得資金の確保が課題となります。だからといって、減額すると、経営者の退職後の資金が少なくなってしまうので、解決策としては、後継者から経営者へ分割で支払う、金融機関やファンドから資金を調達するなどが考えられます。

もし経営者が自社株式を保有したまま、会社を後継者に委ねると、「所有と経営の分離」が発生してしまいます。これでは経営者と後継者の意見が異なる場合、従業員や取引先などがどちらに従えばいいのか、混乱する原因となってしまいます。中小企業であれば、所有と経営の分離は避けたほうがいいでしょう。

最近では、資金力の少ない経営幹部に事業を引き継ぐための新たな方法として、MBO(経営陣が参加する買収)ファンドを利用した事業承継が登場しています。MBOファンドとは、オーナー経営者や親会社が保有する株式をファンドが買い取り、経営は新たにトップに就任する幹部社員などに任せて、数年後の株式公開やM&A(合併・買収)で投資資金を回収する仕組みです。
これまでは、売上が数十億円を超えるような規模の企業を対象とするファンドが多かったのですが、最近は売上が10億円前後の会社に積極的に投資をするファンドも出てきています。

以上のように、従業員事業承継を進めるにあたっては、後継者候補者の選定から始まり、事業承継計画の立案、後継者の資金確保に至るまで、検討すべきポイントが多くあります。来るべき時に備えて、事前準備の参考にしてみてはいかがでしょうか。

本コンテンツは独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営するサイト「J–net21(https://j-net21.smrj.go.jp/index.html)」内の記事「経営ハンドブック(https://j-net21.smrj.go.jp/handbook/succession/employee.html)」を一部加筆・変更したものです。

上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

当初作成日:2019年9月30日

その他の最新記事

ページの先頭へ