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2018年7月に成立した相続法の改正で何が変わるのか?

掲載日:2019年2月4日事業承継

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2018(平成30)年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」の改正案が参院本会議で可決・成立しました。この改正により、家主が亡くなった場合にも配偶者は引き続きその家に居住しやすくなったり、また、遺産分割の仕方が変わったりする等、広範な見直しが行われています。

本稿では、1980(昭和55)年以来およそ40年ぶりの見直しとなる今回の改正により、相続手続き等にどのような影響が生じるのかを解説します。

「配偶者居住権」によりバランスの良い相続が可能に

例えば父親が亡くなった時、自宅は母親が相続して住み続け、代わりに預金等他の財産は子供が相続するケースが考えられます。しかし、母親としては自宅だけを相続しても生活資金に不安が残ることもあるでしょう。この課題を解決するために登場したのが「配偶者居住権」という考え方です。

「配偶者居住権」とは

「配偶者居住権」は、配偶者が自宅に住み続けることが出来る権利のことです。
これにより、母親は自宅に対する「配偶者居住権」を相続し、子供は母親を住まわせるという「負担付の所有権」を相続します。

(事例)

  • 被相続人:父親
  • 相続人:母親、子
  • 相続財産:持ち家 2,000万円
    預貯金 3,000万円
  • 母親の法定相続分:2,500万円(相続資産の1/2)
  • 子の法定相続分:2,500万円(相続資産の1/2)

父親が亡くなり、相続財産に2,000万円の持ち家と3,000万円の預貯金が発生したとしましょう。残された家族は配偶者である母親と、一人の子供です。配偶者・子供の法定相続分はそれぞれ1/2と定められているため、もしも被相続人の配偶者である母親が2,000万円の持ち家を相続した場合、母親が受け取れる預貯金額はどうなるでしょうか。従来の相続制度と新制度とで比較してみましょう。

(1)従来の相続制度の場合

従来の相続制度で母親が持ち家を相続すると、母親の法定相続額2,500万円-持ち家2,000万円=母親が相続出来る預貯金は500万円となってしまいます。

受け取れる預貯金額が500万円では、たとえ持ち家に住み続けられたとしても、母親の今後の生活は心もとないと言わざるを得ません。

(2)新制度を活用した場合

一方、新制度で母親が持ち家を相続する場合、配偶者居住権の取得により、住居を居住権1,000万円と負担付の所有権1,000万円に分割出来るようになり、母親の法定相続額2,500万円-配偶者居住権1,000万円=母親が相続出来る預貯金1,500万円となります。

なお、子供の相続分については子の法定相続額2,500万円-負担付の所有権1,000万円=子が相続出来る預貯金1,500万円となります。

従来の制度においては、母親が自宅を丸々所有するという考えでしたが、新制度においては、母親は配偶者居住権で自宅に住むと同時に所有権を確保し、また子供も負担付の所有権として同様に自宅の所有権を確保することになったのです。

母親が「配偶者居住権」を取得することで、母子間で財産をバランス良く相続することが可能となります。事例のケースでは3,000万円ある預貯金を母親と子供とで1,500万円ずつ分けられるようになりました。

「配偶者居住権」は、残された配偶者が安心して生活出来るよう、住む場所と生活費とも相続が可能となるように設けられた制度と言えるでしょう。

一定の条件下では遺産分割における「持ち戻しの免除」が可能に

長年連れ添った配偶者を保護するための見直しは、遺産分割の場面でも見られます。持ち戻し(もちもどし)という制度の改正がそれに該当します。

持ち戻しとは、生前に財産の贈与等があった場合でも、相続時には遺産を前もって受け取ったものと扱われることを指します。つまり、配偶者の将来の生活を考えてせっかく生前に不動産等を贈与しても、遺産の先渡しとして取り扱われるため、遺産分割時にはその受益分を相続財産に持ち戻したうえで財産分配することとなるのです。

持ち戻しには課題があった

持ち戻しとは、簡単に言えば「生前贈与が多い人は、公平を期するため、遺産の取り分を減らします」ということです。

一見すると、これには何も問題がないように思えます。しかし、例えば相続人が逝去する前に、被相続人が同居している配偶者に持ち家を贈与したとします。すると被相続人の逝去後、それは通常持ち戻しの対象となってしまうため、預貯金等、自宅以外に配偶者が受け取る遺産が少なくなってしまう場合があったのです。

これまでの制度では、持ち戻しを望まない場合には、被相続人が持戻免除の意思表示をする必要がありました。しかし今回の法改正では、例えば、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅等の居住用不動産の生前贈与があった場合、持戻免除の意思表示があったものと「推定される」として、持ち戻しをする必要がなくなりました。

また、相続された預貯金について、遺産分割前でも一定の割合で払い戻しが受けられる「預貯金債権の仮払い制度」も創設されています。

これまでは被相続人が逝去した後、遺産分割が終わらないと被相続人の預貯金を引き出すことが出来ませんでした。そのため、被相続人が逝去したにも関わらず、相続人にお金がないため、配偶者の生活費や葬儀費用の捻出等に問題が生じるおそれがあったのです。

しかし新制度になることで、相続財産の公平性を図りつつも、配偶者の生活費や被相続人の葬儀費用等は、被相続人の財産から仮払いを受けることが出来るようになったのです。

自筆証書遺言が簡便に。パソコン等での財産目録の作成も可能

遺言に関する制度にも改正があります。これまで自筆証書遺言では、遺言の本文に加え財産目録についても自署(手書き)する必要がありましたが、不動産や預貯金等の財産目録を一つひとつ自筆で行うのは大変な手間です。このため、2019年1月13日より、財産目録についてはパソコンや代筆、また通帳のコピーの添付等でも認められるようになったのです。

また、自筆証書遺言を法務局で保管する制度も設けられます。自筆証書遺言は、公証役場で原本が保管される公正証書遺言とは異なり、遺言書そのものを紛失したり、またその存在自体が相続人によって隠匿されたりする恐れもあります。今回の保管制度は、そのようなリスクを回避すべく創設されたものと言えます。

改正を通じ、より満足出来る相続を

以上のように、法律の改正による見直しの範囲はとても広いものとなっています。こうした見直しをうまく活用することで、相続人同士がより満足出来るバランスの取れた相続をスムーズに行うことが出来るでしょう。

上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。
(記事提供元:株式会社ZUU)

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