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「ギリシャ神話」に学ぶ、組織を導く知恵

掲載日:2022年2月1日事業戦略

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多くのリーダーが、部下や後輩のマネジメントに頭を抱えているのではないでしょうか。マネジメントスキルを表す言葉は知っていても、それが何を示しているのか理解し、実践しなければ意味がありません。
本稿では、そんな悩みを解決するヒントになるような、「ギリシャ神話」から作られたビジネス用語を、背景にある逸話とともにご紹介します。

答えを教えることは、教育ではない

近年、「メンター制度」を導入している企業が増えているようです。
これは、業務経験を積んだ先輩であるメンターが、指導対象となるメンティを一対一で導く育成手法の一つです。

育成にあたっては、メンターがメンティの抱える課題や疑問すべてに対して、直接的な答えを与えてしまうのは間違いでしょう。それは教育とはいえず、いつまで経ってもメンティが成長することはありません。
では、メンターの役割とは一体何でしょうか。

この制度の源流を辿っていくと、ギリシャ神話に登場する「メントール」という人物に辿りつきます。
メントールは、トロイア戦争における英雄・オデュッセウス王の親友。彼がトロイア戦争へ出征する際、特に息子・テレマコスについて、メントールに後事を託すほどの仲でした。

トロイア戦争は、スパルタの王妃・ヘレネが、トロイの王子・パリスに誘惑されたことに端を発して勃発した、大戦争です。終結までに10年もの月日を要しました。
しかも、オデュッセウスは戦後、自国であるイタケ島へと戻る道中、ポセイドンの怒りを買って帰路を阻まれるなど、様々な苦難に遭遇。帰還まで、更に10年もかかることになってしまいます。
つまり20年間、メントールとテレマコスは一緒に過ごしていました。

ギリシャ神話において、メントールは良き指導者であり、良き理解者であり、良き支援者だったと語られています。
そんな彼がメンター制度の語源となったのは、フランスの作家・フェヌロンが書いた『テレマックの冒険』が契機でした。

『テレマックの冒険』は、艱難辛苦を乗り越え成長していくテレマコスと、彼に寄り添いながら思慮深く、ときに厳しく叱責することで、テレマコスを導くメントールの物語。
そのエピソードを読んでいくと、現代のメンターに通じる指導の様子が伺えます。

例えば、長年戻らないオデュッセウスを捜すための旅に出たテレマコスは、嵐にあって漂着したカリプソ島で、手厚いもてなしを受けます。あまりの歓待ぶりや快楽に、魅了されそうになるテレマコス。
そんな彼に対してメントールは、トロイ戦争の英雄であり、偉大な王であるオデュッセウスの息子としての在り方を問いかけ続けました。

ただダメだと叱ったり、制止したりするのではなく、テレコマスに「正しい姿とは何か」を考えさせることで、彼が道から外れることのないよう、オデュッセウスの息子に相応しい人間となるよう諭したのです。

また、二人の船が暴風に巻き込まれて、テレマコスが絶望したときには「真の勇気とは、どのようなときにも必ず何らかの手段を見つけること。死を恐れず、目の前の危機を撃退するため、あらゆる努力を試みなければならない」と、一歩踏み出す心の強さが重要だということを伝えています。
解決法を教えるのではなく、それを見つけるための姿勢を指南しました。

信頼関係をベースにした導きが、人を成長させていく

このように、幾多の危機をメントールの導きによって乗り越えたテレマコス。
「私の気持ちを鼓舞してくれたのは、いつもメントールだった。彼によって、不撓不屈の気力が湧き出てくるのを感じる」と、メントールを深く信頼するようになりました。

この未熟な人物を熟練者が導くという関係性が、現在のメンター制度に色濃く受け継がれているのです。

メンターは自らの成功体験をロールモデルとして示したり、自分の人脈から人を紹介したりして、メンティ自身が考え、答えを導き出すための支援を行うのが特徴。
メンティは課題解決につながる方法を考えて実行し、壁を乗り越えることで自信を深め、仕事に対するモチベーションを高めることができます。

また、メンターは仕事以外の相談事にも対応するなど、メンティと中長期的な交流を重ねて、信頼関係を築いていく。いわば“師”のような存在になり、メンティの会社人としてのスキルだけでなく、人間的成長も支えるのが役割といえるでしょう。

そのため、メンター制度は新入社員の育成制度として、導入されることが多いようです。
しかし、多様性が求められる現代社会においては、新入社員育成に限定するのはもったいないかもしれません。

例えば次世代幹部社員の育成では、社内外の人脈をいかに築いていくかも重要ですが、人的ネットワークを座学で広げていくのは難しいでしょう。
そこでメンターがいれば、メンティの状況を把握しながら、自らの人脈から適した人物を紹介することができるかもしれません。

特に、昨今の職場環境においては、テレワークの普及により人間関係が希薄になりやすいことや、転職しやすく、人材を定着させることが難しいことが課題となります。信頼関係をベースとしたメンター制度を活かせば、社内のチームワークを醸成したり、メンターとメンティ、双方のエンゲージメントを高めることができたり、様々な場面で効果を発揮するのではないでしょうか。

象牙の乙女像を、強い思いで人間に変身させた男

人は誰にも見られず、誰からも評価されない状況で努力し続けられるほど、強い生き物ではありません。
それができる人もいますが、ごくわずかでしかないでしょう。

「ほめられたい」「認められたい」という欲求は、誰しも持っているもの。期待されていると感じれば、やる気が湧いてきます。気持ちが乗っているときは集中力もあがり、成果を出しやすいでしょう。
この心理的効果を「ピグマリオン効果」といいます。

ピグマリオン効果の由来は、帝政ローマ時代の詩人・オウィディウスの詩作『変身物語』に収められている物語。これは神話・伝説上の変身譚を語ったもので、ギリシャ・ローマ神話における集大成の一つともいわれている作品です。

ギリシャ神話に登場するキプロス島の王・ピグマリオン。
彼は、淫らな生活を送っているキプロスの女性に嫌気が差し、長い間、妻を娶ることはありませんでした。
あるとき、ピグマリオンは、自分が考える理想的な女性の像を象牙で作ります。

像に対する思いはどんどん強くなっていき、ヴィーナスの祭典が開かれたとき、ピグマリオンは捧げ物をして「象牙の乙女を妻として娶れますように」と祈りました。
その真剣な姿を見た女神・ヴィーナスは、祭壇の炎を三度燃えあがらせて、彼の願いを聞き入れたといいます。そして、ピグマリオンは人間に変身した理想の女性と結婚し、子供にも恵まれたそうです。

この逸話を基に、期待すれば人のパフォーマンスがあがるという心理現象を、ピグマリオン効果と名付けたのです。

ビジネスシーンにおいてピグマリオン効果を実践するのは、さほど難しいことではありません。
相手の努力している姿や、評価できる一部分だけでも良いので、まず、褒める。
上司や先輩という立場にいる人間が、部下である自分のことをしっかりと見てくれている、理解してくれていると感じさせることが重要です。

その上で、期待感を言葉にして伝えてあげてください。「君ならできる」など、ポジティブな言い回しを心がけるようにしましょう。
「できなくても大丈夫。そのときは相談して」というような、ネガティブな表現は含まないようにすることがポイントです。

人によっては、厳しく注意されたり叱責されたりすると、委縮してしまうこともあるでしょう。
それでは、本来のパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。

そんな部下を育てるときは、ピグマリオン効果を活用してみると良いでしょう。
例えば、仕事をお願いするとき、相手の能力やキャパシティをよく理解したうえで、達成に少し努力が必要なミッションを与えてみるのです。そして目標を伝える際に、必ず忘れずに、期待を示す前向きな言葉を添えてコミュニケーションをとります。
また、ある程度、裁量を持たせることも有効です。

「最近の頑張りを見ていて、あなたなら上手くやれると思う。細かい部分は任せるから、ぜひ取り組んでみてほしい」
こんな仕事の渡し方をすれば、想像を超える、驚くような成果をあげてくれるかもしれません。

おわりに

部下や後輩を指導する際に、始めから正解を提示することは簡単です。目の前の仕事を作業的にこなして欲しい場合は、それでも良いでしょう。
しかし、将来的に活躍できる人材を育成したいなら、メントールのように「賢明で信頼のおける助言者、指導者」になるべきではないでしょうか。
また部下や後輩とコミュニケーションを取るだけでなく、期待を示すことで、成長を促すことや仕事の質を高めることができます。
本稿を参考に、組織内のマネジメントを見直してみてはいかがでしょうか。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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