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リーダーの悩みを晴らす、「中国古典」の知恵~王陽明の“志”~

掲載日:2022年1月6日事業戦略

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日々大きく変容する社会情勢の中で、先が見えづらい状況が続いています。企業をリードする経営者はもちろん、従業員にも底知れぬ不安が広がっているかもしれません。
本稿では、激動の歴史を生き抜いてきた先人たちの、知恵が込められた「中国古典」から、今、経営者に役立つ言葉をご紹介します。

志なき組織は、舵のない舟のようなもの

先日、国のリーダーを決める自民党総裁選が行われ、それに続いて衆院選が実施されました。候補者それぞれが政策を打ち出し、日本をどのように導いていくのかについて熱く語っていましたが、その様子を見るにつけ、リーダーにふさわしい資質とは何か、という疑問が湧いてきます。

リーダーならば、今後、状況がどのように移り変わっていくのかを見抜く先見性は必要でしょうし、想定される問題・課題の対策を立てる戦略立案力や、それを叶える実行力も欠かせないでしょう。描いた戦略を絵空事で終わらせないためには、組織をまとめてけん引する統率力も重要です。
ただ、いずれもそれぞれの能力に秀でた補佐役が要所を占めれば、事足りるような気もします。

この疑問に対して、中国明代の儒学者であり、陽明学を起こした王陽明は、「志」こそ重要だと説きました。

「志立たざれば、舵なきの舟、くつわなきの馬の如し。漂蕩奔逸(ひょうとうほんいつ)して、終にまた何の底(いた)るところぞや」

これは、「志を立てていなければ、舵のない舟やくつわのない馬のようなものだ。波にもまれて漂うばかりであったり、馬が好き勝手に走り回るばかりであったり、どこへ行きつくのか分からない」といった意味です。

広辞苑によると「志」とは、「心の向かうところ。心にめざすところ」とあります。平たくいえば、「こうありたい」「こうしたい」と強く心に決めた目標、めざすべき到達点といったところでしょうか。

リーダーたるもの、あるべき姿、めざす行き先をはっきりと示し、メンバーが迷わず進んでいけるようにすることが大事だといえます。確かに、優秀な人材がそろっていたとしても、目標とするところが明確になっていなければ、組織はまとまらず、“個”の力を超えることは難しいかもしれません。

企業に置き換えてみると、志は、企業理念やビジョンにあたるものです。多くの企業が掲げており、自社サイトなどでアピールしていることもあるでしょう。しかし、社内にはあまり浸透していないというケースが、少なくありません。
理念やビジョンは志であり、従業員に進むべき道を示す大切なものですから、まずは社内全員にきちんと理解してもらう必要があるのではないでしょうか。

持続的に成長するには、継続的な努力を積み重ねるしかない

「現状維持は衰退」といわれるように、企業が存在し続けていくには会社だけでなく、従業員の持続的な成長が欠かせないでしょう。しかし、「これをすれば能力が2倍になる」といった魔法のような方法などあるわけがなく、日々の積み重ねでしか人は成長することができません。

誰に強制されるでもなく自らを管理して、黙々と努力できる人ならば問題ありませんが、多くの人は、初めこそモチベーションを高く保てたとしても、時間とともに気持ちが萎んでいってしまうのではないでしょうか。目に見えて成長を実感できることは多くないため、志気を維持するのは容易ではないはずです。

一度気持ちが萎えてしまうと、「忙しいから仕方がない」と自分に言い訳するようになってしまうでしょう。けれども、『淮南子』には次のように記されています。

「学ぶに暇あらずという者は、暇ありと雖(いえど)もまた学ぶに能(あた)わず」

これは、「忙しくて勉強する暇がないという人は、暇ができても勉強しないものである」という意味で、こうなってしまうと再び気持ちを奮い立たせるのは、並大抵のことではありません。

中国の偉人といわれる人も、同じような悩みを持っていたのでしょうか。殷の初代王で、徳の高い治世を敷いたといわれている湯王は、毎日使う洗顔用の水盤に次のように彫り付けて、自戒したといいます。

「苟に日に新たに、日日に新たに、また日に新たに」

これは、「一日を新たな気持ちで、日々を新たな気持ちで、また一日を新たな気持ちで」という意味です。日々、気持ちを新たにして、今日という時間を有効に使い、修養に心がけるべきだということを教えています。気の緩みの裏には、惰性や慣れがあるものでしょう。それを防ぐため、「昨日までの自分は昨日で終わり、今日はまた気持ちも新たに頑張ろう!」と気持ちをリフレッシュさせることで、モチベーションを維持していたのだと思います。
第四代経団連会長を務めた昭和の大経営者、土光敏夫氏は、この言葉を座右の銘にしていたそうです。

もう一つ、日々の積み重ねの大切さを説いた名言として、『四書』の一つである『中庸』にある一節を紹介します。

「人一たびしてこれを能くすれば、己これを百たびす。
人十たびしてこれを能くすれば、己これを千たびす」

「秀でた人が1回やってできたことでも、100回繰り返せば、凡人である自分にもできるようになる。秀でた人が10回やってできたことでも、1,000回繰り返せば、できるようになる。つまり、徹底した努力を積み重ねることができれば、誰でも目的を達成できる」ということです。

ひとたび、従業員の間に、こうした前向きに取り組むマインド、自ら成長を望む風土が根付けば、それは後進へと受け継がれていき、企業の存続を確かなものにしてくれるかもしれません。これと同じような一節が、たゆみない努力の持続を重視し、努力次第で人は聖人になれると説いた『荀子』にも記されています。

「蓬(よもぎ)も麻中に生ずれば、扶けずして直し」

「土にへばりつくよう生えている蓬の草でも、麻の中に生えればまっすぐに育つ」という意味になります。人も同様に、周囲の環境の影響を強く受ける動物で、良い交友関係に恵まれれば、それに感化されて優れた人間に育つものです。つまり、企業の成長を実現するいい方法は、優れた従業員を増やして、お互いが刺激し合える環境を整えることだといえます。

過度な制度は、モチベーションダウンの原因

組織を統制し、従業員らに効率的、機能的に動いてもらおうと考えると、ついつい制度やKPIなどの数値目標を整備したくなります。目標を明確にしてモチベーションを高め、小さな成功体験を重ねることで従業員の自信を育むという点では、これらは有効な手段の一つといえますが、何事も度が過ぎるとデメリットの方が大きくなるものです。

「天下に忌諱(きき)多くして、民いよいよ貧し」という一節が、『老子』にあります。「政治において、あれもダメ、これもダメと禁令が増えれば増えるほど、人民の生活が貧しくなっていく」という意味です。

企業も同じではないでしょうか。例えば、経費節減のために締め付けばかりしていては、一時的に利益が出たとしても、社員のモチベーションが下がってしまい、売上が落ちてしまうかもしれません。制度で縛り付け過ぎることも同様です。最悪の場合、窮屈な環境に嫌気がさして、会社を辞めてしまうかもしれません。
これでは、長期的な成長など望めるはずもないでしょう。良かれと思った制度改革であっても、行き過ぎではないか、従業員に過度な要求をしてはいないか、しっかりと吟味することが肝要です。

おわりに

今回は、中国古典から、リーダー経営者に役立つ言葉をご紹介しました。
ビジネスで迷ったとき、悩んだとき、そして、苦しんでいるとき、中国古典からは、道を切り拓くアイデアが見つかるものです。
ぜひ、今後の参考にしてみてはいかがでしょうか。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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