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対策は万全? 「パワハラ防止法」4つの義務

掲載日:2021年12月1日事業戦略

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2020年6月1日に施行された「パワーハラスメントの防止に関する法律」(改正労働施策総合推進法)。通称「パワハラ防止法」により、大企業では職場のパワーハラスメント対策が義務化されました。そして、2022年4月から、いよいよ中小企業もその対象となります。
本稿では、同法の概要とポイント、準備しておくべき事項について、解説します。

今さら聞けない「パワハラの定義」と、その注意点

パワハラ防止法とは、パワーハラスメント(以下、パワハラ)の基準を法律で規定し、防止措置の義務を企業に課すことで、対策の強化を促すものです。
2022年4月からは、中小企業もこの対象となり、経営者としては、より敏感に、かつ繊細な注意をしながら、従業員と接していくことが必要となります。

ただ、「うちには関係ない……」と思っている経営者の方が、まだいるかもしれません。しかしながら、パワハラは社会問題となっています。甘くみていると、自社を揺るがす事態にもなりかねません。
そのためにも、まずは厚生労働省が告示した「職場におけるハラスメント関係指針」(以下、当指針)を理解する必要があるでしょう。これによると、次の“3つの要素”をすべて満たすものが、パワハラとなります。

  1. 1.優越的な関係を背景とした言動
  2. 2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 3.労働者の就業環境が害されるもの

1の”優越的な関係“は、上司から部下へ、に限定して解釈されがちです。しかし、同僚や部下からの言動であっても、発言者が業務上必要な知識や、豊富な経験を有し、業務遂行に発言者の協力が不可欠である場合、パワハラの対象となることに注意しましょう。また、地位や能力に限らず、集団による行為で、抵抗や拒絶が困難なケースも同様です。
中小企業の経営者は、今後、組織全体を見渡す必要が出てきますので、しっかりと実践していきましょう。

2の判断にあたっては、受け手の心身状況や言動の頻度・継続性、行為者との関係などを総合的に考慮しなければなりません。問題行動を叱責する場合でも、そこに至る経緯や指導の様子などが重要視されます。
つまり、問題があると思われる従業員への声がけにも、きちんと言葉を選び、明確で丁寧な説明をする必要が出てくることになります。注意していきましょう。

3は、身体的あるいは精神的な苦痛を与えられ、就業環境が不快になることで、能力の発揮に悪影響が生じる行為などを指すものです。これは、受け手が、何を、どう感じるかという問題にも関わってきますので、従業員の事を把握した上で、接していくことが大切になります。
これについては、次項で具体例をあげます。

「パワハラの6類型」と、その境界線とは?

当指針では、「パワーハラスメントの6類型」も示されています。中には抽象的なものも含まれ、「業務上の指導」と「パワハラ」を明確に線引きすることは難しいでしょう。
客観的に見て「業務上必要かつ相当な範囲」だと判断されれば、パワハラには該当しないため、その違いを見定めることが必要です。

以下の6類型と、それぞれの典型例を参考にして、経営者としてすべきこと、してはならないことを理解するようにしてください。

1.身体的な攻撃(暴行・傷害)

〔該当すると考えられる例〕

  • 殴打、足蹴り、物を投げつける

〔該当しないと考えられる例〕

  • 誤ってぶつかる

2.精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

〔該当すると考えられる例〕

  • 人格否定や、性的指向・性自認に関する侮辱
  • 必要以上に長時間の厳しい叱責や、大声の威圧的な叱責を繰り返す

〔該当しないと考えられる例〕

  • 遅刻などルールを欠いた言動が、再三注意しても改善されないことを、強く注意する
  • 重大な問題行動を行った労働者に対して、強く注意する

3.人間関係の切り離し(隔離・仲間外し・無視)

〔該当すると考えられる例〕

  • 自身の意に沿わない労働者を、長期間にわたり別室や自宅で隔離する
  • 集団で無視をして孤立させる

〔該当しないと考えられる例〕

  • 新規採用者育成のために、短期間集中的に別室で教育を実施する
  • 懲戒処分を受けた労働者を復帰させるために、一時的に別室で必要な研修を行う

4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

〔該当すると考えられる例〕

  • 新卒採用者に必要な教育を行わず、到底対応できない目標を課し、達成できないことを厳しく叱責する

〔該当しないと考えられる例〕

  • 労働者を育成するために、現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
  • 業務繁忙期に、通常よりも一定程度多い業務の処理を任せる

5.過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

〔該当すると考えられる例〕

  • 管理職の労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
  • 気に入らない労働者に、嫌がらせのため仕事を与えない

〔該当しないと考えられる例〕

  • 能力に応じて、業務内容や業務量を軽減する

6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

〔該当すると考えられる例〕

  • 職場外での継続的な監視、私物の写真撮影
  • 性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報を、他の労働者に暴露する

〔該当しないと考えられる例〕

  • 配慮を目的として、家族の状況などをヒアリングする
  • 当人の了解を得て、性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報を、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す

パワハラは、以上の6つに分類されますが、ここにあげた例はあくまでも一部であるという認識を、忘れてはいけません。行為者にそのつもりがなくても、相手の受け取り方によってはパワハラになってしまうことを、心に留めておきましょう。

漏れなく行動を! 企業に課せられた責務

では、会社として実践すべき「パワハラ対策」には、どんなことがあるのでしょうか?
当指針では、以下の「4つの措置」を、企業または事業主が実施すべき義務として、明示しています。
経営者や関係部署は、以下の項目をしっかりと把握し実行するべきでしょう。

  1. 1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 2.相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 3.職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 4.1~3までの措置と併せて講ずべき措置

1~3では、相談窓口の設置や、再発防止の取り組みなど、各項目の具体的な施策が記載されています。
4は、相談者および行為者などのプライバシーを保護し、相談や苦情自体を理由に、解雇などの不利益な取扱をしないことを定めるものです。

ここで注目すべきポイントは、「4つの措置」の詳細をチェックすると、実はすべての項目で、「周知・啓発」が規定されている点だといえます。つまり、相談窓口を設けたり、新しい規則を制定したりしても、社内に広く知らされていなければ、打つ手として十分ではないとされるのです。

企業として「パワハラ対策」として、周知・啓発をしていると認められる例は、以下の3つとなります。

  1. 就業規則その他職場における服務規律等を定めた文書
  2. 社内報、パンフレット、社内ホームページ、啓発のための資料による広報
  3. 研修・講習

したがって、従業員に対しては、上記の方法で対策の内容を、全社的に伝達する必要があります。パワハラ禁止の旨や、どのような対処をするのか、また、相談窓口を設置していることや、相談を理由に不当な扱いを受けないことなどをアナウンスしなければなりません。
また、経営者としてアナウンスを実践していると考えても、それを従業員が理解していなければ、周知・啓発していることになりませんので、より深く、注意する必要があるといえます。

さらに、相談を受けた際にすぐ対応できるようにマニュアル策定や、プライバシー保護、人事部門との連携に関する担当者への研修など、経営者が指示すべきタスクは山積みです。
就業規則の変更や社内ホームページの更新、相談窓口の設置など、対策には時間がかかることから、早めに準備を始めると良いでしょう。

パワハラ防止法に違反したらどうなる?

求められる対策の義務を怠った場合、どのようなペナルティが与えられるのでしょうか。実はパワハラ防止法では、違反時の罰則は設けられていません。
ただし、事業主に対して、勧告や指導が行われたり、企業名が公表されたりすることがあるようです。

罰則がないとはいえ、パワハラが起こると、企業に大きなダメージを与えます。離職が増え、イメージが悪くなれば採用活動の妨げともなるでしょう。場合によっては損害賠償の請求や、取引先からの印象悪化につながるかもしれません。
一方、パワハラ対策をしっかりと進めておき、従業員が「働きやすい環境」を作れば、企業の成長につながっていくものです。

また、対策においては法律や指針に記載されていることに限らず、状況に応じた柔軟な対応が必要とされるでしょう。
不安や疑問に思ったことがあれば、厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」を活用することもできます。
本稿を参考に、自社のパワハラ対策について見直してみてはいかがでしょうか。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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