ページの先頭です
メニュー

メニュー

閉じる
本文の先頭です

「脱炭素時代」へ、今、経営者は何をすべきか?

掲載日:2021年11月1日事業戦略

キービジュアル

2010年10月、日本政府は「2050年までにカーボンニュートラルを達成する」と宣言。以来、脱炭素に関する報道を、連日のように目にするようになりました。脱炭素とは、気候変動の原因といわれる二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスの排出を防ぐために、化石燃料の使用を大幅に削減し、これをベースとした経済・社会モデルからの脱却をめざすものです。
そして、温室効果ガスの排出量と森林等による吸収量を同量にし、温室効果ガスを実質ゼロにするという発想が「カーボンニュートラル」の基本です。
本稿では、世界各国がカーボンニュートラルを宣言し、刻一刻と迫りつつある「脱炭素時代」――。その激動の時代を勝ち抜くために、今、経営者がすべきことについて考えていきましょう。

CO2を排出することが、「コスト」になる時代がやってきた!

「もはや環境対策は、経済の制約ではない」――。これは、2010年10月に日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言した際のメッセージです。
政府は、カーボンニュートラルは社会経済を大きく変革しつつ、投資を促し、生産性を向上させながら、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す鍵になる、としています。

それまでの日本では、SDGsがめざすような「持続可能な社会」の実現には、脱炭素等の環境規制が必要ではあるものの、それは経済成長とは両立しないという考え方が主流でした。つまり、「CO2の排出を削減する」イコール「コスト」だったわけです。
しかし、世界的な再生可能エネルギーの規模拡大とコスト低下により状況は一変。CO2を排出しない経済・社会モデルを構築しながら、成長を遂げることが可能となってきました。

こうした中、コロナ禍からの経済復興と連動させて、環境を重視した投資を通じて経済を浮上させようとする「グリーン・リカバリー」によって、脱炭素への道を政策の中核に据える国が世界的に続出しました。そして、EUやドイツ、カナダ、韓国等は2050年、中国は2060年に向けたカーボンニュートラルを宣言。
これらを背景に、気候変動対策だけでなく、経済競争力の観点からも、脱炭素への取り組みが必須という論点が出てくるようになったのです。

また、EUでは炭素規制が緩い域外からの輸入品に、新たな関税等を課す炭素国境調整メカニズムを検討し、2021年7月には、対象5品目をEUに輸出する際は、製品排出量に応じた支払いを2023年から義務化するという制度提案を発表しました。
すなわち、経済界における「CO2の排出を削減する」イコール「コスト」はもはや過去の話。逆に、今や「CO2の排出を削減しない」イコール「コスト」の時代が到来しつつあるようです。

企業の将来を左右する「カーボンプライシング」とは何か?

もう一つ、「CO2の排出を削減しない」イコール「コスト」の象徴ともいえるのが、「カーボンプライシング」です。2021年1月に前首相が施政方針演説で、成長につながるカーボンプライシングに取り組むと宣言したことで一気に注目が集まり、現在、環境省や経済産業省で議論が進められています。
カーボンプライシングとは、いうなれば「炭素に価格をつけて“見える化”する」こと。その主な手法としては、「排出量取引制度」と「炭素税」があります。

そのうちの「排出量取引制度」は、企業の一定期間の排出量に上限を定め、排出枠の取引を認める制度です。CO2の排出量が上限を下回った企業は余った排出枠を売却でき、逆に上限を超過した企業は排出枠を買う必要が生じます。
つまり、CO2の排出を削減できた企業には「売却益」がもたらされ、逆にCO2の排出を削減できなかった企業には「コスト」がかかるという仕組みです。

一方の「炭素税」は、炭素の排出量1トンあたりに対する課税のことです。日本では2012年に炭素税に相当する「地球温暖化対策のための税」が導入されましたが、その税率はCO2排出量1トンあたり289円。炭素税の税率は国によって様々ですが、スウェーデンは排出量1トンあたり約1万5,000円と極めて高い税率となっており、今後日本の炭素税の税率もあがると考えられます。

日本では馴染みがないカーボンプライシングですが、世界銀行の「Carbon Pricing Dashboard」によれば、2021年5月の時点で、世界の45ヵ国・35地域で炭素税または排出量取引制度が導入されています。
企業の将来を大きく左右するといっても過言ではないカーボンプライシング。近い将来導入されるとみられるこの制度に対し、経営者には早めの対策が求められています。

対応の遅れにより、サプライチェーンから淘汰される恐れも!

同時に、「CO2の排出を削減しない」ことは「コスト」だけではなく、重大な「リスク」になる可能性もあります。
その大きな要因となっているのが、自社だけでなく、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルをめざそうという世界的な潮流です。

この取り組みで先進的なアップル社は、自社のカーボンニュートラルを全世界の事業所で既に達成。それに加え、2020年7月には、2030年までにサプライチェーンにおいても100%カーボンニュートラルを達成すると発表しました。
また、同じくカーボンニュートラルを達成しているマイクロソフト社は、自社は2030年までにカーボンネガティブ(排出するよりも多くのCO2を除去すること)をめざすとともに、調達先には排出量削減計画の提出を求めています。

こうした動きは国内でもみられ、積水ハウスは2050年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを実現すると表明し、NTTデータは、2030年までに自社は2016年比60%減、サプライヤーには55%減を求めています。
また、2021年9月、日立製作所が2050年度までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルをめざすと宣言したのは記憶に新しいところです。

さらに、昨今、急速に伸びているESG投資やサステナブル・ファイナンスでも、企業の脱炭素への取り組み状況が重要な評価指標となってきています。
脱炭素への対応が遅れ、サプライチェーンから淘汰されたり、資金調達に支障が生じたりすることのないよう、企業規模の大小に関わらず、すべての経営者は脱炭素に向けた準備を整える必要があるのです。

今から、事業活動や中期経営計画に「炭素価格」を反映する

いよいよ始まる「脱炭素時代」。ここで勝ち抜くためのスタートは、自社の炭素排出量を“見える化”することです。まずは、自社がどれだけの炭素を排出しているかを把握しましょう。
自社の排出量を把握したら、再生エネルギーの調達や新技術の導入等によって、排出量をどれだけ削減できるかを推計します。そのうえで、カーボンプライシング導入による財務への影響を分析し、事業活動や中期経営計画に炭素価格を反映していくことが重要です。

例えば、長期的に使う設備の導入を検討する際に、石油を燃料とする安価な設備にするか、あるいは再生エネルギーを燃料とする高額な設備するかを迷ったとしましょう。目先のことだけを考えて安価な設備を選択した場合、その後カーボンプライシングが導入され、重い炭素税が経営を圧迫するといった恐れもあります。
そのため、今からカーボンプライシングの影響を考慮し、投資判断や事業活動を行っていく必要があるのです。

また、世界が注目する「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」を活用するのも有効です。TCFDは、将来の気候変動や政策変化等によるリスクやチャンスが事業や経営におよぼす影響を分析する、世界共通のフレームワークです。
これを活用し、カーボンプライシングによる操業コストや製品需要への影響等、様々な側面からリスクやチャンスを検討してみてください。

大切なのは、脱炭素は「コスト」であるといった短期的な視点にとらわれず、長期的な視点をもって戦略的に取り組むことです。そして、カーボンプライシングやサプライチェーン全体のカーボンニュートラルが適用されたときの対策をしっかり練っておきましょう。
それこそが、「脱炭素時代」を勝ち抜くために、今、経営者がやるべきことだといえるでしょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

その他の最新記事

ページの先頭へ