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リーダーの悩みを晴らす、「中国古典」の知恵~「貞観政要」の“三鏡”~

掲載日:2021年9月27日事業戦略

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多様化、複雑化する現代のビジネス状況。そんな中で、企業をリードすべき経営者の迷いや悩みは、より深くなっているといえるでしょう。そのようなとき、「中国古典」から知恵を得ることによって、解決策が見つかるかもしれません。
本稿では、いくつか「中国古典」を取りあげ、経営者に役立つ言葉をご紹介します。

リーダーが大切にすべき、「三つの鏡」

中国史上有数の名君といわれている人物の一人に、「唐」の太宗・李世民がいます。彼は軍事力を強化して勢力を拡大しただけでなく、律令制の整備など内政にも力を注ぎ、「貞観の治」といわれる平和な時代を築き上げました。
この太宗と彼を補佐した臣下たちとの政治問答をまとめた言行録『貞観政要』に、リーダーが大切にすべき三つの「鏡」について語られています。

一つ目の鏡は「銅の鏡」で、現在でいえば、姿見です。組織をまとめる立場にいるリーダーは日々、部下たちに見られています。そのため、リーダーの表情が曇っていたり、疲れていたり、イライラしていると、組織の雰囲気も悪くなりがちです。
部下たちは、リーダーの顔色をうかがうように働くことになりますし、士気もあがりにくいでしょう。だからこそ、リーダーたるもの自分の表情を確認して、部下たちの前にいる限りは明るく、元気に振舞うよう心がけるべきだといいます。

二つ目は、「歴史を鏡にすべき」だと説きます。どれほど優秀な人物であっても、未来を正確に予知することはできません。ただし、歴史は繰り返すという通り、過去の歴史を知っておけば、現在置かれている状況と照らし合わせながら、将来を類推することが可能ではないでしょうか。
その場の思い付きだけで、根拠もなく進む方向を決めてしまうリーダーでは、部下もついていくことに不安を感じてしまいます。そのため、過去を学ぶことで進むべき道を見極め、リスクを予測して対応策を用意しておくことが、リーダーの責任だといえるでしょう。

最後の三つ目が、「人の鏡」です。人は自分のことはなかなか分からないものです。そのため、ときに自分を諫めてくれる人を通じて、自分の間違いを知ることがあります。したがって、良きリーダーであるためには、裸の王様にならないためにも、たとえ自分にとって不愉快な助言であろうと、ミスや間違いをはっきり指摘してくれる人が欠かせないと説いています。

実は、太宗が名君であり続けられたのは、彼に諫言する部下たちの存在がありました。太宗は、ことあるごとに部下に意見を求め、自分に否があれば認め、良い提案は積極的に取り入れたのです。
特に、部下の中でも魏徴という者を非常に頼りにしており、彼が亡くなったときには、「人を鏡とすると、自分の行為の正誤が分かるものだが、私は鏡とすべき人物を失った」と悲しんでいます。太宗は、それほど諫言してくれる人物を大切にしていたのです。

「この人のためなら」と思わせるマネジメントを

「唐」の太宗・李世民から厚い信頼をよせられていた魏徴という人物は、もともと太宗の父であり、唐の初代皇帝である高祖・李淵に敵対する群雄に仕えていました。その群雄とともに李淵に下ってあまり日が立っていないとき、高祖・李淵にある献策をします。
内容は、別の群雄のところへ自分を派遣して、李淵の部下になるよう説得させてくれというものでした。

しかし魏徴は、献策しつつも、内心では許されないだろうと考えていました。もし、魏徴が裏切って説得に赴いた群雄と手を結んでしまえば、唐にとって、新たな脅威を生み出すことになってしまうからです。また、もともと仕えていた群雄に幾度も献策を却下されてきた経験から、とうてい受け入れられる献策ではないと、どこか諦めの気持ちもあったのでしょう。

ところが、高祖はこの献策を取り入れ、魏徴にその大任を任せました。
魏徴は、「季布二諾なく、侯贏一言を重んず。人生意気に感ず、功名誰れか復た(また)論ぜん(事を成し遂げようとする気概、意気込みに感じ入り、行動するのが人生である。そうであれば金銭や名誉欲などというものは誰が問題にするであろうか)」という詩を詠むような人物です。高祖の意気に感激して、持てる実力のすべてを発揮しようと奮闘したことでしょう。

人を動かす際、お金や名誉、出世など欲に訴えるのも一つの方法です。しかし、その場合、欲が満たされるとモチベーションもしぼんでしまうもの。それよりも、人として信頼され、「この人のためなら」と思ってもらえる関係性を構築するほうが、長い目でみるとより良いマネジメント方法といえるのではないでしょうか。

ちなみに、高祖の次男である太宗・李世民が、魏徴の忠誠を勝ち得たのは、前述した「三鏡」で説明したように、部下の意見を積極的に取り入れる姿勢の他、部下が意見を言いやすい雰囲気作りにも気を付けていたなど、人に対して細やかな気遣いのできる人物であったことも大きかったと思われます。
太宗は、自分の容姿がいかめしく、極めて厳粛であることを知っていたため、進言する百官たちが委縮しないように、必ず温顔で接したそうです。

閑(ひま)すぎても忙しすぎてもろくなことはない

近年は働き方改革に取り組み、ワークライフバランスを重視する企業が増えてきています。業務効率化と生産性向上を実現して、プライベートの時間を確保、充実させることで心身のバランスを保ち、公私共に質を高めていこうというものです。
実は、これと同じようなことを400年ほど前に説いている中国古典があります。洪自誠によってまとめられた随筆集『菜根譚』です。

この随筆集がまとめられた「明」の末期は、戦乱で世の中も政治も非常に乱れていました。おそらく官僚であっただろう洪自誠も、醜い政争に巻き込まれたのでしょう。
ただ、そのことを嘆くだけでなく、苦難の中で人間を観察し、たどり着いた処世術が『菜根譚』には数多く記されています。

その一つに、「人生はなはだ閑なれば、すなわち別念ひそかに生じ、はなはだ忙なれば、すなわち真性現れず。ゆえに士君子、心身の憂いを抱かざるべからず、また風月の趣に耽らざるべからず」というものがあります。
人間は閑すぎると悪いことを考えてしまい、忙しすぎると本来の自分を見失ってしまう。したがって、適度なゆとりを持つことで心と体を健やかに保ち、自然を楽しみ豊かな人生を過ごすべきだといった意味です。

たしかに、何もすることがない時間が長いと、過去の失敗などネガティブなことばかり思い出しがちです。忙しいときは充実感に包まれることが多いですが、度が過ぎると体を壊してしまいますし、精神的にも追い詰められてしまうでしょう。
つまり、どちらかに偏りすぎると、本来のパフォーマンスを発揮することが難しくなるわけです。これは自分自身についてもいえますし、リーダーであれば、部下がそのような状況に陥っていないかを意識しておく必要があるでしょう。

おわりに

今回は、中国古典から、リーダーの知恵なるエピソードを三つ紹介しました。ビジネスで迷ったとき、悩んだとき、そして、苦しんでいるとき、中国古典からは、道を切り拓くアイデアが見つかるものです。ぜひ、今後の参考にしてみてはいかがでしょうか。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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