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リーダーに新たな視点を!「産学連携」新手法

掲載日:2021年7月5日事業戦略

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大学が保有する人材・設備・研究成果などを活用し、企業において、新製品や技術の開発、技術力強化などにつなげる「産学連携」。
この言葉からは、規模が大きい、もしくは最先端の技術に関するもの、といったイメージを持つかもしれませんが、産学連携は、やり方次第、考え方次第で、そのハードルは低くなり、かつ企業にメリットをもたらすことが期待できます。
本稿では、手間と時間を要する技術面からのアプローチではなく、大学のゼミとタッグを組んで学生を派遣してもらい、新たな提案を得る手法を紹介します。

産学連携は、なぜ難しいのか?

産学連携の主たる目的は、「新たな技術・製品の開発」「大学の研究成果を事業化するため」といわれています。したがって、その本質的な狙いは、新事業の創出や新技術の開発といった“イノベーション”を起こすことだと分かります。

しかし、だからこそ、産学連携の実施を踏みとどまってしまう中小企業が多いともいえます。
ヒト・カネ・モノが潤沢にあるわけではない中小企業にとって、大学の“知”を活用できるのは大きなメリットですが、ある調査によると、産学連携に取り組んだ経験のある中小企業は、2~3割程度にとどまるそうです。

理由のひとつに、産学連携で「技術」「開発」にのみ焦点があたってしまうと、実際に新たな商品開発が見込めたとしても、市場に投入するために、時間や人手、そして資金が多く必要になるから、という点があります。
魅力的な技術や新商品を生み出したとしても、そこにかかったコストを回収するまでの道のりが、また大変になってしまう、そんなリスクがあるために、「そこまでしなくても」と、二の足を踏んでしまう経営者も多いのではないでしょうか。

求めるのは「技術」ではなく「新たな視点」

そんな従来の産学連携の形式や目的にとらわれずに、大学あるいは学生の“知”を、活かしている下町の中小企業A社があります。A社では、「新事業創出」や「技術開発」といったことではなく、「業務改善」「組織改革」という分野で、産学連携をしたのです。

この産学連携は、そもそも、ある大学の経済学部・ゼミの教授が、関係者から声をかけられたのが発端でした。
期間は1年間で、ゼミの学生たちがA社の現場訪問を重ねたり、打ち合わせをしたりして、最終的には、改善提案をA社にプレゼンするという、現場重視型の探求活動として進めることにし、ゼミ生の中から希望者を募ってスタートしました。

このA社は、従業員10人程度の部品メーカーで、大小様々な部品を作っています。受注納入にITを活用してシステム化を進めるなど改善を図ってきましたが、今一つ、生産性があがらないという悩みを抱えていました。

学生たちは、まず経営者にヒアリングして、事業内容と業界特性、そこから見えてくる課題などを把握。その課題を、「ヒト」「設備」など、何によって起こるものなのかを整理して一覧化しました。
そのうえで、それぞれの「原因」と、経営者の悩みである「生産性があがらない」ことの因果関係を分析したのです。

そして、複数のある因果関係の中で、最も取り組みやすく、成果が見込めるだろうと予測した課題解決に挑むことにしました。
現場を観察したり、従業員にヒアリングをしたりして、「その問題がなぜ発生するのか」を深掘りしていき、解決案を複数提案。経営者とも何度も議論し、その中で一番手軽で、コストもかからない方法を試してみることにしました。

ちなみに学生たちは、この実践の一方で、現場改善に必要な“学び”をゼミ教授から受けたり、外部セミナーを受講したりして、知識を蓄えていました。つまり、理論と実践の両輪で進めてきたわけです。
そうして、A社の現場の人たちにも協力してもらいながら、解決策に沿った改善を重ねた結果、生産性がアップしていきました。A社の経営者は、あらためて、このスタイルの産学連携に、かなりの手応えを実感しているそうです。

企業サイド、学生サイドにWin–Winの関係が生まれる

A社のような小さな町工場に学生たちが入り込んで、改善活動の一翼を担ったことは、企業にも学生にも、次につながるような思いを芽生えさせました。
以下は、A社の経営者や従業員の感想です。

  • 若い人たちが来てくれたこと自体で職場が活性化した
  • 新鮮な目で見てくれて、自分たちでは考えもしなかったアイデアを出してくれた
  • 経営課題や現場の課題を全従業員で共有するチャンスができた
  • 楽しく仕事をすることの大切さをあらためて実感した
  • 日常業務の中に課題解決のヒントがあることに気づかされた

一方、学生たちは

  • 机上の空論ではない、現場の実情を理解できた
  • 授業での理論を現場にどう活かすかを体得できた
  • モノづくりに興味が湧いた
  • コストとの兼ね合いなど、現実的な課題に対処する大切さを学んだ

といった感想を述べていました。

もちろん、産学連携として、学生に協力してもらったからといって、すぐに収益につながるわけではありません。しかし、大事なのは、凝り固まった思考ややり方を、全く違った角度からの指摘によって変えていくことだといえます。

既存のメンバーや業界団体からのアドバイスも、確かに参考にはなるでしょう。ただ、その会社、その業界をよく知らない第三者の、しかもこれから社会に出ようとする学生の目で見てもらうことで、新たな知見が出てくる可能性が、多分にあるものです。
こういった形での産学連携の実施によって、これまで、「自分たちが想像もつかなかったこと」の提案を得ることができ、自社の変革の契機になるかもしれません。

産学連携を実施するために……

今回の事例は、ゼミの教授が個人的に紹介されたことで始まりましたが、そうしたつながりをもっていなくても、企業側が大学へアプローチすることは、大学側からも歓迎されるはずです。
最近の大学には、「産学官金連携コーディネータ」や「リサーチ・アドミニストレーター(URA)」という立場の人がいるケースがあります。ただ、産学連携がまだ「技術」「開発」のイメージがあるように、こうした立場の人は、どうしても研究や技術開発の視点であることが多いものです。

そのため、大学側とは多少の交渉をする必要があるかもしれませんが、自社の成長・発展のためには、試してみる価値があると考えてみましょう。
また、実施のポイントとしては連携する先の学部にはこだわらないことです。先の事例でも、ゼミの学生は経済学部で、モノづくりや現場改善の知識は皆無でしたが、だからこそ新たな視点で解決策を考えられたのかもしれません。

産学連携になじみがない企業も、ぜひ参考にしていただき、チャレンジしてみてください。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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