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70歳まで定年延長!改正法のポイントと活用方法をご紹介

掲載日:2021年5月19日事業戦略

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2021年4月1日に施行された高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)。企業に対して、働く意欲のある高齢者が能力を発揮できるような環境整備を促し、70歳まで就労の場を確保することを努力義務とする規定が盛り込まれました。
本稿では、上記改正法のポイントをお伝えしつつ、シニアに活躍してもらうため中小企業が留意すべきことについて、事例を紹介しながら解説します。

「他社への再就職」「業務委託」「社会貢献事業」の選択肢が追加

もともと、企業では65歳までの雇用が義務づけられています。その根拠が、2012年に改正された「高年齢者雇用安定法」です(2013年施行)。
このときの改正で、企業は「65歳までの定年延長」「定年後65歳までの再雇用」「定年廃止」のいずれかを選んで希望者を雇用し続けなくてはならなくなりました。

今回2021年4月のさらなる改正により、現行の「65歳までの雇用確保」の「義務」に加え、「70歳までの就業確保」の「努力義務」が付け加えられました。「必ずしなければならない」義務ではなく、「努めなければならない」義務であり、罰則があるわけではありませんが、行政指導の対象となることもあるため、しっかり対応をしておきたいものです。

また、今回の法改正では、「定年延長」「定年後の再雇用」「定年廃止」に加え、新たに「他社への再就職」や、個人事業主として仕事の契約を結ぶ「業務委託」、さらには「社会貢献事業」(有償)等の選択肢が加わりました。

「業務委託」や「社会貢献事業」は、高齢者に対して雇用以外での就業の機会を与える「創業支援等措置」として位置付けられています。創業支援等措置を実施する場合には、「計画を作成する」「過半数の労働組合等の同意を得る」等の手続きが必要になります。労災保険等が適用されないので、このことも当人に丁寧に説明し、納得してもらうと良いでしょう。

今般の法改正は、「人生100年」といわれる時代にマッチした制度に思えますが、事業者側にも雇用者側にも課題はあります。
例えば、雇用者側の声として聞かれるのは「仕事が変わらないのに年齢を理由に給与が下がり、一気にモチベーションが低下した」という声です。また「給与が下がったことで生活水準が低下した」と、定年後再雇用を巡る訴訟も起きています。

では、事業者も雇用者もウィン・ウィンとなるには、どうしたら良いのでしょうか。
基本的には双方がしっかり話し合い、企業が処遇水準や評価基準を明確にしたうえで高齢者も働きやすい環境を作ることが重要です。
以下に具体例を紹介しながら、シニア層を雇用し活用し続けてもらうための3つのポイントを紹介します。

ポイント1:年齢によらない評価・処遇等、人事制度を見直す

企業のなかには、従業員が60歳を超えても賃金が下がらないようにするほか、能力があれば管理職を続けられるようにしているケースも少なくありません。

生命保険会社のA社は、これまで57歳の年度末で役職を外れる役職定年制を導入し、同時に給与を8割程度にしていました。しかし2017年にこれを廃止。さらに、年齢を理由に60歳で給与を下げることをやめ、年齢問わず成果によって役職に登用されたり、昇給や昇格もあったりする仕組みに変更しました。
もちろん成果次第では降格する場合もありますが、評価基準を明確に設定したことがポイントです。

会社としては、人件費が全体的にあがる心配よりも、新入社員からシニア社員まで、全員が同じ基準で切磋琢磨することで、会社の生産性があがることを期待して導入したそうです。
A社のトップには「人件費はコストではなく投資」との考えが基本にあります。それが制度変更を促進した背景にあるのです。

また、従業員約100人の運輸会社B社は、シニア社員も現役正社員と同じ人事評価シートを活用しています。60歳を過ぎても賃金は減額せず、役職も維持される仕組みを整えました。65歳で定年を迎え継続雇用となった後は、賃金は時給制となりますが、その仕組みも変更しました。
従来は一律同額であがることはありませんでしたが、改定後は定年時の賃金水準が維持されるようにして、要件を満たせば昇給することにしたのです。

さらに、能力さえあれば定年前の役職を継続できるようにしたほか、他社を定年退職後、B社に嘱託として採用された場合も、高いスキルや専門性があれば役職に登用できる仕組みも整えています。
このように、従業員の年齢によらず評価する仕組みを作るということがポイントの1つ目です。

ポイント2:いきいきと働けるよう工夫する

2つ目に重要なことは、高齢者もいきいきと働ける仕組みを作ることです。

中部地方にあるプレス板金メーカーのC社は、家電や自動車、住宅建材等、多種多様な部品加工をしています。従業員約120人のうち、半数近くが60歳以上という、高齢者比率の高い会社でもあります。

C社がシニアを採用し始めたのは人手不足が理由でした。「定年退職した高齢者」に土日のみ働いてもらおうと「60歳以上限定」で募集したところ、100人以上が面接に来るという反響の大きさでした。採用したのはそのうち15人。その後も、定年を迎えた自社社員を再雇用しながら、新規で高齢者の採用を継続し、シニア社員の比率が多くなったといいます。

C社において特徴的なのは、シニアだからといって単純作業をさせるのではなく、各人がいきいきと働ける仕組みを構築していることです。
具体的には、1つは「未経験」のシニアでも溶接や検査等ができるような教育体制が整っていること。もっとも、これはシニアに限ったことではなく、全社員について教育計画が作成されています。

2つ目は、やはり全社員を対象にした「改善提案」制度があることです。シニアは経験豊富であるため、改善すべきところに気付くことも多く、また、自分の意見によって職場が変わることにやりがいを感じることもあります。提案の内容によっては報奨金が支給されるので、それもモチベーションアップにつながっているそうです。
C社の経営者は、自社の体制について「経験豊富なシニアと体力のある若手のベストミックス」と表現しています。
C社のように、高齢者に対してもいきいきと働ける仕組み作りをするということが大切なのです。

ポイント3:安全に留意し、場合によっては職場環境の改善を

関東地方の菓子メーカーD社は従業員約200人。定年の60歳以降も働き続ける従業員を「シニア社員(65歳まで)」「エルダー社員(70歳まで)」「プラチナ社員(77歳まで)」と、3つに区分しています。
D社が制度を整えたのは2014年。高齢者雇用の一般化を見据え、個別対応ではなくルール化する必要性を先んじて考えたことがきっかけでした。

勤務時間や勤務日は個別の事情に応じて決め、作業を洗い出し、ワークシェアリングをしています。給与は、シニア社員以降は時給制で、「年金と合わせて定年前と同じくらいの月収」としています。時給制のため働く日数により増減しますが、福利厚生や研修、有給休暇等の扱いは、定年前とは変わりません。

シニア社員は希望者全員が再雇用の対象となり、エルダー社員とプラチナ社員は「4つの基準」に合う人を1年ごとに再雇用しています。
「4つの基準」とは、(1)働く意欲、(2)心身ともに健康、(3)懲戒処分ナシ、(4)契約期間中の評価が「普通」以上です。

ここで注目したいのが、(2)の「心身ともに健康」。体力の低下が否めない高齢者には、労災の心配があるかもしれません。そこでD社が行っているのが、疲労蓄積や意欲、心や身体の健康度が分かるチェックシートの導入です。健康診断の結果と合わせて、職場の作業ごとに必要となる技能や体力について基準を設定し、評価しているのです。具体的には「視力」「敏捷性」「バランス」「握力」「暗算」「PCスキル」等、10項目が並びます。
このチェックシートは、厳格にチェックして再雇用の判断に使うというよりも、仕事の中でお互いに不都合はないかを確認する意味で用いているそうです。

このように、会社のなかで、高齢者も安心して働けるような仕組みを作ることは大切です。
また厚生労働省は、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を公表しています。事業者および労働者双方に対して求められる具体的な取組みを紹介しているので、こういったガイドラインも参考にすると良いでしょう。

おわりに

本稿でご紹介した事例から、企業は、高齢者には配慮しつつも年齢による評価体系の区別はせず、従業員全員がいきいきと働けるような仕組みを作ることが大切だといえます。
「65歳以上」「70歳まで」と区切って人事制度を整備するのではなく、全年齢層の従業員に対するキャリア設計を、本人の意向も踏まえて整えておくことが、本来は望ましいでしょう。

C社の経営者が、「皆がいきいき働けるよう仕組みや環境を整えるのが自分の仕事」と話すように、シニアのみならず「誰もが働きやすいように」ということを念頭に置きながら経営することが大切なのは、いうまでもありません。
ぜひ、今回紹介した事例を参考にしながら、自社における“シニアも活躍できる職場”の実現をめざしてください。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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