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台風シーズン前に考える“自然災害”リスクマネジメント

掲載日:2020年8月17日事業戦略

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ここ数年、地球温暖化の影響か、様々な自然災害に見舞われることが多発しています。思わぬ災害は企業経営に大きな損失を与えるため、中小企業経営者にとっては頭が痛い問題といえるでしょう。
本稿では、「もしも」のための自然災害に対するリスクマネジメントについて紹介します。

1. 台風被害が中小企業を“廃業”に追い込むことも

近年、台風や豪雨など自然災害による被害が増加しています。たとえば、2019年10月に発生した台風19号は、特に静岡県や関東甲信越、東北地方に、これまでに経験したことのないような記録的な大雨をもたらしました。

内閣府のデータ(2020年4月10日現在)によると、これらの災害による死者は104名に上り、住宅の全半壊、一部破壊は7万棟を超えたとされています。

直撃を受けた首都圏では、多摩川の氾濫が大きな被害をもたらし、とくに神奈川県川崎市高津区、中原区の多摩川沿いの準工業地域に集積する町工場は、機械設備が水没して事業継続が困難になったケースもあるようです。

大規模地震ともなれば、さらに被害は拡大する可能性があります。たとえば、首都直下型地震は、今後30年以内に70%の確率で起きるといわれており、規模はマグニチュード7程度で、被害は一都三県を中心に死者2万3000人、経済被害は95兆円と推定されています。

東京商工リサーチのデータによると、2011年に起きた東日本大震災の影響により倒産した企業数は、2020年2月までで1,946件に上ったとされています。震災から9年を経た2020年2月まで企業の倒産が続いているのは、地震被害の深刻さを表しているといえるでしょう。

そして、倒産した企業の被害パターンを検証すると、約9割が取引先・仕入先の被災による販路縮小などに影響を受けた「間接被害型」で、事務所や工場などが損壊したという「直接被害型」は約1割だそうです。

2. 自然災害の増加で関心が高まる「BCP」とは?

こうした自然災害の直接被害、間接被害を最小限に食い止めるため、企業が準備しておくべきものは「BCP(事業継続計画)」といわれています。
BCPとは、災害やテロ攻撃など、緊急事態に遭遇したときに、事業資産の損害をできるだけ少なくするとともに、すみやかに事業を再開するための計画のことです。

たとえば、大手からの下請け業務がメインの中小企業の場合、被害によって納期を守れなくなれば、その仕事は他の下請けに移ってしまう可能性もあります。その後に復旧しても、もはや「仕事がない」という状況にも陥りかねません。
自然災害による一度の被害でも廃業に追い込まれる危険性があることに加え、昨今、自然災害が増加していることが重なり、企業のBCPへの関心は高まっています。

実際にBCPをつくる上でのポイントは5つあります。

  1. 優先して継続・復旧すべき中核事業の特定
  2. 緊急時における中核事業の目標復旧時間の決定
  3. 緊急時に提供できるサービスのレベルについてあらかじめ顧客と協議
  4. 事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策の用意
  5. 従業員と事業継続について共有

こんなにたくさん取り組まなくてはいけないのか、と驚かれるかもしれませんが、注目すべきポイントは③と④です。
先ほど例として挙げた、下請け業務を担う企業の場合であれば、被害を受けたときに、どの程度の受注に応えられるかを元請けと予め相談しておく、ということになります。

そして、仕事を他社に奪われないための備えとしては、④のように事業所の地域を分けるという方法があります。地震や台風の場合、特定地域の被害が大きくなる傾向があるので、工場などを分散しておけば、「もしも」のときもある程度の操業を続けられるというわけです。

しかし、自社の力で複数の地域に事業所を持てる企業はそう多くないのが実状でしょう。そこで、最近広がりつつあるのが、離れた地域の同業他社と「協力体制」を築く試みです。
自社が被害を受けたとき、元請けの注文を肩代わりしてくれる協力企業を見つけておくことで、事業所を分散するのと同じ効果が得られるのです。

ただ、実現するには事前の準備が必要です。被害を受けてから、協力会社を探すのでは時間がかかりますし、そもそも元請けから受けた仕事を勝手に第三者に再委託することはできないでしょう。また、再委託先が十分な技術や能力を持っているか、事前に確認する必要もあります。

さらに、自社のノウハウを協力工場に伝授しなければ、同じ品質の商品を生産することが不可能なケースもあるはずです。自社の競争力にもかかわることだけに、協力会社にどこまで情報公開するかも、じっくり考えなくてはなりません。
だからこそ、平常時にBCPを準備しておく必要があるわけです。

3. BCPを「生産性向上」のツールと位置付ける

BCPにおいては、事前にあらゆるシナリオを想定し、そのとき自社がどう行動を起こすべきか、冷静に考え準備しておくことが重要です。しかしながら、「BCPに取り組む余裕などない」と考える経営者も多いでしょう。
であれば、BCPを戦略的に活用することを考えてみてはいかがでしょうか。BCPは、単なる「備え」にとどまず、生産性の向上や事業の拡大に役立つ可能性もあるのです。

例えば前述③のように、常に「もしも」のときを考えて元請けと様々な相談をしていくなかで、元請けとのコミュニケーションを深めながら、自社の発想と姿勢を訴求することによって、さらなる信頼と信用を勝ち得ることができるかもしれません。
これは、企業としての営業活動の一つにもなりますし、企業ブランディングにもつながっていくものです。

また④の対策として前述したように、BCPを考えた上で日ごろから同業他社との連携を強めることができれば、企業体としての生産能力をアップさせることになりますので、規模の大きな仕事を共同で受注したりすることも可能になります。
また、通常時においても、お互いの売上を考えながら仕事を融通し合ったり、繁忙期には助け合ったりすることもできるでしょう。

さらに自社のこれらの動きを、前述⑤のように従業員としっかりと共有していけば、会社への安心感とともに帰属意識も高まりますので、離職率を抑えるだけでなく、人材採用における会社のアピールポイントになるかもしれません。
また、「どんなときもわが社は大丈夫」という従業員の思いは、「会社を発展・成長させていこう」というモチベーションアップへの刺激にもなるのです。

このように自然災害に対するBCPへの取り組みを、単なる負担と考えるのではなく、「もしもの備え」と「生産性向上」を両立させる戦略として捉えてみれば、企業経営に大きなプラスとなっていくでしょう。

(記事提供元/株式会社プレジデント社 企画編集部)

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