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「改正労働基準法」で何が変わる?

掲載日:2023年9月5日事業戦略

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時代の変化とともに、その形を変えてきた「労働基準法」。2023年4月には、中小企業における月60時間超の残業割増賃金率を50%へ引きあげることや、給与のデジタル払い導入など、ルールが変更されました。
加えて2024年4月には、2019年から適用されている時間外労働の上限規制において、一部事業・業態で5年間と定められていた猶予期間が終了となるのです。本稿では、具体的に何が変わり、企業としては何を準備すべきか、経営者として知っておくべきポイントを解説します。

具体的な変更内容と、その目的

2019年4月に施行された「働き方改革関連法」による労働基準法の改正は、働き方改革施策の一環として実施されました。
背景には、少子高齢化による労働人口減少などの影響で人材不足が身近な課題となってきたことがあります。個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることで、就業機会の拡大につなげることが狙いです。
その主な改正点は、以下の通りです。

  • 時間外労働の上限規制導入
  • 年次有給休暇の確実な取得
  • 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金引きあげ
  • フレックスタイム制の拡充
  • 「高度プロフェッショナル制度」導入
  • 産業医・産業保健機能の強化
  • 勤務間インターバル制度の普及促進
  • 正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止

とりわけ長時間労働は、仕事と家庭生活の両立を困難にするだけでなく、うつや過労死など、健康を阻害する原因ともなることから、1947年に労働基準法が制定されて以来、初となる時間外労働の上限規制が規定されることになりました。
時間外労働の上限は月45時間、年360時間となり、特別な事情がない限り、これを超えることができなくなったわけです。

さらに、特別な事情があった場合でも、「時間外労働が年720時間以内」「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働と休日労働の合計が2~6ヵ月平均すべて80時間以内」「時間外労働が月45時間を超えるのは年6回以内」といった上限が定められました。

5年間の措置猶予終了がおよぼす影響とは

ただ、業態や仕事内容によっては、すぐに働き方の変更をすることができません。
そのため2019年4月の施行以降、建設事業など一部の事業・業態については、時間外労働の上限規制の措置猶予が設けられていましたが、2024年4月からは、ついに他の業種と同様に時間外労働のルールが適用されます。

業種別の変更点は、以下の通りです。

・建設事業
災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。
他方、災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、「月100時間未満」「2〜6ヵ月平均80時間以内」とする規制は適用されません。

・自動車運転の業務
特別条項付き36協定を締結する場合、時間外労働の上限が年960時間となります。
また、時間外労働と休⽇労働の合計を「月100時間未満」「2~6ヵ月平均80時間以内」とする規制と、時間外労働が月45時間を超えることができるのを年6ヵ月までとする規制は適用されません。

・医師
具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされています。

・鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
上限規制などがすべて適用されます。

・新技術・新商品などの研究開発業務
時間外労働の上限規制は適用されません。
1週間あたり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者に対しては、医師の⾯接指導が罰則付きで義務付けられました。

  • 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」より

特に企業への影響が予想されるのは、自動車運転業務における時間外労働の上限が年960時間に制限される、いわゆる「物流の2024年問題」です。

時間外労働の上限規制によってドライバー1人あたりの走行距離を短くせざるを得ず、長距離でものを運べなくなることも懸念されています。
これにより、トラック運送をはじめとする物流企業の売上・利益の減少や、走行距離に応じて支払われていた運行手当ての減少によるトラックドライバーの収入減が見込まれ、ドライバーの離職や運送・物流企業の倒産までもが危惧されているのです。

上限規制を破った場合、罰則が科される場合も

こうした物流業界への影響は当然、荷主である企業にもおよぶことが予想されます。
物流コスト上昇や納品遅延、運送・物流企業による取引の縮小や撤退、それに伴う欠品などが起こる可能性も十分あるでしょう。
依頼側としても、荷待ちをなるべく発生させない、不必要な時間指定の見直し、複数企業によるパレット活用など、運送・物流業界の業務効率化に協力していかなければ、国内サプライチェーンは寸断されてしまうかもしれません。

また、物流は生活者にとっても身近な業態で、時間外労働への上限規制によって日常生活に影響が出てくれば、長時間労働に対する世間の注目度もあがるのではないでしょうか。
さらに二次的な影響ですが、隠れ残業などに対するコンプライアンス上のリスクが高まることも予想されます。

ともすれば、もはや業界や業種を問わず、これまで以上に長時間労働の是正に力を入れ、DXや業務の見直しによる生産性向上に取り組むことが求められるでしょう。
ちなみに、時間外労働の上限規制を守らなければ法律違反となり、罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される恐れがありますが、実際に受けるダメージは、企業イメージの悪化なども考えると計り知れません。

時間外労働や休日労働は36協定で定める時間外労働の限度内に留める、そのためにも従業員の勤務時間を正確に把握する、産業医などによる指導体制を作る、勤務間インターバルや連続休暇制度など休息を取りやすい制度を整えるなど、自社の就業規則を今一度見直す必要があるでしょう。
経営者として、ワークライフバランスの推進と労働環境改善に積極的に取り組む姿勢が求められるということです。

また、長時間労働の是正以外に、給与のデジタル支払についても、今後、キャッシュレス化浸透に向けた国からの後押しがあるかもしれません。
すでに厚生労働省から公布された「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」が2023年4月に施行され、給与のデジタル支払いは解禁されています。
従業員からニーズが高まることも予想されますから、環境変化に柔軟な対応ができるように備えながら、日頃から従業員の声に耳を傾けておくことも重要となるでしょう。

おわりに

2024年4月以降、全面的に時間外労働の上限規制が適用されるようになると、あらゆる企業が労働力不足への対応とワークライフバランス確保の両方に注力することを求められます。運送業や建設業においては、働き方の変化が自社にどのような影響を与えるのか、従業員が経営に求める対応は何かを見極め、長期的視点で対応していかなければなりません。
これからの時代はそうした姿勢を持つ会社こそが、サステナブルであり、魅力的な会社となっていくでしょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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