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社会課題に挑む「SDGs起業」のヒント

掲載日:2023年3月1日事業戦略

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ビジネスにおいて、今やサステナブルな事業推進は、世界的な潮流です。しかし、SDGs目標の達成と企業における財務的目標の両立は簡単なことではなく、各企業が悩むテーマの一つとなっているでしょう。 そんな中、一社員として社内から声をあげるのではなく、自らの手で事業を興し、社会課題の解決に取り組もうとするビジネスパーソンが増えてきているようです。そんな「SDGs起業家」の志とアイデアを紐解くことで、様々な社会課題にどう取り組むべきか、そのヒントを探っていきます。

ボランティアとは大きく異なる事業形態

近年、「SDGs」(持続可能な開発目標)や「ESG投資」(環境・社会・企業統治に配慮する企業への投資)とともに、多くのビジネスパーソンから注目されているのが「ソーシャルビジネス」です。
ソーシャルビジネスとは、社会課題の解決を目的とした事業のことで、テーマとなる社会課題の領域は、貧困、差別、環境問題など多岐にわたります。
これに取り組むために会社を立ち上げるのが、SDGs起業家と呼ばれる人々です。

一般的なビジネスとの違いは、事業で達成すべき「目的」にあります。
通常、ビジネスにおいては「利益を最大化する」ことに重きを置きますが、ソーシャルビジネスでは、ビジネスの発想や手法を用いて「社会課題を解決すること」を最優先にするのです。

ボランティアと混同されることも少なくありませんが、全く別物だといえます。
ボランティアの活動資金は、寄付金などの外部リソースに頼らなければなりません。
例えば、会社に所属しながら個人でボランティアをする場合も、「支援したい」という意志だけではなく、金銭的かつ時間的な余裕がないと、思ったような活動をできないこともあるでしょう。

一方、ソーシャルビジネスは外部資金に頼らず、事業を社会課題の解決に絡めながら収益をあげることで、継続的な社会支援を可能にしています。

社会課題を解決したいという意志を持っていたとしても、支援する側にも自身の生活があるため、ボランティアだけで生きていくのは難しいでしょう。その点ソーシャルビジネスは、利益を全くあげないわけではなく、社会課題を解決しながら、生きていくための給料を稼ぐという部分が、大きく異なるのです。

SDGsやサステナビリティを最大の目的としながら、一般的なビジネスと同じように、事業を継続するだけの収益をあげる必要があることを、留意しておかなくてはなりません。

ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則に学ぶ

そもそも「ソーシャルビジネス」が生まれたのは、1980年代のイギリスでした。その背景にあるのが、当時、同国の首相を務めたマーガレット・サッチャーが、経済再生のために始めた「小さな政府」政策です。
この政策の推進によって、公共サービスは縮小されていきました。それを補完するために民間企業が立ちあげたビジネスこそ、ソーシャルビジネスの原型だといわれています。

実際にソーシャルビジネスという言葉が知られるようになったのは、バングラデシュの経済学者で「グラミン銀行」の創設者であるムハマド・ユヌス博士が著書『貧困のない世界を創る』(翻訳本:早川書房)の中で定義したのがきっかけです。
その後、ユヌス博士にノーベル平和賞が贈られたことで、この言葉と概念が世界に広く認知されるようになりました。

現在、ユヌス博士は銀行だけでなく、50社以上のグラミン関連企業を経営しながら、世界中でソーシャルビジネスの実践を続けているほか、次のような「ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則」を提唱し、ソーシャルビジネスの普及に務めています。

<ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則>

  1. ユヌス・ソーシャル・ビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること。
  2. 経済的な持続可能性を実現すること。
  3. 投資家は投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと。
  4. 投資の元本回収以降に生じた利益は、社員の福利厚生の充実やさらなるソーシャルビジネス、自社に再投資されること。
  5. ジェンダーと環境へ配慮すること。
  6. 雇用する社員にとって良い労働環境を保つこと
  7. 楽しみながら。

(一般社団法人ユヌス・ジャパン ホームページ「ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則」より引用)

ユヌス博士はソーシャルビジネスの原則として、事業の目的が利益の最大化ではなく、貧困削減や一つ以上の人々や社会にとって脅威となる課題を乗り越えるためであることを掲げています。
加えて、投資家には元本以上の配当を還元しないという項目も存在し、一般的な企業で重要視される「利益追求」や「株主の利益最大化」とは相反する考え方であることが伺えるでしょう。

また、雇用する社員の労働環境に言及している点や、“楽しむ”ということを原則としていることからも、ソーシャルビジネスがとるべき方向性がよく分かります。
すなわち、事業に携わる働き手の幸福度を高めることも、ソーシャルビジネスにおける重要な使命であるわけです。

ただし、これはあくまでもユヌス博士が提唱している原則であって、現在、ソーシャルビジネスは世界共通の定義が統一されているわけではありません。
その理由は、目的となる社会課題の領域が貧困や差別、環境問題など多岐にわたり、抽象的に示されていること、さらに、各国における公共意識や市民社会の現状、歴史的な背景が異なることなどがあげられます。

「SDGs起業」を考える際には、この7原則をベースにしながら、課題先進国と呼ばれる日本特有の問題や状況に落とし込んでビジネスアイデアを発想する、柔軟性が必要でしょう。

日本における定義、3つのファクター

日本では、2007年に経済産業省が「ソーシャルビジネス研究会」を立ちあげ、政府主導で調査や議論をスタートしました。
その後、2011年に発生した東日本大震災によって議論が加速し、実際にソーシャルビジネスが増えるきっかけになったようです。

経済産業省では、「社会性」「事業性」「革新性」という3つのファクターを満たす事業をソーシャルビジネスと定義しており、組織形態としては、株式会社、NPO 法人、中間法人など、多様なスタイルが想定されています。

<経済産業省によるソーシャルビジネスの定義>

  1. 社会性:現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
    ※解決すべき社会的課題の内容により、活動範囲に地域性が生じる場合もあるが、地域性の有無はソーシャルビジネスの基準には含めない。
  2. 事業性:①のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
  3. 革新性:新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。

(経済産業省「ソーシャルビジネス研究会報告書」平成20年4月より引用)

日本におけるソーシャルビジネスの定義では、ユヌス博士が掲げている原則に類する内容に加え、革新性が明記されていることが特徴です。
日本政策金融公庫では「ソーシャルビジネス支援資金」という施策を実施していることからも、行政がソーシャルビジネスに期待をかけていることが分かるでしょう。

では、ソーシャルビジネスを行うには、どのようなスキルが必要になるのでしょうか。
実は、一般的な仕事と変わらず、ビジネスモデルの構築やマーケティング、組織を運営するためのマネジメント力などが欠かせません。

その一方で、ソーシャルビジネスである分、目的が明確であるため、ゴールを設定しやすいかもしれませんが、「利益を出すこと」が最大目的ではなく、これまでまだ解決できていない社会課題に挑戦する事業となれば、ある程度モデルが確立している既存ビジネスよりも、当然、難易度は高くなるでしょう。

つまり、一般企業と同様に多彩なスキルを持った人材が集うことに加え、社会課題の解決という同じ目的に向かって、組織が一丸となって取り組めるかどうかが、ソーシャルビジネス成功のカギを握っているわけです。
そのためにも、まずは自身の能力を活用して解決できる社会課題、あるいは自分の経験から解決したいと願う問題をテーマに設定し、その目的、ゴールを発信することで、共有できる同志を見つけることが、SDGs起業成功への第一歩となります。

おわりに

現在、多くの企業が事業における「SDGs」の推進を掲げるようになりました。しかし、主たる事業自体の増収増益や業務改善などに追われてしまい、実際は社会貢献活動まで手が回らないという現実もあるでしょう。
また、様々な技術が進歩する現代においても、解決されていない社会課題は数多くあり、それらが複雑に絡み合っています。

こうした状況を打開する一つの方法がソーシャルビジネスなのです。その存在意義は、強い意志を持ったSDGs起業家たち一人ひとりが情熱と使命感を形にして、社会課題の解決に主眼を置いた継続性のあるビジネスの力で世界を変えていくことでしょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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