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リーダーの悩みを晴らす、「中国古典」の知恵~組織の“勢”を生む「孫子の兵法」~

掲載日:2023年1月5日事業戦略

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現代ビジネスを取り巻く環境は、価値観の多様化やテクノロジーの急速な進展等を背景に、急激に変化しており、リーダーたちの意思決定を一層困難なものにしています。

判断に悩んだときは、先人の知恵に解決の糸口を求めることも必要です。
本稿では、「中国古典」からビジネスパーソン、特に組織を率いるリーダーのヒントになり得るものを紹介します。

目立たない役割に徹する者ほど正当な評価を

漢の時代、司馬遷によって書かれた歴史書『史記』には、次のようなエピソードが収められています。

紀元前202年、漢の劉邦(りゅうほう)が秦に代わって中国を統一したときのこと。
論功行賞の際、劉邦は部下たちの中でも特に蕭何(しょうか)を最も戦功があったとして高く評価しました。
しかし、蕭何は前線で実戦に参加したわけではなく、物資や兵員を前線に補給する後方支援に従事していたのでした。

これに対し、実戦で功のあった他の部下たちは不満をあらわにします。
「私たちは鎧を身に付け、剣を持ち、毎日命がけで戦いました。しかし蕭何は戦ったわけではなく、汗馬の労もなく、ただ筆を持って仕事をしていただけです。そんな蕭何をなぜ厚遇するのですか」
対して劉邦は、蕭何の支援があったからこそ、戦いに勝利できたのだと、部下たちを諭しました。

この出来事は「汗馬之労(かんばのろう)」という故事となって現代に伝わっています。
「汗馬之労」という言葉には、そのまま「馬に汗をかかせるほどの働き」という意味もありますが、このエピソードでは、物事を成功させるためにあれこれ奔走する苦労の重要性を説いています。

日本では「縁の下の力持ち」「舞台の裏方」等が同じ意味にあたるでしょう。
これらの言葉は、目立たず地味な役割に徹する人を評価する場合に用いられます。
また中国の戦国時代末期の思想家・韓非(かんぴ)の著書『韓非子』では、「五蠹(ごと)」という国にとって有害なものが5つ挙げられています。
その中でも「汗馬之労」という言葉が「国のための苦労」という意味合いで登場し、「地道に汗を流している者を退けてはいけない」と戒めているのです。

さて、これらのことは現代のビジネスでも同様に見られるでしょう。
暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も外回りをする営業スタッフがいます。
一方で、オフィスにいてデスクワーク等のバックオフィス業務に従事するスタッフもいます。
目立つ仕事とそうでない仕事があり、どちらも組織やチーム全体を支える、大切な役割です。

目立つ働きをした者にだけスポットライトをあてて評価するようなことをしていると、陰からそれを支えるスタッフのやる気を削いでしまいます。
そのことを経営者やリーダー、メンバーが認識していれば、不満は減り、モチベーションの維持にもつながるでしょう。
この「汗馬之労」という故事はそんな教えを説いているのです。

情報収集よりも、「処理」と「活用」が難しい

ビジネスにおいては情報量が成否を左右するといっても過言ではありません。
情報収集能力の育成に注力している企業も多いでしょう。
競合他社やマーケットの動向、消費者ニーズやトレンドの推移等、新商品や新サービスの開発に際しては、多くの情報を集めなくてはなりません。

『韓非子』にはこんな一文が記述されています。
「知(ち)の難(かた)きに非(あら)ず、知を処(しょ)するは則(すなわ)ち難きなり」。
現代語では「知ることは難しくない、知った後でどう対処するかが難しいのだ」となります。
つまり情報収集よりも、その情報をどう処理し、活用するかのほうが難しいということです。

昔、宋の国に一人の富豪が住んでいました。
あるとき、大雨で屋敷の塀が壊れてしまいます。
それを見た富豪の息子は「修理しないと泥棒に入られてしまう」と父に進言しました。
息子と同じことを隣家の主人も指摘します。
するとその後、実際に泥棒に入られてしまい、財産をごっそり奪われてしまうのでした。
富豪は息子の賢さに感心しますが、同じ指摘をした隣家の主人に対しては「あの男が泥棒なのではないか」と疑いの目を向けたのです。
隣家の主人にしてみれば、せっかく親切に指摘したつもりが、あらぬ疑いをかけられてしまったという話です。
これを『韓非子』では「知を処する」方法を間違えたことによるものだとしています。
つまり情報の処理方法を間違えた事例なのです。

この故事の場合は「塀の破損を知っているのは息子と隣家の主人だけだ」「息子が犯人であるはずがない」「犯人は隣家の男ではないか」という、富豪の思考の発展が見られます。
ここには身内びいき、自己都合解釈のほか、寄せられた情報に対して断片的にしか向き合わず、周辺の関連情報に目を向けない姿勢も表れています。
またリスクが具現化してしまったとき、それを事前に指摘した者を疑っていては、リスクを予見できてもそれを指摘する者がいなくなってしまうでしょう。

ビジネスで情報は重要です。
しかしその情報とどう向き合い、どう処理するかでその後の展開が大きく変わることもあります。
情報の処理と活用の能力育成も大切だということです。

個への過度な期待よりも、組織全体に「勢い」を

中国・春秋時代の思想家・孫武(そんぶ)の著書『孫子』は、現代日本でも「孫子の兵法」として知られています。
優れた戦略論として、その理論や思想をビジネスに応用する経営者も多いようです。

その『孫子』の中に、こんな一文があります。
「善(よ)く戦う者はこれを勢(せい)に求めて人に責(もと)めず。ゆえによく人を択(えら)びて勢に任ず」。
現代語訳は「戦い上手な者は勢いによって勝利を得ようとし、個々の兵士の力に頼らない。だから兵士を適材適所に配置して全体の勢いに任せる」となります。
さらにその様子は「木石を転ずるがごとし(木や石を転がすようなもの)」だといい、「木石の性は、安ければ即(すなわ)ち静かに、危うければ即ち動き、方なれば即ち止まり、円なれば即ち行く」としています。

木や石は安定したところでは静止しているが、不安定なところでは動き出し、四角い形状ならば止まり、丸状ならば転がっていくというのです。これを「勢」だといっています。
野球やサッカー等のスポーツではよくあることで、チーム全体の勢いが止まらずに勝ってしまうというシーンを見たことがあるでしょう。

これは個々のメンバーの能力に過度な期待をするのではなく、組織全体の勢いが大切だということを教えています。
ビジネスにおいて、組織の業績がなかなかあがらずに悩むリーダーもいるでしょう。
組織全体を活性化して勢いを出すために、どうすればよいか。
組織外から新たな人材を受け入れたり、能力を高めるための研修を実施したりするのも方法の一つでしょう。

しかし今一度、組織内に目を向けてみることも必要です。
組織に「勢」が生まれる状態になっているでしょうか。
個々のメンバーがそれぞれの持ち場でその能力をきちんと発揮できているか、不向きな業務を担当させられてモチベーションが低下している者はいないか、見直してみてはどうでしょう。
『孫子』の記述にある四角や丸、木や石等は個々の特性を暗示しているとも解釈できます。
人員配置や処遇等を見直すだけで、それぞれが能力を十分に発揮できるようになるかもしれません。
組織全体がうまく機能し、組織としての「勢」が生まれてくるきっかけにもなるでしょう。

おわりに

中国の故事と聞くと「古くさい」というイメージがあるかもしれません。
時代が違うため、その理論をそのまま応用することはたしかに難しいでしょう。

しかし、数千年の時を超えてそれが世界中で親しまれているということは、現代人にとって何かのヒントがそこにあるということです。悩んだり、行き詰まったりしたときに中国故事を紐解いてみると、発想の転換になり得る「ひらめき」が生まれるかもしれません。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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