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成長企業の「インナーブランディング」術

掲載日:2022年9月1日事業戦略

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採用が上手くいかない、離職率が高い、事業が思うように発展しない、従業員のモチベーションがあがらない……。会社が持続的に成長していくために、経営者が解決すべき課題は様々でしょう。
そうした悩みに効果的な手段の一つが、組織全体がまとまりを持って目標に進んでいくための、「インナーブランディング」です。本稿では、「インナーブランディング」とは何かを解説し、そのメリットや実際に行われている事例をご紹介します。

“あるべき姿”を理解し、実践するということ

会社は「人」によって成り立っています。
全社員が同じ方向をめざして業務を遂行すれば、一人では成し遂げることができないだろう、大きな成果を得ることが可能なはずです。
そのためには、企業理念を策定し、社員に根付かせることが一つの手段です。

しかし、せっかく理念を作っても、気付けば額に入れて壁に飾られているのみ、従業員にほとんど浸透していないというケースも珍しくないでしょう。

社員から理念への共感が得られないと、めざす方向に事業を推進できないばかりか、まとまりのない従業員によって、会社にとって不利益な出来事が生じたり、人材が流出したりしてしまうこともあるかもしれません。

理念を十分に浸透させ、今以上に一致団結した従業員たちに事業に貢献してもらいたい。
そう考え、悩んでいる経営者は少なくないと思われます。

実は、こういった悩みを解決する有効な手段の一つが、インナーブランディングなのです。

インナーブランディングとは、経営理念やビジョン、ミッションなどの会社がめざす“あるべき姿”を従業員に理解してもらい、日々の業務を通じて実践できるよう、その浸透を促進する活動を指します。

インナーブランディングの推進は、どのようなメリットをもたらすのでしょうか。
まず、会社を従業員にとって魅力的な場所に変えることが期待できます。
めざすべきゴールが理解できていれば、そこに向けて何をすべきかが明確になり、仕事を自分事化しやすくなるのです。
従業員が主体的に業務を推進することで、働きがいを見出し、会社にとって不利益な行動は避けるべく、気を付けるようになるでしょう。

また、社内全員が同じベクトルで行動するようになるため、仕事で判断に迷ったときでも、“あるべき姿”という基準に従って決断できるようにもなります。
さらに、従業員がイキイキ働いている会社は魅力的に映るので、採用にもプラスの効果をもたらすでしょう。

インナーブランディングの成功例として有名なスターバックスでは、店舗スタッフの多くがイキイキと楽しそうに働いています。
それは「サードプレイス=家でも職場でもない、ほっとできる場所という価値をお客さまに提供する」という会社の方針を、スタッフが理解し実践することに誇りを感じているからです。
だからこそ、快適な空間を作るためにスタッフ一人ひとりが笑顔で接客し、質の高いサービスを追求できるのでしょう。

社内の雰囲気が悪くなっている、従業員のやる気を感じられない、事業が伸び悩んでいるなどの課題を抱えている経営者であれば、インナーブランディングに取り組むことでブレイクスルーのきっかけを掴むことができるかもしれません。

社内制度の構築が、理解・共感を呼び込む

インナーブランディングによって独自の企業文化を築きあげ、約800億円という額でAmazonに買収された靴の通販会社「Zappos(ザッポス)」。アメリカの会社で、“神対応”といわれるカスタマーサービス(コンタクトセンター)が広く知られています。

例えば、ある深夜、同社のコンタクトセンターに間違ってピザのデリバリー注文がはいったときは、近場で注文可能な店を探して連絡先を教えてあげたという話や、自社に在庫がない商品については、競合サイトを検索してそちらを勧めてあげたというエピソードが有名です。

一見、そこまでやる必要はないと思えるほど、「顧客の感動体験」を何よりも重視した対応を徹底しています。
しかも、こうした行動は会社から指示されているわけではなく、スタッフが自分で判断して行っているそうです。

カスタマーサービスはクレームに遭遇するケースも多く、大変な業務という印象を抱く人もいるかもしれません。
しかし、Zappos(ザッポス)ではカスタマーサービスを「顧客に幸せを届けること」であると理解し、そのために自ら考えて行動するよう、スタッフの前向きさを引き出すことに成功しているのです。

このような企業文化を醸成できている根底には、「サービスを通して、WOW(驚き)を届けよ」「楽しさとちょっと変わったことをクリエイトせよ」「限りある所からより大きな成果を生み出せ」といった、「10のコア・バリュー」の浸透があります。

これは、会社から押し付けられたものではなく、経営者の思いを落とし込みつつ現場の意見も吸いあげ、従業員が理解・共感できるものへと磨きあげていったそうです。
そして、このコア・バリューを軸に、評価制度や採用基準など経営の柱となる仕組みを整えていきました。

コンタクトセンターが“神対応”できるのも、コア・バリューを実践するために従業員一人ひとりに非常に大きな裁量を与えているからでしょう。マニュアルやトークスクリプトは一切なく、顧客が喜ぶことならほとんど何をしても良いのです。

従業員が自ら、お客さまに喜んでもらうために考え、行動した結果、Zappos(ザッポス)のファンになってもらえたら嬉しい。
そして、「もっと喜んでもらうために何をすべきか」を考える——このような好循環が自然発生的に生まれているからこそ、スタッフが持続的にイキイキと働けるのでしょう。

ただ、始めからこのような風土ができていたわけではありません。
企業価値を大きくあげるまでに成長したポイントは、会社として“あるべき姿”を考えるときに、従業員の考えを反映したことです。
従業員にとっては、自分たちが思ったことが組み込まれているわけですから、腹落ちしやすく、自分事化もしやすいのは当然でしょう。

さらに、そうしてできあがったコア・バリューを実践することが評価につながるようにしたり、そもそも採用する段階で、理解・共感してくれている人材を集めたりできるよう社内制度を整えたことが、インナーブランディングの推進に寄与したと考えられます。

押し付けにならないよう、従業員が心から理解したい、実践したいと思える環境を作ることができるかが、経営者としての腕の見せどころなのかもしれません。

自社に合った方法を見つける

継続的に事業を生み出し、成長を続けるサイバーエージェントにも、「あした会議」という独自の仕組みがあります。
これは、“あした”につながる新規事業や課題解決の方法などを提案、決議する会議のことです。

執行役員が事業責任者や専門分野に長けた人材を社内で選抜してチームを組成し、提案を作成。代表である藤田氏が審査をして得点を競うのです。

この会議を通じて、ゲーム事業など数々の成功を実現しているほか、従業員のコンディション把握、適材適所を実現する専門部署の新設など、多くの取り組みが形になっています。
「あした会議」がスタートした2006年から、これをきっかけに設立された子会社は32社、累計売上高約3,259億円、営業利益約455億円(2021年9月末時点)が創出されているそうです。

これほどの結果を出せているのは、「あした会議」において、役員会議に相当するレベルの提案が求められているからでしょう。
経営陣と従業員が議論を重ね、藤田氏がその場で決議するため、意思決定の納得感と実行に向けた迅速なアクションを兼ね備えていることも、事業環境の変化が激しいインターネット産業にマッチしているともいえます。

また、参加する従業員は役員の視点を学んだり、会社が置かれている事業環境を把握したり、全社横断的に集められたメンバーと部門の壁を越えたネットワークを構築できたりと、様々なメリットを享受するのです。
このような機会が従業員のモチベーションを高めることにつながっていることも、容易に想像できます。

「あした会議」という仕組みを通して、従業員は会社が成長を続けるために何が必要なのかを理解し、そのために力を尽くす。
これもまた、インナーブランディングの取り組みとなっているのです。

もちろん、そもそも成長意欲の高い従業員が集まっているからこそ、そうした取り組みにも前向きに参加し、多くのメリットを感じているということもあるでしょう。
しかし、先に紹介した社内制度等と組み合わせることによって、そうした風土を作りあげていくことは不可能ではありません。

どのようにインナーブランディングを行うか、その方法は企業によって多岐にわたります。

リッツ・カールトンでは、クレド(行動指針)を記載したカードを従業員全員に携帯させて、お客さまに提供すべき共通の価値観を共有することに役立てているそうです。
理念やビジョン・ミッションを既に理解しているリーダー層が中心となったランチミーティングや、従業員同士で讃え合う風土を醸成するためのサンクスカードなどを導入して、全社的な意識改革に取り組んでいるという事例もあります。

そのすべてに共通していえるのは、従業員がどれだけ気持ち良く、前向きに取り組めるかということでしょう。
現場との対話を深めることで、自社の業態や特徴にマッチしたアイデアが出てくるかもしれません。
そうしたコミュニケーションが生まれることも、インナーブランディングの第一歩となるのです。

おわりに

インナーブランディングにおいて、どのような施策が自社に適しているかは、企業文化や風土などによって左右される部分が大きいでしょう。そのため、色々な方法を試しながら、自社に合ったやり方を探っていく必要があります。
また、インナーブランディングは従業員の意識改革であるため、短期間で結果が出る類のものではありません。中長期的に、腰を据えてじっくり取り組むことも重要です。

ただ、成功すれば、企業価値の向上や業績アップ、従業員の働きがいやエンゲージメントに必ずやつながるでしょう。
今回ご紹介した事例を参考に、ぜひ考えてみてください。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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