あなたの意欲が湧いてくる“哲学者”の教え
掲載日:2022年7月1日事業戦略
なかなか仕事が上手くいかない、職場の人間関係に不満がある、次のステージに一歩踏み出せない……。日々、忙しく働くビジネスパーソンには、多くの悩みがつきものです。なんとかして、その状況を打破しようと考えているうちに、心が疲れてしまうこともあるかもしれません。
本稿では、今、再び注目されている哲学の世界から、心を軽くしてくれる言葉をご紹介します。
“頑固”は、ときに害となる
4月から入社した人や、異動によって新たな部署での生活をスタートした方、あるいは、新メンバーを迎え入れた方たちは、そろそろ新しい環境にも慣れてきた頃でしょうか。
なかには、それまでとは違う環境で、経験したことのない壁にぶつかり、苦しい思いをしている人がいるかもしれません。
企画が採用されない、受注が取れない、思ったように研究成果が得られない……。仕事をしていると、様々な壁が立ち塞がるものです。業務に関すること以外にも、上司に認めてもらえない、同僚とそりが合わないといった、人間関係に悩まされることもあるでしょう。
そんなとき、諦めてしまう人もいれば、乗り越えようと必死に努力する人もいます。
後者の場合、とことん解決策を考えた末に、「これが完璧な解決方法だ!」と思い込んでしまうことがあるかもしれません。
もしくは、思いついた方法で上手くいかなかったために、かえって意固地になってしまい、同じ方法を何度も繰り返して、失敗を重ねてしまうケースもあるでしょう。
もし、そうした状況に陥ってしまったら、思い出していただきたい言葉があります。
「どうにも乗り越えられない壁にぶつかったときは、頑固さほど役に立たないものはない」
これは1908年に生まれた、フランスの作家であり哲学者であるシモーヌ・ド・ボーヴォワールの言葉です。
人は、思い極めるほどに視野が狭くなるものです。
その方法が正しいのであれば、数回失敗してしまっても、集中して粘り強く挑戦し続けることで、いつか成果が出るでしょう。
しかし、見当違いであったり、逆効果であったりした場合、事態がどんどん悪化していく恐れもあります。
意固地になりすぎていて、周りの意見が耳に入らず、貴重なアドバイスを聞き逃しているかもしれません。そもそも現状では、乗り越えることができない可能性だってあるものです。
それなのに、「必ず壁は超えられる」と固執し続けてしまうと、心も体も疲弊するばかりです。
超えられない壁へと立ち向かうことに、気持ちが熱くなることもあるかもしれません。
しかし、このままだと超えられないと少しでも感じたのならば、半歩引いて、もう一度、壁となっている問題の全体像を見る冷静さを取り戻しましょう。周りの意見にも、少し耳を傾けてみてください。
何度も挑戦したことで、最初は気付かなかったことや、問題のより深いところまで見えるようになっていて、新たな作戦を思いつくかもしれません。一旦、撤退して時間を空けることで、周囲の状況が変化し、壁が低くなっていることもあります。
困難にぶつかったときは、少し心を緩めるくらいで丁度良いのです。
ビジネスシーンであれば、何かが上手くいかないなと感じたとき、その仕事は少し脇に置いて、違う作業に手を付けることが有効な場合があります。
もちろん、あとで再び戻って処理する必要はありますが、一つのことでずっと悩み、いたずらに時間を使ってしまうよりも、ずっと生産性が高いでしょう。
もしくは、他の人にアドバイスを求めてみる。普段は聞かないような人に、あえて聞いてみるのも良いかもしれません。
今までとは違った視点や切り口を得て、一気に解決へと歩を進めることもあります。
ボーヴォワールは『第二の性』の作者で、哲学者であるジャン=ポール・サルトルの事実上の妻であった人物です。
彼女は、それまでの「男が作りあげた“女”」の在り方に、根本から疑問を投げかけた人で、「人は女に生まれるのではなく、女になるのだ」という名言があります。
当時の体制下における結婚は、女性を奴隷にする制度であると批判したボーヴォワール。
従来の法制度によらない、双方の合意のみによって結ばれる婚姻関係をサルトルと築いた彼女は、女性に対する前時代的な社会通念や偏見と闘いながら、自由恋愛・同性愛など、自らの思想を実践しました。
こうした言動によって、ボーヴォワールは現代のジェンダー論やフェミニズム運動の起点となり、象徴的な存在になっています。
男性によって形成された「社会」や「女性に対するイメージ、扱い方」が、当たり前のこととして定着していた時代は、フェミニストとして活動していた彼女にとって、いわば高い壁がそびえていたはずです。
そんななか、「女は女らしく」という風潮にあらゆる角度から疑問を呈し、女性の性を描くことでセンセーショナルを起こした、いわば壁を乗り越えた彼女の言葉だと思うと、より一層深いものを感じます。
“完璧”は、成果を取りこぼす
人は、完璧であることを、中途半端であることよりも良いことだと考えがちです。
しかし、ケースバイケースで、完璧よりも中途半端の方が良かった、ということもあるかもしれません。
そのことを示唆している、ニーチェの名言があります。
「半可通は、全知よりも圧倒的勝利を博する。それは物事を実際よりも単純に理解し、そのために彼の意見の方が分かりやすい説得力のあるものとなる」
半可通とは、いい加減(=中途半端)な知識しかないのに、通人ぶることです。あまりポジティブな言葉には感じません。
でも、半可通の方が、周りに理解してもらいやすいと、ニーチェは語っています。
たしかに、何かに関する知識が深くなれば深くなるほど、誰かに教えるときに「あれも、これも」と説明したくなるものです。
本人は、話をより面白く、中身の濃いものにしようとしているだけかもしれませんが、聞く方からすると、余計な装飾が多すぎたり、話がくどかったりして、結局何を伝えたいのかが、ぼやけてしまいます。
もしくは、内容が専門的過ぎて、説明している言葉の大半が理解できないこともあるかもしれません。
その一方で、半可通の人はすべての知識を持っているわけではありませんが、誰かに説明できる程度の知識を持っています。
難しすぎる専門用語までは知らず、脇に置いていたとしても、相手に間違ったことを伝えないよう、本質的なところはしっかり把握していたりするものです。
実は、人に伝えるうえでは、この方が良い場合があります。
「本当に頭の良い人は、小学生にも分かるように説明できる」などといわれるように、物事の本質をしっかり捉え、平易な言葉で説明できた方が、より多くの人に理解してもらいやすいからです。
ただし、これは、いい加減な知識で、間違ったことをいっても問題ない、といっているわけではありません。
「結局のところ、それは何なのか」という本質さえ押さえておけば、その周辺の知識は中途半端なものであっても、大切なことを伝えることができるということです。
細部にわたって完璧な知識をすべて伝えようとしなくても、その方が相手の理解を得やすいこともあります。
また、複雑な深い知識を持っていたとしても、その一部をシンプルにわかりやすく伝えることはできるはずです。
大切なことは、完璧であることではなく、伝えるべき本質を捉え、それを相手に理解してもらうかということでしょう。
もう一つ、完璧を求めすぎてはいけないことを示唆している名言をご紹介します。
「決心する前に完全に見通しをつけようとする者は、決心することはできない」
これは、スイスの哲学者、アンリ・フレデリック・アミエルの言葉です。
人は、安心したいがために、完璧な準備をしたがります。特にビジネスシーンにおいては、寸分の隙もない計画を立てたい、すべてのリスクを洗い出し、対策を講じてからでないと実行に移れない、という人もいるでしょう。
ただ、始める前からすべてのリスクを洗い出すことは、不可能です。どのような業務においても、人の想像を超えた、不測の事態は起こり得るでしょう。完璧な計画などない、といっても良いかもしれません。
そうであるならば、ある程度のリスクを想定して対策を講じた時点で、実行に移すべきでしょう。実行することで顕在化するリスクや問題は、始めなければ分からないのです。
特に現代は、社会情勢もビジネスも、目まぐるしいスピードで変化していきます。競争も激しく、1日判断を遅らせた結果、他の誰かに成果を奪われてしまうかもしれません。完璧を求めすぎて、躊躇っている時間が命取りになることもあるのです。
それでも、不安が勝ってしまい、なかなか一歩踏み出せないというのであれば、不測の事態が起こっても対処できるよう、周りの人を巻き込むことが肝要です。日頃から、そうした協力者を作っておくとよいでしょう。
一人で考えるよりも複数人の方が、何かあっても対処できます。それが一番のリスクマネジメントかもしれません。
おわりに
今回は、頑固であること、そして、完璧であることに関する固定概念を覆すような、哲学者たちの名言をご紹介しました。
信念を持ってやり切ることが必要なときもあります。完璧は理想でしょう。
しかし、それで上手くいっていないのであれば、ゆっくり冷静になって、今一度、見直すことも必要かもしれません。
そうすることで、物事の本質がどこにあるのかを捉えることができ、次への一歩を踏み出せるのです。
仕事に行き詰ったとき、やり辛さを感じたときは、ぜひ思い出してみてください。
(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。