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掲載日:2019年5月13日

対談企画

社員一人ひとりが「主人公」になれる企業とは(後編)

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株式会社日本レーザーの近藤会長との対談企画を前後編でお届けしています。

後編では、後継者育成や近藤会長の今後の挑戦等について、みずほ銀行・森井(リテール法人推進部)とともに語り合っていただきました。

後継者の成長により社長退任を決意

森井:これまで近藤会長が社長時代に取り組まれた様々な改革についてお話を伺ってきましたが、2018年2月に社長を退任されました。後継者選定や育成等において、近藤会長が重視されたことについてご教示ください。

近藤会長:当初70歳までには社長を退こうと考えていたのですが、経営環境や海外事情の変化が激しく、なかなかトップ交代ができない状況が続きました。とはいえ、後継社長を育てなくてはいけません。そこで能力や年齢等を総合的に考えて、営業本部長だった宇塚達也を後継候補にしようと心を決めました。私が社長を退任する一年半前のことです。
社長育成としてまず行ったのは「社長育成塾」です。後継候補は宇塚に絞っていましたが、宇塚ともう一人をメンバーにしました。週に2、3回、朝8時から30分程度、教育研修会社が作成したテキストを使って勉強をしたり、私が考えた課題に答えさせたりする等、これらを一年半ほど行いました。社長候補への教育で私が特に重視したのは「事業経営」と「企業経営」です。社長は、営業や物づくりといった事業経営のプロであると同時に、人事、労務、経理、財務といった企業経営のプロである必要があります。でも実際は、事業経営のプロであっても企業経営のプロである経営者はなかなかいない。これは日本の中小企業の弱点だと思います。
また、事業経営や企業経営以外にも社長候補に教えなくてはいけないことがありました。それは「生き方」「徳」「運」等、トップとして磨くべき内面とそこから起こる事象です。そこで、宇塚をはじめ他の役員候補にも、教育研修会社が実施している潜在意識レベルのトレーニングを1年間受けてもらいました。トレーニングによって潜在意識が完璧に活性化できるわけではありませんが、それでも多くの効果を得られました。宇塚にも好影響がありましたし、別の役員候補は表情まで変わっていきました。
社長育成塾や教育研修会社のトレーニングに加え、日々の業務の中で、宇塚たちはどんどん良い変化を遂げていきました。その結果、「これなら社長を譲れる」と確信することができ、2018年2月の株主総会をもって、宇塚が正式に日本レーザーの代表取締役社長に就任しました。

常に社員にチャンスを与える

森井:社長育成を通じて、現在の貴社には会長や新たな社長が経営者としていらっしゃるわけなので、もし、他の方が会社を切り盛りしたいと考えたら、独立の道を選ぶ可能性があると思うのですが、実際にはそういったことがない。この理由は何なのでしょうか。

近藤会長:我々レーザー輸入商社にとって、海外サプライヤーの輸入総代理店権を保持することは非常に重要です。しかし、技術が分かり、英語ができ、海外メーカーやお客さまと関係性を構築している社員が、輸入総代理店権をこっそり持っていって独立してしまう、こういったことが簡単にできてしまう業界なんです。これは私が日本レーザーの社長に就任して早々の時ですが、当時ナンバー2だった常務が、主要な欧州メーカー数社と仕組んで、当社の輸入総代理店契約を打ち切り、有望な社員を引き抜いて日本法人を設立してしまったんです。日本レーザーは売り上げの2割を失うことになりました。
しかし、社員が独立していったのは私が社長に就任してから2年目までのこと。以降、23年間は一切起こっていません。その秘訣がまさに自己組織化です。カンパニー制のようなもので、日本レーザーの中に1人か2人くらいの規模のカンパニーが沢山あり、社員はそれらの主人公として好きなようにやっているわけです。
これはある優秀な社員の話ですが、彼は原則全員参加となっている月曜の朝礼に全然出席してこない。ちょうど今日の朝礼に久しぶりに出てきたものだから、毎回行っている3分間スピーチを彼に急遽やってもらったら、「私が今何をやっているか皆さん知らないと思いますから、ちょっと紹介します」っていい出すんです。たった50人強の会社なのに、社員がお互いに何をしているのか分からない。我々役員はある程度知っていますが、他の社員は知らない。まさにワンマンカンパニーの社長みたいな感じです。

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また、私の知り合いの息子で当社に入社した人間がいるんですが、彼は入社して10年くらいで支店長になり、40歳で執行役、去年42歳で取締役に昇格するほど優秀な人材です。今度、ドイツのがん治療用レーザーシステムメーカーとジョイントベンチャーを作りますが、彼をそこの社長にします。彼には「社長だから好きにやっていいけど、会社をつぶしちゃいかんよ、実績をだせよ」といっています。常に皆にチャンスを与えるわけですから、先ほどのような心配はありません。

近藤会長が抱く2つの夢

森井:グローバルビジネスを展開する貴社が長年にわたって黒字経営を維持できているのも、自己組織化が大きな要因なのかもしれませんね。それでは最後に、今後、近藤会長が挑戦したいと考えていらっしゃることについてお話しいただけないでしょうか。

近藤会長:仕事に関する夢と仕事以外の夢がそれぞれあります。まず仕事に関する夢ですが、それは何といっても先ほどのジョイントベンチャーです。新しく作るジョイントベンチャーでは、がん治療用レーザーシステムの調整や修理を受注する予定です。
現在、2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで亡くなっていますが、今後はレーザー技術を活用することで、安く確実にがんが治る時代が到来するでしょう。どうやってレーザー技術でがんを治療するかというと、がん細胞にしか付着しない特殊な薬剤があるのですが、その薬剤をがんに付着させ、そこをめがけてレーザーを照射する。すると、がん細胞を破壊することができるのです。このレーザー技術によるがん治療に関し既に臨床試験が始まっており、まずは咽頭がんや喉頭がん、舌がんといった頭部や首のがん、そして食道がんや胃がん、大腸がんにも治験の範囲が拡大しています。レーザー治療だと体への負担がほとんどなく、またレーザー機器自体もそれほど高額ではないので、もし認可がおりたら街のクリニックで1人数十万円程度でがん治療ができるようになるかもしれません。
その他にも美容医療分野でのレーザー活用も、今後更なる拡大が期待できます。普通のレーザーは不調や故障が発生しない限り点検や調整は不要ですが、先ほどのレーザーは医療用のため不調や故障がなくとも毎年検査しなくてはいけません。毎年一定量の検査需要があるうえに、さらに検査は1時間から2時間程度で行えるものなので、ここに大きなビジネスチャンスを感じています。

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次に仕事以外の夢ですが、進化した日本的経営をグローバルスタンダードにし、人を大切にした経営というものを確立したいと思っています。そのために、経営学者の坂本光司先生が取り組まれている「人を大切にする経営大学院」に協賛したりしています。坂本先生の本は台湾や韓国、タイ等で評価されていて、人を大切にする経営に興味をもったタイの経営学者が、今度学生を引き連れて当社に視察に来る予定となっています。ただ、この夢の実現は非常に大変だと思っています。というのも、世界経済が成長している間は民主主義が機能しますが、今後ピークアウトし徐々に下降していくのは目に見えています。パイが広がらないから、これから先は戦争で奪い合う時代がくるかもしれませんし、もし戦争を前提とした時代が訪れたら、進化した日本的経営が受け入れてもらえるかどうかも分かりません。でもそういう時こそ、これまでの自分の経験を世界中の人々に伝えていかなくてはいけないと思っています。

(この対談は2019年4月8日に行われたものであり、社名や役職名は当時のものです。)

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