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社員一人ひとりが「主人公」になれる企業とは(前編)

掲載日:2019年5月7日対談企画

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この対談企画では、ビジネスや経営に対する考え方、課題解決に向けた取り組み等を事業者の方々に伺い、中小企業のお客さまに対し、ビジネスのヒントを提供することを目的としています。

第4回は、人を大切にした経営により、倒産寸前だった会社を25年間連続黒字の優良会社へと立て直した、株式会社日本レーザーの近藤会長とみずほ銀行の森井(リテール法人推進部)が対談を行いました。「自己組織化」をテーマに、これまで取り組まれてきたこと、また現在取り組まれていることについてお話いただいた内容を前後編でお届けします。

企業の発展段階を踏まえ自己組織化を実現

森井:貴社は、現在25年間連続して黒字を達成していらっしゃいますが、以前はかなり経営状況が厳しかったそうですね。近藤会長は、今から25年前、日本レーザーの親会社であった日本電子から出向し、日本レーザーの社長として経営再建に取り組むことになったと伺っておりますが、当時の貴社はどのような状況だったのでしょうか。

近藤会長:かつての日本レーザーは、公私を混同していたり、自由と勝手を履き違えていたりと、どうしようもならない粗野な社員の集団でした。そういった状態ではトップダウンで改革していかなくてはならない。だから、私が社長を勤めた25年間を振り返っても、特に最初の1年間はトップダウンで就労規則や待遇、評価制度等の見直しを実施しました。

写真
株式会社日本レーザー
代表取締役会長 近藤 宣之氏

森井:就任当初、貴社は組織として十分に機能していなかったようですが、近藤会長が改革を進めていくことで、貴社を「自己組織化」させることに成功されていらっしゃいます。社員一人ひとりが裁量権を持ち、即断即決で物事を進めていく組織へと変革できた要因は、経営者と社員の間に信頼感があったことだと思いますが、自己組織化に至るまでにどのようなプロセスを踏まれたのでしょうか。

写真
株式会社みずほ銀行
リテール法人推進部
森井 元

近藤会長:自己組織化と言っても、いきなりできるわけではありません。企業にはいくつかの発展段階があり、第一段階は「衝動型(レッド)」で、1人の長が力で組織を支配している状態、つまり以前の当社です。第二段階の「順応型(アンバー)」は、階級や組織図が明確に定められた軍隊や教会のような組織形態。第三段階の「達成型(オレンジ)」は、目標設定し計画を立てて達成していくという段階で、日本の多くの中小企業は第二段階目のアンバーか第三段階目のオレンジ、大企業だと第三段階目に当てはまると思います。そして、第四段階の「多元型(グリーン)」では、ヒエラルキーは残っているものの、最前線のメンバーには大幅な権限委譲がなされており、最後の「進化型(ティール)」は、ピラミッド型の組織構造は見られず、社員一人ひとりが主体性を持つ自主経営組織と言われています。ティール組織と自己組織は別物ではありますが、似ているところもあります。

当社を改革する際も、このティール組織の考え方を参考にしました。1年目はトップダウンの経営をしましたが、2年目になると、社員の間に馬鹿馬鹿しくてやってられないという雰囲気が出てきたため、モチベーションアップの方法を考えるようになりました。モチベーションの向上には、頑張った分だけ報われたり、自身の成長を実現できたり、自由に発言できたり等、そういった企業風土のようなソフトの面と、仕組みやインセンティブのようなハードの面、この両方を変えていく必要があります。どちらが優先ということもないのですが、当社の場合は、まず皆が会社から大切にされていると実感できるような諸施策の展開に注力しました。結果、皆のモチベーションは向上していき、ついに達成型(オレンジ)の段階に入ることができました。

しかし、一人ひとりが本気で働いていない、当事者意識が足りないと感じることがありました。というのは、当時の日本レーザーは日本電子の子会社だったので、いくら仕事ができても社長はもちろん、役員にすらなれなかったのです。しかしそれではダメで、頑張ったら会社の主人公になれると、社員が心底思えなくてはいけません。この状況を乗り越えたのは、MEBO*という手法でした。MEBOを通じて、正社員やパート、嘱託、定年再雇用者、新入社員、転職者等、皆が日本レーザーの株主になったのです。これが、社員が高い当事者意識を持つ最大のきっかけとなりました。けれども、MEBOを検討した際に、皆が株主になることに率先して手をあげ、予定よりも何倍も資金が集まったのは、当時の日本レーザーが「モチベーションが高い」段階にあったからこそ。常に企業の発展段階を踏まえて、トップダウン、モチベーションを上げる、当事者意識を高める、という順に経営を行うことで、その先にある自己組織化を実現できたわけです。

*MEBO:対象会社の経営陣と従業員が一体となって資金を出資し、対象会社の株式を株主から買い取ることで経営権を取得する企業買収の一形態。

高いモチベーションを維持する秘訣

森井:今お話にでたモチベーションについてですが、近藤会長は、著書の中で「下位の20%の社員こそが宝だ」と発言されていらっしゃいます。下位20%の社員の存在が、他の社員のモチベーションや、はたまたロイヤリティの源泉になるというご指摘がとても興味深いと思いました。しかし一方で、社員同士で甘やかし合うといったデメリットも想定されるのではないかと思うのですが、この点についてどう考えていらっしゃいますか。

近藤会長:私は以前から「進化した日本的経営」というのを考えていますが、この進化した日本的経営に今の質問の答えがあると思っています。
日本的経営の特徴として「終身雇用」があります。終身雇用を私は生涯雇用と表現していますが、雇用は大きなセーフティネットになりますから、今後も生涯雇用は大切にしていきたいと考えています。では捨てるべきは何か。それは学歴別、性別、国籍別といったものです。
進化した日本的経営では、先ほどの生涯雇用とダイバーシティが重要な要素となります。例えば当社では、外国籍であっても正社員として積極的に採用していますし、一人ひとりの生活ニーズに応じた雇用を実現するようにしています。そして、一人ひとり異なる雇用に対応した待遇の仕組みも構築しています。

一方で当社では、年齢、性別、学歴等は一切関係なく、社員本人や上司、役員が決める「総合評価」に基づき、賃金や昇格を決めています。また手当も、もともとあった住宅手当や家族手当を廃止し、新たに「英語能力手当」「IT能力手当」「態度能力手当」を設け、実力で評価される仕組みを作りました。その他にも「透明性」と「納得性」を徹底した様々な人事制度を展開しており、当社は実力主義がかなり進んでいる企業であると言えます。

ではなぜ、そんな当社が下位20%の社員を大切にしているかというと、どんな集団も何かしらの基準で上位20%、中間の60%、下位の20%の3つの層に分かれてしまうからです。仮に下位の20%を切っても、また新たな下位の20%が生まれるだけです。でも下位の20%は、ダメな社員ではない。成果の面では下位20%だけれども、会社の雰囲気を明るくしたり、整理整頓や社内の花の水やりを率先して行ってくれたりする人もいるわけですよね。だから生涯雇用は守るし、生活に困らないくらいの給料も支払います。また、誰だって下位20%に落ちる可能性はあります。そうなった時に切られてしまうのだとしたら、安心して働くことなんてできないでしょう。

独自の取り組みで社員の成長を促す

森井:社員一人ひとりに対し非常に厳しいながらも、本質的な優しさも同時にあわせ持っていらっしゃるのですね。上位・中間・下位すべての社員を経営者としてどうマネジメントしていくかですが、貴社では、「今週の気付き」「今週の頑張り」「今週の感謝」をメールで上司に送り、上司が返信する仕組みがあると伺いました。

近藤会長:この取り組みを始めて今年で13年目になります。例えば「気付き」であれば、「今週、自分はこういうトラブル(気付き)を経験したので、今後このようにします」と決意表明したり、「頑張り」であれば、「今週、自分はこんなことを頑張りました」と振り返りをしたりするわけです。気付きに対して決意表明することは特におすすめします。でもここでいう決意表明とは、「こうしたいと思います」「こうするつもりです」ではなく、「こうします」と断言すること。これを1年間だと約50回、10年間だと500回決意表明することになります。社員はとても成長しますよ。
また、社員からのメールに上司がコメントをする、これが長く続くポイントです。上司が読まないなら「やめた」となりますからね。

後編では、後継者育成や近藤会長の今後の挑戦等について、詳しくお話を伺っていきます。

(この対談は2019年4月8日に行われたものであり、社名や役職名は当時のものです。)

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