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社会に求められていることはビジネスにもなる

掲載日:2019年3月25日対談企画

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この対談企画では、ビジネスや経営に対する考え方、課題解決に向けた取り組み等を外部の事業者の方々に伺い、中小企業のお客さまに対し、ビジネスのヒントを提供することを目的としています。

第3回は、全国の自治体向けに、ソーシャルマーケティングによる特定検診やがん検診の受診率向上サービスを展開している、株式会社キャンサースキャンの福吉社長とみずほ銀行・末吉(リテール・事業法人業務部 新規事業推進室)の対談を行いました。「ソーシャルマーケティング」をテーマに、これまで取り組まれたこと、また現在取り組まれていることについてお話いただきました。

医療が抱える課題の解決にマーケティングで挑む

末吉:ソーシャルマーケティングという取り組みに着目した理由や、創業の背景・思いをお聞かせください。

福吉社長:以前は消費財メーカーで洗剤のマーケティングに取り組んでいました。マーケティングによって消費者の購買行動の変容を促し、シェアを奪っていくことはゲーム感覚で楽しかったのですが、入社して4、5年経過した頃に、一つの疑問が自分の中に生まれました。
商品が売れると会社の売り上げはあがるし、自分もボーナスが増えてうれしいのですが、自分が死ぬほど頑張っても社会が変わることは無いと感じてしまい、ある日突然とても物足りなく思えてきたんです。ただ、じゃあ何をしたいかというのも特に無かったんですけれどね。それで、いったんキャリアをリセットしたいと思い、ハーバードビジネススクールに行くことを決意しました。

末吉:元々、明確にやりたいことをお持ちだったわけではなく、やりたいことを模索していらっしゃったのですね。

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株式会社キャンサースキャン
代表取締役社長 福吉 潤氏

福吉社長:具体的にやりたいことは無かったのですが、「マーケティングは楽しかったな」とは感じていました。自分から人に働きかけることによって、人の行動が変わるというのはとても楽しいことだと思っていたので、それまでに培ってきていたマーケティングスキルを活かして、社会が変わっていくことの一翼でも担えればいいなと思っていました。
留学先では色々な研究をしている人、様々なことに情熱を持っている人が沢山いたので、できるだけ多くの人に話を聞いてみました。その中で、当時、予防医療の研究をしていて、後に共に創業することとなる石川*と出会いました。石川は、「日本では2人に1人はがんになって、3人に1人はがんで亡くなる。でも、がん検診を受ければ助かるのにみんな受けない」と言っていました。
石川は、がんの検診のメリットをうまく周知出来ていないと考えていましたが、私からするとそれはマーケティングの問題であり、医療の課題をマーケティングで解決することが出来るのではないかと思いました。当時、具体的なアイデアがあったわけではありませんが、医療の課題をマーケティングで解決する、そんな会社をやろうと思い、石川と私の2人で会社を始めることにしました。

*石川善樹氏:株式会社キャンサースキャンの共同創業者で、現在は同社のイノベーションディレクターを務める。また、予防医療博士として、様々な企業や大学と学際的研究も行う。

マーケットの構築には事例づくりが大切

末吉:例えば、がんの怖さは皆分かっているつもりでも、死因の第1位が大腸がんであること、ましてや予防によって大きなメリットを享受出来ることを理解している人は少なく、お客さまのニーズとマーケットは確かにあると感じますが、以前は、予防が効果的であることを実証するノウハウを、恐らく誰も持っていなかったのではないかと思います。これまで何もなかったところにマーケットを作っていくにあたって、最初にどのようなことから取り組まれたのでしょうか。

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株式会社みずほ銀行
リテール・事業法人業務部
新規事業推進室 末吉 光太郎

福吉社長:ビジネスモデルを作るという考え方をしたことはあまりなく、社会の課題があって、解決するスキルが我々にあるのであれば、何らかの方法で事業化が可能だろうと思っていたぐらいです。
それよりも、医療が見つけた課題をマーケティングで解決するということの成功事例を、一刻も早く作り出すことが重要だと思っていましたね。と言うのも、マーケティングを活用すればがん検診を受ける人が増えるはずだ、と我々が言っても、最初はなかなか周囲の理解を得られなかったので。

末吉:現在取り組まれていることは、ソーシャルマーケティングの分野における先駆けだと思います。だからこそ、皆の頭の中に無い景色をどのように見せるのかということに、大変なご苦労をされたのではないかと思います。

福吉社長:そうですね。当時の国立がん研究センターの検診研究部の部長で、斎藤博先生という方がいらっしゃいました。斎藤先生にマーケティングでがん検診の受診率をあげられると思うと伝えたら、面白いねと興味を持ってくださったんです。
これをきっかけに一緒に研究することになり、最終的には乳がん検診の受診率が3倍になったという研究成果を出しました。ついこの前までマーケティングの活用なんて意味がないと言っていた人たちも、事例をもって数字で示せるようになると、どんどん見方が変わっていきました。やはり成功事例が出来たというのはすごく大きかったですね。

末吉:マーケットを作っていくためにはまず事例を作り、効果を見える化して皆に共有していくことが大事なんですね。

福吉社長:来年度は自治体との契約数が数百になりますが、最初の6、7年は契約数がまだ30程度だったんです。当時はまだビジネスになっていなかったですね。
自治体向けのビジネスはインフラを敷いていくようなイメージなんです。水道管や下水道管のように、それがないと成り立たないというぐらいの必然性が出てくると、契約に至る自治体の数が指数関数的に増えていきます。契約しないことの方がリスクになるので、一気に契約数が増えるわけですよね。
例えば、どこかの県のどこかの自治体が我々と契約し、その自治体の健康診断の受診率が跳ね上がったとします。すると周りの自治体が、一体何が起きたんだ、放っておくと置いていかれるぞ、となるわけです。

末吉:イノベーターになってくれる人が数%いて、そのフォロワーがいて…という状態ですね。

新たな流れ「SDGs」に感じること

末吉:福吉社長が取り組まれている事業では、デジタライゼーションと言われる中でのAIを活用する部分と、昨今注目されているSDGsという新たな流れ、この両方を先取りされていると感じます。今後、SDGsマーケットへの参入を展望する中堅中小企業のお客さまに、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。

福吉社長:SDGsということを意識して事業を立ち上げてきたわけではないのですが、社会に求められていることをすれば、ビジネスにもなると堅く信じてきましたし、人が喜ぶことには対価が発生しないわけはないだろうと思っていました。
この考えに手ごたえを感じている理由の一つに、弊社では採用がとてもうまくいっているということがあります。今の若者たちの多くはお金に苦労して育ってきた世代ではないですから、お金のためだけに生きてはいけないけど、お金なしに志だけで生きていくことも難しい。そういった世代にとって、ソーシャルビジネスをビジネスとして思い切りやろうというのは、今の人たちが求める仕事・プロフェッショナルのあり方に当てはまるとずっと思っています。
ビジネスが自社の利益追求のためだけにあってはいけないという一方で、ビジネスが成立しないとサステナビリティやインパクトがない。そこのいいバランスだったんじゃないかと感じます。

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末吉:若い世代は自分のゴールをいくつか持っていて、その中の一つとして会社で働くことも含まれているんでしょうが、本当に実現したいこととして、社会のプラットフォームを作りたいとか、先ほどお話にあった社会を変えるような一つのトリガーをひきたいという思いを抱いているケースが多いように感じます。そういう場を提供出来ることが更なる企業の成長につながるのではないかと思いました。
大企業を中心にSDGsが徐々に浸透しつつある中、先陣を切っていらっしゃる貴社のような取り組みがどんどん広がっていくことを望んでいます。

カスタマーヘルスケアマネジメントの確立に向けて

末吉:最後に、貴社の目標や課題についてお聞かせいただきたいと思います。

福吉社長:弊社のビジョンは「マーケティングとテクノロジーとで人と社会を健康にする」です。検診を受ける人を増やしていくことは非常に重要ですが、健康診断を受けた人たちがその後どう行動していくのかがより重要なんですよね。
例えば、がんの精密検査が必要となっても75%くらいしか精密検査に行かない。メタボと判定されても、次のアクションになかなか移らない、という人が多いのです。健康診断後に待ち構えているこれらの関門を突破するためには、精密検査を受けない人に受けてもらえるような行動変容、肥満気味の人にダイエットを促す行動変容等、人によって一つひとつ違う行動変容が必要となります。
我々が今打ち出しているのは、カスタマーヘルスケアマネジメント(CHM)です。お客さま一人ひとりとの関係性をマネジメントしていきましょうという、カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)という言葉がありますよね。あれと同じことを、検診を受けた人一人ひとりに対して、行っていかなくてはいけないと考えています。
今後、全国数百の自治体の検診結果のデータが、毎年我々に集まってきます。それらのデータを活用し、今後発生しうる病気を健康状態ごとにシミュレーションしてみたり、最も効果的な健康作りの方法を人のタイプ別に考えたりする等、カスタマイズのマネジメントサービスを作っていかなくてはいけない、これが一番の課題ですね。

末吉:次につながっていくビジョンを持っていらっしゃること、行動様式を変えていくというところは、着眼点として大変参考になります。

福吉社長:数千万人の健康データを扱うことによる新しい付加価値に対して、現時点で考えても想像がつかないような世界があり、私自身、今後をとても楽しみにしています。

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(この対談は2019年2月12日に行われたものであり、社名や役職名は当時のものです。)

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