スタートアップ育成5か年計画とは?政府による支援を有効活用しよう
掲載日:2025年7月1日起業準備

政府はスタートアップ企業の成長を支援するために、「スタートアップ育成5か年計画」を2022年に策定しました。
スタートアップ企業には革新性やイノベーションのアイデアがあり、社会的課題の解決や持続可能な経済社会の実現に向けて、重要な役割を果たすことが期待されています。
日本は欧米に比べて開業率が低く、イノベーションも起こりにくい課題を抱えています。そこで、政府は経済の活性化や新陳代謝を促進するために、スタートアップ企業を設立しやすくして、成長を促すための仕組みを整備しています。
今回は、政府が策定した「スタートアップ育成5か年計画」の具体的な内容や、スタートアップ起業家が受けられる支援内容等を解説します。
目次
スタートアップ育成5か年計画における政府目標
政府による「スタートアップ育成5か年計画」は、2022年に策定されました。2027年までの5年間で、以下の目標達成をめざしています。
- スタートアップへの投資額を10兆円とする
- 将来においてユニコーン100社、スタートアップ10万社を創出する
創業数だけでなく、創業したスタートアップの成長を支援するための「投資額」を目標に含めて、スタートアップへの支援を拡大したい意向です。
経済の停滞が大きな課題となっている日本では、官民でスタートアップを支援する重要性が高まり、支援を通じて経済の活性化や雇用の促進をもたらすことが期待されています。
経済産業省によると、スタートアップによるGDP創出額は直接効果で10.47兆円、間接波及効果を含めると19.39兆円です(試算額)*。
国内スタートアップの就労人口は約40万人(2023年度末)で、毎年スタートアップへの転職者は増加しているため、スタートアップの成長は雇用の創出にも良い影響をもたらすでしょう。
革新性や優れたアイデアを持つスタートアップ企業が、高い付加価値を生み出せる人材を確保できれば、社会課題を解決できる商品やサービス等のイノベーションが期待できます。
スタートアップ育成5か年計画の内容
スタートアップ育成5か年計画は「第一の柱」「第二の柱」「第三の柱」に分かれており、「人材」「資金」「事業(オープンイノベーション)」について網羅的に課題と施策を整理しています。
ここからは、政策の全体像を把握して、スタートアップがどのような支援を受けられるのかをご紹介いたします*。
第一の柱:スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
第一の柱では、スタートアップを生み出すための人材育成とネットワークの形成を定めています。
政府が指摘しているのは、日本の開廃業率の低さです。実際に、日本・米国・英国の開廃業率は以下の通りです。
開業率 | 廃業率 | |
---|---|---|
日本 |
5.1% |
3.3% |
米国 |
9.2% |
8.5% |
英国 |
11.9% |
10.5% |
開業率 | |
---|---|
日本 |
5.1% |
米国 |
9.2% |
英国 |
11.9% |
廃業率 | |
日本 |
3.3% |
米国 |
8.5% |
英国 |
10.5% |
また、起業を「望ましい職業選択と考える人の割合」は、中国で79%、米国で68%であるのに対し、日本は25%と先進国・主要国の中で最も低い水準です。
そのため、大学や研究機関を通じて10代~20代の若い時期から、スタートアップの起業を志す人材を育成する重要性が指摘されています。
起業家が優れた技術や知識を持っていても、ビジョンがなければ宝の持ち腐れになってしまうでしょう。
そこで、政府は、以下のように「起業したい」「起業後に課題を相談しやすい」環境を整備して、ビジネスにつなげるためのサポート基盤づくりを進めています。
メンター支援の拡大 |
起業経験者や専門家がメンターとして若手起業家を指導する体制を強化 |
---|---|
海外拠点の創設 |
起業を志す若手人材を海外に派遣し、グローバルな視点と経験を持つ起業家を育成 |
大学での起業家教育 |
大学の起業家教育やスタートアップ支援を充実させ、若い世代の起業意識を高める |
メンター支援の拡大 |
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起業経験者や専門家がメンターとして若手起業家を指導する体制を強化 |
海外拠点の創設 |
起業を志す若手人材を海外に派遣し、グローバルな視点と経験を持つ起業家を育成 |
大学での起業家教育 |
大学の起業家教育やスタートアップ支援を充実させ、若い世代の起業意識を高める |
第二の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
第二の柱では、スタートアップが成長するための資金調達手段の拡充と、多様な出口戦略の提供が示されています。
2021年の日本のベンチャーキャピタル投資額は、米国に比べて投資額・件数ともに小さく、成長性も低い水準です。
しかし、投資を受けた企業が雇用の拡大やイノベーションに積極的であることが分かっており、政府は以下のようにスタートアップへの投資を増やすための取り組みを進めています。
官民ファンド等の出資機能の強化 |
官民ファンドも含め、5年後に10倍を超える規模のスタートアップへの投資額を実現する |
---|---|
ベンチャーキャピタルの強化 |
国内外の投資家やベンチャーキャピタルからの投資を促進し、スタートアップへの資金供給を拡大する |
多様な資金調達手段の提供 |
スタートアップの成長段階に応じて、IPOやM&A、プライベートエクイティ等の多様な資金調達手段を整備する |
ストックオプション制度の整備 |
スタートアップの人材確保とモチベーション向上のため、ストックオプション制度の環境整備を進める |
官民ファンド等の出資機能の強化 |
---|
官民ファンドも含め、5年後に10倍を超える規模のスタートアップへの投資額を実現する |
ベンチャーキャピタルの強化 |
国内外の投資家やベンチャーキャピタルからの投資を促進し、スタートアップへの資金供給を拡大する |
多様な資金調達手段の提供 |
スタートアップの成長段階に応じて、IPOやM&A、プライベートエクイティ等の多様な資金調達手段を整備する |
ストックオプション制度の整備 |
スタートアップの人材確保とモチベーション向上のため、ストックオプション制度の環境整備を進める |
優れたアイデアを持っていても、資金不足が障害となってイノベーションが妨げられてしまうのは、もったいないことです。そこで、スタートアップの資金調達を円滑化するために、事業投資資金が流れ込む仕組みが盛り込まれました。
また、起業に失敗して「借金や個人保証を抱えてしまう」点を懸念する起業家のために、スタートアップの創業から5年未満については個人保証を要求しない新しい信用保証制度「スタートアップ創出促進保証制度」が創設されています。
第三の柱:オープンイノベーションの推進
第三の柱では、既存の大企業とスタートアップが連携し、革新的なビジネスモデルや技術を生み出す環境を整備する内容が盛り込まれています。
大企業とスタートアップの連携促進 |
大企業がスタートアップと協業し、新たな価値を創出する取り組みを支援する |
---|---|
M&Aの活性化 |
スタートアップの出口(EXIT)戦略としてのM&Aを促進し、既存企業とのイノベーション推進を図る |
規制改革の推進 |
オープンイノベーションを阻害する規制を見直し、スタートアップと大企業の協業を促進する環境を整備する |
大企業とスタートアップの連携促進 |
---|
大企業がスタートアップと協業し、新たな価値を創出する取り組みを支援する |
M&Aの活性化 |
スタートアップの出口(EXIT)戦略としてのM&Aを促進し、既存企業とのイノベーション推進を図る |
規制改革の推進 |
オープンイノベーションを阻害する規制を見直し、スタートアップと大企業の協業を促進する環境を整備する |
スタートアップ企業が、高い成長率を維持し続けることは困難です。そこで、大企業との連携やM&Aを促進する税制優遇制度を新設し、持続的に存続と発展をめざす取り組みが進められています。
また、優れた人材がスタートアップへ移動する対策も盛り込まれています。2023年に「労働移動円滑化のための指針」が定められ、今後はスタートアップへの労働移動が活性化する可能性が考えられるでしょう。
スタートアップ育成5か年計画で起業家が受けられる支援

スタートアップ育成5か年計画では、スタートアップ企業の成長をサポートするための仕組みや枠組みが整備されています。
資金調達支援
スタートアップ育成5か年計画では、スタートアップ企業が資金調達するために、低金利での融資や創業融資制度が設けられています。これにより、融資が受けやすくなり、必要な事業資金を用意しやすくなるでしょう。
また、投資家に対する税制優遇措置が設けられています。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資を受けやすくなることで、スタートアップは返済不要の事業資金を確保できます。
このように、初期資金だけでなく運転資金や開発資金等を調達しやすくなると、革新的な商品やサービスを生み出せる経済的な基盤を築けるでしょう。
インキュベーターとアクセラレーター
インキュベーターとは、起業や新規事業の立ち上げを支援する活動や施設を提供する事業者を指します。具体的には、コワーキングスペースや事業に関する相談ができる場所の提供を行い、スタートアップの経営を支援しています。
アクセラレーターとは、英語で「加速」「促進」「高速化」等の意味があり、短期間で事業を成長させるために必要な知識や技術、経営ノウハウ等を支援する事業者を指します。弁護士や中小企業診断士、先輩起業家をはじめとした専門家が専門的な知識やノウハウを提供し、事業の成長をサポートします。
インキュベーターとアクセラレーターは、以下のように支援対象等が異なります。
インキュベーター | アクセラレーター | |
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支援対象 |
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支援期間 |
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支援内容 |
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支援対象 | |
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インキュベーター |
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アクセラレーター |
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支援期間 | |
インキュベーター |
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アクセラレーター |
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支援内容 | |
インキュベーター |
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アクセラレーター |
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政府が構築している「スタートアップ・エコシステム」では、起業家仲間や投資家、メンター等と交流できる場所と機会の提供が盛り込まれています。インキュベーターとアクセラレーターからの支援を通じて、事業主としての視野が広がり、新たなアイデアやビジネスチャンスを得られる可能性が高まるでしょう。
海外市場進出支援
官民一体となって集中的に支援を行う海外展開支援プログラム「J-Startup」が、2018年6月に設けられました。トップベンチャーキャピタリストやアクセラレーター、大企業のイノベーション担当等から推薦を受けたスタートアップが支援を受けられます。
グローバルに活躍する企業は一部に過ぎない現状を受けて、グローバルな場所でも勝負できるスタートアップ企業を生み出すことを目的としています。
受けられる支援の内容は、政府機関や民間支援機関のサポーターから大規模イベントへの出展やPR機会の提供、研究開発支援等です。
海外展開支援や事業拡大のチャンスを得られ、グローバル市場へのアクセスが容易になります。日本国内だけでなく海外へ成長の可能性を広げたい企業にとって、「J-Startup企業」に選ばれるメリットは大きいでしょう。
起業家がスタートアップ育成5か年計画を活用するメリット
スタートアップ育成5か年計画は、政府が進めている事業であり、いわば国策です。手厚いサポートを受けられるため、起業を検討している方は、事業展開や経営に役立つ支援やアドバイスを有効活用しましょう。
資金調達の選択肢が増える
スタートアップ育成5か年計画では、債務保証の仕組みを設けて、融資を促進する制度が設けられています。また、スタートアップ企業への投資額を増やす目標が掲げられているため、今後は出資を受けられる機会が増えると予測されます。
融資や補助金・助成金だけでなく、投資家からの出資が受けやすくなると、資金調達の選択肢が増えるメリットが期待できるでしょう。
スタートアップの成長には、経済的な支援が欠かせません。開業資金や事業資金が調達しやすくなれば、人材投資・設備投資等が円滑に行われ、イノベーションにつながりやすくなるでしょう。
エグジット(M&A)が成功しやすくなる
2020年のデータでは日本のスタートアップに対するM&Aの件数は、以下のように欧米よりも少ない状況が課題です*。
- 米国:1,473件
- 英国:244件
- 日本:15件
スタートアップのエグジット手段として、米国では約9割がM&Aであるのに対し、日本では約8割がIPO(新規株式公開)となっています。
M&Aはスタートアップのエグジット戦略(出口戦略)、既存の大企業のオープンイノベーションの推進策として重要です。政府はM&A の比率を高めることをめざしており、スタートアップと大企業間のM&Aを促進するための税制優遇措置である「オープンイノベーション促進税制」を拡充しました。
これによりM&Aの活性化が期待でき、今後はスタートアップのM&Aが成立しやすくなる可能性が見込まれます。
事業にまつわるノウハウを学べる機会を得られる
スタートアップを支援する一環として作られたのが、「スタートアップ・エコシステム」です。エコシステムでは、スタートアップが投資家やメンター、先輩起業家と交流を持てる場が提供されています。
事業の拡充や自治体が行う交流会への参加を通じて、経営やビジネスを発展させるための工夫やアイデア等、様々な情報を得られるでしょう。リアルな情報を得ると、経営のモチベーション向上にもつながる効果も期待できます。
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルに自社の強みや将来性等をアピールすることで、出資を受けられる可能性が高まります。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルは経営ノウハウの提供も行っているため、第三者からの視点から有益なアドバイスを得られるでしょう。
自分だけで事業戦略を考えるのは大変です。事業にまつわる実践的なノウハウを学べる場を積極的に活用し、人脈形成を行えば事業の発展につながります。
関連記事:「スタートアップ・エコシステムとは?仕組みや起業家が参画するメリットを解説」
スタートアップの成長ステージ
スタートアップ企業の成長ステージは、「プレシード・シード」「アーリー・ミドル」「レイター」の3つのステージに大別されます。
ステージ | 段階 | 効果的な支援 |
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プレシード・シード |
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アーリー・ミドル |
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レイター |
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プレシード・シード | |
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段階 |
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効果的な支援 |
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アーリー・ミドル | |
段階 |
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効果的な支援 |
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レイター | |
段階 |
|
効果的な支援 |
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スタートアップの成長ステージごとに、効果的な支援は異なります。例えば、プレシード・シードステージで経営者保証を必要としない債務保証制度を新設し、創業時の融資を受けやすくしています。
事業が軌道に乗り始めて「アーリー・ミドル」になると、ベンチャーキャピタルからの出資を受けるケースが増えます。「レイター」では事業が順調に拡大して出口が見えてくるため、M&Aを促進する支援を活用すると良いでしょう。
企業を設立する際は法人口座を開設するのがおすすめ
スタートアップの設立する際は、法人口座を開設しましょう。法人口座では企業のお金を厳密に管理できるため、個人のお金が紛れ込んでしまうリスクを防ぎ、経理事務の負担を軽減できます。
法人口座の開設に対応している銀行の中でも、特にメガバンクは全国各地に支店を有しています。法人口座を有していることが会社の信用力にもつながり、事業理解を得やすくなるメリットが期待できるでしょう。
また、みずほ銀行で法人口座を開設すると、インターネットバンキング「みずほビジネスWEB」や電子帳票に対応した「みずほWEB帳票サービス」等をご利用いただけます。
さらに、みずほ銀行のスタートアップを応援する会員制サービス「M's Salon」では、スタートアップと大企業をマッチングする「M’s Salonコネクト」やスタートアップとベンチャーキャピタルをつなげる「VCマッチング」を行っています。
会員限定で、スタートアップの成長やイノベーションを支援する様々なサービスをご用意しています。
まとめ
スタートアップ育成5か年計画では、スタートアップの開業数を増やしたり、投資額を増やしたりするための計画が示されています。資金調達や経営支援など、様々な分野でスタートアップを支援する枠組みが設けられています。
スタートアップを生み出すための人材育成とネットワークの形成、資金供給の強化と出口戦略の多様化等が盛り込まれているため、起業を検討している方にとって追い風といえる状況です。
政府や自治体が行う支援策を活用すれば、資金調達やアイデアの獲得につながったり、自社の理解を深めてもらうための機会を得られたりします。
これからスタートアップの起業を検討している方は、「自社が利用できる支援は何か」「現在の成長ステージで効果的な支援は何か」を意識してみてください。
また、スタートアップ企業を設立する際は、法人口座の開設をおすすめします。みずほ銀行で法人口座を開設いただくと、経営に関する相談ができ、スタートアップを支援するイベントにも参加できます。
創業期のお客さまに向けた特典もご用意しているため、ぜひみずほ銀行での法人口座開設をご検討ください。
監修者

内山 貴博
- 1級FP技能士
- CFP
大学卒業後、証券会社の本社で社長室、証券業務部、企画グループで5年半勤務。その後FPとして独立。金融リテラシーが低く、資産運用に保守的と言われる日本人のお金に対する知識向上に寄与すべく、相談業務やセミナー、執筆等を行っている。
日本証券業協会主催「投資の日」イベントや金融庁主催シンポジウムで講師等を担当。
2018年に日本人の金融リテラシー向上のためのFPの役割について探求した論文を執筆。