手形・小切手廃止とは?メリットや背景、代替手段「でんさい」の概要も解説
掲載日:2025年9月29日法人口座

紙の手形・小切手は、これまで企業間取引の決済手段として広く利用されてきましたが、2026年度末をめどに廃止される見通しです。
本記事では、手形・小切手廃止の概要や背景、電子化のメリットを解説します。また、紙の手形・小切手に代わる決済手段の一つである「でんさい(電子記録債権)」の仕組みやメリットも併せて紹介します。
現在も手形・小切手を使用している事業者は、早期に電子的決済手段への移行を進めましょう。
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目次
約束手形・小切手の廃止とは
政府は、2021年6月に公表した「成長戦略実行計画」の中で、「5年後の約束手形の利用廃止」と「小切手の全面的な電子化」の方針を示しました。
これを受け、全国銀行協会は2021年7月に「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を策定しました。その中で掲げた目標「2026年度末までに全国の手形交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにする」を達成するために、電子的決済サービスへの移行を推進しています*1。
こうした状況を踏まえ、各金融機関は紙の手形・小切手の発行や取立受付の停止を発表する等、2026年度末の利用廃止に向けた取り組みを行っています。
なお、廃止されるのはあくまでも紙媒体の手形・小切手であり、「でんさい(電子記録債権)」等は引き続き利用可能です。
- *1電子的決済サービスとは、でんさい(電子記録債権)またはインターネットバンキングによる振込を指します。
手形・小切手が廃止される背景
紙の手形・小切手が廃止される背景として、大きく以下の2つが挙げられます。
- デジタル化が急速に進む現代の取引環境に適応しなくなっている
- 受取側の業務負担が大きい
紙の手形・小切手を用いた取引には、作成や管理、受け渡し等に多くの手間やコストがかかるほか、紛失・盗難のリスクも伴います。デジタル化やDXが推進され、効率的な取引が求められる現代で、こうした従来の決済手段は、現代の取引環境に適さなくなっています。
また、約束手形はこれまで、支払企業が資金繰りを安定させる手段の一つとして利用されてきました。
しかし、受取企業にとっては支払いまでの期間が長く、支払期日前に資金化する際の割引料も高額です。そのため、資金繰りを圧迫する要因として問題視されてきました。特に取引上の立場が弱いとされる受注企業にとっては、資金繰りへの影響が大きく、資金不足に陥るリスクも懸念されます。
このような背景から、政府は手形の廃止・小切手の全面電子化を正式に決定しました。
公正取引委員会・中小企業庁による支払期間短縮の動き
公正取引委員会および中小企業庁は、中小企業の取引を適正化するため、事業者に対して手形等による支払期間の見直しと短縮を促しています。
具体的には、2024年11月以降、支払期間が60日を超える手形等は、行政処分の対象となることがあります。なお、支払期間に関するこの取扱いは紙の手形だけでなく、でんさいにも適用されます。
約束手形・小切手が廃止されるのはいつから?
紙の手形・小切手は、2026年度末の廃止が予定されており、各金融機関が新規発行受付の停止を進めています。新規発行受付の終了時期は金融機関によって異なるため、ウェブサイト等で確認しましょう。
また、こうした動きから、交換所の手形・小切手の交換枚数は年々減少していますが、2024年時点でも2,000万枚近くが利用されています*2。
全国銀行協会は、現状の取り組みだけでは「2026年度末に交換枚数をゼロにする」という目標の達成が難しいと判断し、2027年度初めから交換所における手形・小切手の交換を廃止する方針を公表しました。
そのため、2027年4月以降、交換所を介した決済は利用できなくなります。ただし、紙の手形・小切手が全面的に利用不可となるわけではなく、各金融機関が郵送等を通じて個別に決済を行うことは可能です。
なお、2025年7月時点では、手形・小切手の使用に対して制限等は設けられていません。
企業が約束手形・小切手を電子化するメリット
紙の手形・小切手の廃止と電子的決済への移行により、支払企業・受取企業の双方に以下のようなメリットが生まれます。
- 事務の負担が軽減される
- 印紙代等のコストを削減できる
- 盗難・紛失のリスクを低減できる
事務の負担が軽減される
最も大きなメリットの一つは、手形・小切手に関する事務作業の負担を軽減できることです。
紙の手形や小切手を使用する場合、現物の発行や押印、郵送、管理等の作業が必要となり、手間や時間がかかります。
電子的決済に移行すれば、支払企業は手形・小切手の振出や郵送等の作業がなくなります。また、受取企業も領収書の発行や手形・小切手の保管・管理、銀行への持ち込みといった手間が省けます。こうした事務負担の軽減により、業務効率や生産性の向上が期待できるでしょう。
印紙代等のコストを削減できる
紙の手形・小切手を電子化することで、支払企業は印紙代や郵送料、発行手数料が不要となり、コストを削減できます。
受取企業においても、取立手数料の負担がなくなり、紙での受領やそれに伴う領収書の発行が不要となるため、印紙代や郵送料の削減が期待できます。
さらに、電子化により非対面での決済が可能となるため、取引先や金融機関、郵便局等に出向く際の交通費もかかりません。
盗難・紛失のリスクを低減できる
手形・小切手の現物を発行しないため、紛失・盗難や災害のリスクが低減され、安全性の向上も図れます。
紙の手形・小切手を使用する場合、管理や郵送中の紛失・盗難、社内での誤廃棄等のリスクに加え、金額や記載内容の改ざんリスクも伴います。
電子化後はデータ上で管理するため、物理的な紛失や盗難のリスクがなくなり、災害時に手形の郵送ができない等の心配も不要になります。
約束手形に代わる決済手段「でんさい(電子記録債権)」とは
政府は、現金払いを大原則とし、その一環としてインターネットバンキングによる振込も含めています。また、現金による支払いが困難な場合には、約束手形に代わる電子決済手段として「でんさい(電子記録債権)」の利用を推奨しています。
でんさいとは、「株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)」が運営する電子記録債権のシステムです。銀行や信用金庫、信用組合、商工中金等、でんさいネットに参加している全国の金融機関で利用できます。
手形・小切手の利用枚数(交換所の交換枚数)は、2024年時点で1,967万枚であり、ピーク時の20分の1以下まで減少しました*3。一方、でんさいの利用件数は年々増加しており、既に多くの企業で活用されています。2024年には、発生記録請求件数が830万件を超え、過去最高となりました*4。
- *3出典:一般社団法人全国銀行協会「手形・小切手の電子化に関する中間的な評価を踏まえた抜本的な取組み等について~2027年度初からの電子交換所における手形・小切手の交換廃止等~」
- *4出典:でんさいネット「でんさいネット請求等取扱高(2025年5月)」
でんさいの仕組み
でんさいは、債権を電子的に記録・管理する仕組みです。
支払企業が取引金融機関のインターネットバンキングを通じて「でんさいネット」の記録原簿に「発生記録」を行うことで、でんさいが発生します。これは、手形の振出に相当します。
また、取引金融機関を通じて記録原簿に「譲渡記録」を行えば、手形の裏書に相当する形ででんさいの譲渡も可能です。
「支払期日が到来すると、手形の取立に相当する形で受取企業の口座に自動送金されるため、振込手続きや取立は不要です。
でんさいのメリット
でんさいを利用すると、決済がすべてオンライン上で完結するため、支払いや手形受取にかかる業務負担が軽減され、業務効率化が期待できます。主なメリットは以下の通りです。
- 事務負担が軽減される
- 印紙税・郵送料等のコストを削減できる
- 紛失・盗難や災害のリスクを低減できる
- 支払手段を一本化して効率化を図れる(支払企業)
- 資金繰りの円滑化につながる(受取企業)
でんさいでは、支払期日に自動で資金が振り込まれ、受取企業はその時点から資金を活用できます。さらに、支払期日前に割引(早期資金化)として活用したり、必要な金額だけを分割して資金化したりすることも可能です。
手形・小切手の廃止に対して企業が対応すべきこと
2026年度末に予定されている手形・小切手の廃止に向けて、企業が対応すべき主な項目は以下の通りです。電子的決済手段に移行していない事業者は、早急な対応が求められます。
- 電子的決済手段の導入
- 業務フローやマニュアルの見直し
- 従業員への周知や研修
電子的決済手段の導入
電子化に未対応の事業者は、インターネットバンキングの活用やでんさいの導入等、電子的決済手段への移行に向けた対応が求められます。
でんさいを導入する際の一般的な流れは以下の通りです。
- 1.導入の検討・決定
- 2.でんさい契約・取引先への案内
- 3.でんさいの初期設定等の準備
- 4.でんさいの利用開始
でんさいネットでは、でんさいの利用を検討する際のチェックリストを公開しています。でんさいを導入すべきか迷っている事業者等に向けたセミナーも実施しているため、必要に応じて活用しましょう。
業務フローやマニュアルの見直し
紙の手形・小切手の廃止に伴い、紙媒体での決済を前提としていた業務フローやマニュアルの再構築が必要です。
例えば、電子的決済に移行すると、小切手帳の在庫確認や金庫での保管等、現物管理に関する業務は不要となります。また、従来手形や小切手に金額を入力していた作業は「支払情報の入力」に変わります。
さらに、電子化に伴い、不正アクセス等を防ぐためのセキュリティ体制の整備も不可欠です。
従業員への周知や研修
電子決済に不慣れな従業員が混乱しないよう、周知を徹底し、研修の実施や相談窓口の設置等の対応も行う必要があります。
従業員の理解を促進し、円滑に電子的決済へ移行するためには、業務の変更点だけでなく、手形・小切手が廃止される背景や自社への影響、電子化の目的等も併せて説明することが重要です。
さらに、電子化に移行した後も課題や改善点を把握し、運用方法に反映させましょう。
みずほ銀行法人口座のインターネットバンキングでスムーズな決済を
2026年度末に紙の約束手形が廃止され、小切手も電子化される方針に伴い、企業には電子的決済手段への移行・整備が不可欠です。電子的決済手段への対応には、インターネットバンキングの活用をご検討ください。
みずほ銀行の「法人口座開設ネット受付」は、休日・夜間でもお申し込みいただけ、ウェブ面談によって来店不要で手続きを完結できます。審査状況や必要書類の内容によっては来店が必要な場合があります。
会社設立3年以内のお客さまには、インターネットバンキング「みずほビジネスWEB」の月額基本料金が最大5年間無料になる特典をご用意しています。「みずほビジネスWEB」では、でんさいネットサービスの利用も可能です。
さらに、みずほ銀行で法人口座を開設すると、法人向けデビットカード「みずほビジネスデビット」が無料で付帯します。法人口座からリアルタイムで決済できるため、資金管理の効率化を図れます。
まとめ
これまで企業間取引で広く活用されてきた紙の手形・小切手は、2026年度末をもって廃止される予定です。電子的決済に移行することで、事務負担やコストの削減、紛失や盗難のリスク低減等、様々なメリットが期待できます。
電子的決済手段への移行には、業務フローの見直しや従業員の研修等、事前の準備が必要となるため、計画的な対応が求められます。
現時点では、2027年度以降に紙の手形・小切手を使用した場合の罰則は設けられていませんが、取引先との円滑な取引や業務の効率化を図るためにも、早めに対応しましょう。
来店不要でいつでも開設可能(メンテナンス時間:日曜日 0時00分~9時30分を除く)
監修者

安田 亮
- 公認会計士
- 税理士
- 1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。