直前でも間に合う!定年退職前にやっておくべきこと(年金・保険編)
掲載日:2021年1月29日退職・セカンドライフ

在職中は勤務先が行ってくれた年金や保険の手続き。定年退職前後には、ご自身で行うことになります。退職金や年金、健康保険に雇用保険…定年退職後に慌てて考え始めると、後悔する選択をするかもしれません。
定年退職前から準備しておくべきことは山積みです。それでは、どのような対策を取ればいいのでしょうか?今回は定年退職間近の方でも十分間に合う、「やっておくべきこと」について解説します。
退職金は一時金?分割?

勤務されている会社の退職金制度を確認していただくと、受け取り方が選択できることがあります。その場合、一括でまとめてもらう「一時金」と分けてもらう「年金(分割)」のどちらかを選ぶことになります。
1. 一般的には「一時金」で受け取る方がお得
退職金を「一時金」で受け取ると、給与所得とは別に「退職所得」として税額を計算するため、所得控除額が大きくなり、給与所得と比べると税額が低くなります。例えば、勤続年数38年、退職金2,000万円の場合、退職金額を所得控除額が上回るため、所得税および住民税がかからずに退職金額を全額受け取れます*1。
なお退職金を「一時金」での受け取りを希望する場合、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出すれば、所得税は源泉徴収され、原則として確定申告の必要がなくなります*2。
【例】勤続年数38年、退職金2,000万円の場合の退職所得控除額
退職所得控除額の計算の表 | |
---|---|
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
20年以下 |
40万円 × A |
20年超 |
800万円 + 70万円 ×(A – 20年) |
<引用>No.1420退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
*1 退職所得控除額の計算例
退職所得控除額
800万円+70万円×(38年–20年)=2,060万円
課税退職所得金額(支給される収入金額から退職所得控除額を差し引いた金額の2分の1)
(2,000万円–2,060万円)×1/2=–30万円=課税なし(0円)
- *212月の給与支給時前に退職していると年末調整されないため、確定申告が必要となります。
2.「年金(分割)」で受け取ると損なの?
退職金は「年金(分割)」で受け取ると「雑所得」として課税されます。老齢年金と合算した受取額が課税対象となるため、老齢年金だけをもらっている場合と比較して、所得税、住民税、社会保険料の負担が増えることになります。ただし、「終身年金」の選択が可能な場合、長生きすれば受け取る総額は増えますので、一概に「年金受け取りは損」とはいえません。
また、「一括」で受け取ったことで散財してしまい生活を苦しくしてしまうようなことも考えられるのであれば、「年金」として受け取る方が生活資金として安定します。勤務先によっては『一時金』と『年金』の併用が可能な場合もあるので、退職後のライフプランに合わせて受給方法を工夫することも検討するといいでしょう。
3. 確定拠出年金や企業年金との兼ね合い
また、退職金以外に、確定拠出年金や企業年金に加入している方のご相談が増えています。
退職金を一時金で受け取っても退職所得の非課税枠に空きがある場合、確定拠出年金や企業年金の一部を非課税枠まで退職金として受け取れば、税金が抑えられます。
公的年金の受給額や定年後の再雇用・再就職による収入を踏まえて、どのように受け取れば有利か検討してみてください。場合によっては、受給開始時期をずらすことも検討しましょう。
沢山の準備が必要な年金の手続き

老齢年金を受け取るためには保険料の納付期間や年金加入者であった期間の合計が一定年数以上必要です。年金を受け取るために必要なこの加入期間を「受給資格期間」といいます。老齢基礎年金の受給資格期間は、国民年金や厚生年金・共済年金などの加入期間すべて合算します。
年金加入者は、第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類に分けられます。それぞれについては以下の記事をご覧ください。
「年金加入者の種類」について詳しく知りたい方はこちら
年金受給額は増やせる!?50代のうちに知っておきたい年金の基礎知識
老齢年金には国民年金から支給される老齢基礎年金と、厚生年金から支給される老齢厚生年金があり、それぞれ受給開始年齢が異なります。
老齢基礎年金は原則として65歳から支給されますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間でも繰り上げて受け取ることができます。ただし、繰上げ受給の請求をした時点に応じて年金額が減額され、その減額率は一生変わりませんので注意が必要です。
一方、老齢厚生年金は以前は60歳から支給されていましたが、男性は1953年4月2日生まれから61歳支給となり徐々に受給開始年齢が引き上げられています。女性は5年遅れて受給開始年齢が引き上げられます。
老齢年金は受給開始年齢になったら自動的にお金が振り込まれるわけではありません。老齢基礎年金や老齢厚生年金の手続きは「年金請求書」で行います。
年金請求書には住所・氏名・生年月日などの基本項目や年金加入記録などが印字されています。老齢厚生年金がもらえる人には支給開始年齢の3ヵ月前に厚生年金の実施機関から年金請求書が届きます。また、国民年金しか加入していなかった人や厚生年金の加入が1年未満の人には65歳の3ヵ月前になると年金請求書が届きます。
手続する際には、公的機関が証明する書類(住民票の写し、戸籍謄本(抄本)旅券、在留カード、所得証明書、課税証明書など)や法人が証明する書類(源泉徴収票、在籍証明書など)、預貯金通帳のコピーなどが必要になります。年金の加入状況により必要な添付資料が異なるので、年金手続きをする前に、お住まいの管轄年金事務所に必要書類の確認と相談予約の電話をすることをおすすめします。
健康保険の選択肢は四つ
現在、法律で定められている定年は60歳からです。60歳を下回らなければ会社が独自に定年年齢を決めることができます。定年退職後は、どのような人生設計を考えていますか。
第二の人生として自由な時間を楽しみたいという人もいるでしょうし、生涯現役の気持ちで再就職する人もいるでしょう。また、これまでの経験・実績から引き続き会社に勤務して欲しいと懇願される人もいることでしょう。
定年後は選択肢が増えます。同時に健康保険についても検討しなければなりません。ここでは定年退職後の健康保険について説明します。
①のんびりしたいなら国民健康保険
定年退職後、就職せずにしばらくのんびりしたいという人は国民健康保険への加入手続きとなります。国民健康保険はお住まいの自治体で手続をします。会社で加入していた社会保険から脱退した証明が必要となります。
年金事務所が発行する健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失確認通知書やハローワークが発行する離職票などをお住いの自治体の役所へ持参するとスムーズに手続をすることができます。国民健康保険料は前年の収入に応じて保険料が決定されます。
②前年の収入が高いなら任意継続被保険
前年の収入が高い人は国民健康保険の被保険者ではなく、会社で加入していた社会保険の任意継続被保険者となることを選択することも検討しましょう。任意継続とは、任意継続被保険者となった日から2年間、会社の健康保険に加入していた人が退職後もそのまま健康保険に加入することができる制度です。任意継続加入するには条件があります。
任意継続加入するための条件
- 1.健康保険被保険者資格喪失の前日までに継続して2ヵ月以上の被保険者期間があること
- 2.資格喪失日から「20日以内」に申請すること
特に2は期限が短いので、注意が必要です。任意継続加入をすると、扶養している家族もそのまま健康保険に加入することができます。
保険料には上限があり、退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合は、30万円の標準報酬月額により算出した保険料となります。これまで会社が負担していた分を自身で負担しなければなりませんので、会社員時代より保険料の負担が大きくなる人もいます。
健康保険の任意継続加入と国民健康保険加入のどちらの制度に加入するか判断に迷うときは、お住まいの自治体の市(区)役所に退職前に相談することをおすすめします。
③家族の健康保険に加入もあり
定年退職後、家計を支える大黒柱が次世代に移ることはよくあります。生計を担っている家族の健康保険の扶養に加入するというのも一つの方法です。
年収見込みが130万円未満、60歳以上の場合は180万円未満であれば扶養加入できる可能性があります。家族の健康保険の被扶養者となる場合、健康保険料はかかりません。
④新たに挑戦したいなら再就職先の健康保険
定年退職後、新たな分野に挑戦したい、という方も多いでしょう。会社に再就職すると、所定労働時間や所定労働日数、社員数によって条件は変わりますが、おおむね週に30時間以上、かつ月の勤務日数が16日以上になると社会保険に加入しなければなりません。
再就職先で健康保険に加入したくない場合は、勤務時間数や勤務日数を減らす必要がありますので、ご自身のライフスタイルに応じて勤務形態を決めましょう。
雇用保険の準備も忘れずに

定年退職をすると、会社から離職票が交付され、いわゆる失業手当(基本手当)を受給することができます。ただし、受給するためには次の条件があります。
失業手当(基本手当)の受給条件
- 1.離職日以前2年間に雇用保険の被保険者期間が12ヵ月以上あること(どの月も11日以上勤務していること)
- 2.積極的に就職活動をしていること
- 3.すぐに就職できること
失業手当の給付日数は雇用保険に加入していた期間に応じて原則90日から150日分です。
意欲的に就職活動をする一方で、年金(特別支給の老齢厚生年金)をもらいながら緩やかに働きたいという人もいるでしょう。特別支給の老齢厚生年金など65歳になるまでは老齢年金と失業手当は同時に受けられないので、注意が必要です。
働きながら年金を受け取る
「定年後は週3日程度の勤務にしたいのですが、社会保険はどうしたらよいですか?」というご質問をよくいただきます。定年退職後はバリバリ働くというより年金をもらいながらゆとりを持った働き方をしたい、ということでしょう。60歳以降も、現役時代と同じようにフルタイムで働きながら年金を受け取ることは可能です。ただし、平均月収(ボーナスを含む)と年金の合計金額に応じて、一定の割合で年金額が減額または支給停止されてしまいます。この仕組みを「在職老齢年金」といいます。
老後生活を安心して送るために
日本には相互扶助、世代間扶養という素晴らしい社会保障制度があります。一生懸命働いて社会貢献した後は次世代へバトンタッチし、これまで自由時間がなくてできなかったことを存分に楽しみましょう!
村瀬 紀美子さん

税理士。大手税理士法人勤務後、平成17年に村瀬紀美子税理士事務所開業。近年は、相続税等の資産税に関する申告業務およびセミナー講師を中心に活動。相続手続から遺品整理、空家売却、税務申告をまとめて行う『川越相続の窓口』を結成。多数の相談や依頼に対応。
古川 天さん

特定社会保険労務士。平成25年東京都中央区日本橋にて開業。平成27年より求職者支援の一環での給与計算講座を担当している。給与計算を入口とした人事コンサルを行っており、給与計算は延べ300社以上行っている。同業者向けのセミナーなども数多く開催している。著書:「ライフイベント別社会保険・労働保険の届出と手続き」(保険毎日新聞社)
(記事提供元:サムライト株式会社、画像提供元:ピクスタ株式会社)
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