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令和3年年末調整、印鑑廃止などの変更点を4点解説

掲載日:2021年11月01日財務資本戦略

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企業の人事労務担当者にとって11月から12月は、「年末調整」で多忙を極める繁忙期の一つで、最新手続きの確認や従業員への周知、企業側の入力作業など、業務が多岐にわたります。
年末調整業務の負担を軽減するための電子化が進んでおり、2021年4月に国税庁が発表した令和3年度の税制改正に関する「源泉所得税の改正のあらまし」でも、その動きが見て取れます。
本稿では、2021年の年末調整の変更点について、主なポイントを解説します。

注意したい変更ポイントは4つ。まず意識するのは「電子化」と「脱ハンコ」

2021年の税制改正に伴う年末調整への主な影響としては、以下4つのポイントがあげられます。

  1. 「年末調整申告書を電磁的方法(電子データ等)で提供する場合の税務署長の承認廃止」
  2. 「税務関係書類における押印義務の見直し」
  3. 「住宅ローン控除の特例の見直し」
  4. 「退職所得課税の見直し」

特に、政府が進める「行政のデジタル化推進」が、年末調整にも大きく影響している点に注意する必要があります。
それを踏まえて、まずは、①「年末調整申告書を電磁的方法(電子データ等)で提供する場合の税務署長の承認廃止」と、②「税務関係書類における押印義務の見直し」について見てみましょう。

①年末調整申告書を電磁的方法(電子データ等)で提供する場合の税務署長の承認廃止

年末調整申告書を従業員から電子データで回収する場合、これまでは所轄税務署に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、事前に承認を得なければなりませんでした。

しかし、今回の税制改正では、「給与所得の扶養控除申告書」「従たる給与についての扶養控除等申告書」「給与所得者の配偶者控除等申告書」「給与所得者の基礎控除申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」「給与所得者の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除申告書(住宅ローン控除申告書)」等の申告書に関しては、2021年4月1日以降に提出するものから、事前承認が不要になったのです。

従来はデジタル化する際に税務署へ足を運ぶ必要があり、面倒に感じていた企業も少なくないと思いますが、それが不要になったことでデジタル化申請のハードルが下がったといえます。
デジタル化は、企業の人事労務担当者にとって、生産性アップにもつながりますので、その導入がしやすくなったことは歓迎すべき変更点といえそうです。

ただ、従業員から電子データの提供を受けるためには、「勤務先にインターネット経由のメール等で送信する(電子署名またはパスワード設定が必要)」「USBメモリ等に保存して勤務先に提供する(同)」などの措置が必要になります。

また、提出された電子データが従業員本人から提出されたことが確認できるようにするために、「従業員が申告書情報に電子署名を行い、その電子署名に係る電子証明書を申告書情報と併せて勤務先に送信する」「従業員が勤務先から通知を受けたIDおよびパスワードを用いて、勤務先に申告書情報を送信する」といった要件を満たす必要がありますので、注意しましょう。

②税務関係書類における押印義務の見直し~「脱ハンコ」~

現在、政府が力を入れているのが「行政のデジタル化推進」。これによって、2020年に行政手続きでの「押印廃止」が打ち出されました。いわゆる「脱ハンコ」の動きです。

この影響により、税務署長等に提出される申告書等(税務関係書類)についても、2021(令和3)年4月1日から原則「押印が不要」となりました。
したがって従業員から提出される「給与所得の扶養控除申告書」「従たる給与についての扶養控除等申告書」「給与所得者の配偶者控除等申告書」等の年末調整関係書類も押印不要となります。

社員の押印忘れや、ハンコが見つからないといった理由での書類提出遅れが頻繁に起きる企業の人事労務担当者には、これだけでも負担が軽くなることでしょう。

「住宅ローン控除特例」と「退職所得課税」の見直しにも理解を!

続いて、年末調整への影響が見られる、③「住宅ローン控除の特例の見直し」と、④「退職所得課税の見直し」について確認しましょう。

③住宅ローン控除の特例の見直し

これまで、2019年10月の消費税増税(10%)や新型コロナウイルス感染症対策に伴って、住宅に対する税制上の支援措置として創設された「控除期間13年の特例措置(住宅ローン控除)」によって、控除期間が10年間から13年間に延長されていました。

今回の税制改正を受け、この控除期間延長が継続されることになり、次の条件を満たす場合には、住宅ローン控除期間が13年となります。

  • 契約期限が、注文住宅の場合は2020年10月~2021年9月、分譲住宅等の場合は2020年12月〜2021年11月であるとき
  • 新居への入居期限が、2021年1月1日〜2022年12月31日であるとき

この特例では、従来は住宅ローン控除対象外であった40㎡以上50㎡未満の床面積の住宅の場合でも、「合計所得金額1,000万円以下」の人に限り面積要件が緩和され、控除が受けられるようになりました。

企業の人事労務担当者の留意点としては、この住宅ローン控除の特例の見直しは、令和3年分の年末調整には直接影響しないことです。
令和3年分の年末調整から住宅ローン控除を受ける従業員は、初年度は確定申告となるため、企業側としては実務対応の必要ありません。ただ、2年目以降は年末調整で対応するため、該当する従業員を確認しておくと良いでしょう。

④退職所得課税の見直し

課税対象となる退職金の金額(課税退職所得金額)は、これまで、退職手当等の収入金額から勤続年数に応じて計算した「退職所得控除額」を控除した残額の2分の1相当とされていました(ただし、役員の退職金については、勤続年数が5年以下の場合、課税所得を2分の1にすることができないとされていました)。

しかし、今回の税制改正において制度が拡大され、その対象となる退職金受給者を役員に限定せず、役員以外でも勤続年数5年以下で退職金が300万円を超える場合には、2分の1課税の適用を除外することになりました。
つまり、勤務期間が短い(勤続年数5年以下)の従業員に対する増税とも考えられます。

ただ、この制度は令和4年分以後の所得税に適用されますので、2021年の年末調整には直接関係はありません。
とはいえ、2022年1月1日以降に支払う退職金に対して適用されることになります。したがって、本年の年末調整後の時期から適用となるため、今から注意しておきましょう。

年末調整業務のデジタル化推進を!

年末調整業務は従来、控除証明書の受領や各種申告書の作成・提出といった作業を紙ベースで行っているケースが多かったです。そのため、作業時間と作業を担う人件費や事務経費など多大なコストがかかっていたことでしょう。

しかしながら、これを解消するのが、上記のポイント①で紹介したデジタル化です。これによって、年末調整関連の書類の印刷、配付、回収などの業務の効率化が図れ、コスト削減につながることが期待できます。
今回の税制改正により、電子データでの回収に税務署への事前申請が不要になったことで、年末調整業務のデジタル化が促進すると予想されます。

とはいえ、企業の人事労務担当者は何から手をつけて良いのか分からないというケースも少なくないかもしれません。
その場合、例えば国税庁が無償で提供している「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」を活用することができます。年末調整の電子化を推進する取り組みの一環として2020年10月から、パソコン用ソフトとスマートフォン用アプリが、同庁のホームページから無料でダウンロードできるようになっています。
また、年調ソフト以外に、民間のクラウド型システムなどを導入する方法もあります。

年末調整業務のデジタル化は、従業員にとっても作業や手続きがスムーズに進められるといった利便性があり、企業・従業員双方にとってメリットがあると考えられます。
ただし、企業側が一方的に推進することはできません。従業員の事前承諾は必要ないものの、各種控除証明書を電子データで取得・提出してもらわなければなりませんので、早めに周知しておくと良いでしょう。
2021年、年末調整の変更ポイントを理解して、スムーズな対応を心掛けたいものです。

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