知らなきゃマズい「インボイス制度」のホント
掲載日:2022年10月3日生産性向上
2023年10月1日からスタートする「インボイス制度」は、取引の正確な消費税額と消費税率を把握することを目的とした新しい仕組みです。
制度の開始により、年間売上高が1,000万円以下の中小企業や個人事業主等は、大きな影響を受ける可能性があります。特に多数の個人事業主をスタッフとして契約している場合は、慎重な対応が必要です。
「インボイス制度」にはどのような影響があり、どう対応すべきかを確認していきましょう。
「適格請求書」の発行が必要に
インボイス制度は、取引の透明性を高め、消費税の仕入税額控除の金額を正しく計算するために導入されます。
正式名称は「適格請求書等保存方式」です。
インボイスとは「適格請求書」のことで、売り手(受注側・請求書発行者)が買い手(発注側・請求書受領者)に正確な適用税率や消費税額等を伝えるための請求書です。
現在、消費税を算出する際には、課税売上の消費税額から課税仕入の消費税額を差し引く「仕入税額控除」が適用されています。
これは、取引の各段階で消費税が重複して課税されないよう、仕入にかかる消費税額を控除する物です。
例えば、仕入が80,000円で消費税が8,000円、売上が100,000円で消費税が10,000円の場合、仕入で発生した8,000円が控除され、10,000円-8,000円=2,000円を申告・納税することになります。
そして、2019年10月に消費税の軽減税率が導入され、仕入税額に標準税率の10%と軽減税率の8%、2種類の税率が混在しているのが現状です。
そこで導入されたのが「区分記載請求書等保存方式」。
税率ごとの区分経理を行うため、どちらの税率が適用されるのか、請求書の発行者は確認のうえ記載することになっているのです。
区分記載請求書等保存方式では「区分記載請求書」が使用されます。
請求書発行者の氏名や名称、取引年月日等、通常の請求書に記載される情報の他、以下の2点を加えた物です。
- 1.軽減税率の対象品目である旨
- 2.税率ごとに区分して合計した税込対価の額
2023年10月1日からは、上記がインボイス制度に移行します。
移行に伴い、現行の区分記載請求書に、さらに以下の3点を加える必要があります。
- 1.適格請求書発行事業者の登録番号
- 2.税率ごとに区分して合計した対価の適用税率
- 3.税率ごとに区分した消費税額等
では制度スタート後、事業者にはどんな影響があり、どのように対策すれば良いのでしょうか。
また開始以前には、どんな準備が必要なのでしょう。
課税事業者・免税事業者双方への影響
事業者は、消費税納付の義務がある「課税事業者」と、納付を免除されている「免税事業者」に分けられます。
主な要件は以下の通りです。
課税事業者
- 基準期間(注1)における課税売上高が1,000万円を超える
または、
- 特定期間(注2)における課税売上高、および給与等支払額が1,000万円を超える
免税事業者
- 基準期間における課税売上高が1,000万円以下
- 特定期間における課税売上高、もしくは給与等支払額が1,000万円以下
- (注1)……法人は前々事業年度、個人は前々年
- (注2)……法人は前事業年度(1期前)開始から6ヵ月間、個人は前年の1月1日~6月30日の期間
創業間もない中小企業や個人事業主、フリーランスの多くは、この免税事業者に該当する可能性が高いでしょう。
制度スタート後、課税事業者が仕入税額控除を受ける場合、売り手となる業者に適格請求書を発行してもらわなくてはなりませんが、適格請求書を発行できるのは、所轄税務署に申請して適格請求書発行事業者として登録された課税事業者のみであり、免税事業者は適格請求書を発行できません。
そのため、以下のような影響が考えられます。
課税事業者への影響
- 取引先に免税事業者がいる場合、適格請求書を発行してもらえず仕入税額控除を受けられない
- 仕入税額控除を受けられない分、消費税の負担額が増える
- 税負担を抑えるため、取引先に免税事業者から課税事業者になってもらうか、税負担分を調整するため、仕入価格の値引きを依頼しなければならない
免税事業者への影響
- これまで通り消費税の納付は免除される
- 適格請求書を発行できないため、取引先の課税事業者にその分の負担が転嫁されてしまう
再度、仕入が80,000円で消費税が8,000円、売上が100,000円で消費税が10,000円という例を考えてみましょう。
これまでは、仕入で発生した8,000円が控除され、10,000円-8,000円=2,000円を申告・納税することができていました。
しかしインボイス制度の開始後に、仕入先が適格請求書を発行できなかった場合は、8,000円の消費税を差し引くことができず、10,000円の消費税を納税する必要が生じてしまうのです。
取引先への慎重な対応が求められる
インボイス制度がスタートする前に、課税事業者、免税事業者はどのような対策を練るべきなのでしょうか。
それぞれ、以下のような対策があげられます。
課税事業者の対策
- 取引先に免税事業者がいるか確認する
- 免税事業者がいる場合は、その取引先への対応を慎重に検討する
取引先が課税事業者だけならば問題はないのですが、免税事業者が取引先である場合には、適格請求書を発行してもらえません。
仕入税額控除を受けられないだけでなく、適格請求書とそれ以外を分けて処理する必要があり、経理上の負担も増えてしまいます。
「免税事業者との取引をやめる」ことも考えられますが、これは簡単なことではないでしょう。
その業者でなければ仕入れられない物があるかもしれません。
新たな仕入先を探すことも負担になります。
また、長年付き合いのあった業者との取引をやめるのは、心情的に厳しいというケースもあるでしょう。
仕入に限ったことではありません。
中小企業や個人事業主、フリーランスが業務委託先になっている場合も同じです。
特に、多数の個人事業主やフリーランスを自社のスタッフとして契約している企業は、事業の停滞も招きかねません。
短絡的に、「免税事業者との取引をやめる」という判断はせず、後述するように、免税事業者と話し合い、お互いにとってベストな選択を模索する等の慎重な対応が求められるでしょう。
免税事業者の対策
- 課税事業者になり、適格請求書を発行できるようにする
- 免税事業者のままで、免税事業者や一般消費者とのみ取引をする
- 課税事業者からの仕入価格値下げの要求に応じる
取引先が同じ免税事業者、あるいは一般消費者の場合は、仕入税額控除を考慮する必要がなく、現状のままでも問題はありません。
また、取引先が簡易課税制度の適用を受けている場合は、適格請求書がなくても仕入税額控除を受けられるため、同様に影響はないでしょう。
しかし、上記以外の課税事業者と取引をする場合、適格請求書を発行できない、つまり仕入税額控除を受けられないことを理由に取引を断られてしまう可能性があります。
また、仕入価格の値引きを求められることも考えられるでしょう。
課税事業者になれば、これまで通り課税事業者との取引を継続できる可能性は高いといえます。
課税売上高が1,000万円以下であっても、手続きを行なえば、自身の意思で課税事業者になることができるのです。
しかしその場合、それまで利益になっていた消費税分は納付しなければならず、8~10%の収入減となってしまうでしょう。
なお、免税事業者が課税事業者、および適格請求書発行事業者になるためには、所轄税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出して、適格請求書発行事業者として登録する必要があります。
適格請求書発行事業者の登録に際しては、原則として「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者になる必要がありますが、2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、登録日から課税事業者となり、「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。
「適格請求書発行事業者の登録申請書」の申請期限は2023年3月31日まで、申請期間は既に始まっているので、早急に確認しましょう。
経過措置があることを念頭に、話し合いを
免税事業者は、制度スタート後も免税事業者として事業を継続するか、課税事業者になるか、判断しなければなりません。
その際はまず、今の取引先が課税事業者なのか免税事業者(または一般消費者)なのかを確認する必要があります。
売上の大きさ、課税事業者になった場合の消費税の納付額、今後の成長見込み等を検討し、どちらがよりメリットが大きいか判断するべきでしょう。
課税事業者も、大切な取引先を失うことにもなりかねないため、免税事業者への対応は慎重に考えなければなりません。
単純に「仕入先を変更すればいい」ということではないはずです。
新しい取引先の選定や、お互いの信頼関係構築にも時間がかかるでしょう。
特に、多くの個人事業主やフリーランスと業務委託契約を結んでいる企業は、しっかりと話し合い、双方が納得できる結論を導き出すことが求められます。
取引先と話し合う際、主なポイントは以下のように考えられます。
- ①免税事業者から課税事業者に変更する意思があるか
- ②課税事業者に変更する意思がない場合、価格の値引き等取引条件の変更に応じてもらえるか
上記②の場合に注意すべきことは、買い手(課税事業者)が売り手(免税事業者)に対して「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないことです。
不当な値下げ要求等は、独占禁止法や下請法等に抵触する恐れがあります。
信頼を損ねてしまわないためにも、お互いの立場を尊重し合って、話し合いを進めましょう。
また、インボイス制度には経過措置期間が設けられています。
激変緩和の観点から、制度がスタートして以降6年間は、免税事業者からの仕入れについても、以下のように一定割合の仕入税額控除が可能です。
- 2026年10月までは、免税事業者からの仕入れにつき80%控除可能
- 2029年10月までは、免税事業者からの仕入れにつき50%控除可能
準備が整わない、話し合いがうまくまとまらないということも想定されます。
その場合はこの経過措置があることを理解して、対応を考えていくのも一つの方法といえるでしょう。
もちろん、経過措置は一時的なセーフティーネットですので、早い段階から話し合いの場を持つことが大切です。
おわりに
インボイス制度がスタートするまでには、あまり時間がありません。
どんな対応を取るべきか、結論を出すには多くの時間が必要です。
そのため、事業者間での話し合いは早めに始めましょう。
事業はパートナーがあってこそ成り立つはずです。
お互いの立場を理解し合い、よりベストな方法で対応していきましょう。
(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。