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今こそ知りたい「ワーケーション」のメリット・デメリット

掲載日:2020年11月2日生産性向上

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コロナ禍における在宅勤務の広がりにより、「ワーケーション」という働き方が注目を集めています。これは仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、観光地や地方などに住み、働きながら休暇をとる、あるいは休暇をとりながら働くことを指すものです。
自宅でのリモートワークと違って、豊かな自然の中で仕事をすることで、生産性と創造性がアップするといわれる一方、人事管理の難しさを指摘する声もあります。
本稿では、企業がワーケーションを導入するメリット、デメリットを解説し、組織にワーケーションを上手に取り入れるコツをお伝えします。

“働き方改革”のひとつとして利用価値大

日本で「ワーケーション」が話題となったきっかけは、2017年、ある航空会社が「テレワークを推進し、働き方改革を進める」として、「『ワーケーション』など新たな働き方に取り組む」とのプレスリリースを出したことです。当時は、あくまでも「テレワークの一環」ということが強調されていたようです。
その会社の導入の狙いは、「早朝や夕方以降の時間を社員が自由に過ごすことにより、業務への活力につなげること」だそうです。つまり、残業を減らしたり、休暇を取れたりするように働き方を見直そう、ということが出発点でした。

さらに、ワーケーションにより、「旅行の機会を増やし、家族と過ごす時間が増えることが期待される」「地方で開催されるイベントなどに積極的に参加することで地域の活性化の一助になる」と、個人や地域におけるメリットもあげています。
航空会社だったため、当時は「単なる自社の利用促進ではないか」との批判的な見方もあったようですが、今から考えれば先駆的な取り組みだったといえそうです。

この会社が提案するように、企業にとって、ワーケーションを導入する最大のメリットは、「働き方を変える」可能性が高いということでしょう。
かねてより政府は「働き方改革」を重要政策のひとつに掲げており、2019年4月には、働き方改革関連法案の一部が施行されました。その柱の中には「長時間労働の是正」「多様な働き方の実現」がありますが、この2つは、まさにワーケーションによって得られる効果と重なります。
ワーケーションの導入は、これまでなかなか進まなかった各社の働き方改革を、一気に加速させる可能性を秘めているといえるかもしれません。

ストレスフリーで仕事の能率もアップ

働き方の変化は、企業(組織)だけでなく、社員(個人)にとってもプラスの効果をもたらします。
社員にとってのワーケーションのメリットは、「自然の中でクリエイティブに仕事ができること」があげられるでしょう。創造的な仕事ができるということは、結果として会社に貢献することにつながるかもしれません。

離島でワーケーションを実施している、ある企業の幹部は、「静かな環境なので集中でき、仕事が捗る」と話します。
さらに、通勤のストレスがないのも、ワーケーションのメリットです。とくに都市部では満員電車で通勤することも多いですが、これは会社に着く前に疲労を生み出し、職場での能率を低下させる可能性があります。
しかし、リゾート地のホテル、あるいは保養所やサテライトオフィスなど自社の拠点、もしくは実家に滞在して仕事をするのなら、通勤ラッシュとは無縁です。通勤時間の分を仕事に充てることもできるので能率があがり、会社の業績に貢献する可能性を期待できます。

以上の点を踏まえると、ワーケーションは、企業も社員もよい循環となり、組織全体のレベルアップが期待できる、“新しい働き方”だといえるでしょう。

地方で仕事を生み出すチャンス到来?

さらにメリットをあげるとすれば、「地域活性化につながる」ということです。このことは同時に、「その地域で新たな仕事を創造する可能性がある」ことも意味しています。

地方自治体からしてみれば、ワーケーションは地域の活性化につながる大きなチャンスです。そのため、受け入れ環境を整える動きも始まっているようです。
もともと観光客が300万人ほど訪れる、あるリゾート地では、数年前から情報通信技術企業の誘致に注力し、首都圏に本社機能をもつ企業がサテライトオフィスを開設するようになりました。

Wi–Fiなど通信環境の整備はもちろん、サテライトオフィスにおけるテレワーク業務拡大に向けた実証実験も活発に行われ、企業が次々と集まるという好循環を生み出しています。
また、エリア内の企業同士でコラボレーションするなど、新たなビジネスの誕生も始まっているようです。

政府もワーケーションを推奨し始めています。環境省は、国立・国定公園、温泉地の中の宿泊施設にWi–Fiを整備する場合の費用の補助を、今年度の補正予算に盛り込みました。
背景には、コロナ禍で外国人観光客が減ったことがあるようです。政府は、国立公園の外国人利用を2020年に1,000万人にする目標を掲げましたが、2019年は667万人、コロナ禍で今年の目標達成は絶望的でしょう。だからこそ、その分、国内利用者を増やそうとしたというわけです。

ワーケーションをきっかけに移住者も出てくると見込まれ、過疎化に悩む地方自治体の移住促進策としても機能するとみられています。
とある地方では、幼稚園跡を改修し、サテライトオフィスを開設しました。机や椅子はもちろん、テントや人工芝なども整備され、仕事の合間の気分転換も可能な仕事場になっているそうです。
また、あるローカル線では、駅の構内の一部をコワーキングスペースとして整備。地方と都市部を結ぶ交流拠点になることが期待されています。

このほかにも、空き家となっている民宿や病院を改修してオフィスとして整備する動きが、様々な地方で動き出し、“週末移住感覚のワーケーション”は、労働者と地方、両者を活性化させるとみられています。
首都圏と地方の2つに拠点を持つ、「二地域居住」というライフスタイルが注目を集めるなか、地方移住を促進する事業は今後、各自治体で広がりを見せるでしょう。

さらに最近では、都市部の旅館やホテルでもワーケーション用の部屋を用意するケースも登場しています。コロナ禍で利用が激減した観光・宿泊業の再起策としての活用も広がりそうです。

最大の課題は「仕事」と「休暇」のメリハリ

良いところだらけのように見えるワーケーションですが、デメリットもあります。
1点目は、通信環境を整える必要があるため、導入コストがかる点です。先に紹介したように、自治体が進んで整備しているケースもあれば、誘致した企業と一緒に整えているケースもあります。

場所によってはタイムラグが生じたり音声が途切れたりしてしまうので、「ワーケーションをどこで、どのような環境で行うか」を第一に考慮する必要がありそうです。
あるいは、個人の裁量に任せ、「場所を問わない」とするのであれば、セキュリティがしっかりした環境か、通信速度に問題はないかなどを、あらかじめ確認し、ルールをつくっておくと良いでしょう。

2点目は人事管理が難しくなる点です。ワーケーションでは勤務時間や業務内容を細かくチェックできないので、勤怠についても、やはりしっかりとしたルール作りが必要となってきます。
パソコンのログイン、ログアウト時に、それぞれ入退出を記録できる仕組みを整えることも一案ですが、パソコンを立ち上げていても他のことをしている場合もありますので、ログによる管理は難しいといえます。

既に導入を試みているIT企業の担当者は、「ログは取っていても、それが正しいかまではとても追えない。基本は自主申告を信用している」といいます。
ルールを作るのはもちろんですが、社員との信頼関係が確立している組織でないと、ワーケーションの安易な導入は、余計に組織を混乱させるかもしれません。

3点目は、そもそも「仕事」と「休暇」を、メリハリをつけて同じ場所でこなすことができるか、ということです。「自宅で仕事をするよりもメリハリがつく」という人もいますが、オンとオフの切り替えが難しいという人も多いのではないでしょうか。
これについては会社としてのルールももちろん必要ですが、働く側が「一定時間毎に休憩を入れる」といったマイルールを決めると良いでしょう。

おわりに

注目を集めるワーケーションですが、このように、メリットとともに、まだまだデメリットがあります。したがって、ワーケーションの円滑な導入・運用のコツは、「社員と話し合い、自社に合ったルールをつくること」に尽きるといえるでしょう。
ただ、この機会に、社員と「働き方」のみならず「働くこと」の意義や意味を共有しておくことは、企業として決して無駄になることはありません。
そのうえで、ワーケーションの導入を検討してみてはいかがでしょうか?
これまでと違った組織の形に、働き方改革の実現や生産性向上だけではない、新たな気づきが生まれるかもしれません。

(記事提供元:プレジデント社 企画編集部)

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